◇46ページ◇実家
Name change
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翌朝、目を覚ますと腕の中から名前の姿が消えていた。
身体を起こし、シンと静まり返った部屋を見渡した。
昨日の夜、名前が大切にハンガーにかけて嬉しそうに眺めていたドレスは、壁にかけたままだった。
床にも、脱ぎ捨てられたガウンが落ちていたけれど、俺が剥がした名前の下着はなくなっていた。
ベッドから降りた俺は、脱ぎ捨てられた下着を履いてから、ガウンを雑に羽織った。
まずは、室内から探そうと思ったのだが、そのタイミングで名前が部屋に戻ってきた。
結局、昨日は洋服を買わなかったから、俺が貸したセーターとジーパン姿に戻っていて、魔法が解けたみたいだと思ってしまった。
「おはようございます。」
「何処に行ってたんだ?」
「昨日の夜に母から電話が来ていたみたいで、折り返し電話をしていたんです。
それで、リヴァイさんを起こしちゃ悪いと思って外で話してました。」
「あぁ…、そういうことか。俺に気を遣わなくていい。
それより、名前が消えちまったかと思って焦った。」
俺は名前の肩を掴まえて、自分の腕の中に閉じ込めた。
「消えませんよ。魔法はもう解けないってリヴァイさんが教えてくれたから。
私の0時の鐘の音は、鳴りません。」
「そうか、分かってりゃいい。」
嬉しさと安心が胸に広がって、俺の口角は上がっていた。
それでも、名前を抱きしめる腕に力がこもってしまったのは、漠然とした不安が消えていなかったからなのかもしれない。
俺は、名前を抱きしめたままで、近くの4人掛けソファの肘掛に背中を預けて腰を降ろした。
股の間に名前を挟む格好で後ろから抱きしめれば、名前も俺に背中を預けた。
「私、今日から少し実家に帰らなきゃいけなくなりました。」
名前は、自分の胸の前にまわる俺の腕にそっと手を添えた。
離れたくないというように強く握りしめる手の力に、それが名前の望む予定ではないことが分かった。
「実家は海外なんじゃなかったか?何かあったのか?」
「両親はずっと海外にいるんですけど、本当は実家はこっちなんです。
あのとき、追い返されたくなくて嘘吐きました…。ごめんなさい。」
「そうだったのか。別に気にしなくていい。その嘘のおかげで今がある。」
申し訳なさそうに謝る名前に、思わず俺はクスリと笑ってしまった。
嘘は好きじゃない。
でも、あのとき、どうしても俺と一緒に居たくて必死に吐いた嘘なら、いじらしくて愛おしい。
きっとそれも、俺が名前に惚れてしまったが故の甘さなのだろう。
でも、特別扱いしてしまう相手がいるということが、とても幸せだったのも確かなのだ。
ホッとしたように息を吐いて「ありがとうございます。」と礼を言ってから、名前は話を続けた。
「両親から、実家に帰ってきて、会って話したいって言われました。
忙しい人達であまり会えないので、偶には顔を出してあげたいなとも思って。」
「そうか。久しぶりに帰って来てるなら、会いに行ってやるといい。」
「ありがとうございます。それで、あの…、リヴァイさんと恋人になったことを伝えられたらって
思ってるんですけど…、嫌ですか?リヴァイさんが嫌なことはしないので、
内緒にしていてほしいなら、言わないです。」
「別に構わねぇ。そういうことなら、俺も一緒に行く。
一緒に住んでるのに、挨拶もしねぇわけにはいかないしな。」
どことなく不安そうな名前を安心させたくて、俺は抱きしめる腕に力を込めた。
でも、名前はそれを断るように首を横に振った。
「少し顔を見るだけなので、大丈夫ですよ。
ちゃんと帰って来ますから、待っていてください。」
名前はふわりと柔らかく微笑んだ。
でも、いつものそれとはどこか違っていて、拒絶されたように感じた。
俺に触れて欲しくないことがあるのだと分かって、そこにまで土足で踏み込むにはまだお互いに時間が足りなかった。
「あぁ、待ってる。ちゃんと待ってるから、安心して行ってこい。」
名前の髪を優しく撫でた。
不安を隠そうとして緊張で強張っていた名前の表情が柔らかくなったのを見て、安心したのは俺の方だった。
今でも待っていれば
君が笑いながら帰ってくるような気がするんだ
厳かな門構えが、ゆっくりと開いていった。
京都のお寺を思い出させるような造りの入口には、私を出迎えるためだけに使用人達が左右に分かれて整列して、待ち構えている。
「お帰りなさいませ、名前様。」
合図もなしに、使用人達は、一斉にそう言って頭を下げた。
使用人頭のキクが荷物を持つと申し出てくれたけれど、小さなバッグひとつくらい自分で持てると断った。
一番古い記憶のキクも皴だらけの老女だったが、あの頃から何も変わらない姿からはこの屋敷を生涯守り抜くという執念を感じる。
「お久しぶりです、名前様。
最後に帰ってらしたのは、意味の分からない我儘で
旦那様と奥様を困らせたときでしたね。元気にしてらっしゃいましたか?」
「えぇ、おかげさまで。」
「それはようございます。
もうお帰りにならないのかとキクは心配していたんですよ。
皆様も、名前様のお帰りをお待ちかねです。」
「そう。」
鹿おどしまである手入れの行き届いた枯山水の庭は、昔から何も変わらない。趣のある風流な風景のままだ。
そして今日も、キクの嫌味を聞きながら歩く。それも、子供の頃から変わらない。
「ジャン様はご一緒ではないのですね。
何のための護衛か分かりませんね。
だから私はキルシュタイン家なんかは昔から信じられなー。」
「門の前までしっかり送ってくれました。
私が、1人で帰りたいとお願いをしたの。」
「男を庇うのが、本当にお好きですね。
そういえば、名前様、見ないうちに一段と色っぽくなられたようですが、
お得意の魔法とやらで、また男を手玉にとられたのですか。」
「あっちから私のスパイでも頼まれた?」
「キクはただ、名前様にこの家の後継ぎということを自覚して欲しいだけでございます。
漸く、くだらない夢を諦めて頂けたと思った矢先に、家を出て行ってしまわれましたので。
どうか、ご自分の立場だけはお忘れなきよう。」
玄関までの長い道のりを歩いて、やっと辿り着いたのは、実家と呼ぶにはあまりにも烏滸がましいほどに立派な純和風な邸宅だ。
私の帰りを待っていた使用人は、玄関でも整列をして美しいお辞儀を見せてくれた。
縁側を行くキクに連れられて、私は奥の部屋へ向かう。
そして、大きな障子の前で足を止めた。
「名前様をお連れ致しました。」
障子の前でキクが頭を下げた。
返事を貰ったキクが障子を開いてくれて、私は広い畳の部屋に足を一歩踏み出した。
奥の上座で胡坐をかくのは、男物の着物を着こなす白髪交じりの渋い二枚目の老紳士。
そして、それよりも手前で背筋を伸ばして美しい正座をして並ぶのは、目を見張るほどに綺麗な着物に身を包んだ美しい母娘。
私の大切な家族だ。
私は彼らを裏切る勇気はない。でも、リヴァイさんが掴んでくれた手を離す気もない。
まだ、どうすればいいか分からないままで、私は後ろ手で障子を閉めた。
「待っておったぞ。楽しくしているか。」
父がとても柔らかく微笑んだ。
身体を起こし、シンと静まり返った部屋を見渡した。
昨日の夜、名前が大切にハンガーにかけて嬉しそうに眺めていたドレスは、壁にかけたままだった。
床にも、脱ぎ捨てられたガウンが落ちていたけれど、俺が剥がした名前の下着はなくなっていた。
ベッドから降りた俺は、脱ぎ捨てられた下着を履いてから、ガウンを雑に羽織った。
まずは、室内から探そうと思ったのだが、そのタイミングで名前が部屋に戻ってきた。
結局、昨日は洋服を買わなかったから、俺が貸したセーターとジーパン姿に戻っていて、魔法が解けたみたいだと思ってしまった。
「おはようございます。」
「何処に行ってたんだ?」
「昨日の夜に母から電話が来ていたみたいで、折り返し電話をしていたんです。
それで、リヴァイさんを起こしちゃ悪いと思って外で話してました。」
「あぁ…、そういうことか。俺に気を遣わなくていい。
それより、名前が消えちまったかと思って焦った。」
俺は名前の肩を掴まえて、自分の腕の中に閉じ込めた。
「消えませんよ。魔法はもう解けないってリヴァイさんが教えてくれたから。
私の0時の鐘の音は、鳴りません。」
「そうか、分かってりゃいい。」
嬉しさと安心が胸に広がって、俺の口角は上がっていた。
それでも、名前を抱きしめる腕に力がこもってしまったのは、漠然とした不安が消えていなかったからなのかもしれない。
俺は、名前を抱きしめたままで、近くの4人掛けソファの肘掛に背中を預けて腰を降ろした。
股の間に名前を挟む格好で後ろから抱きしめれば、名前も俺に背中を預けた。
「私、今日から少し実家に帰らなきゃいけなくなりました。」
名前は、自分の胸の前にまわる俺の腕にそっと手を添えた。
離れたくないというように強く握りしめる手の力に、それが名前の望む予定ではないことが分かった。
「実家は海外なんじゃなかったか?何かあったのか?」
「両親はずっと海外にいるんですけど、本当は実家はこっちなんです。
あのとき、追い返されたくなくて嘘吐きました…。ごめんなさい。」
「そうだったのか。別に気にしなくていい。その嘘のおかげで今がある。」
申し訳なさそうに謝る名前に、思わず俺はクスリと笑ってしまった。
嘘は好きじゃない。
でも、あのとき、どうしても俺と一緒に居たくて必死に吐いた嘘なら、いじらしくて愛おしい。
きっとそれも、俺が名前に惚れてしまったが故の甘さなのだろう。
でも、特別扱いしてしまう相手がいるということが、とても幸せだったのも確かなのだ。
ホッとしたように息を吐いて「ありがとうございます。」と礼を言ってから、名前は話を続けた。
「両親から、実家に帰ってきて、会って話したいって言われました。
忙しい人達であまり会えないので、偶には顔を出してあげたいなとも思って。」
「そうか。久しぶりに帰って来てるなら、会いに行ってやるといい。」
「ありがとうございます。それで、あの…、リヴァイさんと恋人になったことを伝えられたらって
思ってるんですけど…、嫌ですか?リヴァイさんが嫌なことはしないので、
内緒にしていてほしいなら、言わないです。」
「別に構わねぇ。そういうことなら、俺も一緒に行く。
一緒に住んでるのに、挨拶もしねぇわけにはいかないしな。」
どことなく不安そうな名前を安心させたくて、俺は抱きしめる腕に力を込めた。
でも、名前はそれを断るように首を横に振った。
「少し顔を見るだけなので、大丈夫ですよ。
ちゃんと帰って来ますから、待っていてください。」
名前はふわりと柔らかく微笑んだ。
でも、いつものそれとはどこか違っていて、拒絶されたように感じた。
俺に触れて欲しくないことがあるのだと分かって、そこにまで土足で踏み込むにはまだお互いに時間が足りなかった。
「あぁ、待ってる。ちゃんと待ってるから、安心して行ってこい。」
名前の髪を優しく撫でた。
不安を隠そうとして緊張で強張っていた名前の表情が柔らかくなったのを見て、安心したのは俺の方だった。
今でも待っていれば
君が笑いながら帰ってくるような気がするんだ
厳かな門構えが、ゆっくりと開いていった。
京都のお寺を思い出させるような造りの入口には、私を出迎えるためだけに使用人達が左右に分かれて整列して、待ち構えている。
「お帰りなさいませ、名前様。」
合図もなしに、使用人達は、一斉にそう言って頭を下げた。
使用人頭のキクが荷物を持つと申し出てくれたけれど、小さなバッグひとつくらい自分で持てると断った。
一番古い記憶のキクも皴だらけの老女だったが、あの頃から何も変わらない姿からはこの屋敷を生涯守り抜くという執念を感じる。
「お久しぶりです、名前様。
最後に帰ってらしたのは、意味の分からない我儘で
旦那様と奥様を困らせたときでしたね。元気にしてらっしゃいましたか?」
「えぇ、おかげさまで。」
「それはようございます。
もうお帰りにならないのかとキクは心配していたんですよ。
皆様も、名前様のお帰りをお待ちかねです。」
「そう。」
鹿おどしまである手入れの行き届いた枯山水の庭は、昔から何も変わらない。趣のある風流な風景のままだ。
そして今日も、キクの嫌味を聞きながら歩く。それも、子供の頃から変わらない。
「ジャン様はご一緒ではないのですね。
何のための護衛か分かりませんね。
だから私はキルシュタイン家なんかは昔から信じられなー。」
「門の前までしっかり送ってくれました。
私が、1人で帰りたいとお願いをしたの。」
「男を庇うのが、本当にお好きですね。
そういえば、名前様、見ないうちに一段と色っぽくなられたようですが、
お得意の魔法とやらで、また男を手玉にとられたのですか。」
「あっちから私のスパイでも頼まれた?」
「キクはただ、名前様にこの家の後継ぎということを自覚して欲しいだけでございます。
漸く、くだらない夢を諦めて頂けたと思った矢先に、家を出て行ってしまわれましたので。
どうか、ご自分の立場だけはお忘れなきよう。」
玄関までの長い道のりを歩いて、やっと辿り着いたのは、実家と呼ぶにはあまりにも烏滸がましいほどに立派な純和風な邸宅だ。
私の帰りを待っていた使用人は、玄関でも整列をして美しいお辞儀を見せてくれた。
縁側を行くキクに連れられて、私は奥の部屋へ向かう。
そして、大きな障子の前で足を止めた。
「名前様をお連れ致しました。」
障子の前でキクが頭を下げた。
返事を貰ったキクが障子を開いてくれて、私は広い畳の部屋に足を一歩踏み出した。
奥の上座で胡坐をかくのは、男物の着物を着こなす白髪交じりの渋い二枚目の老紳士。
そして、それよりも手前で背筋を伸ばして美しい正座をして並ぶのは、目を見張るほどに綺麗な着物に身を包んだ美しい母娘。
私の大切な家族だ。
私は彼らを裏切る勇気はない。でも、リヴァイさんが掴んでくれた手を離す気もない。
まだ、どうすればいいか分からないままで、私は後ろ手で障子を閉めた。
「待っておったぞ。楽しくしているか。」
父がとても柔らかく微笑んだ。