乱れたドレスを綺麗にしてから、俺は名前を連れてパーティ会場に戻って来ていた。
あれだけしつこく俺を呼び出したエルヴィンは、名前と一緒にいると知るなり、それなら安心だと言って、パーティーからも帰ってしまった。
バルトの娘から言い寄られていたという話をハンジから聞いて、心配になって帰る前に電話をしたのだそうだ。
子供じゃないのだから、心配しすぎだとも思ったが、何よりも、こんなにエルヴィンが俺の女関係に興味を示したのも初めてだったから、不思議だった。
だが、エルヴィンのことを気にしている暇もないくらいに、俺は忙しかった。
パーティー会場に戻った途端、娘を連れたお偉い方が見合いを迫ってきたのだ。
お偉い方の都合優先の世界では、女連れということはあまり関係ないようだった。
結局、名前のことを恋人だと紹介し続けることになった。
大抵はそれで諦めて立ち去ってくれたが、恋人がいると分かっても、バルト親子のように名前を小馬鹿にしてマウンティングしてきたり、しつこく娘を勧めてくる親バカもいた。

「リヴァイさん、もしかして、このために私をパーティーに呼びましたね？」

親バカを見送っていた名前が、じとっとした目で俺を見た。ケーキを10個食べるというノルマはなくなったらしく、もうお腹いっぱいだからと、名前は俺の挨拶の付き合いをしてくれていた。

「さぁ。」
「もう。まぁ、いいですけどね。リヴァイさんの役に立てるのなら、
　何だってしたいですから。」

意地悪く誤魔化したのに、名前はどこか嬉しそうに頬を緩めた。
そして、「頑張りますね。」と張り切った笑顔を見せた。
何を頑張るのか、俺はそれからすぐに理解した。
それから30分もしないうちに、名前の周りをお偉い方が取り囲み出した。
医学から薬学、果てには政治論まで、名前はどんな話題を振られても完璧に受け答えをした。
時には、分からない顔をして首を傾げては、お偉い方に自慢気に話をさせて、凄いと持ち上げてみたり、時には、堂々とした顔で自分の主張を口にしてみせた。
若い女が自分達の話を何でも聞いてくれるという噂が噂を呼んで、いつの間にか、パーティー会場は、名前とのトークショーのようになっていた。
噂の流れに乗ってやって来たザックレーは、今がチャンスとばかりに営業トークを繰り広げて、良い反応を貰ってご機嫌だ。
おかげで、俺への面倒な見合いの誘いもすっかり鳴りを潜めた。
名前の言っていた「頑張る。」というのはこういうことだったらしい。