◇14ページ◇我儘じゃなかったんだ
Name change
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職場である研究所で仕事をしていても、名前の傷ついた顔と、逃げるように走って消えていく小さな背中が意識の端から消えてはくれなかった。
それでも、手慣れた仕事はミスすることもなくこなし、必要な研究は終わった。
デスクに戻った俺は、データをパソコンに打ち込んでいた。
その間もやっぱり、名前のことが頭から離れない。
(どうして急に…、仕事休めなんてクソみてぇなこと言い出しやがったんだ…っ。)
悔し気に歯を鳴らしたのは、ショックだったからだと思う。
名前なら、どんな俺も受け入れると信じていた。
実際、昨晩までは、そうだったのだ。
それが、急に、まるで手のひらを返したように、仕事に行くなと言い出した名前を見て、裏切られたような気がした。
もしかしたら、名前はアンとは違うのかもしれないー。
俺のために俺を愛してくれる、そんな愛があるのかもしれないー。
そう思っていたのだろう。
それが、愛情だったのか、願望だったのか。今でも俺は分からない。
ただ、結局は、名前も、本当の意味で俺を思っていたわけではなかったのだと知って、勝手だけれど、ショックだったのだ。
悔しくて、苛立った。
そして、そんなことにショックを受けている自分に戸惑ってもいた。
「あれ?リヴァイさん、首、どうしたんですか?」
不思議そうに声をかけてきたのは、後ろを通りがかったモブリットだった。
何のことだと椅子を回して振り返ると、首元に傷テープが貼ってあると言う。
怪我をした覚えもなければ、そんなものを貼った覚えもない。
訝し気に首元に触れてみると、確かに傷テープのようなものが触れて、ついでに、ズキリと痛みが走った。
本当に怪我をしているようだった。
「…記憶にねぇ。」
「えぇ~…、記憶にないうちに怪我をして傷テープまで貼るなんて
リヴァイさん、大丈夫ですか?」
「…あぁ、仕事はちゃんとできる。」
「そういうことじゃなくて…、最近、すごく疲れて-。」
「どうかしたのかい?」
俺達が話しているのが気になったのか、ハンジまでやって来て心配そうに訊ねた。
スマホはリビングのテーブルの上にあって、すぐに見つけることが出来た。
だが、ハンジに連絡するのを忘れていたせいで、俺が出勤した時もひどく驚いていたし、余計な心配もかけてしまっていた。
だから、俺はやっぱり名前に対して、苛ついていた。
「それが、リヴァイさん、自分が首を怪我したことも、傷テープ貼ったことも
記憶にないくらい疲れてるみたいで…。」
「首に怪我?あ~、本当だ。
あれじゃない?昨日、お風呂場で倒れたときに怪我したんじゃない?」
「風呂場で倒れた!?本当ですか、リヴァイさん!!
最近、疲れてるなぁと思ってたら、本物じゃないですか…!!」
驚愕したモブリットを見上げながら、そういえば、風呂場で倒れたと名前が言っていたな、とどこか他人事のように思い出していた。
「私も朝早くに名前から電話があったときは驚いたよ。」
「電話?」
「聞いてないの?帰って来たリヴァイがお風呂に入ってすぐに
倒れてしまったって、泣きながら電話がかかって来たんだよ。
相当、ショックで、怖かったんだろうね。」
ハンジはそう言って、昨晩、いや、早朝の出来事を呆れた様子で教えてくれた。
俺が風呂場で倒れたとき、驚きとショックでパニックになった名前は、俺のスマホからハンジの名前を探して、電話をかけてきたのだそうだ。
泣きながら救急車を呼ぶべきかと訊ねた名前に、俺の母親が救急車で運ばれて入院していることを知っているハンジは、とりあえず、過労だろうからベッドで寝かせてやれと答えたと教えてくれた。
救急車なんて呼ばれて大事にされるのは面倒だ。
名前が電話をかけたのが、119番でも、他の誰でもなくハンジだったのは、不幸中の幸いだったと思った。
「あの細い小さな身体で、裸で倒れてる男の身体を運ぶのは
いろんな意味でとても大変だったと思うよ。」
「え…!名前ちゃんが!?
リヴァイさんって筋肉あるし、そこそこ重たいのに…!」
「風呂場で倒れてたことを覚えてないような様子だし、
ちゃんとベッドでパジャマでも着て寝てたんだろう。
それも全部、名前がしてあげたことだ。」
ハンジに言われて、俺は漸く、名前が自分をベッドまで運んでくれたのだということに気が付いた。
風呂場で倒れたと聞いたとき、どうして分からなかったのか。
それは簡単だ。
俺は仕事に行きたかったし、名前の話を聞こうともしなかった。
「名前から聞いたよ。ここ1週間ずっと、帰りは明け方の4時前らしいね。
で、5時過ぎには起きて6時に出勤してるんだから、倒れて当然だよ。
今日だって、名前からも休んだ方がいいって言われなかった?」
「あぁ。だから、追い出した。」
「へ?」
「勝手にハンジに仕事を休むと連絡した上、俺を絶対に仕事に行かさねぇと我儘を言い出しやがった。
俺に逆らうなという条件を守らなかったから、約束通り追い出した。」
「えっ?!それで、名前ちゃん、出て行っちゃったんですか!?」
驚くモブリットに、俺は肯定の返事をした。
この間、家に呑みに来たときに、名前が俺の家に居候することになった経緯について話していた。
だから、勝手に名前が居ついてしまったことは理解していたはずだが、出て行ったと知ったモブリットがショックを受けているのには、意外だった。
「それは本当に我儘だったの?」
「我儘だろ。自分のそばにいて欲しいからって
仕事に行くなと言いだすことは我儘以外のなんでもねぇ。」
「もう一度聞くよ、リヴァイ。君が見た名前は本当に、勝手な我儘を言っていた?」
真っすぐに俺を見るハンジの目を、どうしても見ていられなかった。
目を反らしたのは、俺が間違えていたと認めたのと同じようなことだ。
それを分かってはいながら、俺はそれでも、認めたくなかった。
「アイツが悪い。同じだったんだ。あのときと、一緒だった。
俺はもう、これ以上、何も失うわけにはいかねぇんだ。」
それは、自分に言い聞かせた言葉だった。
そして、本心だ。
今度こそ、俺は自分の大切なものも、自分も、しっかりと守ると決めたのだ。
でも、本当は、自分自身でも、あのときとは何かが違うことくらい気づいていた。
だって、涙を溜めた大きな瞳と唇を噛む傷ついた表情が、脳裏にチラついて離れなかったから。
胸が痛いのだ。震える小さな背中を見送ってからずっと、俺は肩が重たい。心が、重たい。
疲れでぼんやりした頭では理解出来ていなくても、きっと心は、間違えたのは俺だと気づいていたのだろう。
「まぁ…昔のこともあるし、私達は一度しか名前に会ったことないし、分からないけどさ。
少なくとも、私が電話で話した名前は、君の身体の心配だけをしてたように思えたよ。
でも、君が一番名前を知ってるだろうから、君が我儘だと言うならそうなのかもね。」
名前は昔の恋人と同じ、自分勝手に君を縛りつけて壊す重たい女だったんだねー。
自分のデスクに戻るとき、ハンジが最後にそう付け加えたその言葉が、俺の頭をグルグル回っていた。
思わず、ハンジに言い返そうとした俺は、何を言おうとしていたのだろう。
無駄話も終わり、パソコンにデータを打ち込む作業に戻っても、俺はずっと考えていた。
俺は、名前を貶したハンジの言葉にどうして、腹が立ったのだろう。
同じようなことを、自分は名前に言ったはずなのに、そう思った、はずなのに。
それでも、手慣れた仕事はミスすることもなくこなし、必要な研究は終わった。
デスクに戻った俺は、データをパソコンに打ち込んでいた。
その間もやっぱり、名前のことが頭から離れない。
(どうして急に…、仕事休めなんてクソみてぇなこと言い出しやがったんだ…っ。)
悔し気に歯を鳴らしたのは、ショックだったからだと思う。
名前なら、どんな俺も受け入れると信じていた。
実際、昨晩までは、そうだったのだ。
それが、急に、まるで手のひらを返したように、仕事に行くなと言い出した名前を見て、裏切られたような気がした。
もしかしたら、名前はアンとは違うのかもしれないー。
俺のために俺を愛してくれる、そんな愛があるのかもしれないー。
そう思っていたのだろう。
それが、愛情だったのか、願望だったのか。今でも俺は分からない。
ただ、結局は、名前も、本当の意味で俺を思っていたわけではなかったのだと知って、勝手だけれど、ショックだったのだ。
悔しくて、苛立った。
そして、そんなことにショックを受けている自分に戸惑ってもいた。
「あれ?リヴァイさん、首、どうしたんですか?」
不思議そうに声をかけてきたのは、後ろを通りがかったモブリットだった。
何のことだと椅子を回して振り返ると、首元に傷テープが貼ってあると言う。
怪我をした覚えもなければ、そんなものを貼った覚えもない。
訝し気に首元に触れてみると、確かに傷テープのようなものが触れて、ついでに、ズキリと痛みが走った。
本当に怪我をしているようだった。
「…記憶にねぇ。」
「えぇ~…、記憶にないうちに怪我をして傷テープまで貼るなんて
リヴァイさん、大丈夫ですか?」
「…あぁ、仕事はちゃんとできる。」
「そういうことじゃなくて…、最近、すごく疲れて-。」
「どうかしたのかい?」
俺達が話しているのが気になったのか、ハンジまでやって来て心配そうに訊ねた。
スマホはリビングのテーブルの上にあって、すぐに見つけることが出来た。
だが、ハンジに連絡するのを忘れていたせいで、俺が出勤した時もひどく驚いていたし、余計な心配もかけてしまっていた。
だから、俺はやっぱり名前に対して、苛ついていた。
「それが、リヴァイさん、自分が首を怪我したことも、傷テープ貼ったことも
記憶にないくらい疲れてるみたいで…。」
「首に怪我?あ~、本当だ。
あれじゃない?昨日、お風呂場で倒れたときに怪我したんじゃない?」
「風呂場で倒れた!?本当ですか、リヴァイさん!!
最近、疲れてるなぁと思ってたら、本物じゃないですか…!!」
驚愕したモブリットを見上げながら、そういえば、風呂場で倒れたと名前が言っていたな、とどこか他人事のように思い出していた。
「私も朝早くに名前から電話があったときは驚いたよ。」
「電話?」
「聞いてないの?帰って来たリヴァイがお風呂に入ってすぐに
倒れてしまったって、泣きながら電話がかかって来たんだよ。
相当、ショックで、怖かったんだろうね。」
ハンジはそう言って、昨晩、いや、早朝の出来事を呆れた様子で教えてくれた。
俺が風呂場で倒れたとき、驚きとショックでパニックになった名前は、俺のスマホからハンジの名前を探して、電話をかけてきたのだそうだ。
泣きながら救急車を呼ぶべきかと訊ねた名前に、俺の母親が救急車で運ばれて入院していることを知っているハンジは、とりあえず、過労だろうからベッドで寝かせてやれと答えたと教えてくれた。
救急車なんて呼ばれて大事にされるのは面倒だ。
名前が電話をかけたのが、119番でも、他の誰でもなくハンジだったのは、不幸中の幸いだったと思った。
「あの細い小さな身体で、裸で倒れてる男の身体を運ぶのは
いろんな意味でとても大変だったと思うよ。」
「え…!名前ちゃんが!?
リヴァイさんって筋肉あるし、そこそこ重たいのに…!」
「風呂場で倒れてたことを覚えてないような様子だし、
ちゃんとベッドでパジャマでも着て寝てたんだろう。
それも全部、名前がしてあげたことだ。」
ハンジに言われて、俺は漸く、名前が自分をベッドまで運んでくれたのだということに気が付いた。
風呂場で倒れたと聞いたとき、どうして分からなかったのか。
それは簡単だ。
俺は仕事に行きたかったし、名前の話を聞こうともしなかった。
「名前から聞いたよ。ここ1週間ずっと、帰りは明け方の4時前らしいね。
で、5時過ぎには起きて6時に出勤してるんだから、倒れて当然だよ。
今日だって、名前からも休んだ方がいいって言われなかった?」
「あぁ。だから、追い出した。」
「へ?」
「勝手にハンジに仕事を休むと連絡した上、俺を絶対に仕事に行かさねぇと我儘を言い出しやがった。
俺に逆らうなという条件を守らなかったから、約束通り追い出した。」
「えっ?!それで、名前ちゃん、出て行っちゃったんですか!?」
驚くモブリットに、俺は肯定の返事をした。
この間、家に呑みに来たときに、名前が俺の家に居候することになった経緯について話していた。
だから、勝手に名前が居ついてしまったことは理解していたはずだが、出て行ったと知ったモブリットがショックを受けているのには、意外だった。
「それは本当に我儘だったの?」
「我儘だろ。自分のそばにいて欲しいからって
仕事に行くなと言いだすことは我儘以外のなんでもねぇ。」
「もう一度聞くよ、リヴァイ。君が見た名前は本当に、勝手な我儘を言っていた?」
真っすぐに俺を見るハンジの目を、どうしても見ていられなかった。
目を反らしたのは、俺が間違えていたと認めたのと同じようなことだ。
それを分かってはいながら、俺はそれでも、認めたくなかった。
「アイツが悪い。同じだったんだ。あのときと、一緒だった。
俺はもう、これ以上、何も失うわけにはいかねぇんだ。」
それは、自分に言い聞かせた言葉だった。
そして、本心だ。
今度こそ、俺は自分の大切なものも、自分も、しっかりと守ると決めたのだ。
でも、本当は、自分自身でも、あのときとは何かが違うことくらい気づいていた。
だって、涙を溜めた大きな瞳と唇を噛む傷ついた表情が、脳裏にチラついて離れなかったから。
胸が痛いのだ。震える小さな背中を見送ってからずっと、俺は肩が重たい。心が、重たい。
疲れでぼんやりした頭では理解出来ていなくても、きっと心は、間違えたのは俺だと気づいていたのだろう。
「まぁ…昔のこともあるし、私達は一度しか名前に会ったことないし、分からないけどさ。
少なくとも、私が電話で話した名前は、君の身体の心配だけをしてたように思えたよ。
でも、君が一番名前を知ってるだろうから、君が我儘だと言うならそうなのかもね。」
名前は昔の恋人と同じ、自分勝手に君を縛りつけて壊す重たい女だったんだねー。
自分のデスクに戻るとき、ハンジが最後にそう付け加えたその言葉が、俺の頭をグルグル回っていた。
思わず、ハンジに言い返そうとした俺は、何を言おうとしていたのだろう。
無駄話も終わり、パソコンにデータを打ち込む作業に戻っても、俺はずっと考えていた。
俺は、名前を貶したハンジの言葉にどうして、腹が立ったのだろう。
同じようなことを、自分は名前に言ったはずなのに、そう思った、はずなのに。