◇5ページ◇美味しい紅茶の淹れ方
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
条件を出し終えた後、俺はずっと、名前という女の生態を観察していた。
俺の後に風呂に入った名前は、綺麗に掃除をしてから出てきた。
そろそろ冬だというのに、柔らかそうなパジャマは、生地は暖かそうなものの、ズボンが驚くほどに短すぎた。
脚のほとんどを丸出しにして、寒くないのかとおっさん心で心配してしまったくらいだ。
男の部屋に泊まるという危機感が鈍いのか、もしくはそういうことになっても構わないと思っているのか。
これまでの名前の発言から察するに、恐らく後者なのだろう。
だが、悪いが、俺にはその気はない。
女なんてもうコリゴリだし、名前のことは勝手に懐いてしまった仔犬と思い込むことに決めていた。
名前は、ドライヤーも持ってきていたらしく、俺のを使うこともなかった。
勝手に荷物を運びこんだ部屋の化粧台で髪を乾かし終えた名前は、リビングに戻って来ても、ソファに座ってテレビを見ていた俺には近寄らなかった。
さっきもそうしていたように、少し離れたところで、カーペットの上に腰を降ろした。
そこまではまぁ、上出来だと言えた。
「見るな。」
離れたところに座った名前は、ただひたすら、俺の顔を見ていた。
まるで、テレビの向こうにいるアイドルを喫茶店で見つけたファンのように、ただひたすら、嬉しそうだった。
「お試し恋人なんだし、見るくらい良いと思います~。」
不服だったらしく、名前が頬を膨らませて口を尖らせる。
同世代の男達なら、その仕草を可愛いと思ってくれるのだろうが、俺からしたらガキがより一層ガキになっただけだった。
「家がねぇって言うから置いてやっただけだ。
俺は名前みてぇなガキとは、お試しでも恋人になったつもりなんかー。」
「名前…!!」
突然、名前が目を見開いて、自分の名前を叫んだ。
何事かと驚く俺に、名前が驚いた表情のままで続けた。
「今、リヴァイさんが、私の名前を…呼びました…!!」
「…あぁ、そうだったか。それがどうした。」
「感動しました!!」
「…クソみたいな感動だな。」
「夢みたいだ~。アハハ、痛いや~、夢じゃない~。」
名前は自分の頬をつねって、ヘラヘラと嬉しそうに笑う。
少し前までは、どんなプレイでもー、なんて大胆なことを言っていたくせに、名前を呼ばれたくらいで喜ぶなんて、本当にガキだ。
それからも結局、名前は俺の顔を見てはニヤけていた。
嬉し過ぎて勝手に顔の筋肉が緩むだとか、視界に好きな男がいれば見ずにはいられないだとか、屁理屈な言い訳をダラダラと並べられたから、面倒くさくなって、無視することに決めた。
しばらくすると、他人の顔を眺めているのにも飽きたのか、名前が動き出した。
視界の端に名前を捉えながら、興味のないテレビに目を向けていれば、キッチンで何かし始めた。
うちの間取りはよくあるカウンターキッチンのあるLDKになっていて、リビングにいてもキッチンの中にいる人間のことが良く見えた。
だが、手元はカウンタ―に隠れていて何をしているのかまでは分からない。
少ししてキッチンから出てきた名前は、見覚えのないマグカップを2個、両手に持って戻って来た。
見覚えのないマグカップだった。
「どうぞ、紅茶を淹れてきました~。」
俺のそばに立った名前に差し出されて、戸惑いながらマグカップを受け取った。
ちょうど飲みたいと思っていたところだった。
まさか魔法で分かったのかー、なんて思ってしまった俺は、相当疲れていたのだろう。
「ほら、見てください~。私たちったら、ラブラブ~っ♡」
名前が、俺の持っているマグカップに自分のそれを並べた。
すると、重なった部分の絵柄がハートになった。
見覚えや聞き覚えはあるが、絶対に俺はしないと思っていたバカップルが使うマグカップだ。
これがしたくて、名前はわざわざ用意して持ってきたのだろうか。
くだらないー。
すごく嬉しそうにハシャいでいる名前が、やっぱり俺は理解出来なかった。
「ラブラブになった覚えはねぇ。」
冷たく言って、俺は紅茶を口に運んだ。
ここまで、何を言っても名前は傷ついたような顔はしなかったから、突き放す言葉を口にすることに、俺はもう抵抗を感じなくなっていた。
今回もまた、名前は気にするようなこともなく「気分ですよ、気分~。」とヘラヘラ笑いながら、少し離れたところでカーペットの上に腰を降ろした。
「…これ、お前が持ってきたのか。」
口を離したマグカップの中を覗き込みながら、俺は名前に訊ねた。
好物はと訊かれたら、紅茶と答える程度には紅茶にはこだわりがある。
いつも同じ喫茶店で、同じ紅茶を調達している。
だが、マグカップに入っている紅茶は、いつもとは味も香りも違っていた。
「はい!今日はなんだかお疲れみたいだったので
疲労回復に効果のある紅茶を淹れてみました!
紅茶の葉は他にもたくさん持ってきてるので、楽しみにしててくださいねっ。」
「ほう、悪くねぇ。」
呟くように答えて、俺はもう一度、マグカップを口に運んだ。
いつもとは違う味と香りだけれど、これはこれでよかった。
嫌いじゃない。
こうして、欲しいときに、俺の身体が求めている紅茶が出てくるのなら、3か月くらい仔犬を置いてやるくらいはいいかもしれない。
往生際の悪い俺がやっと、名前を居候させることを受け入れたのはこのときだ。
隠し味があったに違いないんだ
じゃなきゃどうして、君がいないだけでこんなに味気なくなるもんか
ねぇ、日記さん、聞いてよ。
今日ね、リヴァイさんが、私の名前を呼んでくれたのよ。
聞き慣れた名前だってね、大好きな人の声に乗せられるだけで特別な響きに変わるのよ。
私はとっても幸せだったわ。
だから、リヴァイさんにお礼が出来ないかって考えて思いついたのが紅茶だったの。
用意しておいた紅茶を淹れて持って行ったら、その日初めて、リヴァイさんの表情が柔らかくなったのよ。
紅茶の美味しい淹れ方を母に教えてもらっておいて、本当によかった。
日記さんにも美味しく淹れるコツを教えてあげようか?
それはね、大好きな人が笑顔になりますようにってね、心を込めることなのよ。
隠し味なんてそんなものはないわ。
ただ愛を込めるの。心からの愛をね。
あぁ、ずっとずっとずーっと、リヴァイさんに美味しい紅茶を淹れてあげたいなぁ~
俺の後に風呂に入った名前は、綺麗に掃除をしてから出てきた。
そろそろ冬だというのに、柔らかそうなパジャマは、生地は暖かそうなものの、ズボンが驚くほどに短すぎた。
脚のほとんどを丸出しにして、寒くないのかとおっさん心で心配してしまったくらいだ。
男の部屋に泊まるという危機感が鈍いのか、もしくはそういうことになっても構わないと思っているのか。
これまでの名前の発言から察するに、恐らく後者なのだろう。
だが、悪いが、俺にはその気はない。
女なんてもうコリゴリだし、名前のことは勝手に懐いてしまった仔犬と思い込むことに決めていた。
名前は、ドライヤーも持ってきていたらしく、俺のを使うこともなかった。
勝手に荷物を運びこんだ部屋の化粧台で髪を乾かし終えた名前は、リビングに戻って来ても、ソファに座ってテレビを見ていた俺には近寄らなかった。
さっきもそうしていたように、少し離れたところで、カーペットの上に腰を降ろした。
そこまではまぁ、上出来だと言えた。
「見るな。」
離れたところに座った名前は、ただひたすら、俺の顔を見ていた。
まるで、テレビの向こうにいるアイドルを喫茶店で見つけたファンのように、ただひたすら、嬉しそうだった。
「お試し恋人なんだし、見るくらい良いと思います~。」
不服だったらしく、名前が頬を膨らませて口を尖らせる。
同世代の男達なら、その仕草を可愛いと思ってくれるのだろうが、俺からしたらガキがより一層ガキになっただけだった。
「家がねぇって言うから置いてやっただけだ。
俺は名前みてぇなガキとは、お試しでも恋人になったつもりなんかー。」
「名前…!!」
突然、名前が目を見開いて、自分の名前を叫んだ。
何事かと驚く俺に、名前が驚いた表情のままで続けた。
「今、リヴァイさんが、私の名前を…呼びました…!!」
「…あぁ、そうだったか。それがどうした。」
「感動しました!!」
「…クソみたいな感動だな。」
「夢みたいだ~。アハハ、痛いや~、夢じゃない~。」
名前は自分の頬をつねって、ヘラヘラと嬉しそうに笑う。
少し前までは、どんなプレイでもー、なんて大胆なことを言っていたくせに、名前を呼ばれたくらいで喜ぶなんて、本当にガキだ。
それからも結局、名前は俺の顔を見てはニヤけていた。
嬉し過ぎて勝手に顔の筋肉が緩むだとか、視界に好きな男がいれば見ずにはいられないだとか、屁理屈な言い訳をダラダラと並べられたから、面倒くさくなって、無視することに決めた。
しばらくすると、他人の顔を眺めているのにも飽きたのか、名前が動き出した。
視界の端に名前を捉えながら、興味のないテレビに目を向けていれば、キッチンで何かし始めた。
うちの間取りはよくあるカウンターキッチンのあるLDKになっていて、リビングにいてもキッチンの中にいる人間のことが良く見えた。
だが、手元はカウンタ―に隠れていて何をしているのかまでは分からない。
少ししてキッチンから出てきた名前は、見覚えのないマグカップを2個、両手に持って戻って来た。
見覚えのないマグカップだった。
「どうぞ、紅茶を淹れてきました~。」
俺のそばに立った名前に差し出されて、戸惑いながらマグカップを受け取った。
ちょうど飲みたいと思っていたところだった。
まさか魔法で分かったのかー、なんて思ってしまった俺は、相当疲れていたのだろう。
「ほら、見てください~。私たちったら、ラブラブ~っ♡」
名前が、俺の持っているマグカップに自分のそれを並べた。
すると、重なった部分の絵柄がハートになった。
見覚えや聞き覚えはあるが、絶対に俺はしないと思っていたバカップルが使うマグカップだ。
これがしたくて、名前はわざわざ用意して持ってきたのだろうか。
くだらないー。
すごく嬉しそうにハシャいでいる名前が、やっぱり俺は理解出来なかった。
「ラブラブになった覚えはねぇ。」
冷たく言って、俺は紅茶を口に運んだ。
ここまで、何を言っても名前は傷ついたような顔はしなかったから、突き放す言葉を口にすることに、俺はもう抵抗を感じなくなっていた。
今回もまた、名前は気にするようなこともなく「気分ですよ、気分~。」とヘラヘラ笑いながら、少し離れたところでカーペットの上に腰を降ろした。
「…これ、お前が持ってきたのか。」
口を離したマグカップの中を覗き込みながら、俺は名前に訊ねた。
好物はと訊かれたら、紅茶と答える程度には紅茶にはこだわりがある。
いつも同じ喫茶店で、同じ紅茶を調達している。
だが、マグカップに入っている紅茶は、いつもとは味も香りも違っていた。
「はい!今日はなんだかお疲れみたいだったので
疲労回復に効果のある紅茶を淹れてみました!
紅茶の葉は他にもたくさん持ってきてるので、楽しみにしててくださいねっ。」
「ほう、悪くねぇ。」
呟くように答えて、俺はもう一度、マグカップを口に運んだ。
いつもとは違う味と香りだけれど、これはこれでよかった。
嫌いじゃない。
こうして、欲しいときに、俺の身体が求めている紅茶が出てくるのなら、3か月くらい仔犬を置いてやるくらいはいいかもしれない。
往生際の悪い俺がやっと、名前を居候させることを受け入れたのはこのときだ。
隠し味があったに違いないんだ
じゃなきゃどうして、君がいないだけでこんなに味気なくなるもんか
ねぇ、日記さん、聞いてよ。
今日ね、リヴァイさんが、私の名前を呼んでくれたのよ。
聞き慣れた名前だってね、大好きな人の声に乗せられるだけで特別な響きに変わるのよ。
私はとっても幸せだったわ。
だから、リヴァイさんにお礼が出来ないかって考えて思いついたのが紅茶だったの。
用意しておいた紅茶を淹れて持って行ったら、その日初めて、リヴァイさんの表情が柔らかくなったのよ。
紅茶の美味しい淹れ方を母に教えてもらっておいて、本当によかった。
日記さんにも美味しく淹れるコツを教えてあげようか?
それはね、大好きな人が笑顔になりますようにってね、心を込めることなのよ。
隠し味なんてそんなものはないわ。
ただ愛を込めるの。心からの愛をね。
あぁ、ずっとずっとずーっと、リヴァイさんに美味しい紅茶を淹れてあげたいなぁ~