◇70ページ◇カクテル言葉よ、届け
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春の風が通り過ぎて、うだるような暑さが俺の着ている服をまた一枚脱がせた。
凍えるような季節なら、もうすっかりあたり一帯を暗闇が包む時間なのに、薄い黒の膜を張っただけのような空は、夜にも昼にもなれない虚しい色をしていた。
夏の間だけ一時的に解放するバーのバルコニーは、楽しそうに酒を飲んでいる若い男女で溢れていた。
友人のミケがオーナーをしているバーは、このときだけはいつもビアガーデンと化している。
毎年、酒好きが集まってはこうして盛り上がっていて、今夜はハンジやモブリットという顔見知りも多くいた。
「あっちぃ…。」
無意識に舌打ちが漏れた。
俺が脱いだシャツを椅子の背もたれにかけていると、肉料理だけを皿に盛ったファーランがテーブルに戻ってきた。
「あとでミケがスペシャルカクテルってやつ作って
持って来てくれるってよ!」
「へぇ。」
無駄に明るく言いながら向かいの席に座ったファーランに適当に返事をして、つまみを口に放り込んだ。
バルコニーに流れていたBGMが、名前が好きだと言っていたアーティストの曲に変わった。
うろ覚えで口ずさむだけの俺の隣で、楽しそうに歌っていた名前の顔が浮かんで、飲み慣れた酒を喉の奥に流し込んだ。
大きめに砕いた氷でキンキンに冷えた酒が、俺の火照った身体を冷やしていく。
名前と一緒に過ごした肌寒い季節は、もう遥か昔のようだ。
生憎、この暑さのおかげで、俺は名前を抱きしめられなくても、ひとりきりで凍えて眠れないなんてこともないし、名前の温もりを失ったことで、寒いと弱音を吐いて、他の誰かを求めることだってしなくていい。
もう二度と、俺は恋人を作ることはないだろうし、他の誰かを愛することもないと思う。
でも、堕落した生活をしているわけでもない。
研究所の仕事もうまくいっているし、今日だって休日だというのに、ファーランに飲みに誘われて、友人のバーで楽しく酒だって飲めている。
俺は、1人でもうまくやっているし、忙しくしているのだ。
「相席いいですか?」
若い女に声をかけられて、暇つぶしのためだけにつまみに伸ばしていた手が止まった。
視線を上げれば、2人組の若い女がすぐそばに立っていた。
目が合うと、茶色の髪をクルクルに巻きまくった派手な女が甘えるように微笑んだ。
その隣で、居心地悪そうに立っているショートカットの女は、あまり乗り気ではないようだ。
声をかけて来たのは、派手な女の方のようだ。
相席が必要なほど混んでいただろうかと、バルコニーを見渡した。
それなりに人は多いが、空いているテーブルは他にもある。
(あぁ…、そうか。)
女に声をかけられるという意味を忘れていた。
盛り上がっているビアガーデンで、男2人きりでつまらなそうに話をしているから、誘いやすかったのだろう。
「いいよ!おいで、おいで!」
ファーランが嬉しそうに言って、彼女達をテーブルに招き入れた。
円卓のテーブルに彼女達が並んで座ると、早速、自己紹介が始まった。
俺は、その様子を、まるで合コンのようだと冷めた気持ちで眺めていた。
派手な女の方が桜子、ショートカットの方の女が優紀というらしい。
明日には忘れていそうな名前を聞き流していると、俺の番がまわってきた。
「リヴァイ。」
名前だけをぶっきらぼうに言った俺に、女2人は驚いていた。
ファーランにも叱られたけれど、どうでもよかった。
どうでも、よかったのだ。
だって、俺は1人でも平気だし、新しい出逢いも求めていない。
ファーランに誘われて飲みに来たのだって、今夜だったからだ。
今夜だったから。
理由は、それだけだ。
凍えるような季節なら、もうすっかりあたり一帯を暗闇が包む時間なのに、薄い黒の膜を張っただけのような空は、夜にも昼にもなれない虚しい色をしていた。
夏の間だけ一時的に解放するバーのバルコニーは、楽しそうに酒を飲んでいる若い男女で溢れていた。
友人のミケがオーナーをしているバーは、このときだけはいつもビアガーデンと化している。
毎年、酒好きが集まってはこうして盛り上がっていて、今夜はハンジやモブリットという顔見知りも多くいた。
「あっちぃ…。」
無意識に舌打ちが漏れた。
俺が脱いだシャツを椅子の背もたれにかけていると、肉料理だけを皿に盛ったファーランがテーブルに戻ってきた。
「あとでミケがスペシャルカクテルってやつ作って
持って来てくれるってよ!」
「へぇ。」
無駄に明るく言いながら向かいの席に座ったファーランに適当に返事をして、つまみを口に放り込んだ。
バルコニーに流れていたBGMが、名前が好きだと言っていたアーティストの曲に変わった。
うろ覚えで口ずさむだけの俺の隣で、楽しそうに歌っていた名前の顔が浮かんで、飲み慣れた酒を喉の奥に流し込んだ。
大きめに砕いた氷でキンキンに冷えた酒が、俺の火照った身体を冷やしていく。
名前と一緒に過ごした肌寒い季節は、もう遥か昔のようだ。
生憎、この暑さのおかげで、俺は名前を抱きしめられなくても、ひとりきりで凍えて眠れないなんてこともないし、名前の温もりを失ったことで、寒いと弱音を吐いて、他の誰かを求めることだってしなくていい。
もう二度と、俺は恋人を作ることはないだろうし、他の誰かを愛することもないと思う。
でも、堕落した生活をしているわけでもない。
研究所の仕事もうまくいっているし、今日だって休日だというのに、ファーランに飲みに誘われて、友人のバーで楽しく酒だって飲めている。
俺は、1人でもうまくやっているし、忙しくしているのだ。
「相席いいですか?」
若い女に声をかけられて、暇つぶしのためだけにつまみに伸ばしていた手が止まった。
視線を上げれば、2人組の若い女がすぐそばに立っていた。
目が合うと、茶色の髪をクルクルに巻きまくった派手な女が甘えるように微笑んだ。
その隣で、居心地悪そうに立っているショートカットの女は、あまり乗り気ではないようだ。
声をかけて来たのは、派手な女の方のようだ。
相席が必要なほど混んでいただろうかと、バルコニーを見渡した。
それなりに人は多いが、空いているテーブルは他にもある。
(あぁ…、そうか。)
女に声をかけられるという意味を忘れていた。
盛り上がっているビアガーデンで、男2人きりでつまらなそうに話をしているから、誘いやすかったのだろう。
「いいよ!おいで、おいで!」
ファーランが嬉しそうに言って、彼女達をテーブルに招き入れた。
円卓のテーブルに彼女達が並んで座ると、早速、自己紹介が始まった。
俺は、その様子を、まるで合コンのようだと冷めた気持ちで眺めていた。
派手な女の方が桜子、ショートカットの方の女が優紀というらしい。
明日には忘れていそうな名前を聞き流していると、俺の番がまわってきた。
「リヴァイ。」
名前だけをぶっきらぼうに言った俺に、女2人は驚いていた。
ファーランにも叱られたけれど、どうでもよかった。
どうでも、よかったのだ。
だって、俺は1人でも平気だし、新しい出逢いも求めていない。
ファーランに誘われて飲みに来たのだって、今夜だったからだ。
今夜だったから。
理由は、それだけだ。