◇22ページ◇スマホ
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベッドの上で眠る名前からは規則正しい寝息が聞こえていた。
俺は医師免許を持っているし、今までの名前の無理をした生活も知っている。
軽く身体を診てみたけれど、頭を打った様子もなかったし、呼吸もしっかりしている。
一応、明日はバイトを休ませて、病院へ連れて行かせるつもりだが、恐らく過労だ。
ベッドの縁に腰を降ろした俺は、名前の頬にかかった髪をそっと耳にかけてやった。
ずっと、ろくに寝ていなかったのだろう。
子供のような寝顔は、ベッドに運ぶ間もずっと、起きる気配はなく、今もぐっすり眠っている。
(無理させてたんだな…。)
俺は、名前の頬を優しく撫でた。
赤ん坊のように柔らかい感触が、余計に俺の胸を痛めた。
俺が風呂で倒れたとき、名前はショックとパニックでハンジに電話をかけたと聞いていた。
あのとき、名前が、どれほど怖い思いをしたのか、俺は漸く分かった気がする。
血の気が引くとか、心臓が止まるかと思ったとか、そういう言葉の意味を俺は身をもって知った。
きっと、クシェルが倒れたときのケニーも同じような気持ちだったのだろうと思う。
とりあえず、明日は午前休をとって名前を病院へ連れて行こうと決めて、立ち上がろうとしたときだった。
電気を消した薄暗い部屋で、ドレッサーの上で何かが光り出した。
見覚えのある光り方だったから、それが何かは、すぐになんとなく分かった。
ドレッサーの元へ向かって確認してみれば、それは思った通りスマホで、着信があって光っていたようだった。
着信元は『エレン』となっている。
男の名前だ。
勝手に電話に出るわけにもいかないから放っておけば、しばらく粘った後に切れた。
(スマホは持ってねぇんじゃなかったか。)
名前のスマホではないのかもしれない。
まだそんなことを思いながら、着信を知らせるランプを光らせるスマホを手に取った。
手帳型になっているカバーは、女が好きそうな綺麗な水色で、裏にはシンデレラに出てくる魔法使いとガラスの靴のイラストが描かれていた。
普段から、魔法、魔法、と繰り返している名前が好きそうなカバーだ。
嘘を吐かれていたー。
でも、どうしてー。
スマホを持っていないという嘘を吐かなければならない理由は、見当もつかなかった。
ただ、嘘を吐かれていたという事実が、ひどくショックだった。
そうしていると、またスマホが着信の呼び出しを受けて光り出した。
着信元は、飽きもせずに『エレン』だ。
どれだけ名前と話したいのか。
名前に嘘を吐かれていたというショックがイライラにかわっていた俺は、その矛先を諦めの悪いエレンへと向けた。
乱暴に応答ボタンを押して、スマホを耳に押しあてた。
≪やっと出たな、名前!お前、最近付き合い悪ぃぞ。
誘いたくても電話も出ねぇしよ~。ジャンが寂しがって泣いてんぞ!
来週、みんなで飲むことになったから次は来いよ~。おい、聞いてるのか?≫
エレンという男は、電話に出るなり、ひどく馴れ馴れしく喋り出した。
その向こうからは若者達がバカ騒ぎしてるような、煩い音が聞こえている。
口振りから察するに、今は友人達とどこかで呑んでいる途中で、飲み会に参加しなかった名前に文句を言うために電話をかけて来たということのようだ。
「名前は寝てる。てめぇは、誰だ。」
≪へ?男?あれ?俺、電話番号間違えた?≫
「いや、これは名前の電話で間違いねぇ。」
そう教えてやると、少しの沈黙の後、スマホの向こう側が余計に煩くなった。
エレンが、名前にかけた電話に男が出たことで騒ぎ出したせいだ。
≪・・・おーーーい!ジャン!!お前、ついにフラれたのか~?≫
≪はぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、死に急ぎ野郎が!! ≫
≪そうですよ~!告ってもないのに、フラれることは出来ませんよ~!≫
≪芋女は黙ってろ!!≫
≪だってよ~、名前に電話したら男が出たぞ~!≫
≪はぁぁぁぁぁぁああッ!?てめぇ、もしかして、名前に電話したのか!?≫
≪あぁ、次こそは飲み会来いって言おうと思ってー。≫
≪昼間以外はかけんなって言っただろおが!!≫
≪あ・・・そうだったな。忘れてた。どうしよう、切ったらいいか?≫
≪まだ繋がってんのかよ!?≫
≪だって、勝手に切るのは失礼だろ?てめぇ誰だって言われたし。
声だけで人殺せそうなくらい怖かったし。≫
≪おい、ジャン、残念なお知らせがある。≫
≪言うな、聞きたくねぇ、ライナー。≫
≪その酔っぱらいは、スピーカーをオンにしちまってる。≫
≪あ、ほんとだ、ジャン。どうしよう。会話全部筒抜けだ。≫
≪ふっっっざけんなよ!!貸しやがれ!!≫
騒がしい会話のあと、ガタガタとスマホの通話口に何かがあたるような耳に痛い音が数秒続いた。
それから、躊躇いがちな男の声が聞こえてきた。
≪あーっと…、聞こえてました?≫
「あぁ、全部、聞こえてた。」
≪クッソ、エレンの野郎、後でぶっ殺す。≫
小さな声だったが、電話越しにいる男が、エレンという男にひどく腹を立てているのが聞こえてきた。
「てめぇは誰だ。」
≪名前の幼馴染のジャンです。
えーっと…、リヴァイさん、であってます?≫
「…俺を知ってんのか。」
≪名前から何度も話は聞いてるんで。
それに、会ったこともあるの覚えてます?≫
「あぁ、名前が橋から飛び降りようとしたときだろ。」
≪あぁ、そうっす。それで、1つお願いなんですけど、
えっと…、スマホのこと、忘れてもらえますか?≫
「断る。」
≪…ですよね~。≫
ハハハ、と諦めたような渇いた笑いが聞こえてきた。
ジャンという男とは親しいようではあるが、男女の仲ではなさそうだ。
今、会話を聞いた中にも、名前の男のようなものはいないようだった。
≪なら…。
スマホを持ってないって嘘吐いたこと、怒らないでやってくれますか?≫
「嘘を吐いてたのにか。」
≪名前も喜んで好きな男に嘘を吐いたわけじゃないんです。
ちゃんと理由があって…、訊けば話してくれると思うんで。お願いします。
あんたに嫌われると、アイツ生きていけなくなると思うんで…!この通りっす!≫
この通りと言われても、スマホ越しでは姿が見えないから分からない。
でも、ジャンが必死に懇願しているのは伝わって来た。
随分と名前のことを分かっているようだった。
それが、ひどく腹が立った。
俺は、スマホを持っていることすら知らなかったのにー。
嘘を見抜くことも出来ないくらいに、名前のことを何も知らないのにー。
考えておくとだけ伝えて、俺は電話を切った。
俺は医師免許を持っているし、今までの名前の無理をした生活も知っている。
軽く身体を診てみたけれど、頭を打った様子もなかったし、呼吸もしっかりしている。
一応、明日はバイトを休ませて、病院へ連れて行かせるつもりだが、恐らく過労だ。
ベッドの縁に腰を降ろした俺は、名前の頬にかかった髪をそっと耳にかけてやった。
ずっと、ろくに寝ていなかったのだろう。
子供のような寝顔は、ベッドに運ぶ間もずっと、起きる気配はなく、今もぐっすり眠っている。
(無理させてたんだな…。)
俺は、名前の頬を優しく撫でた。
赤ん坊のように柔らかい感触が、余計に俺の胸を痛めた。
俺が風呂で倒れたとき、名前はショックとパニックでハンジに電話をかけたと聞いていた。
あのとき、名前が、どれほど怖い思いをしたのか、俺は漸く分かった気がする。
血の気が引くとか、心臓が止まるかと思ったとか、そういう言葉の意味を俺は身をもって知った。
きっと、クシェルが倒れたときのケニーも同じような気持ちだったのだろうと思う。
とりあえず、明日は午前休をとって名前を病院へ連れて行こうと決めて、立ち上がろうとしたときだった。
電気を消した薄暗い部屋で、ドレッサーの上で何かが光り出した。
見覚えのある光り方だったから、それが何かは、すぐになんとなく分かった。
ドレッサーの元へ向かって確認してみれば、それは思った通りスマホで、着信があって光っていたようだった。
着信元は『エレン』となっている。
男の名前だ。
勝手に電話に出るわけにもいかないから放っておけば、しばらく粘った後に切れた。
(スマホは持ってねぇんじゃなかったか。)
名前のスマホではないのかもしれない。
まだそんなことを思いながら、着信を知らせるランプを光らせるスマホを手に取った。
手帳型になっているカバーは、女が好きそうな綺麗な水色で、裏にはシンデレラに出てくる魔法使いとガラスの靴のイラストが描かれていた。
普段から、魔法、魔法、と繰り返している名前が好きそうなカバーだ。
嘘を吐かれていたー。
でも、どうしてー。
スマホを持っていないという嘘を吐かなければならない理由は、見当もつかなかった。
ただ、嘘を吐かれていたという事実が、ひどくショックだった。
そうしていると、またスマホが着信の呼び出しを受けて光り出した。
着信元は、飽きもせずに『エレン』だ。
どれだけ名前と話したいのか。
名前に嘘を吐かれていたというショックがイライラにかわっていた俺は、その矛先を諦めの悪いエレンへと向けた。
乱暴に応答ボタンを押して、スマホを耳に押しあてた。
≪やっと出たな、名前!お前、最近付き合い悪ぃぞ。
誘いたくても電話も出ねぇしよ~。ジャンが寂しがって泣いてんぞ!
来週、みんなで飲むことになったから次は来いよ~。おい、聞いてるのか?≫
エレンという男は、電話に出るなり、ひどく馴れ馴れしく喋り出した。
その向こうからは若者達がバカ騒ぎしてるような、煩い音が聞こえている。
口振りから察するに、今は友人達とどこかで呑んでいる途中で、飲み会に参加しなかった名前に文句を言うために電話をかけて来たということのようだ。
「名前は寝てる。てめぇは、誰だ。」
≪へ?男?あれ?俺、電話番号間違えた?≫
「いや、これは名前の電話で間違いねぇ。」
そう教えてやると、少しの沈黙の後、スマホの向こう側が余計に煩くなった。
エレンが、名前にかけた電話に男が出たことで騒ぎ出したせいだ。
≪・・・おーーーい!ジャン!!お前、ついにフラれたのか~?≫
≪はぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、死に急ぎ野郎が!! ≫
≪そうですよ~!告ってもないのに、フラれることは出来ませんよ~!≫
≪芋女は黙ってろ!!≫
≪だってよ~、名前に電話したら男が出たぞ~!≫
≪はぁぁぁぁぁぁああッ!?てめぇ、もしかして、名前に電話したのか!?≫
≪あぁ、次こそは飲み会来いって言おうと思ってー。≫
≪昼間以外はかけんなって言っただろおが!!≫
≪あ・・・そうだったな。忘れてた。どうしよう、切ったらいいか?≫
≪まだ繋がってんのかよ!?≫
≪だって、勝手に切るのは失礼だろ?てめぇ誰だって言われたし。
声だけで人殺せそうなくらい怖かったし。≫
≪おい、ジャン、残念なお知らせがある。≫
≪言うな、聞きたくねぇ、ライナー。≫
≪その酔っぱらいは、スピーカーをオンにしちまってる。≫
≪あ、ほんとだ、ジャン。どうしよう。会話全部筒抜けだ。≫
≪ふっっっざけんなよ!!貸しやがれ!!≫
騒がしい会話のあと、ガタガタとスマホの通話口に何かがあたるような耳に痛い音が数秒続いた。
それから、躊躇いがちな男の声が聞こえてきた。
≪あーっと…、聞こえてました?≫
「あぁ、全部、聞こえてた。」
≪クッソ、エレンの野郎、後でぶっ殺す。≫
小さな声だったが、電話越しにいる男が、エレンという男にひどく腹を立てているのが聞こえてきた。
「てめぇは誰だ。」
≪名前の幼馴染のジャンです。
えーっと…、リヴァイさん、であってます?≫
「…俺を知ってんのか。」
≪名前から何度も話は聞いてるんで。
それに、会ったこともあるの覚えてます?≫
「あぁ、名前が橋から飛び降りようとしたときだろ。」
≪あぁ、そうっす。それで、1つお願いなんですけど、
えっと…、スマホのこと、忘れてもらえますか?≫
「断る。」
≪…ですよね~。≫
ハハハ、と諦めたような渇いた笑いが聞こえてきた。
ジャンという男とは親しいようではあるが、男女の仲ではなさそうだ。
今、会話を聞いた中にも、名前の男のようなものはいないようだった。
≪なら…。
スマホを持ってないって嘘吐いたこと、怒らないでやってくれますか?≫
「嘘を吐いてたのにか。」
≪名前も喜んで好きな男に嘘を吐いたわけじゃないんです。
ちゃんと理由があって…、訊けば話してくれると思うんで。お願いします。
あんたに嫌われると、アイツ生きていけなくなると思うんで…!この通りっす!≫
この通りと言われても、スマホ越しでは姿が見えないから分からない。
でも、ジャンが必死に懇願しているのは伝わって来た。
随分と名前のことを分かっているようだった。
それが、ひどく腹が立った。
俺は、スマホを持っていることすら知らなかったのにー。
嘘を見抜くことも出来ないくらいに、名前のことを何も知らないのにー。
考えておくとだけ伝えて、俺は電話を切った。