◇13ページ◇心と身体を蝕む束縛
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研究施設を出た俺がタクシーに乗り込んだ頃には、腕時計の針はもう日付を跨いでから3時間以上経っていることを示していた。
ここから家まで車で約30分はかかる。
仕事を早く終わらせるために出勤時間を普段よりも1時間程早くしているから、今夜も睡眠時間は1時間弱あればいい方だろう。
街灯もまばらな道を走るタクシーは、俺を暗闇の奥へと奥へと運んで行っているように思えた。
母親が倒れたとケニーから連絡があってから、もう1週間が経っていた。
それから毎日、俺は家には仮眠をとるために帰っているようなものだった。
それでも、本当はまだ時間が足りなくて、出来るのなら仮眠だってとりたくないくらいだったのだ。
母親の病気は、珍しい病だった。
でも、昔から例のないものなわけではない。
ただ、珍しい上に発見が難しい病のため、診断が下せる医師が極端に少なく、発見される前に死亡するケースが多いのが、珍しい病と言われることになってしまう所以だ。
それに、仮に発見できたとしても、既に進行していて手の施しようがないということが多いという文面を、手当たり次第に読み漁った文献に幾つも見つけた。
治療法についても、効果のあるものは確立されておらず、対処療法でどうにか生き長らえさせることは出来るかもしれないが、それもいつまで続けられるか分からない。
偶々、主治医であるナイルがその専門分野の権威だったおかげで、母親の場合は、比較的早期の発見だった。
それは、不幸中の幸いだったに違いない。
でも、このままでは病は進行して手遅れになっていく。
そう、時間がないのだ。
早く、治療方法を見つけなくてはならない。
だから俺は、仕事を定時で終わらせると、病院に寄って母親の顔を見た後に、以前勤めていた製薬会社の上司であるザックレーに頼み込んで、研究施設で新薬の開発研究をさせてもらっていた。
あそこなら、膨大な量の病のデータやその薬と効果についてのレポートを腐るほど調べることが出来る。
それを参考にしながら、なんとか新薬の開発を急いでいる。
昔の部下であるエルドやペトラ、グンタとオルオも出来るだけ遅くまで残って一緒に新薬の開発のために、手や知恵を貸してくれている。
でもー。
うまくいかないのだ。
何も、うまくいかない。
いつ母親の命が終わるか分からないから、毎日、病院に顔も出していた。
母親とケニーには、大したことのない病だが、とりあえずは意識不明となる程の重体になったのだから、検査入院をしようということになった、と適当に嘘を吐いた。
勘のいい2人がどれほど信じたかは分からないが、母親は比較的穏やかだった。
ケニーと顔を合わすことはなかったが、奴も昼間に毎日顔を出しているらしかった。
結局、俺達は似た者同士。
弱くて、怖いのだ。
俺達は、なんとしても、クシェルという柱を失ってしまうわけにはいかなかったー。
嫌に長く感じるタクシーの乗車時間が終わり、金を支払ってから車を降りた。
このとき、俺の頭の中のすべては、母親を助けることで埋め尽くされていた。
玄関を開ければ、いつも通り、バタバタと走って名前が駆けてきた。
記憶は定かではないのだけれど、この頃の名前はいつものような無邪気な笑顔で迎えてはくれていなかったと思う。
それでも、明け方直前に帰ってきて、夜が明けてすぐに家を出て行く俺に、名前が口を出すことはなかった。
「おかえりなさい。食事はしますか?」
「いい。風呂入って寝る。」
「分かりました。お風呂、出来てますから入ってください。」
「あぁ。」
ここ1週間の定番になっている会話を交わして、俺は風呂場へと向かった。
足取りが覚束なかったような、そんなつもりはなかったのだ。
でも、後から名前は、風呂場に向かう俺はフラフラしていたと言っていた。
きっと、俺の身体は限界だったのだろう。
風呂場で倒れたのなんて、このときが初めてだった。
ここから家まで車で約30分はかかる。
仕事を早く終わらせるために出勤時間を普段よりも1時間程早くしているから、今夜も睡眠時間は1時間弱あればいい方だろう。
街灯もまばらな道を走るタクシーは、俺を暗闇の奥へと奥へと運んで行っているように思えた。
母親が倒れたとケニーから連絡があってから、もう1週間が経っていた。
それから毎日、俺は家には仮眠をとるために帰っているようなものだった。
それでも、本当はまだ時間が足りなくて、出来るのなら仮眠だってとりたくないくらいだったのだ。
母親の病気は、珍しい病だった。
でも、昔から例のないものなわけではない。
ただ、珍しい上に発見が難しい病のため、診断が下せる医師が極端に少なく、発見される前に死亡するケースが多いのが、珍しい病と言われることになってしまう所以だ。
それに、仮に発見できたとしても、既に進行していて手の施しようがないということが多いという文面を、手当たり次第に読み漁った文献に幾つも見つけた。
治療法についても、効果のあるものは確立されておらず、対処療法でどうにか生き長らえさせることは出来るかもしれないが、それもいつまで続けられるか分からない。
偶々、主治医であるナイルがその専門分野の権威だったおかげで、母親の場合は、比較的早期の発見だった。
それは、不幸中の幸いだったに違いない。
でも、このままでは病は進行して手遅れになっていく。
そう、時間がないのだ。
早く、治療方法を見つけなくてはならない。
だから俺は、仕事を定時で終わらせると、病院に寄って母親の顔を見た後に、以前勤めていた製薬会社の上司であるザックレーに頼み込んで、研究施設で新薬の開発研究をさせてもらっていた。
あそこなら、膨大な量の病のデータやその薬と効果についてのレポートを腐るほど調べることが出来る。
それを参考にしながら、なんとか新薬の開発を急いでいる。
昔の部下であるエルドやペトラ、グンタとオルオも出来るだけ遅くまで残って一緒に新薬の開発のために、手や知恵を貸してくれている。
でもー。
うまくいかないのだ。
何も、うまくいかない。
いつ母親の命が終わるか分からないから、毎日、病院に顔も出していた。
母親とケニーには、大したことのない病だが、とりあえずは意識不明となる程の重体になったのだから、検査入院をしようということになった、と適当に嘘を吐いた。
勘のいい2人がどれほど信じたかは分からないが、母親は比較的穏やかだった。
ケニーと顔を合わすことはなかったが、奴も昼間に毎日顔を出しているらしかった。
結局、俺達は似た者同士。
弱くて、怖いのだ。
俺達は、なんとしても、クシェルという柱を失ってしまうわけにはいかなかったー。
嫌に長く感じるタクシーの乗車時間が終わり、金を支払ってから車を降りた。
このとき、俺の頭の中のすべては、母親を助けることで埋め尽くされていた。
玄関を開ければ、いつも通り、バタバタと走って名前が駆けてきた。
記憶は定かではないのだけれど、この頃の名前はいつものような無邪気な笑顔で迎えてはくれていなかったと思う。
それでも、明け方直前に帰ってきて、夜が明けてすぐに家を出て行く俺に、名前が口を出すことはなかった。
「おかえりなさい。食事はしますか?」
「いい。風呂入って寝る。」
「分かりました。お風呂、出来てますから入ってください。」
「あぁ。」
ここ1週間の定番になっている会話を交わして、俺は風呂場へと向かった。
足取りが覚束なかったような、そんなつもりはなかったのだ。
でも、後から名前は、風呂場に向かう俺はフラフラしていたと言っていた。
きっと、俺の身体は限界だったのだろう。
風呂場で倒れたのなんて、このときが初めてだった。