◇25ページ◇学生
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週の半ばの水曜日、研究施設には帝都大学の学生達が研修にやってきていた。
それについてはあまり珍しいことでもなかった。
ただ、研究フロアで研究員の仕事についての説明をしていたのだが、どう考えても体育学部の2名は場違いでしかなかった。
体育学部の卒業生だから研究員にはなれないとは思わない。
そこは自由だと思っている。
なりたいならなればいいし、なれるように努力すればいい。
ただ、コニーとサシャと名乗った体育学部生の彼らは、おかしなポーズをしながら騒ぐばかりで、俺達の説明を聞こうという意思が全く見えなかったのだ。
そして、ついに、ふざけた拍子に転んで、デスクの上に置いていた試薬のサンプルと資料をばら撒き、ペトラに悲鳴を上げさせた。
おまけに、医学部の1人は、俺の説明の最中に、腹が痛くなったと言ってトイレに行ったっきり戻って来ない。
結局、研修に来たというのに、俺達の説明を真面目に聞いているのは、黒髪でショートカットの根暗な女だけだった。
研究員の1日の大まかな流れに沿って、研究に使う道具や機械についての説明をしているのだが、ミカサと名乗った彼女は、いちいち細かいことを重箱の隅を楊枝でほじくるように聞いてくる面倒くさい学生だった。
だから、普通なら5分で終わりそうな説明に30分以上はかかっていて、凄く疲れた。
「それで。」
ペトラと一緒に片づけをしていても騒がしいコニーとサシャに思わず視線が向くと、ミカサにすかさず続きを催促された。
だが、あれこれと細かい説明は求める割に、メモをとる様子も全くない。
結局、このミカサという学生も、本当に興味があるのか、頭に入っているのか怪しいものだ。
同じことを思ったらしいオルオが、意地悪な問題を出すと、想定以上の素晴らしい回答が返って来た。
俺がまだ説明していないことにまで考えが及んだようだったから、そもそも、今日の研修は必要ないくらいに知識が豊富なようだ。
「リヴァイさん、そろそろ新しい治験のことで
営業から連絡が来る時間じゃありませんか?」
騒がしい学生達の相手を片づけをしていたペトラが、思い出したように俺に声をかけた。
そう言えば、そうだったー。
ペトラに礼を言って、俺は自分のデスクへ向かった。
だが、自分のデスクの上に置いていたはずのスマホが見当たらない。
白衣のポケットに入れたままだったかと思って、確認してみるが、ない。
デスクの引き出しを片っ端から開いてスマホを探していると、エルドがやってきた。
「どうしたんですか?」
「スマホがねぇ。」
「え?なくしたんですか?」
「ここに置いといたはずなんだが。」
エルドは一緒に探すと言って、自分達のデスクまわりを確認し始めてくれた。
だが、学生たちは全く空気が読めないようで、サシャとコニーはまた変なポーズをして騒ぎ出して、集めたばかりの資料をばら撒き出した。
「説明の続きを。この試薬の副作用について、さっきはー。」
試薬の副作用についての説明が納得いかなかったらしいミカサは、俺の耳元でまるで呪いの言葉のように、詳しい説明をしてくれとブツブツ言いだした。
スマホは見当たらないし、サシャとコニーは騒がしいし、ミカサは煩い。
さすがに俺も爆発しそうだった。
「あの、もしかして、これを探してますか?」
そんな言葉と共に、俺の目の前にスッと差し出されたのは、見覚えのあるスマホだった。
顔を上げると、俺にスマホを差し出したのは、腹が痛いと言ってトイレに行ったきり戻って来なかった学生だった。
金髪の気の弱そうなその学生は、確かアルミンという名前だった。
「トイレに行った帰りに、廊下に落ちているのを見つけたんです。
この研究フロアの研究員さんの誰かのかと思って、持ってきたんですけど。」
「あぁ、悪い、俺のだ。助かった。」
礼を言って、アルミンからスマホを受け取った。
いつの間に落としたのだろうか、全く気付かなかった。
スマホを失くすなんて初めてだったから、自分に驚いていた。
着信を確認しようとしたタイミングで、営業から連絡が来た。
ペトラに、用意しておいた資料を学生達に配るように指示を出して、俺は電話に出た。
簡単な報告だった電話はすぐに終わった。
資料を受け取った学生達は、中央のデスクに座って、ペトラから説明を受けていた。
最終頁には問題が幾つか用意してある。
最終問題は、難易度が高いうえに面倒な計算もある。
この問題を解き終わったら声をかけるように伝えて、俺達は本来の仕事に戻った。
これで時間が稼げるはずだ。
時々、学生達の様子を確認すると、ミカサとアルミンは真剣に問題を解いているようだった。
だが、サシャは資料の余白にひたすら食べ物の落書きをし始めていて、コニーは鼻と口の間にペンを挟んで、つまらなそうにしながら、椅子の後ろ脚だけを床につけてユラユラと揺れていた。
体育学部の2人は、何をしに来たのだろうか。本当に不思議だった。
そして、それからたったの20分ー。
「終わりました。」
ミカサが俺達に声をかけて来た。
思わず眉間に皴が寄る。
どんなに早くても30分以上はかかると思っていたから、驚いた。
それはエルド達も同じようだった。
だが、ミカサから回答を受け取って確認してみれば、全問正解だった。
「すごいね。俺も何度か研修に来た学生を見たことがあるけど、
君みたいな優秀な学生は初めて見たよ。」
エルドが感心したように言って、回答を返した。
だが、ミカサはあまり嬉しくなさそうに受け取って、口を開いた。
「私はいつも2番です。」
「え、もっとすごい学生がいるの?!」
ペトラが驚いて声を上げた。
「はい。もうすでにこの研究施設で治療薬の研究もしていました。無給で。」
「そういえば、去年くらいに学生が研究に加わるって話をザックレー社長から聞いたな。」
「そうだったね。今度、私達も指導に入ってって言われてたのに、 最近その話聞かないよね。」
「それはー。」
「ミカサ、この問題教えてくれる?」
アルミンが、ミカサに問題の質問をして、話は一旦中断された。
だが、問題を解く気もなく、さっきまで暇そうにしていたコニーが、お喋りが始まったと勘違いしたのか、鼻と口にペンを挟んだ格好のまま、椅子の後ろ脚だけを床につけてユラユラと揺れながら会話に加わった。
「ミカサは天才、アイツは研究員バカなんだよ。
今日だって、アイツのせいで俺達はー。」
「コニー、バカなのは君の方だと思うよ?」
アルミンが、コニーの頬を指で挟んだ。
口調は優しかったアルミンだったが、口は笑ってはいても、目が笑っていない。
タコのような口にされたコニーも、一気に顔が引きつったのが分かった。
「…そうれひた…。バカらのは、おれれしゅ。」
「うん、そうだね。君はちょっと黙ってようか。
はい、サシャもこれ食べてて。」
アルミンは、ニコリと微笑んで言うと、バッグの中からフランスパンを取り出して、サシャの口にぶっ刺した。
「んぐ…っ。」
いきなり口にフランスパンをつっこまれて、初めは苦しそうな声を出したサシャだったが、次の瞬間にはとても幸せそうに頬を緩めた。
そして、夢中でフランスパンを食べ始めた。
胃腸だけではなくて、気も弱そうに見えていたアルミンだったが、実は他の3人を支配しているのは彼なのかもしれない。
この一連の流れで、アルミンの腹黒さが見えた気がした。
今回の研修学生達は、本当に変な奴らばかりだった。
それについてはあまり珍しいことでもなかった。
ただ、研究フロアで研究員の仕事についての説明をしていたのだが、どう考えても体育学部の2名は場違いでしかなかった。
体育学部の卒業生だから研究員にはなれないとは思わない。
そこは自由だと思っている。
なりたいならなればいいし、なれるように努力すればいい。
ただ、コニーとサシャと名乗った体育学部生の彼らは、おかしなポーズをしながら騒ぐばかりで、俺達の説明を聞こうという意思が全く見えなかったのだ。
そして、ついに、ふざけた拍子に転んで、デスクの上に置いていた試薬のサンプルと資料をばら撒き、ペトラに悲鳴を上げさせた。
おまけに、医学部の1人は、俺の説明の最中に、腹が痛くなったと言ってトイレに行ったっきり戻って来ない。
結局、研修に来たというのに、俺達の説明を真面目に聞いているのは、黒髪でショートカットの根暗な女だけだった。
研究員の1日の大まかな流れに沿って、研究に使う道具や機械についての説明をしているのだが、ミカサと名乗った彼女は、いちいち細かいことを重箱の隅を楊枝でほじくるように聞いてくる面倒くさい学生だった。
だから、普通なら5分で終わりそうな説明に30分以上はかかっていて、凄く疲れた。
「それで。」
ペトラと一緒に片づけをしていても騒がしいコニーとサシャに思わず視線が向くと、ミカサにすかさず続きを催促された。
だが、あれこれと細かい説明は求める割に、メモをとる様子も全くない。
結局、このミカサという学生も、本当に興味があるのか、頭に入っているのか怪しいものだ。
同じことを思ったらしいオルオが、意地悪な問題を出すと、想定以上の素晴らしい回答が返って来た。
俺がまだ説明していないことにまで考えが及んだようだったから、そもそも、今日の研修は必要ないくらいに知識が豊富なようだ。
「リヴァイさん、そろそろ新しい治験のことで
営業から連絡が来る時間じゃありませんか?」
騒がしい学生達の相手を片づけをしていたペトラが、思い出したように俺に声をかけた。
そう言えば、そうだったー。
ペトラに礼を言って、俺は自分のデスクへ向かった。
だが、自分のデスクの上に置いていたはずのスマホが見当たらない。
白衣のポケットに入れたままだったかと思って、確認してみるが、ない。
デスクの引き出しを片っ端から開いてスマホを探していると、エルドがやってきた。
「どうしたんですか?」
「スマホがねぇ。」
「え?なくしたんですか?」
「ここに置いといたはずなんだが。」
エルドは一緒に探すと言って、自分達のデスクまわりを確認し始めてくれた。
だが、学生たちは全く空気が読めないようで、サシャとコニーはまた変なポーズをして騒ぎ出して、集めたばかりの資料をばら撒き出した。
「説明の続きを。この試薬の副作用について、さっきはー。」
試薬の副作用についての説明が納得いかなかったらしいミカサは、俺の耳元でまるで呪いの言葉のように、詳しい説明をしてくれとブツブツ言いだした。
スマホは見当たらないし、サシャとコニーは騒がしいし、ミカサは煩い。
さすがに俺も爆発しそうだった。
「あの、もしかして、これを探してますか?」
そんな言葉と共に、俺の目の前にスッと差し出されたのは、見覚えのあるスマホだった。
顔を上げると、俺にスマホを差し出したのは、腹が痛いと言ってトイレに行ったきり戻って来なかった学生だった。
金髪の気の弱そうなその学生は、確かアルミンという名前だった。
「トイレに行った帰りに、廊下に落ちているのを見つけたんです。
この研究フロアの研究員さんの誰かのかと思って、持ってきたんですけど。」
「あぁ、悪い、俺のだ。助かった。」
礼を言って、アルミンからスマホを受け取った。
いつの間に落としたのだろうか、全く気付かなかった。
スマホを失くすなんて初めてだったから、自分に驚いていた。
着信を確認しようとしたタイミングで、営業から連絡が来た。
ペトラに、用意しておいた資料を学生達に配るように指示を出して、俺は電話に出た。
簡単な報告だった電話はすぐに終わった。
資料を受け取った学生達は、中央のデスクに座って、ペトラから説明を受けていた。
最終頁には問題が幾つか用意してある。
最終問題は、難易度が高いうえに面倒な計算もある。
この問題を解き終わったら声をかけるように伝えて、俺達は本来の仕事に戻った。
これで時間が稼げるはずだ。
時々、学生達の様子を確認すると、ミカサとアルミンは真剣に問題を解いているようだった。
だが、サシャは資料の余白にひたすら食べ物の落書きをし始めていて、コニーは鼻と口の間にペンを挟んで、つまらなそうにしながら、椅子の後ろ脚だけを床につけてユラユラと揺れていた。
体育学部の2人は、何をしに来たのだろうか。本当に不思議だった。
そして、それからたったの20分ー。
「終わりました。」
ミカサが俺達に声をかけて来た。
思わず眉間に皴が寄る。
どんなに早くても30分以上はかかると思っていたから、驚いた。
それはエルド達も同じようだった。
だが、ミカサから回答を受け取って確認してみれば、全問正解だった。
「すごいね。俺も何度か研修に来た学生を見たことがあるけど、
君みたいな優秀な学生は初めて見たよ。」
エルドが感心したように言って、回答を返した。
だが、ミカサはあまり嬉しくなさそうに受け取って、口を開いた。
「私はいつも2番です。」
「え、もっとすごい学生がいるの?!」
ペトラが驚いて声を上げた。
「はい。もうすでにこの研究施設で治療薬の研究もしていました。無給で。」
「そういえば、去年くらいに学生が研究に加わるって話をザックレー社長から聞いたな。」
「そうだったね。今度、私達も指導に入ってって言われてたのに、 最近その話聞かないよね。」
「それはー。」
「ミカサ、この問題教えてくれる?」
アルミンが、ミカサに問題の質問をして、話は一旦中断された。
だが、問題を解く気もなく、さっきまで暇そうにしていたコニーが、お喋りが始まったと勘違いしたのか、鼻と口にペンを挟んだ格好のまま、椅子の後ろ脚だけを床につけてユラユラと揺れながら会話に加わった。
「ミカサは天才、アイツは研究員バカなんだよ。
今日だって、アイツのせいで俺達はー。」
「コニー、バカなのは君の方だと思うよ?」
アルミンが、コニーの頬を指で挟んだ。
口調は優しかったアルミンだったが、口は笑ってはいても、目が笑っていない。
タコのような口にされたコニーも、一気に顔が引きつったのが分かった。
「…そうれひた…。バカらのは、おれれしゅ。」
「うん、そうだね。君はちょっと黙ってようか。
はい、サシャもこれ食べてて。」
アルミンは、ニコリと微笑んで言うと、バッグの中からフランスパンを取り出して、サシャの口にぶっ刺した。
「んぐ…っ。」
いきなり口にフランスパンをつっこまれて、初めは苦しそうな声を出したサシャだったが、次の瞬間にはとても幸せそうに頬を緩めた。
そして、夢中でフランスパンを食べ始めた。
胃腸だけではなくて、気も弱そうに見えていたアルミンだったが、実は他の3人を支配しているのは彼なのかもしれない。
この一連の流れで、アルミンの腹黒さが見えた気がした。
今回の研修学生達は、本当に変な奴らばかりだった。