◇60ページ◇気づいて
Name change
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誰も名前のことを知らない、名前のいなくなった世界で俺は、ただ何も感じず、ただぼんやりと日々を過ごしていたように思う。
気付けば1週間が終わっていて、週末がやって来ていた。
いつの間にか身体に馴染んでいた癖は抜けず、土曜の朝も俺は腕の中の温もりを抱きしめようとして、冷たい空気をかすって目を覚ました。
それがもう習慣になりつつあることに苦しむ胸をそのままに、俺は1人でベッドから起き上がった。
当然、キッチンから美味しそうな匂いがしてくることもないし、ダイニングテーブルの上には何も乗っていない。
何かを作る気もなく、冷蔵庫から適当に出した牛乳をコップに入れて、パンをトースターで焼いた。
昨日、洗わずにそのままにしていた食器を洗っていたら、パンを焼きすぎてしまった。
ダイニングに座って、硬くて苦いトーストを齧りながら、ぼんやりと目の前の椅子を眺めた。
『美味しいですか?』
ふわりと微笑んで訊ねる名前の姿が見えた。
新しいメニューを作ると毎回聞いてきて、俺が美味いと言うとホッとしたように息を吐きながら、本当に嬉しそうに微笑んでいた。
「…マズい。硬いし、苦いし、味もしない。」
いつもとは正反対の感想を伝えた。
でも、返事はない。
だって、目の前に名前はいないし、俺が食べているのも名前の手作りの朝食じゃない。
名前に出逢う前に戻っただけだって、何度も自分に言い聞かせた。
誰も名前を憶えていない世界は、数か月前の俺の日常だった。
でも、違うのだ。
何を見ても名前を思い出すし、何をしていても名前のことを考えてしまう。
会いたくて、苦しくなる。
でも、分からなくもなってきていた。
名前は本当に存在していたのだろうか。
俺は、自分に都合のいい夢を見ていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は硬くて苦いトーストをなんとか咀嚼して飲み込んだ。
気付けば1週間が終わっていて、週末がやって来ていた。
いつの間にか身体に馴染んでいた癖は抜けず、土曜の朝も俺は腕の中の温もりを抱きしめようとして、冷たい空気をかすって目を覚ました。
それがもう習慣になりつつあることに苦しむ胸をそのままに、俺は1人でベッドから起き上がった。
当然、キッチンから美味しそうな匂いがしてくることもないし、ダイニングテーブルの上には何も乗っていない。
何かを作る気もなく、冷蔵庫から適当に出した牛乳をコップに入れて、パンをトースターで焼いた。
昨日、洗わずにそのままにしていた食器を洗っていたら、パンを焼きすぎてしまった。
ダイニングに座って、硬くて苦いトーストを齧りながら、ぼんやりと目の前の椅子を眺めた。
『美味しいですか?』
ふわりと微笑んで訊ねる名前の姿が見えた。
新しいメニューを作ると毎回聞いてきて、俺が美味いと言うとホッとしたように息を吐きながら、本当に嬉しそうに微笑んでいた。
「…マズい。硬いし、苦いし、味もしない。」
いつもとは正反対の感想を伝えた。
でも、返事はない。
だって、目の前に名前はいないし、俺が食べているのも名前の手作りの朝食じゃない。
名前に出逢う前に戻っただけだって、何度も自分に言い聞かせた。
誰も名前を憶えていない世界は、数か月前の俺の日常だった。
でも、違うのだ。
何を見ても名前を思い出すし、何をしていても名前のことを考えてしまう。
会いたくて、苦しくなる。
でも、分からなくもなってきていた。
名前は本当に存在していたのだろうか。
俺は、自分に都合のいい夢を見ていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は硬くて苦いトーストをなんとか咀嚼して飲み込んだ。