◇19ページ◇恋人
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弁当箱を広げたオルオが、飽きもせずに嬉しそうな声を上げた。
毎日毎日、名前の弁当を楽しみに仕事を頑張っているのだそうだ。
ペトラ達も席に着くと、今日のおかずは何かとワクワクしながら弁当を覗きだす。
どうやら、弁当を楽しみにしているのは、オルオだけではなかったらしい。
俺も席に着いて、おにぎりを1つ手に取った。
弁当を持ってきた名前は、今日は母親の検査の日だからと、慌ただしく出て行った。
おにぎりを齧りながら、俺は午後からの研究のことを考えていた。
やっと、ゴールが見えてきたのだ。
昨日、名前が見つけたと送ってくれた論文はとても参考になった。
その治療法は、成功とまではいかなかったようだが、これを元に応用する方法を思いついた。
それがうまくいけば、1日で試薬を作ることが出来る。
使用する材料も副作用は考えづらいものだから、安心だった。
一応、その効果のチェックが必要だとしても明後日には母親の元へ持って行くことが出来るはずだ。
「昨日は、魔法って言葉にビックリして聞きそびれたんですけど。」
不意にペトラが話しかけてきて、研究のことを考えていた思考を一旦止めた。
俺の視線が自分に向いたのを確かめてから、ペトラが続きを話し出す。
「名前ちゃんって、リヴァイさんの何なんですか?
今までは、彼女は医学生でリヴァイさんが面倒見てる後輩か何かかと思ってたんです。
でも、学生ではないようなので、なんなのかなって…思って。」
少し早口で、ペトラは俺に名前との関係性について訊ねて来た。
初めて名前を研究施設に連れて来たときは、名前とはどういう関係だと聞かれるだろうかと、実は気にしていた。
でも、ペトラだけではなく、エルド達も聞こうとはしなかったから、そういうことだと納得していた。
好奇心をそそられるような関係だとは、想像もしていなかったのだろう。
だから、まさか、今になって訊かれるとは思っていなかった。
でも、名前のことを医学生だと勘違いしていたらしいから、エルド達もペトラと似たような風に考えていたのだろう。
ペトラの質問は、エルド達にも聞こえていたらしく、何かを言うわけではないが、視線が俺に集まっていた。
俺は、特に深く考えることをしないで、口を開いた。
「こい…-。」
仔犬だと答えようとして、ふ、と名前の無邪気な笑顔が頭に浮かんだ。
その瞬間に、俺は無意識に言葉を切っていた。
俺と名前の関係を知っているのは、俺と名前だけだ。
そう、名前は、仔犬じゃないー。
「こい?」
エルドに首を傾げられて、ぼんやりとしていた思考がハッとした。
そして、俺は、少し考えてから、口を開いた。
「…恋人。」
ペトラ達の目は見れず、名前の作ったおにぎりを凝視しながら答えた。
どんな反応が返ってくるかなんて、分かりきっていた。
ペトラ達の目に、俺と名前がどんな風に映っているのかなんて、彼らの態度を見れば明らかだった。
だから、冗談だろうと笑うに決まっている。
そうではなくても、歳の差があり過ぎるだとか、不釣り合いだとか、そんなことを言われるのだろう。
もしも、犯罪だと言うやつがいたら、ぶん殴ってやろうー。
そもそも、お試し恋人でもいいからと言ったのは名前の方なのだからー。
そんなことを考えていたのに、ペトラ達の反応は、俺にとってあまりにも意外過ぎるものだった。
「あ~、やっぱり…。そうだと思ったんですよね。」
「は?」
「ほ~ら、俺の言った通りだったじゃねぇか!」
「俺だって、恋人だと思うって言っただろ。」
「グンタが言ったのは、俺が言ってからじゃねぇか。」
「いやいや、オルオとグンタだけじゃないから。みんな、そう思ってた。」
「は?おいおいおい、待て、お前ら。
名前のことを俺の恋人だなんて露程も思ってなさそうだったじゃねぇか。」
オルオ達の不毛なやり取りを、俺は思わず止めてしまった。
だって、今まで、彼らが名前を俺の恋人として接している姿なんて、見たことなかったのだ。
可愛い後輩が遊びに来たような、そんな態度で名前と話したりしていたのにー。
意外な反応に目を丸くする俺に、グンタが答えてくれた。
「最初は、リヴァイさんよりだいぶ若そうだったから、
可愛がってる後輩か何かかと思ったんですけど、
一緒に話してるところとか見てたら、凄くお似合いでしたから。」
「…お似合い?」
何を言われたのか理解できないくらいに、思ってもいないことを言われて戸惑った。
そんなこと、誰も思うわけがない。
だって、俺達は歳の差も離れているし、本当の恋人ではないのだ。
「はい、名前ちゃんはリヴァイさんのこと大好きって感じですし、
リヴァイさんも名前ちゃんのことを大切にしてるのが伝わってー。」
「飲物買ってくる…!」
いきなり立ち上がったのに驚いている間に、ペトラは走ってカフェスペースから出て行ってしまった。
その後ろを、ペトラの名前を焦ったように呼んで、オルオが追いかけて行く。
カフェスペースを出なくても、ここに幾らでも飲み物がタダで用意されているのにー。
一体何だったのだろう。
「グンタ、言い過ぎだ。」
「…悪い。」
エルドに叱られたグンタは、マズいことをしてしまったという顔をして頭を掻いた。
「ペトラはどうかしたのか?」
「自販機に新しく入ったコーヒーが美味いと言ってたので
それを買いに行ったんじゃないですかね?」
「あぁ、そうか。」
エルドに言われて、そういえば、そんなことを今朝言っていたのを思い出した俺は納得した。
俺はもう、君のことを『恋人』だと呼んではいけないの?
「くしゅ…ッ。」
まただ。
何回目かのクシャミに襲われて、ベッド脇の椅子に座っていた私は、鼻と口を両手で覆った。
クシャミが止まらなくて、もういっそ、苦しいー。
「風邪かしらね?大丈夫?」
ベッドの上で座って本を読んでいたリヴァイさんのお母さん、クシェルさんが顔を上げて、心配そうに私を見た。
病気で入院している大好きな人のお母さんに、体調を心配されてしまうなんて、一生の不覚だ。
「そうなんですかねぇ?身体もピンピンしてるし、熱もないし。
大丈夫だと思うんですけど…。風邪の引き始めなら、うつしちゃいけないし、
今日は早く帰った方がいいかな…。」
「どうせ、リヴァイが名前のことを惚気てんだろ。」
窓際の椅子に座って眠りかけていたケニーさんも、私のクシャミでいつの間にか起きてしまっていた。
そして、ニヤニヤと悪戯な顔をする。
「そうねぇ。噂の数だけクシャミをされるって言うし。
あの子が名前ちゃんの話をしてるのかもしれないわね。」
「え!?そうなんですかね!?リヴァイさんが…!
どうしよう、ドキドキしてき…、クシュッ。」
あぁ、まただ。
クシャミが止まらない。
そんな私を、クシェルさんとケニーさんが可笑しそうに笑う。
リヴァイさんはあまり笑わない人だけれど、お母さんと叔父さんはとてもよく笑う笑顔の素敵な人達だ。
一緒にいると、とても楽しい。
「名前ちゃんは本当にリヴァイが好きなのね。」
クシェルさんが、優しく微笑んだ。
絶対にリヴァイさんはしなさそうな表情を、顔がソックリなお母さんがするから、不思議な気持ちになる。
リヴァイさんも、大切な人の前でなら、こんな風に優しい微笑みを見せるのだろうか。
「はい!大好きです!世界で一番大好きです!」
「ふふ、そう言ってもらえると、なんだか私も嬉しいわ。
永遠の片想いなんて言っていないで、あの子と恋人になってくれると
もっと嬉しいんだけどなぁ。」
クシェルさんが、少し眉尻を下げて、まるで私にお願いするように言う。
でも、お願いをされても、私にはそれを叶えることは出来ない。
だって、恋愛は独りではできないし、リヴァイさんがそれを望んでいない。
それに、そんな未来は来ないことを、私は誰よりも知っている。
「いいんです。永遠の片想いで…。
リヴァイさんに出逢えただけで、幸せだから。
だから、私とリヴァイさんが恋人になることは、永遠にありません。」
目を伏せた私は、それでもハッキリと事実を告げた。
大切な人の大切な人の前で、嘘どころか、ありえるわけのない夢さえ語れなかった。
「そっか。名前ちゃんみたいな可愛い娘が出来たらいいなと思っただけだから、
そんなに悲しい顔をしないで?」
クシェルさんは、私の頭をクシャリと撫でて、顔を覗き込んだ。
心配そうに眉尻を下げたクシェルさんは、私と目が合うと、とても優しく微笑んでくれた。
絶対に、リヴァイさんが私には見せてはくれないだろうその微笑みを、私はクシェルさん越しに見ている。
ズキン、と胸が痛んだのは、私の我儘で今が出来ていることを、私が一番知っているからだ。
毎日毎日、名前の弁当を楽しみに仕事を頑張っているのだそうだ。
ペトラ達も席に着くと、今日のおかずは何かとワクワクしながら弁当を覗きだす。
どうやら、弁当を楽しみにしているのは、オルオだけではなかったらしい。
俺も席に着いて、おにぎりを1つ手に取った。
弁当を持ってきた名前は、今日は母親の検査の日だからと、慌ただしく出て行った。
おにぎりを齧りながら、俺は午後からの研究のことを考えていた。
やっと、ゴールが見えてきたのだ。
昨日、名前が見つけたと送ってくれた論文はとても参考になった。
その治療法は、成功とまではいかなかったようだが、これを元に応用する方法を思いついた。
それがうまくいけば、1日で試薬を作ることが出来る。
使用する材料も副作用は考えづらいものだから、安心だった。
一応、その効果のチェックが必要だとしても明後日には母親の元へ持って行くことが出来るはずだ。
「昨日は、魔法って言葉にビックリして聞きそびれたんですけど。」
不意にペトラが話しかけてきて、研究のことを考えていた思考を一旦止めた。
俺の視線が自分に向いたのを確かめてから、ペトラが続きを話し出す。
「名前ちゃんって、リヴァイさんの何なんですか?
今までは、彼女は医学生でリヴァイさんが面倒見てる後輩か何かかと思ってたんです。
でも、学生ではないようなので、なんなのかなって…思って。」
少し早口で、ペトラは俺に名前との関係性について訊ねて来た。
初めて名前を研究施設に連れて来たときは、名前とはどういう関係だと聞かれるだろうかと、実は気にしていた。
でも、ペトラだけではなく、エルド達も聞こうとはしなかったから、そういうことだと納得していた。
好奇心をそそられるような関係だとは、想像もしていなかったのだろう。
だから、まさか、今になって訊かれるとは思っていなかった。
でも、名前のことを医学生だと勘違いしていたらしいから、エルド達もペトラと似たような風に考えていたのだろう。
ペトラの質問は、エルド達にも聞こえていたらしく、何かを言うわけではないが、視線が俺に集まっていた。
俺は、特に深く考えることをしないで、口を開いた。
「こい…-。」
仔犬だと答えようとして、ふ、と名前の無邪気な笑顔が頭に浮かんだ。
その瞬間に、俺は無意識に言葉を切っていた。
俺と名前の関係を知っているのは、俺と名前だけだ。
そう、名前は、仔犬じゃないー。
「こい?」
エルドに首を傾げられて、ぼんやりとしていた思考がハッとした。
そして、俺は、少し考えてから、口を開いた。
「…恋人。」
ペトラ達の目は見れず、名前の作ったおにぎりを凝視しながら答えた。
どんな反応が返ってくるかなんて、分かりきっていた。
ペトラ達の目に、俺と名前がどんな風に映っているのかなんて、彼らの態度を見れば明らかだった。
だから、冗談だろうと笑うに決まっている。
そうではなくても、歳の差があり過ぎるだとか、不釣り合いだとか、そんなことを言われるのだろう。
もしも、犯罪だと言うやつがいたら、ぶん殴ってやろうー。
そもそも、お試し恋人でもいいからと言ったのは名前の方なのだからー。
そんなことを考えていたのに、ペトラ達の反応は、俺にとってあまりにも意外過ぎるものだった。
「あ~、やっぱり…。そうだと思ったんですよね。」
「は?」
「ほ~ら、俺の言った通りだったじゃねぇか!」
「俺だって、恋人だと思うって言っただろ。」
「グンタが言ったのは、俺が言ってからじゃねぇか。」
「いやいや、オルオとグンタだけじゃないから。みんな、そう思ってた。」
「は?おいおいおい、待て、お前ら。
名前のことを俺の恋人だなんて露程も思ってなさそうだったじゃねぇか。」
オルオ達の不毛なやり取りを、俺は思わず止めてしまった。
だって、今まで、彼らが名前を俺の恋人として接している姿なんて、見たことなかったのだ。
可愛い後輩が遊びに来たような、そんな態度で名前と話したりしていたのにー。
意外な反応に目を丸くする俺に、グンタが答えてくれた。
「最初は、リヴァイさんよりだいぶ若そうだったから、
可愛がってる後輩か何かかと思ったんですけど、
一緒に話してるところとか見てたら、凄くお似合いでしたから。」
「…お似合い?」
何を言われたのか理解できないくらいに、思ってもいないことを言われて戸惑った。
そんなこと、誰も思うわけがない。
だって、俺達は歳の差も離れているし、本当の恋人ではないのだ。
「はい、名前ちゃんはリヴァイさんのこと大好きって感じですし、
リヴァイさんも名前ちゃんのことを大切にしてるのが伝わってー。」
「飲物買ってくる…!」
いきなり立ち上がったのに驚いている間に、ペトラは走ってカフェスペースから出て行ってしまった。
その後ろを、ペトラの名前を焦ったように呼んで、オルオが追いかけて行く。
カフェスペースを出なくても、ここに幾らでも飲み物がタダで用意されているのにー。
一体何だったのだろう。
「グンタ、言い過ぎだ。」
「…悪い。」
エルドに叱られたグンタは、マズいことをしてしまったという顔をして頭を掻いた。
「ペトラはどうかしたのか?」
「自販機に新しく入ったコーヒーが美味いと言ってたので
それを買いに行ったんじゃないですかね?」
「あぁ、そうか。」
エルドに言われて、そういえば、そんなことを今朝言っていたのを思い出した俺は納得した。
俺はもう、君のことを『恋人』だと呼んではいけないの?
「くしゅ…ッ。」
まただ。
何回目かのクシャミに襲われて、ベッド脇の椅子に座っていた私は、鼻と口を両手で覆った。
クシャミが止まらなくて、もういっそ、苦しいー。
「風邪かしらね?大丈夫?」
ベッドの上で座って本を読んでいたリヴァイさんのお母さん、クシェルさんが顔を上げて、心配そうに私を見た。
病気で入院している大好きな人のお母さんに、体調を心配されてしまうなんて、一生の不覚だ。
「そうなんですかねぇ?身体もピンピンしてるし、熱もないし。
大丈夫だと思うんですけど…。風邪の引き始めなら、うつしちゃいけないし、
今日は早く帰った方がいいかな…。」
「どうせ、リヴァイが名前のことを惚気てんだろ。」
窓際の椅子に座って眠りかけていたケニーさんも、私のクシャミでいつの間にか起きてしまっていた。
そして、ニヤニヤと悪戯な顔をする。
「そうねぇ。噂の数だけクシャミをされるって言うし。
あの子が名前ちゃんの話をしてるのかもしれないわね。」
「え!?そうなんですかね!?リヴァイさんが…!
どうしよう、ドキドキしてき…、クシュッ。」
あぁ、まただ。
クシャミが止まらない。
そんな私を、クシェルさんとケニーさんが可笑しそうに笑う。
リヴァイさんはあまり笑わない人だけれど、お母さんと叔父さんはとてもよく笑う笑顔の素敵な人達だ。
一緒にいると、とても楽しい。
「名前ちゃんは本当にリヴァイが好きなのね。」
クシェルさんが、優しく微笑んだ。
絶対にリヴァイさんはしなさそうな表情を、顔がソックリなお母さんがするから、不思議な気持ちになる。
リヴァイさんも、大切な人の前でなら、こんな風に優しい微笑みを見せるのだろうか。
「はい!大好きです!世界で一番大好きです!」
「ふふ、そう言ってもらえると、なんだか私も嬉しいわ。
永遠の片想いなんて言っていないで、あの子と恋人になってくれると
もっと嬉しいんだけどなぁ。」
クシェルさんが、少し眉尻を下げて、まるで私にお願いするように言う。
でも、お願いをされても、私にはそれを叶えることは出来ない。
だって、恋愛は独りではできないし、リヴァイさんがそれを望んでいない。
それに、そんな未来は来ないことを、私は誰よりも知っている。
「いいんです。永遠の片想いで…。
リヴァイさんに出逢えただけで、幸せだから。
だから、私とリヴァイさんが恋人になることは、永遠にありません。」
目を伏せた私は、それでもハッキリと事実を告げた。
大切な人の大切な人の前で、嘘どころか、ありえるわけのない夢さえ語れなかった。
「そっか。名前ちゃんみたいな可愛い娘が出来たらいいなと思っただけだから、
そんなに悲しい顔をしないで?」
クシェルさんは、私の頭をクシャリと撫でて、顔を覗き込んだ。
心配そうに眉尻を下げたクシェルさんは、私と目が合うと、とても優しく微笑んでくれた。
絶対に、リヴァイさんが私には見せてはくれないだろうその微笑みを、私はクシェルさん越しに見ている。
ズキン、と胸が痛んだのは、私の我儘で今が出来ていることを、私が一番知っているからだ。