サザンカの愛でおくる
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
透き通るような青い空の下で、淡いピンク色の花が、はらはらと舞っていた。
何を考えているか分からないような無表情で無精ひげの大男には似合わない、可愛らしい花だけれど、今日の日だけは、それでいい気がした。
一輪の白い花を胸に握りしめ、彼を愛する人達が列を作って並んでいる。
彼の癖を面白おかしく話している友人の声に耳を傾けていると、不意に、強い風が吹いた。
地面に落ちたばかりの淡いピンク色の花が舞い上がる。
その瞬間に、いろんなことがぶわっと色鮮やかに蘇った。
初めて会った日、いきなり首のあたりを嗅がれて驚いたこと。
厳しい訓練についていけずに泣きそうだったとき、そっとフォローしてくれたこと。
どんな風に、私のことが好きだと告白して来たか、何度もからかったこと。
その度に耳まで赤くした彼は、顔を見られるのが恥ずかしくて、私を腕の中に抱きしめて視界を奪うのだ。
ドキドキして、でも嬉しくて、私はまた、思い出したみたいに何度もからかった。
どんな風に、抱きしめ返せばいいか分からなかった私の腕は、今ではもう、そこが居場所になったみたいに彼の背中にまわって、ギュッとしがみつけるようになっている。
そうしたら、彼の心臓もドキドキいっていて、それがすごく嬉しくて、仕方なかった。
「いかないで…。」
呟きさえも、花を舞わせる強い風に攫われて、誰の耳にも聞こえない。
彼にはもう二度と、届かない。
ハンジさんが、私の背中にそっと手を添えて、前へと歩くように促す。
一歩、一歩、私の足は、震えながら踏み出した。
そして、立ち止まったのは、大きな棺の前。
さっきまでは、自由の翼の腕章がひとつだけポツンと置かれていただけで空っぽだった棺の中は、彼を愛した人達の愛と感謝が込められた白い花で満たされていた。
その一番上に、私は、ピンク色のサザンカの花をそっと置く。
口下手な彼の告白は、花言葉に思いを込めて贈ってくれたサザンカの花だった。
私は、幸せだった。
彼に出逢えて、愛されて、幸せだった。
はらはらと舞って、兵士達を柔らかく包もうとしているサザンカの花の景色のように、私の人生を色鮮やかに色づけて、美しいものにしてくれた。
ハンジさんに支えられて、私は彼のいない棺から離れる。
彼の分隊の隊員達が、軽すぎる棺を持ち上げた。
大きく空いた穴に、棺が埋められていくのを眺めながら、明日から、いろんなことが変わっていくのだろうと漠然と感じていた。
いつも一緒にいたから、まだ全然現実として受け止められていなくて、悲しい夢を見ているだけな気がする。
もう少ししたら、「悲しい夢でも見たのか?いつもと匂いが違う。」なんておかしな気づき方をした彼が、この悲劇的な夢から私を目覚めさせてくれるんじゃないだろうか。
そんなことを、私はまだ、諦めきれずに願っている。
だって、もう二度と、彼に「おはよう。」と言えないなんて。
もう二度と、彼に「何かあったのか?いつもと匂いが違う。」なんて、おかしな察し方をされることもないなんて。
もう二度と——。
あぁ、もう二度と、彼の声は聞けないのか——。
神父様が、何かとても素敵なことを仰っていた。
でも、彼が時々、不意に口にしたおかしな冗談の方が、私には特別だった。
それだけで、どんなに大きな悩みも吹き飛んで、私は口を大きく開けて笑っていた。
そんなことまで思い出していたら、涙が出てきて、もう止まらなかった。
泣き崩れた私を、ハンジさんやリヴァイ兵長、たくさんの仲間が、支えてくれる。
抱きしめてくれる。
でも、いない。
そこに、彼だけが、いない。
ミケだけが、いないのが、こんなに悲しいなんて、ずっと一緒にいたから、知らなくて——。
こんなに素敵なサザンカの花を一緒に見られなかった
それが、今までで一番悲しい。今までで一番、苦しい。
眩暈がするほど散りだしたピンク色のサザンカの花が、棺が埋められてぽっかり空いた穴を埋め尽くすように降り積もっていく。
それはまるで、口下手な彼が一生懸命伝えてくれたたくさんの愛のようだった。
何を考えているか分からないような無表情で無精ひげの大男には似合わない、可愛らしい花だけれど、今日の日だけは、それでいい気がした。
一輪の白い花を胸に握りしめ、彼を愛する人達が列を作って並んでいる。
彼の癖を面白おかしく話している友人の声に耳を傾けていると、不意に、強い風が吹いた。
地面に落ちたばかりの淡いピンク色の花が舞い上がる。
その瞬間に、いろんなことがぶわっと色鮮やかに蘇った。
初めて会った日、いきなり首のあたりを嗅がれて驚いたこと。
厳しい訓練についていけずに泣きそうだったとき、そっとフォローしてくれたこと。
どんな風に、私のことが好きだと告白して来たか、何度もからかったこと。
その度に耳まで赤くした彼は、顔を見られるのが恥ずかしくて、私を腕の中に抱きしめて視界を奪うのだ。
ドキドキして、でも嬉しくて、私はまた、思い出したみたいに何度もからかった。
どんな風に、抱きしめ返せばいいか分からなかった私の腕は、今ではもう、そこが居場所になったみたいに彼の背中にまわって、ギュッとしがみつけるようになっている。
そうしたら、彼の心臓もドキドキいっていて、それがすごく嬉しくて、仕方なかった。
「いかないで…。」
呟きさえも、花を舞わせる強い風に攫われて、誰の耳にも聞こえない。
彼にはもう二度と、届かない。
ハンジさんが、私の背中にそっと手を添えて、前へと歩くように促す。
一歩、一歩、私の足は、震えながら踏み出した。
そして、立ち止まったのは、大きな棺の前。
さっきまでは、自由の翼の腕章がひとつだけポツンと置かれていただけで空っぽだった棺の中は、彼を愛した人達の愛と感謝が込められた白い花で満たされていた。
その一番上に、私は、ピンク色のサザンカの花をそっと置く。
口下手な彼の告白は、花言葉に思いを込めて贈ってくれたサザンカの花だった。
私は、幸せだった。
彼に出逢えて、愛されて、幸せだった。
はらはらと舞って、兵士達を柔らかく包もうとしているサザンカの花の景色のように、私の人生を色鮮やかに色づけて、美しいものにしてくれた。
ハンジさんに支えられて、私は彼のいない棺から離れる。
彼の分隊の隊員達が、軽すぎる棺を持ち上げた。
大きく空いた穴に、棺が埋められていくのを眺めながら、明日から、いろんなことが変わっていくのだろうと漠然と感じていた。
いつも一緒にいたから、まだ全然現実として受け止められていなくて、悲しい夢を見ているだけな気がする。
もう少ししたら、「悲しい夢でも見たのか?いつもと匂いが違う。」なんておかしな気づき方をした彼が、この悲劇的な夢から私を目覚めさせてくれるんじゃないだろうか。
そんなことを、私はまだ、諦めきれずに願っている。
だって、もう二度と、彼に「おはよう。」と言えないなんて。
もう二度と、彼に「何かあったのか?いつもと匂いが違う。」なんて、おかしな察し方をされることもないなんて。
もう二度と——。
あぁ、もう二度と、彼の声は聞けないのか——。
神父様が、何かとても素敵なことを仰っていた。
でも、彼が時々、不意に口にしたおかしな冗談の方が、私には特別だった。
それだけで、どんなに大きな悩みも吹き飛んで、私は口を大きく開けて笑っていた。
そんなことまで思い出していたら、涙が出てきて、もう止まらなかった。
泣き崩れた私を、ハンジさんやリヴァイ兵長、たくさんの仲間が、支えてくれる。
抱きしめてくれる。
でも、いない。
そこに、彼だけが、いない。
ミケだけが、いないのが、こんなに悲しいなんて、ずっと一緒にいたから、知らなくて——。
こんなに素敵なサザンカの花を一緒に見られなかった
それが、今までで一番悲しい。今までで一番、苦しい。
眩暈がするほど散りだしたピンク色のサザンカの花が、棺が埋められてぽっかり空いた穴を埋め尽くすように降り積もっていく。
それはまるで、口下手な彼が一生懸命伝えてくれたたくさんの愛のようだった。
1/1ページ