甘い罠に嵌めてくれるイケメンはいかがですか~Eren~
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珍しく定時帰り。
でも、まだ家に帰りたくない。
疲れたサラリーマンや楽しそうな恋人達をうまく避けながら歩くことは出来るのに、どうして失恋は避けられないんだろう。
そんなことを考えながら歩いていた私は、すれ違う人すら避けられずにスーツ姿の男性と肩がぶつかって、後ろにフラついてしまった。
「おっと…!」
ぶつかってしまった男性が、背中に大きな手を添えて、後ろに倒れていく私をなんとか支えてくれた。
片手で支えられちゃうなんてすごいなー。
そういえば、私が仕事のし過ぎで倒れたときも、彼は男性にしては小さな手で私の身体を楽々と支えてくれたなー。
それが、恋の始まりだったー。
「なんで、泣いてんだ…?」
私の背中に手を添えたままで、男性はとても驚き、戸惑っていた。
-------------
エレン・イェーガー、と彼は名乗った。
長めの髪を後ろでひとつに結んでいて、強い瞳が印象的な綺麗な顔の男性だ。
お互いに年齢は聞きあっていないけれど、たぶん、同じ歳くらいだと思う。
もしかしたら、スーツもとても似合っているし、落ち着いた雰囲気だから、少し上かもしれない。
彼のことを思い出して泣いてしまった私に付き合って、行きつけだという飲み屋に連れて行ってくれたとても優しいイケメンだ。
「好きな人がいるなんて…っ、知らなくて…っ。」
「気のある態度とってたくせに、ヒドイ男だな。」
「もう本当…っ、勝手に期待しちゃって、恥ずかしい…っ。
馬鹿みたい…っ。」
カウンター席に並んで座り、私は泣き言を繰り返す。
お酒もだいぶ進み、空になったグラスを店員がせっせと運んでいく。
それでも、私の失恋話はまだまだ続いていた。
冷たいと思われがちな彼が、優しくしてくれたり、時々食事に誘ったりしてくれたから、もしかして両思いなのかななんて勘違いしてしまっていた。
でも、偶然、彼に告白をしてフラれたという女子社員の話を聞いてしまった。
彼には、もう何年も想っている人がいると言われたのだそうだ。
そんなー。
何年も想っているなんて言われたら、諦めるしかないじゃないかー。
「よしよし。チビのくせになまえを弄ぶソイツが馬鹿野郎なんだよ。」
「…チビじゃない…。少し背が低めなだけ。それでも素敵なんだよ。
…あれ、もしかして私、チビって悪口言ってた?」
「言った言った。」
「うわぁ…。最低だ。」
「最低なのはそのチビだって。」
カウンターに突っ伏して泣き喚く私の頭をエレンが優しく撫でる。
顔を横に向けて、エレンを見上げる。
そこで、ひたすらに聞き役に徹してくれているエレンが、さっきからずっとコーラを飲んでいることに、今さら気が付いた。
「お酒、飲まないの?」
カウンターに突っ伏したままで、エレンを見上げて訊ねた。
すると、エレンは自分のグラスにチラッと視線を送った後に、肩をすくめた。
「俺の兄貴がそういうのにうるさくてさ。
見られてねぇのに、癖でついコーラ頼んじまった。」
「お兄さんがいるんだ」
「すげぇ怖ぇ。」
「そうなんだ。」
大袈裟に身体を震わせたエレンの目が本気過ぎて、私はクスリと笑ってしまう。
「あ、笑った。」
「実況しないで。」
どれだけずっと泣いていたのかと恥ずかしくなって、私はまたカウンターで顔を隠した。
隣から、ククッと喉を鳴らした笑い声が聞こえる。
今日、あのまま1人で家に帰ることにならなくて本当によかった。
肩がぶつかってしまったばっかりにエレンには知らない女の失恋に巻き込んでしまって本当に申し訳ないけれど、私は、エレンがいて、よかったー。
「普段も酒は飲まないんだけど、たまには付き合いで飲むこともあるよ。俺だって。」
「社会人には、付き合いは大事だもんね。」
「でも、今日、酒を飲まなかったのは兄貴のせいだけじゃねぇから。」
「怒られるからじゃないの?」
私はまた顔を横に向けて、エレンを見上げた。
エレンは、カウンターに右肘を乗せて、頬杖をついて私を私を見下ろしていた。
目が合った格好で、私はふと疑問に思う。
そういえば、なんでお酒を呑んだくらいでお兄さんに怒られないといけないのだろう。
すごく酒癖が悪いのかな。
「酔っぱらっちまったら、なまえとイイコトあっても、
忘れちまうかもしれないだろ?」
力強い瞳が少しだけ細くなるー。
ひどく妖艶なその表情は、まるで自分が垂らした恐ろしい罠に、朝露を宝石みたいに光らせて、蝶々を誘き寄せる蜘蛛みたいだった。
食べられると分かっているのに、私は蜘蛛の糸へと手繰り寄せられてー。
「なら、私も記憶がなくなっちゃう前に、お酒は止めとこう、かな…。」
「いい心がけだな。」
エレンが嬉しそうに微笑む。
たぶん、この瞬間だ。
私が、彼の罠に嵌まったのはー。
-------------------
「--なまえ、起きなくていいのか?」
誰かに肩を揺すられて、煩わしく思いながらも仕方なく瞼を押し上げた。
途端に、私の顔を心配そうに覗き込む力強い瞳がドアップで映った。
「きゃぁ…っ!」
思わず驚いて上ずった悲鳴を上げてしまう。
私の顔を覗き込んでいた彼の眉間に皴が寄る。
「まさか、昨日の夜のこと、忘れたとか言わないよな?」
「…エレン。」
「正解。」
エレンは満足気に言って、身体を起こした。
正直、断片的にしか覚えていないけれど、私が家に帰りたくないと誘った後、一緒にホテルに来たことはちゃんと覚えている。
引き締まった綺麗な身体で、頭が真っ白になるくらいに抱かれたこともー。
私はベッドの下に散らばる服を拾って、身に着けていく。
「ごめんね、私のせいでスーツが皺くちゃだね…。」
着替え終わった私は、エレンのスーツも拾って渡した。
エレンは、まだベッドの上に座って雑に腰に掛布団をかけただけの格好でのんびりとしていた。
「あぁ、いいよ、別に。どうせ、もう着ないし。」
着替える気はないのか、エレンはスーツを受け取ると適当にベッドの上に投げ捨てる。
昨夜は、ビシッと決まっていたはずの彼のスーツは、見るも無残な姿になっている。
「いつも着て行ってるんじゃないの?」
「昨日は先輩のとこに挨拶に行くために着てただけで、普段は私服なんだ。」
「へぇ、そうなんだ。」
うちの会社の男性社員はみんなスーツを着ているから、私服で働く男性というのはとても新鮮だ。
そんなことを思いながら、私は自分の着ている服を見直す。
とりあえず、伸ばせる皴は伸ばした。
エレンのようにスーツでもなく、仕事でも着られるような無難な私服だし、そこまで皴は目立っていない。
でも、昨日と同じ服ー。
今から家に帰って着替える時間はない。
私が昨日着ていた服なんて彼が覚えているとも思えないけれど、潔癖なくらいに清潔な彼に汚いと思われたらどうしようー。
(馬鹿だな。昨日会ったばかりのイケメンとホテルにいる時点で、汚いと思われるに決まってる…。)
ため息を吐いて、私はソファに投げ捨てていたバッグを手に取り肩にかけた。
「エレンはまだ出なくていいの?」
「授業は午後からだし、もう少し余韻に浸っていく。」
「余韻って。それじゃ、昨日はありがとうね。」
可笑しく笑った私は、部屋の扉を開けようとして、ふ、と気づく。
だから、振り向いて、彼に訊ねた。
「授業って?学校の先生か何かなの?」
「俺が?」
ベッドの上でのんびりと座って、余韻に浸っていたらしいエレンが、私の方を向いた。
「エレンが。」
「違うよ、教わる方。」
「教わる方?」
「俺、大学生だから。」
「…へ?」
「自己紹介、し直そうか?
エレン・イェーガー、大学一年、19歳。
-よろしく。」
エレンがしたり顔で口の端を上げる。
私の肩から、バッグがずり落ちた。
失恋の後、私は人生最大の失敗を犯してしまったらしいー。
まんまと罠に嵌まってしまった。
だって、私なんかよりもよっぽど妖艶な笑みを、誰が19歳だなんて思うだろう。
失恋の後は、
若いイケメンの甘い罠にご注意をー。
「なまえ、どうしたの?顔色悪いけど?」
「犯罪を…犯してしまった…。」
「は!?」
「どうしよう、ペトラ…。失恋とかもうどうでもよくなっちゃった…。」
「…よかったねって言えばいいのかな。」
でも、まだ家に帰りたくない。
疲れたサラリーマンや楽しそうな恋人達をうまく避けながら歩くことは出来るのに、どうして失恋は避けられないんだろう。
そんなことを考えながら歩いていた私は、すれ違う人すら避けられずにスーツ姿の男性と肩がぶつかって、後ろにフラついてしまった。
「おっと…!」
ぶつかってしまった男性が、背中に大きな手を添えて、後ろに倒れていく私をなんとか支えてくれた。
片手で支えられちゃうなんてすごいなー。
そういえば、私が仕事のし過ぎで倒れたときも、彼は男性にしては小さな手で私の身体を楽々と支えてくれたなー。
それが、恋の始まりだったー。
「なんで、泣いてんだ…?」
私の背中に手を添えたままで、男性はとても驚き、戸惑っていた。
-------------
エレン・イェーガー、と彼は名乗った。
長めの髪を後ろでひとつに結んでいて、強い瞳が印象的な綺麗な顔の男性だ。
お互いに年齢は聞きあっていないけれど、たぶん、同じ歳くらいだと思う。
もしかしたら、スーツもとても似合っているし、落ち着いた雰囲気だから、少し上かもしれない。
彼のことを思い出して泣いてしまった私に付き合って、行きつけだという飲み屋に連れて行ってくれたとても優しいイケメンだ。
「好きな人がいるなんて…っ、知らなくて…っ。」
「気のある態度とってたくせに、ヒドイ男だな。」
「もう本当…っ、勝手に期待しちゃって、恥ずかしい…っ。
馬鹿みたい…っ。」
カウンター席に並んで座り、私は泣き言を繰り返す。
お酒もだいぶ進み、空になったグラスを店員がせっせと運んでいく。
それでも、私の失恋話はまだまだ続いていた。
冷たいと思われがちな彼が、優しくしてくれたり、時々食事に誘ったりしてくれたから、もしかして両思いなのかななんて勘違いしてしまっていた。
でも、偶然、彼に告白をしてフラれたという女子社員の話を聞いてしまった。
彼には、もう何年も想っている人がいると言われたのだそうだ。
そんなー。
何年も想っているなんて言われたら、諦めるしかないじゃないかー。
「よしよし。チビのくせになまえを弄ぶソイツが馬鹿野郎なんだよ。」
「…チビじゃない…。少し背が低めなだけ。それでも素敵なんだよ。
…あれ、もしかして私、チビって悪口言ってた?」
「言った言った。」
「うわぁ…。最低だ。」
「最低なのはそのチビだって。」
カウンターに突っ伏して泣き喚く私の頭をエレンが優しく撫でる。
顔を横に向けて、エレンを見上げる。
そこで、ひたすらに聞き役に徹してくれているエレンが、さっきからずっとコーラを飲んでいることに、今さら気が付いた。
「お酒、飲まないの?」
カウンターに突っ伏したままで、エレンを見上げて訊ねた。
すると、エレンは自分のグラスにチラッと視線を送った後に、肩をすくめた。
「俺の兄貴がそういうのにうるさくてさ。
見られてねぇのに、癖でついコーラ頼んじまった。」
「お兄さんがいるんだ」
「すげぇ怖ぇ。」
「そうなんだ。」
大袈裟に身体を震わせたエレンの目が本気過ぎて、私はクスリと笑ってしまう。
「あ、笑った。」
「実況しないで。」
どれだけずっと泣いていたのかと恥ずかしくなって、私はまたカウンターで顔を隠した。
隣から、ククッと喉を鳴らした笑い声が聞こえる。
今日、あのまま1人で家に帰ることにならなくて本当によかった。
肩がぶつかってしまったばっかりにエレンには知らない女の失恋に巻き込んでしまって本当に申し訳ないけれど、私は、エレンがいて、よかったー。
「普段も酒は飲まないんだけど、たまには付き合いで飲むこともあるよ。俺だって。」
「社会人には、付き合いは大事だもんね。」
「でも、今日、酒を飲まなかったのは兄貴のせいだけじゃねぇから。」
「怒られるからじゃないの?」
私はまた顔を横に向けて、エレンを見上げた。
エレンは、カウンターに右肘を乗せて、頬杖をついて私を私を見下ろしていた。
目が合った格好で、私はふと疑問に思う。
そういえば、なんでお酒を呑んだくらいでお兄さんに怒られないといけないのだろう。
すごく酒癖が悪いのかな。
「酔っぱらっちまったら、なまえとイイコトあっても、
忘れちまうかもしれないだろ?」
力強い瞳が少しだけ細くなるー。
ひどく妖艶なその表情は、まるで自分が垂らした恐ろしい罠に、朝露を宝石みたいに光らせて、蝶々を誘き寄せる蜘蛛みたいだった。
食べられると分かっているのに、私は蜘蛛の糸へと手繰り寄せられてー。
「なら、私も記憶がなくなっちゃう前に、お酒は止めとこう、かな…。」
「いい心がけだな。」
エレンが嬉しそうに微笑む。
たぶん、この瞬間だ。
私が、彼の罠に嵌まったのはー。
-------------------
「--なまえ、起きなくていいのか?」
誰かに肩を揺すられて、煩わしく思いながらも仕方なく瞼を押し上げた。
途端に、私の顔を心配そうに覗き込む力強い瞳がドアップで映った。
「きゃぁ…っ!」
思わず驚いて上ずった悲鳴を上げてしまう。
私の顔を覗き込んでいた彼の眉間に皴が寄る。
「まさか、昨日の夜のこと、忘れたとか言わないよな?」
「…エレン。」
「正解。」
エレンは満足気に言って、身体を起こした。
正直、断片的にしか覚えていないけれど、私が家に帰りたくないと誘った後、一緒にホテルに来たことはちゃんと覚えている。
引き締まった綺麗な身体で、頭が真っ白になるくらいに抱かれたこともー。
私はベッドの下に散らばる服を拾って、身に着けていく。
「ごめんね、私のせいでスーツが皺くちゃだね…。」
着替え終わった私は、エレンのスーツも拾って渡した。
エレンは、まだベッドの上に座って雑に腰に掛布団をかけただけの格好でのんびりとしていた。
「あぁ、いいよ、別に。どうせ、もう着ないし。」
着替える気はないのか、エレンはスーツを受け取ると適当にベッドの上に投げ捨てる。
昨夜は、ビシッと決まっていたはずの彼のスーツは、見るも無残な姿になっている。
「いつも着て行ってるんじゃないの?」
「昨日は先輩のとこに挨拶に行くために着てただけで、普段は私服なんだ。」
「へぇ、そうなんだ。」
うちの会社の男性社員はみんなスーツを着ているから、私服で働く男性というのはとても新鮮だ。
そんなことを思いながら、私は自分の着ている服を見直す。
とりあえず、伸ばせる皴は伸ばした。
エレンのようにスーツでもなく、仕事でも着られるような無難な私服だし、そこまで皴は目立っていない。
でも、昨日と同じ服ー。
今から家に帰って着替える時間はない。
私が昨日着ていた服なんて彼が覚えているとも思えないけれど、潔癖なくらいに清潔な彼に汚いと思われたらどうしようー。
(馬鹿だな。昨日会ったばかりのイケメンとホテルにいる時点で、汚いと思われるに決まってる…。)
ため息を吐いて、私はソファに投げ捨てていたバッグを手に取り肩にかけた。
「エレンはまだ出なくていいの?」
「授業は午後からだし、もう少し余韻に浸っていく。」
「余韻って。それじゃ、昨日はありがとうね。」
可笑しく笑った私は、部屋の扉を開けようとして、ふ、と気づく。
だから、振り向いて、彼に訊ねた。
「授業って?学校の先生か何かなの?」
「俺が?」
ベッドの上でのんびりと座って、余韻に浸っていたらしいエレンが、私の方を向いた。
「エレンが。」
「違うよ、教わる方。」
「教わる方?」
「俺、大学生だから。」
「…へ?」
「自己紹介、し直そうか?
エレン・イェーガー、大学一年、19歳。
-よろしく。」
エレンがしたり顔で口の端を上げる。
私の肩から、バッグがずり落ちた。
失恋の後、私は人生最大の失敗を犯してしまったらしいー。
まんまと罠に嵌まってしまった。
だって、私なんかよりもよっぽど妖艶な笑みを、誰が19歳だなんて思うだろう。
失恋の後は、
若いイケメンの甘い罠にご注意をー。
「なまえ、どうしたの?顔色悪いけど?」
「犯罪を…犯してしまった…。」
「は!?」
「どうしよう、ペトラ…。失恋とかもうどうでもよくなっちゃった…。」
「…よかったねって言えばいいのかな。」
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