◇24ページ◇欲しいもの
Name change
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流行りのショップやカフェが軒を連ねる通りは、日曜ということもあってとても賑やかだった。
ベンチを見つけた俺は、止めどなく増えていった荷物を足元に置いて、腰を降ろした。
いつもは飄々としているケニーでさえも、ひどく疲れた様子で隣のベンチに足を投げ出して座ると、抱えていた荷物を横に置いて肘置きに変えた。
「これはいつまで続くんだ、あぁ?」
「こっちが聞きてぇくらいだ。」
いつも通り悪態を吐いてみた俺達だったが、声を出すのも面倒になって、それ以上は続かなかった。
ため息を零した俺達の目の前を、数名の若者グループや恋人達、家族連れが楽しそうに歩いていく。
「見て見て、名前ちゃんっ。これ、とっても可愛いわよっ。」
「わぁ、本当~っ。可愛いっ。私とママでお揃いで着ようよ~っ。」
すぐそこのショップでは、名前と母が、お互いの身体に服を合わせながら、楽しそうにハシャいでいる。
母なんて年甲斐もなく、若者の服を身体に合わせて、まんざらでもない顔で「似合うかしら?」なんて頬を染めていた。
今日は、母の退院日だった。
俺と名前で車で迎えに行った帰り、母が買い物に行きたいと言い出したのが、今のこの状況だ。
俺とケニーは、当然のように荷物持ちをさせられた。
どうやら、一人息子しかいなかった母は、娘と一緒に買い物をするのが昔からの夢だったらしい。
そこで、名前を娘と見立てて、一緒に買い物しようと思いついてしまったそうだ。
母は名前に『ママ』とまで呼ばせて、母と娘ごっこを心行くまで楽しんでいる。
(ママなんて、呼んでやれるかよ。)
リヴァイは小さな頃からママとは呼んでくれなかったー。
車の中で、そう愚痴られたことを思い出して、思わずチッと舌打ちが出た。
そんな俺の舌打ちなんて聞こえていない母は、とても嬉しそうに名前とお揃いの服に合う靴を選んでいた。
退院は出来たといっても、まだ通院治療が残っている。
それでも、一度は死を覚悟するしかなかったほどの重い病の母が、ここまで元気に回復して、楽しそうに笑っている姿を見ることが出来たのだ。
これくらいの我儘なら聞いてやりたいという気持ちもあったし、笑顔で付き合ってくれている名前にも感謝していた。
「娘さんととても仲良しなんですね。素敵な関係だなぁ。」
2人でキャッキャとハシャいる声が聞こえていたらしいショップの店員が、母と名前に声をかけていた。
母と名前は一度顔を見合わせると、とても嬉しそうに笑った。
「えぇ、とても自慢の娘なんですよ。世界一可愛いでしょう?」
「美人過ぎるママにそんなこと言われたら、照れちゃうよ~。」
母と名前は楽しそうにお互いを褒めながら、むしろもう、イチャイチャしていた。
そうですね、と愛想笑いをしたショップの店員は、若干引いていた。
ケニーなんて、呆れてため息を吐いていた。
それでも、さすが接客の上手い店員は、2人をうまくおだてて、買うかどうか悩んでいたワンピースの試着をさせることに成功していた。
他にいる店の客からも、美人母娘だと話している声もチラチラと聞こえていた。
本当の母娘に見えているのは、名前の演技が上手かったからだと思う。
自然に『ママ』と呼んで話しかけるから、俺なんかよりよっぽど親子らしく見えたくらいだ。
母と名前が店の奥の試着室へと向かうと、ケニーは煙草に火をつけながら俺に話しかけてきた。
「名前を本当にクシェルの娘にしてやったらどうだ。
アイツなら、俺も可愛がってやるぜ。」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。幾つ歳が離れてると思ってんだ。
あれは、年上の男にのぼせてるだけだ。」
ベンチの背もたれに両肘を乗せて寄り掛かって、俺は適当に答えた。
本当は、正直言うと、母と名前の楽しそうな姿を眺めながら、ほんの少しだけ、そんな想像をした。
もしかして、自分次第では、本当に親子になる未来があるのだろうかと考えもしたけれど、やっぱりどう考えてもありえない。
歳だって離れているし、女として見てやれる自信はない。
それに、若い名前が、いつまでも自分のことを好きでいるとも思えない。
それこそ、魔法が解けたみたいに、ある日突然に『飽きたからバイバイ。』と笑って消えそうだ。
名前なら充分にあり得る。
「へぇ、自分が嫌だからとは言わねぇんだな。」
ニヤけた声に、思わず視線を向けてしまえば、したり顔のケニーと目が合った。
舌打ちで返せば、楽しそうにケラケラと笑われてしまった。
本当に、腹が立つ。
「叔父さんは、女を見る目がねぇ甥っ子の心配をしてやってんのさ。」
「うるせぇ。余計なお世話だ。」
面倒くさそうに答えながら、俺は、アンを見るケニーの目を思い出していた。
口の悪いケニーのことをアンが嫌っている、そう思っていたけれど、本当は逆だったのかもしれない。
だって、名前を意地悪くからかうケニーは、口は悪いけれど、棘はないし、とても楽しそうだ。
可愛がっているという表現がとてもしっくりくる。
でも、あまり会ったことはないのに、どこでどう女を判断しているのか。
それが分からない俺は、ケニーの言う通り、女を見る目というのがないのかもしれない。
だからもう、恋人という存在を作るのは懲り懲りだ。必要ない。
お試し恋人という、わけのわからない関係性がギリギリで、楽だった。
お互いに干渉しあわなくていいし、俺は自由でいられる。
嫉妬なんて面倒なものに縛られることもない。
「まぁ、確かに名前は若ぇし、年上の男には一度は憧れるもんだな。」
「分かってんなら、くだらねぇこと言うんじゃねぇよ。」
「でも、一生、のぼせ上らせときゃあいいだけじゃねぇか。」
ケニーは、煙草を口から離すと、上を向いて息を吐いた。
そして、白い煙がユラユラと空へ昇っていくのを見上げながら、続けた。
「お前はガキの頃から、欲しいもんがあっても、おねだりするのが下手くそでなぁ。
俺とクシェルがあの手この手で、サンタさんから何が欲しいか聞いてみても教えちゃくれねぇ。
挙句の果てには、サンタはいねぇと夢のねぇことを言い出しやがった。
ーあと、バカかって言われた。」
「いきなりそんな大昔の話しだして、気持ち悪ぃな。じじくせぇ。
ーあと、てめぇは今もバカだ。」
「うるせぇ。お前はあの頃とちっとも変わってねぇな。」
ケニーはそう言うと、俺の方を向いて、まるで説教でも垂れるような口調で言った。
「いいか、よく聞け、クソガキ。
世の中ってのはな、自分が欲しいもんは、大抵他の奴も欲しがってんだよ。
言い訳してる間に横から掻っ攫われて悔しい思いを、お前は何度した。」
「…その度にお前が強引に手に入れてくるのが嫌だから、黙ってたんじゃねぇーか。
知らなかったのか。」
「ハハ、そうだったのか。そりゃ、知らなかったなぁ。」
絶対に知っていたケニーは、からかうように声を上げて笑った。
好きなだけ笑った後、短くなった煙草の最後の残り香を楽しむように、息を吸った。
そして、吐き出された白い煙の行方を眺めながら、続けた。
「べそかきそうな顔で、唇噛んでるお前に気づいてはやれても、
さすがの俺も、人の心までは強引に奪っては来れねぇ。」
吐き出した白い煙が青い空に昇っていくと、ケニーは、俺の方を向いた。
時々、ケニーが見せる真剣な目が、俺が目を反らすことを許さない。
子供の頃から、俺はこれが苦手だ。
すべてを、見透かされているような気がするのだ。
「妙に大人ぶってねぇで、クソガキはクソガキらしく、
欲しいもんは欲しいと我儘を言って多少強引でも手に入れろ。」
「言っておくが、俺はもういい大人だ。
俺を幾つだと思ってんだ。」
「4歳。」
「思った以上にクソガキ時代で時が止まってて、
驚きすぎて返す言葉もねぇよ。」
「まぁ、叔父さんからの忠告をちゃんと聞いておけ。
ーあれは、すぐに消えるぞ。」
少し間を置いて、ケニーはハッキリと言った。
このときのケニーの忠告は、妙に俺の心に重たく響いた。
訝し気に眉を顰めて、俺は訊ねた。
「消える?名前がか?」
「あぁ、俺の勘だ。たぶん、外れねぇぜ?」
ケニーはそう言うと、短くなった煙草を携帯灰皿に押しつけて火を消した。
そして、乱暴に立ち上がると、買い物を終えて店から出て来たらしい母と名前に声をかけた。
「おーい!今から、リヴァイがパフェ奢ってくれるらしいぜぇ!」
「は?おい、勝手なことをー。」
「やったーっ!!」
「まぁ、嬉しい。ありがとう、リヴァイ。」
「…あぁ、カフェで休憩でもしよう。」
嬉しそうな母と名前の前で、諦めた俺を見下ろして、ケニーがしたり顔の笑みを浮かべた。
だから、思いっきり足を踏んづけてやった。
本当に欲しいものなんて、今までなかっただけだと知ったのは、
生まれて初めて我儘に叫ばずにはいられないほど、君が欲しいからだ
日記さん、聞いて。
今日はリヴァイさんのお母さんの退院日だったのよ。
帰りには、一緒にお買い物をしてきたの。
あれもこれも欲しいねって、たくさんのお店に入って行く私とクシェルさんに、リヴァイさんとケニーさんはとても疲れてて、とても面白かったわ。
でもね、どのお店に入っても、私の欲しいものはないの。
ケニーさんが、欲しいものはなんでもリヴァイさんにおねだりしてやれって笑って言ってくれたけど、本当に欲しいものは誰にも言えない。
リヴァイさんの隣が似合う大人の女にもなりきれてないくせに、欲しいものをどうしても欲しいと我儘に叫べるほど、私はいつまでも子供ではいられなかった。
ベンチを見つけた俺は、止めどなく増えていった荷物を足元に置いて、腰を降ろした。
いつもは飄々としているケニーでさえも、ひどく疲れた様子で隣のベンチに足を投げ出して座ると、抱えていた荷物を横に置いて肘置きに変えた。
「これはいつまで続くんだ、あぁ?」
「こっちが聞きてぇくらいだ。」
いつも通り悪態を吐いてみた俺達だったが、声を出すのも面倒になって、それ以上は続かなかった。
ため息を零した俺達の目の前を、数名の若者グループや恋人達、家族連れが楽しそうに歩いていく。
「見て見て、名前ちゃんっ。これ、とっても可愛いわよっ。」
「わぁ、本当~っ。可愛いっ。私とママでお揃いで着ようよ~っ。」
すぐそこのショップでは、名前と母が、お互いの身体に服を合わせながら、楽しそうにハシャいでいる。
母なんて年甲斐もなく、若者の服を身体に合わせて、まんざらでもない顔で「似合うかしら?」なんて頬を染めていた。
今日は、母の退院日だった。
俺と名前で車で迎えに行った帰り、母が買い物に行きたいと言い出したのが、今のこの状況だ。
俺とケニーは、当然のように荷物持ちをさせられた。
どうやら、一人息子しかいなかった母は、娘と一緒に買い物をするのが昔からの夢だったらしい。
そこで、名前を娘と見立てて、一緒に買い物しようと思いついてしまったそうだ。
母は名前に『ママ』とまで呼ばせて、母と娘ごっこを心行くまで楽しんでいる。
(ママなんて、呼んでやれるかよ。)
リヴァイは小さな頃からママとは呼んでくれなかったー。
車の中で、そう愚痴られたことを思い出して、思わずチッと舌打ちが出た。
そんな俺の舌打ちなんて聞こえていない母は、とても嬉しそうに名前とお揃いの服に合う靴を選んでいた。
退院は出来たといっても、まだ通院治療が残っている。
それでも、一度は死を覚悟するしかなかったほどの重い病の母が、ここまで元気に回復して、楽しそうに笑っている姿を見ることが出来たのだ。
これくらいの我儘なら聞いてやりたいという気持ちもあったし、笑顔で付き合ってくれている名前にも感謝していた。
「娘さんととても仲良しなんですね。素敵な関係だなぁ。」
2人でキャッキャとハシャいる声が聞こえていたらしいショップの店員が、母と名前に声をかけていた。
母と名前は一度顔を見合わせると、とても嬉しそうに笑った。
「えぇ、とても自慢の娘なんですよ。世界一可愛いでしょう?」
「美人過ぎるママにそんなこと言われたら、照れちゃうよ~。」
母と名前は楽しそうにお互いを褒めながら、むしろもう、イチャイチャしていた。
そうですね、と愛想笑いをしたショップの店員は、若干引いていた。
ケニーなんて、呆れてため息を吐いていた。
それでも、さすが接客の上手い店員は、2人をうまくおだてて、買うかどうか悩んでいたワンピースの試着をさせることに成功していた。
他にいる店の客からも、美人母娘だと話している声もチラチラと聞こえていた。
本当の母娘に見えているのは、名前の演技が上手かったからだと思う。
自然に『ママ』と呼んで話しかけるから、俺なんかよりよっぽど親子らしく見えたくらいだ。
母と名前が店の奥の試着室へと向かうと、ケニーは煙草に火をつけながら俺に話しかけてきた。
「名前を本当にクシェルの娘にしてやったらどうだ。
アイツなら、俺も可愛がってやるぜ。」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。幾つ歳が離れてると思ってんだ。
あれは、年上の男にのぼせてるだけだ。」
ベンチの背もたれに両肘を乗せて寄り掛かって、俺は適当に答えた。
本当は、正直言うと、母と名前の楽しそうな姿を眺めながら、ほんの少しだけ、そんな想像をした。
もしかして、自分次第では、本当に親子になる未来があるのだろうかと考えもしたけれど、やっぱりどう考えてもありえない。
歳だって離れているし、女として見てやれる自信はない。
それに、若い名前が、いつまでも自分のことを好きでいるとも思えない。
それこそ、魔法が解けたみたいに、ある日突然に『飽きたからバイバイ。』と笑って消えそうだ。
名前なら充分にあり得る。
「へぇ、自分が嫌だからとは言わねぇんだな。」
ニヤけた声に、思わず視線を向けてしまえば、したり顔のケニーと目が合った。
舌打ちで返せば、楽しそうにケラケラと笑われてしまった。
本当に、腹が立つ。
「叔父さんは、女を見る目がねぇ甥っ子の心配をしてやってんのさ。」
「うるせぇ。余計なお世話だ。」
面倒くさそうに答えながら、俺は、アンを見るケニーの目を思い出していた。
口の悪いケニーのことをアンが嫌っている、そう思っていたけれど、本当は逆だったのかもしれない。
だって、名前を意地悪くからかうケニーは、口は悪いけれど、棘はないし、とても楽しそうだ。
可愛がっているという表現がとてもしっくりくる。
でも、あまり会ったことはないのに、どこでどう女を判断しているのか。
それが分からない俺は、ケニーの言う通り、女を見る目というのがないのかもしれない。
だからもう、恋人という存在を作るのは懲り懲りだ。必要ない。
お試し恋人という、わけのわからない関係性がギリギリで、楽だった。
お互いに干渉しあわなくていいし、俺は自由でいられる。
嫉妬なんて面倒なものに縛られることもない。
「まぁ、確かに名前は若ぇし、年上の男には一度は憧れるもんだな。」
「分かってんなら、くだらねぇこと言うんじゃねぇよ。」
「でも、一生、のぼせ上らせときゃあいいだけじゃねぇか。」
ケニーは、煙草を口から離すと、上を向いて息を吐いた。
そして、白い煙がユラユラと空へ昇っていくのを見上げながら、続けた。
「お前はガキの頃から、欲しいもんがあっても、おねだりするのが下手くそでなぁ。
俺とクシェルがあの手この手で、サンタさんから何が欲しいか聞いてみても教えちゃくれねぇ。
挙句の果てには、サンタはいねぇと夢のねぇことを言い出しやがった。
ーあと、バカかって言われた。」
「いきなりそんな大昔の話しだして、気持ち悪ぃな。じじくせぇ。
ーあと、てめぇは今もバカだ。」
「うるせぇ。お前はあの頃とちっとも変わってねぇな。」
ケニーはそう言うと、俺の方を向いて、まるで説教でも垂れるような口調で言った。
「いいか、よく聞け、クソガキ。
世の中ってのはな、自分が欲しいもんは、大抵他の奴も欲しがってんだよ。
言い訳してる間に横から掻っ攫われて悔しい思いを、お前は何度した。」
「…その度にお前が強引に手に入れてくるのが嫌だから、黙ってたんじゃねぇーか。
知らなかったのか。」
「ハハ、そうだったのか。そりゃ、知らなかったなぁ。」
絶対に知っていたケニーは、からかうように声を上げて笑った。
好きなだけ笑った後、短くなった煙草の最後の残り香を楽しむように、息を吸った。
そして、吐き出された白い煙の行方を眺めながら、続けた。
「べそかきそうな顔で、唇噛んでるお前に気づいてはやれても、
さすがの俺も、人の心までは強引に奪っては来れねぇ。」
吐き出した白い煙が青い空に昇っていくと、ケニーは、俺の方を向いた。
時々、ケニーが見せる真剣な目が、俺が目を反らすことを許さない。
子供の頃から、俺はこれが苦手だ。
すべてを、見透かされているような気がするのだ。
「妙に大人ぶってねぇで、クソガキはクソガキらしく、
欲しいもんは欲しいと我儘を言って多少強引でも手に入れろ。」
「言っておくが、俺はもういい大人だ。
俺を幾つだと思ってんだ。」
「4歳。」
「思った以上にクソガキ時代で時が止まってて、
驚きすぎて返す言葉もねぇよ。」
「まぁ、叔父さんからの忠告をちゃんと聞いておけ。
ーあれは、すぐに消えるぞ。」
少し間を置いて、ケニーはハッキリと言った。
このときのケニーの忠告は、妙に俺の心に重たく響いた。
訝し気に眉を顰めて、俺は訊ねた。
「消える?名前がか?」
「あぁ、俺の勘だ。たぶん、外れねぇぜ?」
ケニーはそう言うと、短くなった煙草を携帯灰皿に押しつけて火を消した。
そして、乱暴に立ち上がると、買い物を終えて店から出て来たらしい母と名前に声をかけた。
「おーい!今から、リヴァイがパフェ奢ってくれるらしいぜぇ!」
「は?おい、勝手なことをー。」
「やったーっ!!」
「まぁ、嬉しい。ありがとう、リヴァイ。」
「…あぁ、カフェで休憩でもしよう。」
嬉しそうな母と名前の前で、諦めた俺を見下ろして、ケニーがしたり顔の笑みを浮かべた。
だから、思いっきり足を踏んづけてやった。
本当に欲しいものなんて、今までなかっただけだと知ったのは、
生まれて初めて我儘に叫ばずにはいられないほど、君が欲しいからだ
日記さん、聞いて。
今日はリヴァイさんのお母さんの退院日だったのよ。
帰りには、一緒にお買い物をしてきたの。
あれもこれも欲しいねって、たくさんのお店に入って行く私とクシェルさんに、リヴァイさんとケニーさんはとても疲れてて、とても面白かったわ。
でもね、どのお店に入っても、私の欲しいものはないの。
ケニーさんが、欲しいものはなんでもリヴァイさんにおねだりしてやれって笑って言ってくれたけど、本当に欲しいものは誰にも言えない。
リヴァイさんの隣が似合う大人の女にもなりきれてないくせに、欲しいものをどうしても欲しいと我儘に叫べるほど、私はいつまでも子供ではいられなかった。