◇94話◇平和な世界で生きる彼女と友人達
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扉を開けた先は、薄暗い倉庫の中だった。
庭まで出たリヴァイは、見覚えのない大きな家を見上げる。
ここが、なまえとこの世界のリヴァイが一緒に暮らしている家かー。
なまえはまだ寝ていると思うが、そろそろ起きてくるかもしれないと言われている。
リヴァイは急いで玄関に向かい、預かっていた鍵で扉を開ける。
パラレルワールドでは文化が違うようで、室内では土足厳禁だと言われていたのを思い出して、上がりかけた足を止めてブーツを脱いだ。
玄関の棚の上に飾ってある写真を見つけて、リヴァイは写真立てを手に取る。
ここはたぶん、この家の前だ。
なまえと自分と同じ顔をした男を中心に、ファーランとイザベルが映っている。
仏頂面をした男を笑顔にしてやろうとしたのか、後ろにいるファーランが悪戯な笑みを浮かべて、リヴァイの口の両端を両手で摘まんで無理やり上げている。
それでも仏頂面のリヴァイの顔を、なまえとイザベルが大口を開けて笑っている。
(あぁ…そうか…。)
この世界では、ファーランも、イザベルも、生きている。
記憶にある姿よりも少し大人っぽくなっているけれど、澄ました笑みも馬鹿みたいな笑い方も、変わらないー。
とても幸せそうな写真だ。
そうか、よかったー。
リヴァイの記憶に最後に残ったのは、なまえの泣き顔だった。
それからずっと、リヴァイの中で、なまえはいつも泣いていた。
でも、ちゃんと、幸せな時間が彼女には流れていたのだー。
(部屋は2階だったか。)
写真立てを棚の上に戻したリヴァイは、2階へ向かう。
階段を上がりきった先には、幾つかの部屋があった。
奥から2番目の左側の部屋が、リヴァイの部屋だと聞いている。
扉を開けると、白と黒を基調とした落ち着いた部屋が出迎えた。
さすが自分だと感心するくらいに、掃除の行き届いた綺麗な部屋だ。
すぐにクローゼットを開けて、着替えを探す。
ハンガーにかかっている黒いシャツというのはすぐに見つかった。
デートにはこの服を着ていくつもりだったのだそうだ。
何だっていいと思うのだけれど、とりあえず、調査兵団の兵団服のままでもいられないので、言われた通り着替える。
ズボンの指定はされていなかったので、適当に目についたジーンズを履いた。
着替えを済ませたリヴァイは、1階に降りてキッチンへ向かった。
広いリビングにも棚の上に幾つかの写真が飾ってあった。
エルヴィンやハンジといった調査兵団での見知った顔が映っているものもある。
(よかった。結婚式、出られたんだな。)
ウェディングドレス姿のリコと頬を寄せ合って、幸せそうに笑うなまえの写真を見つけた。
リコの結婚式には出たかったー、と寂しそうに呟いたなまえのことも覚えている。
出席することが出来たのなら、よかった。
急がなければいけないことを思い出して、リヴァイは早足でキッチンへ向かった。
彼が言っていた通り、ダイニングテーブルの上には朝食が用意されていた。
カップは出してあるから、スープを温めて注いでおくようにと言われている。
そこまでしてやっと寝室で寝ているなまえを起こせー、らしい。
婚約していたなまえと同棲していたときと同じだ。
同じ、なのだー。
だから、今の彼らの想いがどれほどのものなのか、自分が一番分かってしまう。
スープ鍋が置いてあるコンロのスイッチを押したリヴァイは、長い息を吐いた。
それほど待たずに温まったスープをカップに注いでいると、リビングの方から足音が聞こえてきた。
なまえが起きて来たようだ。
急に、緊張して心臓が耳に痛いくらいに鳴り出す。
リヴァイは、スープを注いだカップをダイニングテーブルの上に置くと、じっと、その時を待った。
あぁ、こんなの久しぶりだー。
なまえは気づくだろうか。
2年ぶりの再会に、どんな顔をするのだろうー。
あぁ、彼女はどんな女性になっているのだろう。
もう、自分のものではない彼女はー。
「おはよう~…。」
まだ寝ぼけまなこのなまえは、フラフラの自分の足元を見ながらキッチンに入って来た。
目を伏せているせいで前髪が顔にかかって、表情は見えない。
でも、寝起きの気の抜けた可愛らしい声は記憶にあるままだ。
「…あぁ、おはよう。」
「喉渇いたぁ~…。リヴァイは何飲む…?」
なまえが真っ先に向かったのは、冷蔵庫だった。
扉を開けて、茶色の液体の入った入れ物を取り出した。
「…それ以外。」
「ん~…、牛乳?」
「あぁ、それでいい。」
「あーい。」
なまえはグラスに、茶色の液体と牛乳をそれぞれ注ぐと、それぞれの前に置いた。
「今日も美味しそう~。早く食べよう~。」
「あぁ、そうだな。」
向かい合うように座っても、なまえは眠たそうなままで、欠伸を噛み殺す顔を両手で隠していた。
いただきますー、そう言って両手を重ねたときもなまえは半分寝ているような顔で目を伏せていてー。
どれだけ眠たいのかと呆れる。
そんな気持ちすらも久しぶりで嬉しいのだ。
「あれ、今日はパン、焼いてないんだね。」
一口齧ったなまえが不思議そうに首を傾げながら、自分が持つ食パンを見下ろす。
スープは温めろと言われたけれど、パンを焼けとまでは言われていない。
「…あぁ、たまにはな。」
「柔らかいパンも美味しいもんね。」
ふふ、と笑って、なまえが漸く顔を上げた。
目が、合った。
あれから2年が経って、もう二度と会えないと思っていたなまえとー。
数秒、目が合ったままでなまえが黙ってしまう。
さっきまで寝ぼけまなこだった彼女が、じーっと食い入るようにリヴァイをまっすぐに見つめる。
願望かもしれない。でも、まるで、何かを探るみたいに思えた。
もしかして、気づいてくれたのだろうかー。
そう思ってしまって、答えを知るまでのその時間がひどく長く感じた。
でもー。
「半袖、珍しいね。」
なまえが見ていたのは、服の方だったらしい。
「あぁ…、今日はデートだから。これを着ようと思ってたんだ。」
「デートだから?ふふ、そっか。
そのシャツすごく似合うよ。今日もカッコいい。」
「…あぁ、ありがとう。」
クシャリとなまえが笑う。
懐かしい笑顔のままだ。
とても愛おしいと思うのに、心はひどく重たい。
なまえが今、誰よりも素敵だと思うのは、自分ではなくてあの男なのだー。
分かっていたから、構わない。
今日は、なまえが幸せでいることが分かればそれでいいと決めて来たのだ。
そして、願わくば、最後の記憶をなまえの笑顔に書き換えたくてー。
「デートって言ってたが、今日はずっと家にいないか。」
文化も違えば、おそらく、自分のいる世界よりもだいぶ文明の発達しているこの世界で、あの男のフリを自然に出来る自信はなかった。
見抜いて欲しいという気持ちも、正直ある。
でも、いきなりの2年越しの再会で、幸せになっているなまえを戸惑わせることはしたくない。
「ん~、いいよ。あ、でも、一旦、午前中だけ会社に行ってもいい?」
「今日は休みだろ、何かあるのか。」
「読んでおかなきゃいけないメールがあるの忘れてて。
確認したいこともあるし。
その後、お昼ご飯でも食べて帰ろうよ。」
「あぁ、構わねぇ。」
「じゃあ、決まりね。」
なまえは、ニッと笑うと、焼いていないパンをとても幸せそうに齧った。
「食べないの?」
「あぁ…!食う。」
そういえば、自分もまだ朝食を済ませていなかったことを思い出した。
試しにスープを飲んでみると、なかなか美味しい。
この世界のリヴァイという男は、料理が得意らしい。
庭まで出たリヴァイは、見覚えのない大きな家を見上げる。
ここが、なまえとこの世界のリヴァイが一緒に暮らしている家かー。
なまえはまだ寝ていると思うが、そろそろ起きてくるかもしれないと言われている。
リヴァイは急いで玄関に向かい、預かっていた鍵で扉を開ける。
パラレルワールドでは文化が違うようで、室内では土足厳禁だと言われていたのを思い出して、上がりかけた足を止めてブーツを脱いだ。
玄関の棚の上に飾ってある写真を見つけて、リヴァイは写真立てを手に取る。
ここはたぶん、この家の前だ。
なまえと自分と同じ顔をした男を中心に、ファーランとイザベルが映っている。
仏頂面をした男を笑顔にしてやろうとしたのか、後ろにいるファーランが悪戯な笑みを浮かべて、リヴァイの口の両端を両手で摘まんで無理やり上げている。
それでも仏頂面のリヴァイの顔を、なまえとイザベルが大口を開けて笑っている。
(あぁ…そうか…。)
この世界では、ファーランも、イザベルも、生きている。
記憶にある姿よりも少し大人っぽくなっているけれど、澄ました笑みも馬鹿みたいな笑い方も、変わらないー。
とても幸せそうな写真だ。
そうか、よかったー。
リヴァイの記憶に最後に残ったのは、なまえの泣き顔だった。
それからずっと、リヴァイの中で、なまえはいつも泣いていた。
でも、ちゃんと、幸せな時間が彼女には流れていたのだー。
(部屋は2階だったか。)
写真立てを棚の上に戻したリヴァイは、2階へ向かう。
階段を上がりきった先には、幾つかの部屋があった。
奥から2番目の左側の部屋が、リヴァイの部屋だと聞いている。
扉を開けると、白と黒を基調とした落ち着いた部屋が出迎えた。
さすが自分だと感心するくらいに、掃除の行き届いた綺麗な部屋だ。
すぐにクローゼットを開けて、着替えを探す。
ハンガーにかかっている黒いシャツというのはすぐに見つかった。
デートにはこの服を着ていくつもりだったのだそうだ。
何だっていいと思うのだけれど、とりあえず、調査兵団の兵団服のままでもいられないので、言われた通り着替える。
ズボンの指定はされていなかったので、適当に目についたジーンズを履いた。
着替えを済ませたリヴァイは、1階に降りてキッチンへ向かった。
広いリビングにも棚の上に幾つかの写真が飾ってあった。
エルヴィンやハンジといった調査兵団での見知った顔が映っているものもある。
(よかった。結婚式、出られたんだな。)
ウェディングドレス姿のリコと頬を寄せ合って、幸せそうに笑うなまえの写真を見つけた。
リコの結婚式には出たかったー、と寂しそうに呟いたなまえのことも覚えている。
出席することが出来たのなら、よかった。
急がなければいけないことを思い出して、リヴァイは早足でキッチンへ向かった。
彼が言っていた通り、ダイニングテーブルの上には朝食が用意されていた。
カップは出してあるから、スープを温めて注いでおくようにと言われている。
そこまでしてやっと寝室で寝ているなまえを起こせー、らしい。
婚約していたなまえと同棲していたときと同じだ。
同じ、なのだー。
だから、今の彼らの想いがどれほどのものなのか、自分が一番分かってしまう。
スープ鍋が置いてあるコンロのスイッチを押したリヴァイは、長い息を吐いた。
それほど待たずに温まったスープをカップに注いでいると、リビングの方から足音が聞こえてきた。
なまえが起きて来たようだ。
急に、緊張して心臓が耳に痛いくらいに鳴り出す。
リヴァイは、スープを注いだカップをダイニングテーブルの上に置くと、じっと、その時を待った。
あぁ、こんなの久しぶりだー。
なまえは気づくだろうか。
2年ぶりの再会に、どんな顔をするのだろうー。
あぁ、彼女はどんな女性になっているのだろう。
もう、自分のものではない彼女はー。
「おはよう~…。」
まだ寝ぼけまなこのなまえは、フラフラの自分の足元を見ながらキッチンに入って来た。
目を伏せているせいで前髪が顔にかかって、表情は見えない。
でも、寝起きの気の抜けた可愛らしい声は記憶にあるままだ。
「…あぁ、おはよう。」
「喉渇いたぁ~…。リヴァイは何飲む…?」
なまえが真っ先に向かったのは、冷蔵庫だった。
扉を開けて、茶色の液体の入った入れ物を取り出した。
「…それ以外。」
「ん~…、牛乳?」
「あぁ、それでいい。」
「あーい。」
なまえはグラスに、茶色の液体と牛乳をそれぞれ注ぐと、それぞれの前に置いた。
「今日も美味しそう~。早く食べよう~。」
「あぁ、そうだな。」
向かい合うように座っても、なまえは眠たそうなままで、欠伸を噛み殺す顔を両手で隠していた。
いただきますー、そう言って両手を重ねたときもなまえは半分寝ているような顔で目を伏せていてー。
どれだけ眠たいのかと呆れる。
そんな気持ちすらも久しぶりで嬉しいのだ。
「あれ、今日はパン、焼いてないんだね。」
一口齧ったなまえが不思議そうに首を傾げながら、自分が持つ食パンを見下ろす。
スープは温めろと言われたけれど、パンを焼けとまでは言われていない。
「…あぁ、たまにはな。」
「柔らかいパンも美味しいもんね。」
ふふ、と笑って、なまえが漸く顔を上げた。
目が、合った。
あれから2年が経って、もう二度と会えないと思っていたなまえとー。
数秒、目が合ったままでなまえが黙ってしまう。
さっきまで寝ぼけまなこだった彼女が、じーっと食い入るようにリヴァイをまっすぐに見つめる。
願望かもしれない。でも、まるで、何かを探るみたいに思えた。
もしかして、気づいてくれたのだろうかー。
そう思ってしまって、答えを知るまでのその時間がひどく長く感じた。
でもー。
「半袖、珍しいね。」
なまえが見ていたのは、服の方だったらしい。
「あぁ…、今日はデートだから。これを着ようと思ってたんだ。」
「デートだから?ふふ、そっか。
そのシャツすごく似合うよ。今日もカッコいい。」
「…あぁ、ありがとう。」
クシャリとなまえが笑う。
懐かしい笑顔のままだ。
とても愛おしいと思うのに、心はひどく重たい。
なまえが今、誰よりも素敵だと思うのは、自分ではなくてあの男なのだー。
分かっていたから、構わない。
今日は、なまえが幸せでいることが分かればそれでいいと決めて来たのだ。
そして、願わくば、最後の記憶をなまえの笑顔に書き換えたくてー。
「デートって言ってたが、今日はずっと家にいないか。」
文化も違えば、おそらく、自分のいる世界よりもだいぶ文明の発達しているこの世界で、あの男のフリを自然に出来る自信はなかった。
見抜いて欲しいという気持ちも、正直ある。
でも、いきなりの2年越しの再会で、幸せになっているなまえを戸惑わせることはしたくない。
「ん~、いいよ。あ、でも、一旦、午前中だけ会社に行ってもいい?」
「今日は休みだろ、何かあるのか。」
「読んでおかなきゃいけないメールがあるの忘れてて。
確認したいこともあるし。
その後、お昼ご飯でも食べて帰ろうよ。」
「あぁ、構わねぇ。」
「じゃあ、決まりね。」
なまえは、ニッと笑うと、焼いていないパンをとても幸せそうに齧った。
「食べないの?」
「あぁ…!食う。」
そういえば、自分もまだ朝食を済ませていなかったことを思い出した。
試しにスープを飲んでみると、なかなか美味しい。
この世界のリヴァイという男は、料理が得意らしい。