調査兵団の兵団服に着替えようとして開いたクローゼットの中には、白いロングワンピースが残っていた。
誰のものかなんて愚問過ぎる。
さっさと兵団服に着替え終えたリヴァイは、寝室の全身鏡の前に立ち尽くしていた。
あのとき、リヴァイがなまえの手を強引に引っ張って通り抜けた鏡だ。
こんな粉々に割れたつぎはぎだらけの全身鏡を捨てずに残しているのなんて、パラレルワールドも含めて、この世界のリヴァイだけに違いない。

「リヴァイ？」

ノックの音がしてすぐ、扉の向こうからハンジが心配そうに寝室を覗き込んだ。
そして、全身鏡の前にいるリヴァイを見ると、分かりやすいくらいに眉尻を下げた。

「会議に出て来ないから、体調でも悪いのかと思ったんだ。
　ー大丈夫かい？」
「あぁ、問題ねぇ。会議は…忘れてた。」
「君が？珍しいね。」

信じたかは分からないが、ハンジはそれ以上、追及することはしなかった。
今日の会議の議事録を持ってきてくれたようで、話を聞くために執務室へと向かう。
リヴァイがデスクの椅子に座ると、ハンジは早速、議事録と会議資料をリヴァイに渡す。
話を聞いても、資料を読んでも、半分も理解できないだろうが、兵士長のフリをすると言った手前、とりあえずカタチだけでもそれらしくしなければならない。

「というわけで、今後はマーレのー。」

この世界の情勢については、なまえから簡単に聞いていた。
とても危険な世界だと思っていたが、今日の会議内容を説明するハンジの話と会議資料を読む限り、最悪の時代は過ぎたようだ。

「－って感じかな。気になることがあれば、
　リヴァイからエルヴィンに伝えておいてよ。」
「あぁ、分かった。」

リヴァイは適当に答えると、デスクに資料の底をあてて整えた。
資料を片付けるために引き出しを開いたリヴァイは、リングケースを見つける。
少し考えてから、リングケースを手に取った。
開けると、持ち主の元へ行けないままの指輪が寂しそうにポツンと残っていた。

「なまえにあげるはずだった指輪だね。まだ持ってたんだ。」
「…あぁ。」

やっぱりそうかー。
そう思いながら、指輪を手に取り内側を見てみた。
この世界の文字は、知らない文字だったとなまえから聞いていた。
でも、見覚えのある文字で、なまえの名前が刻まれていた。
その隣にある日付は、なまえが行方不明になった日と重なる。
見なかったことにして、リヴァイは指輪をリングケースに戻す。

「俺も今日、プロポーズするはずだったんだがな。」

リングケースを引き出しの中に戻し、小さく呟く。
どっちが先に奪ったとかくだらないことを言うつもりはない。
でも、これであいこだ。
お互いに、恨みっこなしでいこうー。

「あれ？リヴァイ、そんなのあったっけ？」

ハンジが前屈みに覗き込んで、首を傾げた。