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翌日、治療薬の効果を見るために、母は血液検査を行った。
結果が出るまで30分程かかる。
早めに仕事を上がらせてもらった俺は、ベッド脇の椅子に座り、緊張しながらナイルからの報告を待っていた。
今日はバイト終わりに病室へ寄るように名前にも伝えていたが、まだ来ていなかった。
いつも来る時間まであと30分ほどあるらしく、きっとやって来るのは血液検査の結果が出るのと同じ頃だろうとケニーが教えてくれた。
だから、俺がいるのに珍しく残っているケニーと母と、久しぶりに家族3人だった。
俺達は昔から和やかに過ごすような家族ではなかったけれど、それにしてもピリピリとした空気が流れていた。
検査入院だという俺の嘘がバレていたせいだ。
「…気づいてたのか。」
「そりゃあ、気づくわよ。いつもは連絡ひとつ寄越さない薄情な息子が、
仕事終わりに顔を出すようになればね。
これはただの検査入院じゃないな~って。ね、ケニー?」
「その通りだ、クソガキ。
クソのくせに、俺達に気遣いやがって、気持ち悪ぃ。」
窓際の椅子に座ったケニーは、火をつけていない煙草を口に咥えて、眉間に皴を寄せた。
ベッドの上で身体を起こして座っている母は、首をすくめていた。
まさか、バレているとは思ってもいなかったから驚いて、俺は言葉を失くしていた。
だって、最近は研究に集中するために病室に顔を出すことはしていなかったものの、名前からのテレビ電話で毎日顔を見ていたのだ。
テレビ電話越しだったが、母もケニーも、不治と呼ばれる病を前に不安や絶望を感じている様子なんて全くなかったのだ。
だから、絶対にバレていないと信じていた。
絶句している俺に、母が困ったように苦笑して、ネタバラシをしてくれた。
「検査入院じゃないことは分かったけど、
それが何なのか分からなくて不安だったのよ、本当はね。」
「…すまない。」
「ううん、いいの。あなたが私のことを心配して黙ってくれてるのも分かっていたから
それでいいかなと思ってたんだけど…。
名前ちゃんがね、教えてくれたの。」
「名前が?」
思わぬ名前とネタバレに、俺は思わず、訊ね返してしまった。
すると、母は小さく頷いてから口を開いた。
「私が不安になってることに気づいたみたいでね。
病気のこととあなたがその薬を作ってくれてることを教えてくれたの。
すぐに魔法の薬が届きますよって嬉しそうに笑うもんだから、不安なんて吹っ飛んじゃった。」
だから楽しみに待ってたのよー、と母は、本当にとても嬉しそうに笑った。
まさかこんなところでも、俺は名前に助けられていたなんて思ってもいなかった。
「…アイツは単純でバカなんだ。
俺を魔法使いかなにかと勘違いしてやがる。」
楽しそうに魔法の薬の話を母にしている名前の姿が思い浮かんだ。
それが、可笑しかったのか、嬉しかったのか、意地悪く言った俺の頬は無意識に緩んでいた。
そんな俺を見て、母は少しだけ驚いたように僅かに目を見開いた後、なぜかひどく嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まぁ、確かに、アレは単純でバカだな。いじめがいがある。
俺は好きだぜ。」
ケニーが意地悪く口の端を上げた。
「見てりゃ分かる。若い女に鼻の下伸ばしやがって気持ち悪ぃ。」
「若い女を前にして、鼻の下も伸びねぇインポ野郎には言われたくねぇなぁ。」
「あぁ!?」
ケニーの煽りに俺はいつものようにまんまと引っかかって、睨みつけた。
そんな俺にケニーはニヤニヤとするばかりだから、余計に腹が立つのだ。
「ふふ、あなた達は本当に仲良しね。」
「どこが。」
「どこが。」
同時に言って、不機嫌に視線を向けた俺とケニーを見て、そういうところが仲良しなのだと、母はとても楽しそうにクスクスと笑った。
そして、楽しそうにしながら、こう続けた。
「でも、私も名前ちゃんのこと好きだわ。
名前ちゃんがそばにいると、とても明るい気持ちになるから。
リヴァイは?」
「俺は…-。」
そこへ、ちょうどナイルがやってきて扉を開いたから、俺は返事をする機会を失った。
何と答えればいいか分からなかったから、少しホッとした。
でも、ナイルが来なかったら、このときの俺はなんと答えていたのだろう。
少しだけ、今も気になっている。
結果が出るまで30分程かかる。
早めに仕事を上がらせてもらった俺は、ベッド脇の椅子に座り、緊張しながらナイルからの報告を待っていた。
今日はバイト終わりに病室へ寄るように名前にも伝えていたが、まだ来ていなかった。
いつも来る時間まであと30分ほどあるらしく、きっとやって来るのは血液検査の結果が出るのと同じ頃だろうとケニーが教えてくれた。
だから、俺がいるのに珍しく残っているケニーと母と、久しぶりに家族3人だった。
俺達は昔から和やかに過ごすような家族ではなかったけれど、それにしてもピリピリとした空気が流れていた。
検査入院だという俺の嘘がバレていたせいだ。
「…気づいてたのか。」
「そりゃあ、気づくわよ。いつもは連絡ひとつ寄越さない薄情な息子が、
仕事終わりに顔を出すようになればね。
これはただの検査入院じゃないな~って。ね、ケニー?」
「その通りだ、クソガキ。
クソのくせに、俺達に気遣いやがって、気持ち悪ぃ。」
窓際の椅子に座ったケニーは、火をつけていない煙草を口に咥えて、眉間に皴を寄せた。
ベッドの上で身体を起こして座っている母は、首をすくめていた。
まさか、バレているとは思ってもいなかったから驚いて、俺は言葉を失くしていた。
だって、最近は研究に集中するために病室に顔を出すことはしていなかったものの、名前からのテレビ電話で毎日顔を見ていたのだ。
テレビ電話越しだったが、母もケニーも、不治と呼ばれる病を前に不安や絶望を感じている様子なんて全くなかったのだ。
だから、絶対にバレていないと信じていた。
絶句している俺に、母が困ったように苦笑して、ネタバラシをしてくれた。
「検査入院じゃないことは分かったけど、
それが何なのか分からなくて不安だったのよ、本当はね。」
「…すまない。」
「ううん、いいの。あなたが私のことを心配して黙ってくれてるのも分かっていたから
それでいいかなと思ってたんだけど…。
名前ちゃんがね、教えてくれたの。」
「名前が?」
思わぬ名前とネタバレに、俺は思わず、訊ね返してしまった。
すると、母は小さく頷いてから口を開いた。
「私が不安になってることに気づいたみたいでね。
病気のこととあなたがその薬を作ってくれてることを教えてくれたの。
すぐに魔法の薬が届きますよって嬉しそうに笑うもんだから、不安なんて吹っ飛んじゃった。」
だから楽しみに待ってたのよー、と母は、本当にとても嬉しそうに笑った。
まさかこんなところでも、俺は名前に助けられていたなんて思ってもいなかった。
「…アイツは単純でバカなんだ。
俺を魔法使いかなにかと勘違いしてやがる。」
楽しそうに魔法の薬の話を母にしている名前の姿が思い浮かんだ。
それが、可笑しかったのか、嬉しかったのか、意地悪く言った俺の頬は無意識に緩んでいた。
そんな俺を見て、母は少しだけ驚いたように僅かに目を見開いた後、なぜかひどく嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まぁ、確かに、アレは単純でバカだな。いじめがいがある。
俺は好きだぜ。」
ケニーが意地悪く口の端を上げた。
「見てりゃ分かる。若い女に鼻の下伸ばしやがって気持ち悪ぃ。」
「若い女を前にして、鼻の下も伸びねぇインポ野郎には言われたくねぇなぁ。」
「あぁ!?」
ケニーの煽りに俺はいつものようにまんまと引っかかって、睨みつけた。
そんな俺にケニーはニヤニヤとするばかりだから、余計に腹が立つのだ。
「ふふ、あなた達は本当に仲良しね。」
「どこが。」
「どこが。」
同時に言って、不機嫌に視線を向けた俺とケニーを見て、そういうところが仲良しなのだと、母はとても楽しそうにクスクスと笑った。
そして、楽しそうにしながら、こう続けた。
「でも、私も名前ちゃんのこと好きだわ。
名前ちゃんがそばにいると、とても明るい気持ちになるから。
リヴァイは?」
「俺は…-。」
そこへ、ちょうどナイルがやってきて扉を開いたから、俺は返事をする機会を失った。
何と答えればいいか分からなかったから、少しホッとした。
でも、ナイルが来なかったら、このときの俺はなんと答えていたのだろう。
少しだけ、今も気になっている。