◇74ページ◇内緒
Name change
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口の中に広がったのは、昼間に胸やけを起こしたコンビニケーキのしつこい甘さだった。
同じショートケーキを1日に3個も食べることになるとは思わなかった。
でも、甘いと目尻を下げて幸せそうにケーキを頬張る名前の方が甘くて、ケーキを食べてる間は一緒にいられるということなら、無理をしたって無限に食べてもよかった。
「あ、そういえば、どうして私の名前知ってたんですか?」
「あー…、ここに入る前に病室のプレートで見た。」
「あぁ、そっか。」
適当に誤魔化したそれに納得して、名前は苺を頬張った。
途端に、嬉しそうに破顔するから、本当に苺が好きなのだなとクスリと笑ってしまった。
それにすぐに気づいた名前が、恥ずかしそうにしながら口を尖らせた。
「甘いのを食べた後のこの甘酸っぱさがいいんですよ!」
「あぁ、知ってる。」
言っていることが去年と全く同じで、俺はククッと喉を鳴らしてしまった。
「知ってる?」
「そういう味覚が存在することってことだ。」
「あぁ、そういうことか。
私が苺を好きなのをリヴァイ先生が知ってるのかと思っちゃいました。」
アハハと名前が可笑しそうに笑った。
マイペースなイメージだったから油断していた。意外と鋭いらしい。
気をつけなければー。
俺のことを知られてはいけないのだ。
このときにはもう、今のこの時間を楽しむために、今夜、クリスマスの間だけの魔法にするという言い訳を決めていた。
「お誕生日にコンビニのケーキでごめんなさいね。
美味しいケーキもあったんですけど、妹の友達が遊びに来たときに
全部食べちゃって。」
「いや、これで充分だ。ありがとな。」
「よかった。」
名前はホッと胸を撫でおろした。
そして、ケーキにフォークを刺しながら、少しだけ眉尻を下げて続けた。
「実は、私がコンビニのケーキが食べたいだけだったんですよね。
だから、こっちこそ、一緒に食べてくれてありがとうございますなんです。」
「美味いケーキがあったのにか?」
「なんででしょうね。イヴだなぁと思ったら、無性にコンビニのケーキが食べたくなっちゃって。」
同じだと思って、驚いた。
変ですよね、と名前は苦笑していた。
去年もそうしたからじゃないのかと言ってやりたかったけど、甘ったるいケーキと一緒に言葉を飲み込んだ。
「リヴァイさんとぶつかったとき、ケーキを買いに行ったところだったんです。
でも結局、1人で2個も食べられないし、妹にも彼にも、おかしいって言われちゃって。
これでやっと、クリスマス・イヴを満喫できた気がします。」
ありがとうございますー。
名前は礼を言って、また嬉しそうにケーキを頬張った。
(そうか…、よかった…。)
俺は視線を落として、半分ほど減ったショートケーキを眺めた。
ちゃんと、名前の中には俺との記憶の断片が残っていた。
俺のことも思い出して欲しいという欲が出なかったわけじゃない。
でも、全てが消えたわけではないのならよかったと思うことにした。
「さっきは寒い中、1人で何やってたんだ。
ケーキ食わせてもらっておいてなんだが、早く寝た方がいいんじゃねぇのか。」
「私、病気とかじゃないんですよ。あー、病気ではあるんですけど、それは大丈夫っていうか…。
とにかく、今は、ブライダルチェックってやつで入院してるだけなんです。
検査する以外は暇すぎてお昼寝してしまったせいで、眠れなくなっちゃって。」
「それでも、そんな恰好で外に出る必要はねぇだろ。
風邪引いちまう。」
「ハハ、そうですね。気をつけます。」
名前は軽く笑って、ケーキを頬張り続けていた。
質素なコンビニのショートケーキは小さい。
それでも、昼間、1人で食べているときはなかなか減らなかったはずなのに、いつの間にか俺のケーキも一口を残すだけになっていた。
これを食べ終わったら、俺は帰らないといけないのだろうか。
名前だけが欠けたつまらない現実の世界を、良いと思ったことなんか一度だってないのに。
「やる。」
最後に残った甘酸っぱい苺を乗せた皿を、名前の前に差し出した。
甘い生クリームをつけたまま、ケーキの一番目立つところに置いていたはずなのに食べてもらえずにポツンと転がるそれは、まるで俺みたいだった。
「え!?いいんですか!?
んー…、でも、今日はリヴァイさんのお誕生日なのに、
私がもらっちゃっていいんでしょうか…。」
困ったように眉尻を下げた名前の視線は、皿の上で転がる苺から離れなかった。
食べたいと言っている素直な顔が可愛かった。
「いいから。好きでも嫌いでもねぇから、好きならやる。」
苺の乗った皿を手前に出すと、名前は漸く素直に頷いた。
「ありがとうございますっ。嬉しいっ。」
真っ赤な苺を指で摘まんで、名前が頬張った。
これで、俺の皿も、名前の皿も、空になった。
同じショートケーキを1日に3個も食べることになるとは思わなかった。
でも、甘いと目尻を下げて幸せそうにケーキを頬張る名前の方が甘くて、ケーキを食べてる間は一緒にいられるということなら、無理をしたって無限に食べてもよかった。
「あ、そういえば、どうして私の名前知ってたんですか?」
「あー…、ここに入る前に病室のプレートで見た。」
「あぁ、そっか。」
適当に誤魔化したそれに納得して、名前は苺を頬張った。
途端に、嬉しそうに破顔するから、本当に苺が好きなのだなとクスリと笑ってしまった。
それにすぐに気づいた名前が、恥ずかしそうにしながら口を尖らせた。
「甘いのを食べた後のこの甘酸っぱさがいいんですよ!」
「あぁ、知ってる。」
言っていることが去年と全く同じで、俺はククッと喉を鳴らしてしまった。
「知ってる?」
「そういう味覚が存在することってことだ。」
「あぁ、そういうことか。
私が苺を好きなのをリヴァイ先生が知ってるのかと思っちゃいました。」
アハハと名前が可笑しそうに笑った。
マイペースなイメージだったから油断していた。意外と鋭いらしい。
気をつけなければー。
俺のことを知られてはいけないのだ。
このときにはもう、今のこの時間を楽しむために、今夜、クリスマスの間だけの魔法にするという言い訳を決めていた。
「お誕生日にコンビニのケーキでごめんなさいね。
美味しいケーキもあったんですけど、妹の友達が遊びに来たときに
全部食べちゃって。」
「いや、これで充分だ。ありがとな。」
「よかった。」
名前はホッと胸を撫でおろした。
そして、ケーキにフォークを刺しながら、少しだけ眉尻を下げて続けた。
「実は、私がコンビニのケーキが食べたいだけだったんですよね。
だから、こっちこそ、一緒に食べてくれてありがとうございますなんです。」
「美味いケーキがあったのにか?」
「なんででしょうね。イヴだなぁと思ったら、無性にコンビニのケーキが食べたくなっちゃって。」
同じだと思って、驚いた。
変ですよね、と名前は苦笑していた。
去年もそうしたからじゃないのかと言ってやりたかったけど、甘ったるいケーキと一緒に言葉を飲み込んだ。
「リヴァイさんとぶつかったとき、ケーキを買いに行ったところだったんです。
でも結局、1人で2個も食べられないし、妹にも彼にも、おかしいって言われちゃって。
これでやっと、クリスマス・イヴを満喫できた気がします。」
ありがとうございますー。
名前は礼を言って、また嬉しそうにケーキを頬張った。
(そうか…、よかった…。)
俺は視線を落として、半分ほど減ったショートケーキを眺めた。
ちゃんと、名前の中には俺との記憶の断片が残っていた。
俺のことも思い出して欲しいという欲が出なかったわけじゃない。
でも、全てが消えたわけではないのならよかったと思うことにした。
「さっきは寒い中、1人で何やってたんだ。
ケーキ食わせてもらっておいてなんだが、早く寝た方がいいんじゃねぇのか。」
「私、病気とかじゃないんですよ。あー、病気ではあるんですけど、それは大丈夫っていうか…。
とにかく、今は、ブライダルチェックってやつで入院してるだけなんです。
検査する以外は暇すぎてお昼寝してしまったせいで、眠れなくなっちゃって。」
「それでも、そんな恰好で外に出る必要はねぇだろ。
風邪引いちまう。」
「ハハ、そうですね。気をつけます。」
名前は軽く笑って、ケーキを頬張り続けていた。
質素なコンビニのショートケーキは小さい。
それでも、昼間、1人で食べているときはなかなか減らなかったはずなのに、いつの間にか俺のケーキも一口を残すだけになっていた。
これを食べ終わったら、俺は帰らないといけないのだろうか。
名前だけが欠けたつまらない現実の世界を、良いと思ったことなんか一度だってないのに。
「やる。」
最後に残った甘酸っぱい苺を乗せた皿を、名前の前に差し出した。
甘い生クリームをつけたまま、ケーキの一番目立つところに置いていたはずなのに食べてもらえずにポツンと転がるそれは、まるで俺みたいだった。
「え!?いいんですか!?
んー…、でも、今日はリヴァイさんのお誕生日なのに、
私がもらっちゃっていいんでしょうか…。」
困ったように眉尻を下げた名前の視線は、皿の上で転がる苺から離れなかった。
食べたいと言っている素直な顔が可愛かった。
「いいから。好きでも嫌いでもねぇから、好きならやる。」
苺の乗った皿を手前に出すと、名前は漸く素直に頷いた。
「ありがとうございますっ。嬉しいっ。」
真っ赤な苺を指で摘まんで、名前が頬張った。
これで、俺の皿も、名前の皿も、空になった。