◇32ページ◇この感情の名前は、
Name change
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珍しく泊りがけの出張になった、その帰りだった。
3時頃に飛行場に着いた俺に、今日はこのまま直帰して構わないと上司から連絡が届いた。
名前のバイトは4時までだったのを思い出して、たまには迎えに行ってやろうかと思いついた。
飛行場の駐車場に停めていた車に乗り込んだ俺は、スーツのジャケットを脱いで綺麗にたたんでから助手席に置いた。
そして、きつく結んでいたネクタイを緩めながら、もう片方の手でバックミラーを調整した。
エンジンをかけて、アクセルを踏む。
名前を乗せたらどこかで夕飯を食べて帰ろうなんて考えた。
毎日、料理や家事をしてくれている名前への感謝も込めて、少し高めのレストランでもいいし、食べたいものを聞いて好きなところに連れてってやるのもいい。
飛行場を出ると、病院までの見慣れない道を法定速度内で飛ばした。
会うのは3日ぶりだ。
でも、今まで毎日顔を合わせていたから、もうずっと会っていないような気がする。
出張の間、LINEや電話でのやり取りはしていた。
既読スルーを気にしていた名前のために、出来るだけ返信をしてやろうと思っていたのに、そもそも連絡が届くことがあまりなかった。
名前は、普段からそうだった。
そう言えば、友人のエレンとかいう男も電話に出ないと愚痴を寄越していたし、マメに連絡を取るようなタイプではないのかもしれない。
だから、むしろ、俺の方が、ちゃんと食事はとっているかとか、遅くまで遊び歩いていないかとか、小言のようなメッセージを送っていたと思う。
でも、バイトの時間以外は、メッセージを送ればすぐに既読になったし、返信も割と早く届いた。
たったひとつだけ、名前が俺にねだったのは、寝る前の短い電話だけだった。
寝る前に声が聞きたいなんて言うから、夜中に「おやすみ。」を言うだけの声を聞かせあった。
離れてる間も、名前は変わらなかった。
俺が相手をすればすぐにすり寄ってくるけれど、自分から必要以上に求めることはしない。
電話やメッセージを要求して面倒なことを言ってくることはなかった。
俺はそれが心地いいと思いながらも、どこか物足りなさも感じていたと思う。
だから、寝る前のLINEに毎晩『大好きです。』というメッセージを送って来ていた名前が、俺が迎えに来たと知ったときにどんなか顔をするのか想像して、思わず意地悪く口元が歪んだ。
名前には、早めに帰れても、研究施設に戻ってから普通に勤務して、帰ってくるのは夜だと伝えていたし、俺もそのつもりだった。
だから、敢えて、帰って来たとメッセージは送らなかった。
驚かせたかった。
そして、喜んでもらいたかったのだ。
病院の駐車場に車を停めた俺は、近道のために、広い敷地内にある庭を横切って正面玄関へ向かった。
遠くに正面玄関が見えてきたところで、名前が出て来た。
思ったより早めにバイトが終わったようだった。
走って駆け寄ろうとした俺だったが、それよりも早くに長身の男が、名前の元へ近づいた。
ハッキリとは見えなかったが、黒髪の綺麗な顔をした男だった。
名前と同世代くらいのようだったが、前に飲み会の時に一緒にいた友人達の誰とも違っていて、どこか落ち着き払った雰囲気を漂わせていた。
思わず、俺は足を止めてしまった。
黒髪の男が声をかけると、名前が立ち止まった。
距離があるから、声は聞こえなかったが、黒髪の男の方はどこか嬉しそうに何かを言っていた。
名前もそれに普通に答えた。
友人だろうかー、そう思った俺の目の前で、黒髪の男が名前の腰に手を添えた。
そして、驚いて息を呑んだ俺に背を向けて、どこかへ名前を連れ去ろうとする。
気づいたら、俺は名前に電話をかけていた。
当然だけれど、俺の耳元から聞こえてくる呼び出し音と連動するように、名前が歩き出そうとしていた足を止めて、バッグの中をまさぐった。
その間も黒髪の男の手は名前の腰に添えられたままで、それを名前が振り払う素振りは全くなかった。
スマホを見つけ出した名前は、画面を確認した。
そこには、俺の名前が表示されていたはずだ。
このときまでは、電話に出るはずだと信じていた。
でも、名前は、まるで見なかったことにするみたいに、バッグの中にスマホを放り込んでしまった。
黒髪の男が何かを言った。それに対して、名前が笑顔で首を横に振った。
無声映画みたいに、それが聞こえなくたって、俺にはセリフが見えた気がした。
呆然とする俺に気づきもしないで、名前は、馴れ馴れしく腰を抱く黒髪の男と一緒に歩き去った。
3時頃に飛行場に着いた俺に、今日はこのまま直帰して構わないと上司から連絡が届いた。
名前のバイトは4時までだったのを思い出して、たまには迎えに行ってやろうかと思いついた。
飛行場の駐車場に停めていた車に乗り込んだ俺は、スーツのジャケットを脱いで綺麗にたたんでから助手席に置いた。
そして、きつく結んでいたネクタイを緩めながら、もう片方の手でバックミラーを調整した。
エンジンをかけて、アクセルを踏む。
名前を乗せたらどこかで夕飯を食べて帰ろうなんて考えた。
毎日、料理や家事をしてくれている名前への感謝も込めて、少し高めのレストランでもいいし、食べたいものを聞いて好きなところに連れてってやるのもいい。
飛行場を出ると、病院までの見慣れない道を法定速度内で飛ばした。
会うのは3日ぶりだ。
でも、今まで毎日顔を合わせていたから、もうずっと会っていないような気がする。
出張の間、LINEや電話でのやり取りはしていた。
既読スルーを気にしていた名前のために、出来るだけ返信をしてやろうと思っていたのに、そもそも連絡が届くことがあまりなかった。
名前は、普段からそうだった。
そう言えば、友人のエレンとかいう男も電話に出ないと愚痴を寄越していたし、マメに連絡を取るようなタイプではないのかもしれない。
だから、むしろ、俺の方が、ちゃんと食事はとっているかとか、遅くまで遊び歩いていないかとか、小言のようなメッセージを送っていたと思う。
でも、バイトの時間以外は、メッセージを送ればすぐに既読になったし、返信も割と早く届いた。
たったひとつだけ、名前が俺にねだったのは、寝る前の短い電話だけだった。
寝る前に声が聞きたいなんて言うから、夜中に「おやすみ。」を言うだけの声を聞かせあった。
離れてる間も、名前は変わらなかった。
俺が相手をすればすぐにすり寄ってくるけれど、自分から必要以上に求めることはしない。
電話やメッセージを要求して面倒なことを言ってくることはなかった。
俺はそれが心地いいと思いながらも、どこか物足りなさも感じていたと思う。
だから、寝る前のLINEに毎晩『大好きです。』というメッセージを送って来ていた名前が、俺が迎えに来たと知ったときにどんなか顔をするのか想像して、思わず意地悪く口元が歪んだ。
名前には、早めに帰れても、研究施設に戻ってから普通に勤務して、帰ってくるのは夜だと伝えていたし、俺もそのつもりだった。
だから、敢えて、帰って来たとメッセージは送らなかった。
驚かせたかった。
そして、喜んでもらいたかったのだ。
病院の駐車場に車を停めた俺は、近道のために、広い敷地内にある庭を横切って正面玄関へ向かった。
遠くに正面玄関が見えてきたところで、名前が出て来た。
思ったより早めにバイトが終わったようだった。
走って駆け寄ろうとした俺だったが、それよりも早くに長身の男が、名前の元へ近づいた。
ハッキリとは見えなかったが、黒髪の綺麗な顔をした男だった。
名前と同世代くらいのようだったが、前に飲み会の時に一緒にいた友人達の誰とも違っていて、どこか落ち着き払った雰囲気を漂わせていた。
思わず、俺は足を止めてしまった。
黒髪の男が声をかけると、名前が立ち止まった。
距離があるから、声は聞こえなかったが、黒髪の男の方はどこか嬉しそうに何かを言っていた。
名前もそれに普通に答えた。
友人だろうかー、そう思った俺の目の前で、黒髪の男が名前の腰に手を添えた。
そして、驚いて息を呑んだ俺に背を向けて、どこかへ名前を連れ去ろうとする。
気づいたら、俺は名前に電話をかけていた。
当然だけれど、俺の耳元から聞こえてくる呼び出し音と連動するように、名前が歩き出そうとしていた足を止めて、バッグの中をまさぐった。
その間も黒髪の男の手は名前の腰に添えられたままで、それを名前が振り払う素振りは全くなかった。
スマホを見つけ出した名前は、画面を確認した。
そこには、俺の名前が表示されていたはずだ。
このときまでは、電話に出るはずだと信じていた。
でも、名前は、まるで見なかったことにするみたいに、バッグの中にスマホを放り込んでしまった。
黒髪の男が何かを言った。それに対して、名前が笑顔で首を横に振った。
無声映画みたいに、それが聞こえなくたって、俺にはセリフが見えた気がした。
呆然とする俺に気づきもしないで、名前は、馴れ馴れしく腰を抱く黒髪の男と一緒に歩き去った。