◇16ページ◇寝てください
Name change
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風呂から上がって、自室で着替えを済ませた俺は、リビングに戻ると壁掛けの時計を確認した。
時間は、もうすぐ0時になろうとしているところだった。
普段は3時頃まで研究施設に残っているし、明日は休日だから泊りがけでも構わない。
今から戻ればまだまだ薬の開発が出来る。
そんなことを考えていると、着替えを済ませた名前が部屋から出てきた。
いつも着ていたパジャマ姿を見て、本当に戻って来たのだと改めて実感した。
3日ぶりのそれがひどく懐かしく感じた。
たぶん、俺はホッとしたのだと思う。
ぐにゃりと視界が歪んだかと思うと、両脚から力が抜けた。
あ、と思ったときには、ふっ、と意識が飛んだ。
歪んだ視界の向こうで、悲鳴のようなものを上げて駆け寄る名前が見えていた。
倒れる寸前で、柔らかい温もりが俺を支えていた。
それが名前だと瞬時に理解できるくらいには、意識が飛んでいたのは一瞬だったはずだった。
でも、頭がぼんやりとしていて、身体に力が入らないー。
俺の体重を支えきれなかった名前が、俺を抱きしめたままでソファに倒れ込んだ。
「リヴァイさん…!?大丈夫ですか…!!リヴァイさん…!!」
俺の身体の下敷きになって、名前は必死に俺の名前を呼んでいた。
何度目かのそれで、漸く、力が戻って来た俺は、ゆっくりと身体を起こした。
「悪ぃ。もう、大丈夫だ。」
眉間の辺りを指で押さえながら、俺は自分に言い聞かせるように言った。
まだ少し頭がぼんやりとしていたけれど、寝ている場合ではなかった。
「…リヴァイさん、どうして服に着替えたんですか?
もしかして…、また、仕事に行くつもりですか…?」
俯いて眉間を押さえる俺の目を、名前が覗き込んだ。
真っすぐな瞳を、俺もまっすぐに見つめてみれば、答えは簡単だった。
強い意志の向こうに、不安と愛情が見えた気がした。
名前の目は、仕事に行こうとしている俺を責めているわけではなかった。
ただひたすら、心配していた。
きっと、あのときも同じ目をしていたのだろうと思う。
「私が…、リヴァイさんから逃げちゃったから…っ。
ちゃんとっ、止めなきゃ、いけなかったのに…っ。
もう、絶対に…っ、仕事には行かせません…っ。リヴァイさんが、死んじゃう…っ。」
何も言わない俺を見つめる名前の瞳に溢れた涙が、零れ落ちるまでそう時間はかからなかった。
『リヴァイの身体がボロボロなのに気づいてたのに、
仕事を休めって言う勇気が自分になかったから、倒れるまで仕事をさせてしまった。
そう言って、泣いてたんだよ。違うと言ったけど…、まだ責めてるかも。』
名前を探しているとき、ハンジが言っていた言葉が蘇った。
嘘や大袈裟に話を盛ったりするような友人ではないから、信じなかったわけではない。
俺が、信じられなかっただけだ。
だって、名前は何も悪くないじゃないか。
悔し気に、ひどく悲しそうに、涙を流す名前のぷっくりと膨らんだ涙袋にそっと指で触れた。
一瞬だけ、名前は身体を強張らせた。
涙を拭いながら、俺は口を開いた。
「名前は何も悪くない。自分を責めるな。」
「でも…っ。」
「母親が倒れた。」
「…え?」
突然の話に、名前は戸惑っていたようだった。
俺は、1週間と少し前に叔父のケニーから連絡があったところから母親の病がとても難しいものだと言うことも含めて、すべてを包み隠さずに話した。
信じてるんだねー。
ハンジにそう言われたとき、俺はそうではないと思った。
でも、ここまでプライベートなことを話せたのは、名前のことを信頼していたからなのだろう。
母親の治療薬を作るために寝る間も惜しんで研究施設にいるのだと言うことも伝えた。
名前は一言も口を開かず、ただじっと静かに話を聞いてくれていて、全て話し終わった頃には、名前の涙はもう止まっていた。
「わかったか?」
「はい。分かりました。」
名前が頷いたのを見て、俺は安心した。
ハンジにも言ったけれど、やっぱり、分かってくれたと嬉しかった。
それなのに、名前は俺の腕を強く掴んで、こう言った。
「リヴァイさん、今から寝てください。」
「は・・・?」
真剣に俺を見つめる名前の瞳は、何も分かっていないようには見えなかった。
でも、俺にはまた、名前が敵に見えそうだった。
分かってくれたと思った瞬間に、また裏切られたー。
そう思いたくはなかったけれど、この状況は、名前が俺のことを何も理解してくれなかったことを物語っているように見えたのだ。
「俺の話を聞いてなかったのか。俺が薬を作らねぇと母さんが死ぬんだ。
寝てる場合じゃねぇんだよ。」
「今のまま研究施設に戻ったって、お母さんは救えません。絶対に。」
「…放せ!!」
あまりにもハッキリと言うそれに、俺はカッとなった。
きっと、このままでは治療薬を作るどころか、母親が死ぬという未来にまっしぐらだということに、俺も気づいていたのだろう。
俺の腕を掴む名前の手を乱暴に振りほどいて、立ち上がろうとした。
そのはずだったのに、気づけば俺は、ソファに座ったままで、ソファの上に膝を立てた名前に、頭を守るように抱きしめられていた。
柔らかい胸に、俺の顔が埋まっていた。
同じ風呂に入って同じボディーソープを使ったはずなのに、名前からはひどく甘い匂い香りがして、頭がクラクラした。
きっと、自分でも思っていた以上に、俺の身体には力が残っていなかったのだろう。
だから、か弱い名前の思いのままにされてしまっていたのだ。
「大丈夫です。リヴァイさんなら、お母さんを救えますよ。」
名前は、まるで小さな子供にでもするように、俺の頭を優しく撫でながら、そう言った。
「…言ってることが違ぇじゃねーか。」
「お母さんを救えるのはリヴァイさんしかいないと思います。
そのリヴァイさんが倒れちゃったら、誰がお母さんを救うんですか?」
「…っ。」
「まずは、リヴァイさんがお母さんを救うためにすることは、身体を元気にすることです。
しっかり睡眠をとって、栄養のある食事をとって、頭をスッキリしなくちゃ。」
「…時間がねぇ。」
「そらなら、尚更です。ぼんやりとした頭で考えたって何も生まれませんよ。
リヴァイさんなら絶対に大丈夫だから。すごいこと思いついて、魔法の薬を作っちゃいます。」
「…簡単に言うな。」
「だって、本当のことだから。私は知ってるから。
リヴァイさんが、お母さんを助けるって未来が見えるんです。」
「…魔法でそんなもんまで見えんのか。」
「ふふ。はい、魔法で。ハッキリと、見えてますよ。
笑ってるリヴァイさんとお母さんが、見えてます。
お母さんは元気もりもりです。」
「なんだそれ。どんな未来だよ。」
笑顔を乗せた柔らかい声色は、疲れと焦りで尖って棘だらけになった俺の心までも優しく抱きしめていた。
きっと、棘が刺さって、名前は痛い思いをしたはずだ。
でも、その腕を放すことはしなかった。
魔法なんて子供じみた存在を、信じてなんかいなかった。
でも、あまりにも名前が自信満々に言うから、本当にそんな未来が見えたんじゃないかと思ってしまった。
名前の言葉なら、信じられる気がしたのだ。
「…分かった。少し、寝る。」
「はい…!ありがとうございます…!」
感謝すべきはきっと、俺だったはずだ。
それなのに、身体を離した名前は俺を見て、満面の笑みで感謝を告げた。
「じゃあ、私はリヴァイさんが寝ている間にお部屋の片づけと掃除を済ませて
栄養のある食事を作っておきますねっ!」
張り切って言って、名前は飛び跳ねるようにソファから降りた。
その細い手首を、俺は捕まえた。
「どうかしましたか?」
名前は、不思議そうに振り返った。
「…寝る。」
「はい、そうしてください。その間に、これからどうすればいいか考えておきますね。」
「俺は、寝る。」
「…はい、何度も言わなくても、信じてますよ?」
「…寝るって言ってんだ。」
「・・・・どうしちゃったんですか?」
名前は不思議そうにすると、俺の隣に座った。
そして、額に手を乗せて、しきりに首を傾げる。
熱でも出たかと思ったようだった。
違う、俺はただー。
「彼氏が寝る前は、どうするんだ。名前は、お試し恋人なんだろ。」
とぼけさせたくなくて、俺は名前の薄いサーモンピンク色をした唇に親指を押しあてた。
すぐに顔に出る名前の頬が真っ赤に染まった。
そして、躊躇いがちに訊ねた。
「おやすみの…キスをしても、いいんですか…?」
「好きにすればいい。」
今まではキスなんて軽くしていたくせに、名前はとても緊張しているようだった。
だから、俺にまでその緊張が伝わってしまって、ガキみたいに心臓が速く鼓動していた。
意を決したように、名前が俺の腕にそっと触れると、瞼を閉じた。
それはいつものように、ほんの一瞬触れるだけのキスだった。
でも、初めて俺は、名前の唇の柔らかさを知った。
「おやすみなさい…っ。掃除、頑張っておきます!!」
恥ずかしさが止まらなかったらしい名前は、今度こそ風のような速さでリビングを飛び出すと、廊下の奥へと消えて行った。
おやすみのキスを誘導したのは、ひどく傷つけてしまったことと、支えると言ってくれた名前への謝罪と礼の気持ちだった。
少なくとも、このときの俺は、そう思っていた。
それなのに、柔らかい唇が触れた俺の唇から、優しい愛が身体を伝って温かくなった。
俺の方が、そのおやすみのキスに、安心感を貰ったに違いなかった。
君がいなくなってから、俺は息をするのも苦しい。
今すぐ治療薬が必要だ。君のキスで、俺を救ってー。
強い人だと、思っていた。
ずっと、そう思っていたの。
でも、優しすぎるリヴァイさんは、とても儚い人なのかもしれない。
リヴァイさんはずっと、お母さんを失うかもしれないという不安の中で溺れていたのね。
気づいてあげられなかった自分が、悔しくて仕方がなかった。
必ず、リヴァイさんならお母さんを救える。
世界で一番、それを知ってるのは私だわ。
だから、リヴァイさんがお母さんを救えるように支えるの。
何だってするわ。
この身も心もすべて、リヴァイさんに捧げるためにあるんだもの。
時間は、もうすぐ0時になろうとしているところだった。
普段は3時頃まで研究施設に残っているし、明日は休日だから泊りがけでも構わない。
今から戻ればまだまだ薬の開発が出来る。
そんなことを考えていると、着替えを済ませた名前が部屋から出てきた。
いつも着ていたパジャマ姿を見て、本当に戻って来たのだと改めて実感した。
3日ぶりのそれがひどく懐かしく感じた。
たぶん、俺はホッとしたのだと思う。
ぐにゃりと視界が歪んだかと思うと、両脚から力が抜けた。
あ、と思ったときには、ふっ、と意識が飛んだ。
歪んだ視界の向こうで、悲鳴のようなものを上げて駆け寄る名前が見えていた。
倒れる寸前で、柔らかい温もりが俺を支えていた。
それが名前だと瞬時に理解できるくらいには、意識が飛んでいたのは一瞬だったはずだった。
でも、頭がぼんやりとしていて、身体に力が入らないー。
俺の体重を支えきれなかった名前が、俺を抱きしめたままでソファに倒れ込んだ。
「リヴァイさん…!?大丈夫ですか…!!リヴァイさん…!!」
俺の身体の下敷きになって、名前は必死に俺の名前を呼んでいた。
何度目かのそれで、漸く、力が戻って来た俺は、ゆっくりと身体を起こした。
「悪ぃ。もう、大丈夫だ。」
眉間の辺りを指で押さえながら、俺は自分に言い聞かせるように言った。
まだ少し頭がぼんやりとしていたけれど、寝ている場合ではなかった。
「…リヴァイさん、どうして服に着替えたんですか?
もしかして…、また、仕事に行くつもりですか…?」
俯いて眉間を押さえる俺の目を、名前が覗き込んだ。
真っすぐな瞳を、俺もまっすぐに見つめてみれば、答えは簡単だった。
強い意志の向こうに、不安と愛情が見えた気がした。
名前の目は、仕事に行こうとしている俺を責めているわけではなかった。
ただひたすら、心配していた。
きっと、あのときも同じ目をしていたのだろうと思う。
「私が…、リヴァイさんから逃げちゃったから…っ。
ちゃんとっ、止めなきゃ、いけなかったのに…っ。
もう、絶対に…っ、仕事には行かせません…っ。リヴァイさんが、死んじゃう…っ。」
何も言わない俺を見つめる名前の瞳に溢れた涙が、零れ落ちるまでそう時間はかからなかった。
『リヴァイの身体がボロボロなのに気づいてたのに、
仕事を休めって言う勇気が自分になかったから、倒れるまで仕事をさせてしまった。
そう言って、泣いてたんだよ。違うと言ったけど…、まだ責めてるかも。』
名前を探しているとき、ハンジが言っていた言葉が蘇った。
嘘や大袈裟に話を盛ったりするような友人ではないから、信じなかったわけではない。
俺が、信じられなかっただけだ。
だって、名前は何も悪くないじゃないか。
悔し気に、ひどく悲しそうに、涙を流す名前のぷっくりと膨らんだ涙袋にそっと指で触れた。
一瞬だけ、名前は身体を強張らせた。
涙を拭いながら、俺は口を開いた。
「名前は何も悪くない。自分を責めるな。」
「でも…っ。」
「母親が倒れた。」
「…え?」
突然の話に、名前は戸惑っていたようだった。
俺は、1週間と少し前に叔父のケニーから連絡があったところから母親の病がとても難しいものだと言うことも含めて、すべてを包み隠さずに話した。
信じてるんだねー。
ハンジにそう言われたとき、俺はそうではないと思った。
でも、ここまでプライベートなことを話せたのは、名前のことを信頼していたからなのだろう。
母親の治療薬を作るために寝る間も惜しんで研究施設にいるのだと言うことも伝えた。
名前は一言も口を開かず、ただじっと静かに話を聞いてくれていて、全て話し終わった頃には、名前の涙はもう止まっていた。
「わかったか?」
「はい。分かりました。」
名前が頷いたのを見て、俺は安心した。
ハンジにも言ったけれど、やっぱり、分かってくれたと嬉しかった。
それなのに、名前は俺の腕を強く掴んで、こう言った。
「リヴァイさん、今から寝てください。」
「は・・・?」
真剣に俺を見つめる名前の瞳は、何も分かっていないようには見えなかった。
でも、俺にはまた、名前が敵に見えそうだった。
分かってくれたと思った瞬間に、また裏切られたー。
そう思いたくはなかったけれど、この状況は、名前が俺のことを何も理解してくれなかったことを物語っているように見えたのだ。
「俺の話を聞いてなかったのか。俺が薬を作らねぇと母さんが死ぬんだ。
寝てる場合じゃねぇんだよ。」
「今のまま研究施設に戻ったって、お母さんは救えません。絶対に。」
「…放せ!!」
あまりにもハッキリと言うそれに、俺はカッとなった。
きっと、このままでは治療薬を作るどころか、母親が死ぬという未来にまっしぐらだということに、俺も気づいていたのだろう。
俺の腕を掴む名前の手を乱暴に振りほどいて、立ち上がろうとした。
そのはずだったのに、気づけば俺は、ソファに座ったままで、ソファの上に膝を立てた名前に、頭を守るように抱きしめられていた。
柔らかい胸に、俺の顔が埋まっていた。
同じ風呂に入って同じボディーソープを使ったはずなのに、名前からはひどく甘い匂い香りがして、頭がクラクラした。
きっと、自分でも思っていた以上に、俺の身体には力が残っていなかったのだろう。
だから、か弱い名前の思いのままにされてしまっていたのだ。
「大丈夫です。リヴァイさんなら、お母さんを救えますよ。」
名前は、まるで小さな子供にでもするように、俺の頭を優しく撫でながら、そう言った。
「…言ってることが違ぇじゃねーか。」
「お母さんを救えるのはリヴァイさんしかいないと思います。
そのリヴァイさんが倒れちゃったら、誰がお母さんを救うんですか?」
「…っ。」
「まずは、リヴァイさんがお母さんを救うためにすることは、身体を元気にすることです。
しっかり睡眠をとって、栄養のある食事をとって、頭をスッキリしなくちゃ。」
「…時間がねぇ。」
「そらなら、尚更です。ぼんやりとした頭で考えたって何も生まれませんよ。
リヴァイさんなら絶対に大丈夫だから。すごいこと思いついて、魔法の薬を作っちゃいます。」
「…簡単に言うな。」
「だって、本当のことだから。私は知ってるから。
リヴァイさんが、お母さんを助けるって未来が見えるんです。」
「…魔法でそんなもんまで見えんのか。」
「ふふ。はい、魔法で。ハッキリと、見えてますよ。
笑ってるリヴァイさんとお母さんが、見えてます。
お母さんは元気もりもりです。」
「なんだそれ。どんな未来だよ。」
笑顔を乗せた柔らかい声色は、疲れと焦りで尖って棘だらけになった俺の心までも優しく抱きしめていた。
きっと、棘が刺さって、名前は痛い思いをしたはずだ。
でも、その腕を放すことはしなかった。
魔法なんて子供じみた存在を、信じてなんかいなかった。
でも、あまりにも名前が自信満々に言うから、本当にそんな未来が見えたんじゃないかと思ってしまった。
名前の言葉なら、信じられる気がしたのだ。
「…分かった。少し、寝る。」
「はい…!ありがとうございます…!」
感謝すべきはきっと、俺だったはずだ。
それなのに、身体を離した名前は俺を見て、満面の笑みで感謝を告げた。
「じゃあ、私はリヴァイさんが寝ている間にお部屋の片づけと掃除を済ませて
栄養のある食事を作っておきますねっ!」
張り切って言って、名前は飛び跳ねるようにソファから降りた。
その細い手首を、俺は捕まえた。
「どうかしましたか?」
名前は、不思議そうに振り返った。
「…寝る。」
「はい、そうしてください。その間に、これからどうすればいいか考えておきますね。」
「俺は、寝る。」
「…はい、何度も言わなくても、信じてますよ?」
「…寝るって言ってんだ。」
「・・・・どうしちゃったんですか?」
名前は不思議そうにすると、俺の隣に座った。
そして、額に手を乗せて、しきりに首を傾げる。
熱でも出たかと思ったようだった。
違う、俺はただー。
「彼氏が寝る前は、どうするんだ。名前は、お試し恋人なんだろ。」
とぼけさせたくなくて、俺は名前の薄いサーモンピンク色をした唇に親指を押しあてた。
すぐに顔に出る名前の頬が真っ赤に染まった。
そして、躊躇いがちに訊ねた。
「おやすみの…キスをしても、いいんですか…?」
「好きにすればいい。」
今まではキスなんて軽くしていたくせに、名前はとても緊張しているようだった。
だから、俺にまでその緊張が伝わってしまって、ガキみたいに心臓が速く鼓動していた。
意を決したように、名前が俺の腕にそっと触れると、瞼を閉じた。
それはいつものように、ほんの一瞬触れるだけのキスだった。
でも、初めて俺は、名前の唇の柔らかさを知った。
「おやすみなさい…っ。掃除、頑張っておきます!!」
恥ずかしさが止まらなかったらしい名前は、今度こそ風のような速さでリビングを飛び出すと、廊下の奥へと消えて行った。
おやすみのキスを誘導したのは、ひどく傷つけてしまったことと、支えると言ってくれた名前への謝罪と礼の気持ちだった。
少なくとも、このときの俺は、そう思っていた。
それなのに、柔らかい唇が触れた俺の唇から、優しい愛が身体を伝って温かくなった。
俺の方が、そのおやすみのキスに、安心感を貰ったに違いなかった。
君がいなくなってから、俺は息をするのも苦しい。
今すぐ治療薬が必要だ。君のキスで、俺を救ってー。
強い人だと、思っていた。
ずっと、そう思っていたの。
でも、優しすぎるリヴァイさんは、とても儚い人なのかもしれない。
リヴァイさんはずっと、お母さんを失うかもしれないという不安の中で溺れていたのね。
気づいてあげられなかった自分が、悔しくて仕方がなかった。
必ず、リヴァイさんならお母さんを救える。
世界で一番、それを知ってるのは私だわ。
だから、リヴァイさんがお母さんを救えるように支えるの。
何だってするわ。
この身も心もすべて、リヴァイさんに捧げるためにあるんだもの。