◇88話◇ドラマの最終回
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テレビと言うよりも、スクリーンと呼んだ方が正しそうな巨大インチ画面の向こうで、運命によって導かれた2人がとても幸せそうに抱き合っている。
大きなソファの上で膝を抱えて座る私は、両手を結んでこれからの2人の行く末に幸せがあることを祈っていた。
前に、ファーランから悲しい結末を聞いてしまっていたのにー。
あの過ちのあとも、彼の態度は本当に何も変わらなかった。
それでもやっぱり、また私が彼を襲うなんてことがあったら怖いから、ウィークリーマンションでも借りると言ったのだけれど、どうせあと2週間なのだから無駄なお金を使う必要はないと、引っ越し貧乏の私の経済問題まで心配してくれたので、結局甘えてしまっている。
そんな冷たいのか、優しいのか分からない彼だけれど、今日は、ハンジの実験に付き合う約束があったらしくまだ帰って来ていない。
予め鍵を借りておいたので、私は先に帰って、夕食もお風呂も全て済ませて、ドラマを観ているというわけだ。
でも、それにしても遅いんじゃないだろうかー。
時計を見てみると、もう10時を過ぎている。
今日は定時で帰るように会社が推奨している日で、殆どの社員が早い時間に仕事を切り上げているはずだ。
まぁ、変人部署はそういう会社のルールは関係ないのかもしれないけれどー。
そんなことを思っていると、玄関の鍵が開く音がした。
帰って来たようだ。
帰ったらまずは洗面所に向かう彼が、手を洗う水音がし始めた後、廊下を歩く音が続き、リビングまでやって来たのが分かった。
「遅かったね。」
「あのクソ眼鏡のせいでな。
これ、アイツから、興味深くて面白かった、だとよ。」
リヴァイが紙袋を私に差し出す。
受け取って中身を確認すれば、数日前に、ハンジにお願いされて貸していた服だった。
パラレルワールドから帰って来た時に着ていた服で、この世界の生地と成分は同じなのかを知りたかったのだそうだ。
ハンジのことだから、皺くちゃになって返ってくるかと思っていたのだが、綺麗にたたまれていて驚いた。
透明のビニール生地の小袋には、リヴァイから貰ったネックレスが入っていた。
「そっか。よくわかんないけど、役に立ったならよかった。」
彼にニコリと微笑んでから、私はビニール生地の小袋からネックレスを取り出す。
ファーランが口を滑らせて、行方不明になっていた私がパラレルワールドに飛んでいたことをハンジに知られてしまったとリヴァイから聞いたのも数日前だった。
好奇心旺盛のハンジはすぐに興味を持って、どうかパラレルワールドで手に入れたものを貸して欲しいと懇願されたのだ。
服くらいならー。
そう思ったのだけれど、宝石があるのならそれが一番欲しいと言ってきかなくて、全然引いてくれなくて、ほとんど奪われるようなカタチで貸すことになってしまってー。
でも、こうしてきちんと綺麗に戻ってきて本当によかった。
「貸せ。つけてやる。」
首の後ろにチェーンをまわし、金具を引っかけようとしていたのだが、なかなかうまくいかない。
見かねたのか、彼が手を出してきた。
でもー。
「自分でつけるから、大丈夫。でも、ありがとうね。」
これは、リヴァイから貰った大切なネックレスだ。
リコから、このネックレスに込められた想いを聞いてからは、もっともっと大切になった。
だから、他の男の人につけてもらうことは、出来ない。
「…そうか。好きにしろ。」
彼は興味なさそうに言って、寝室へと入って行く。
首の後ろにまわしたネックレスの金具と格闘すること15分、自分の不器用さに絶望しそうになりながらもなんとかネックレスをつけることに成功した。
シャワーを浴びるのが驚くほど速い彼も、あっという間に部屋着に着替えたらしく、リビングにやって来て、ソファに座る私の隣に腰を降ろした。
片手にはスープの入ったマグカップ、もう片方の手に持っている皿には、サンドイッチが乗っている。
彼が帰って来たときに、夕飯がまだだったら食べてもらおうと思って作っておいたものだ。
ネックレスをつけるのに夢中になって忘れていた。
でも、自分のために用意されたものだと彼も分かってくれたようなのでよかった。
「こんな時間にドラマなんかやってんのか。」
ソファ横のサイドテーブルにマグカップを置いた彼は、サンドイッチを頬張る。
「ファーランが録画してたらしくて、借りて来たの。
最終回の目前で、向こうに飛ばされちゃって見てなかったから。」
「あ~、イザベルがハマってたやつか。」
暗に、自分は興味ない、と言いながらも、リヴァイはサンドイッチを頬張りながらドラマを観始めた。
ドラマはちょうどクライマックスに入っていた。
共に生きようと決めた2人を残酷な運命が引き裂こうとするー。
それでも、一度は手を取り合ったのだけれどー。
≪幸せになれよ。≫
≪うん…。出逢えて、よかったって思ってくれる…?≫
≪感謝してる。≫
≪私も…。≫
≪愛してる。いや、…愛してた。≫
≪私も、愛してた。さようなら。≫
愛し合う2人の最後のセリフが、あまりにも切なくてー。
大好きなイケメン俳優のセリフが、あのときのリヴァイの最後の言葉と重なった。
あぁー。
現実もドラマも同じ。住む世界が違う人間は、結ばれないのだ。
運命は、抗おうとする反逆者を決して許さない。
自分の敷いたレールの上を歩けと私達を操りたがるのだー。
画面の向こうの2人が、最後のキスを交わすー。
(いいな…。)
でもやっぱり、ドラマの2人の方が幸せだ。
お互いに納得して、最後にキスをして、お別れが出来るのだからー。
リヴァイは、最後のキスをしたつもりだったのかもしれない。
お別れの覚悟をしたのかもしれない。
でも、私はー。
「…---っ。」
喉の奥から涙がせり上がって、溢れていくみたいだった。
苦しくなって、私は近くのクッションを掴むと、折り曲げた膝の上に乗せて顔を伏せた。
どうして、サヨナラしなくちゃいけないのー。
私はまだ、納得なんて出来ていないのだ。
会いたい。リヴァイに会いたい。
触れて欲しい。
大丈夫だよ、ずっとそばにいるよって、いつもみたいに髪をクシャッてしてほしくてー。
そんな願いが聞こえたわけのない彼が、まるでリヴァイみたいに私の髪をクシャリと撫でた。
あぁ、やめてー。
私は縋ってしまうー。
リヴァイみたいな彼に、縋ってー。
クシャリと撫でてくれた手をそのままにして、彼が私の頭を押して自分の胸元へと抱き寄せた。
ふわりと香る紅茶と石鹸の匂いは、リヴァイと同じだー。
「----っ。」
声にならない嗚咽を漏らして、私は彼のシャツの胸元をギュッと握りしめて泣いた。
子供みたいに泣きじゃくった。
リヴァイを想って、リヴァイに会いたくて、リヴァイが恋しくてー。
「ドラマの最終回でこんなに馬鹿みてぇに泣くやつ初めて見たな。」
彼が呆れたように言う。
どうして泣いてるか、一緒にドラマを観ていたのなら分かっているくせにー。
本当に、どこまで優しいんだろうー。
顔は怖いし、態度は冷たいのにー。
「あ…。悪い、髪にマヨネーズついた。」
「は!?」
驚いて、思わず顔を上げてしまった。
慌てて髪を触ると、本当にベトっとしたものが触れた。
指を見てみれば、マヨネーズがしっかりついている。
「髪洗ったばっかりなのに…!」
「またシャワー浴びて来ればいいじゃねぇか。
ちょうどドラマも終わったところだし。」
「終わったら、寝ようと思ってたの…!
もう~~、なんでマヨネーズなんてつけるの!?」
「指についてるの忘れてた。」
「忘れないでよ!!」
「うるせぇな。だから、謝ったじゃねぇか。」
「はぁ…、シャワー浴びてくる…。」
ため息を吐いて、私はソファから立ち上がる。
他人の髪にマヨネーズをつけておいて、平然としている彼には腹が立ったが、これ以上、文句を言うことも出来なかった。
そもそも、泣いていた私を慰めようとしてくれたのだ。
結局、私の涙を止めてくれたのは、彼ではなくて、マヨネーズだったけれどー。
「お詫びに、俺が頭洗ってやろうか?」
「結構です!!」
振り返って、彼を睨みつける。
意地悪く口元を歪めた彼は、私をからかうときのリヴァイと同じ顔をしていた。
あぁ、きっとー。
マヨネーズもわざとだ。
バスルームへ向かう私は、堪えきれない笑いが止まらなかった。
大きなソファの上で膝を抱えて座る私は、両手を結んでこれからの2人の行く末に幸せがあることを祈っていた。
前に、ファーランから悲しい結末を聞いてしまっていたのにー。
あの過ちのあとも、彼の態度は本当に何も変わらなかった。
それでもやっぱり、また私が彼を襲うなんてことがあったら怖いから、ウィークリーマンションでも借りると言ったのだけれど、どうせあと2週間なのだから無駄なお金を使う必要はないと、引っ越し貧乏の私の経済問題まで心配してくれたので、結局甘えてしまっている。
そんな冷たいのか、優しいのか分からない彼だけれど、今日は、ハンジの実験に付き合う約束があったらしくまだ帰って来ていない。
予め鍵を借りておいたので、私は先に帰って、夕食もお風呂も全て済ませて、ドラマを観ているというわけだ。
でも、それにしても遅いんじゃないだろうかー。
時計を見てみると、もう10時を過ぎている。
今日は定時で帰るように会社が推奨している日で、殆どの社員が早い時間に仕事を切り上げているはずだ。
まぁ、変人部署はそういう会社のルールは関係ないのかもしれないけれどー。
そんなことを思っていると、玄関の鍵が開く音がした。
帰って来たようだ。
帰ったらまずは洗面所に向かう彼が、手を洗う水音がし始めた後、廊下を歩く音が続き、リビングまでやって来たのが分かった。
「遅かったね。」
「あのクソ眼鏡のせいでな。
これ、アイツから、興味深くて面白かった、だとよ。」
リヴァイが紙袋を私に差し出す。
受け取って中身を確認すれば、数日前に、ハンジにお願いされて貸していた服だった。
パラレルワールドから帰って来た時に着ていた服で、この世界の生地と成分は同じなのかを知りたかったのだそうだ。
ハンジのことだから、皺くちゃになって返ってくるかと思っていたのだが、綺麗にたたまれていて驚いた。
透明のビニール生地の小袋には、リヴァイから貰ったネックレスが入っていた。
「そっか。よくわかんないけど、役に立ったならよかった。」
彼にニコリと微笑んでから、私はビニール生地の小袋からネックレスを取り出す。
ファーランが口を滑らせて、行方不明になっていた私がパラレルワールドに飛んでいたことをハンジに知られてしまったとリヴァイから聞いたのも数日前だった。
好奇心旺盛のハンジはすぐに興味を持って、どうかパラレルワールドで手に入れたものを貸して欲しいと懇願されたのだ。
服くらいならー。
そう思ったのだけれど、宝石があるのならそれが一番欲しいと言ってきかなくて、全然引いてくれなくて、ほとんど奪われるようなカタチで貸すことになってしまってー。
でも、こうしてきちんと綺麗に戻ってきて本当によかった。
「貸せ。つけてやる。」
首の後ろにチェーンをまわし、金具を引っかけようとしていたのだが、なかなかうまくいかない。
見かねたのか、彼が手を出してきた。
でもー。
「自分でつけるから、大丈夫。でも、ありがとうね。」
これは、リヴァイから貰った大切なネックレスだ。
リコから、このネックレスに込められた想いを聞いてからは、もっともっと大切になった。
だから、他の男の人につけてもらうことは、出来ない。
「…そうか。好きにしろ。」
彼は興味なさそうに言って、寝室へと入って行く。
首の後ろにまわしたネックレスの金具と格闘すること15分、自分の不器用さに絶望しそうになりながらもなんとかネックレスをつけることに成功した。
シャワーを浴びるのが驚くほど速い彼も、あっという間に部屋着に着替えたらしく、リビングにやって来て、ソファに座る私の隣に腰を降ろした。
片手にはスープの入ったマグカップ、もう片方の手に持っている皿には、サンドイッチが乗っている。
彼が帰って来たときに、夕飯がまだだったら食べてもらおうと思って作っておいたものだ。
ネックレスをつけるのに夢中になって忘れていた。
でも、自分のために用意されたものだと彼も分かってくれたようなのでよかった。
「こんな時間にドラマなんかやってんのか。」
ソファ横のサイドテーブルにマグカップを置いた彼は、サンドイッチを頬張る。
「ファーランが録画してたらしくて、借りて来たの。
最終回の目前で、向こうに飛ばされちゃって見てなかったから。」
「あ~、イザベルがハマってたやつか。」
暗に、自分は興味ない、と言いながらも、リヴァイはサンドイッチを頬張りながらドラマを観始めた。
ドラマはちょうどクライマックスに入っていた。
共に生きようと決めた2人を残酷な運命が引き裂こうとするー。
それでも、一度は手を取り合ったのだけれどー。
≪幸せになれよ。≫
≪うん…。出逢えて、よかったって思ってくれる…?≫
≪感謝してる。≫
≪私も…。≫
≪愛してる。いや、…愛してた。≫
≪私も、愛してた。さようなら。≫
愛し合う2人の最後のセリフが、あまりにも切なくてー。
大好きなイケメン俳優のセリフが、あのときのリヴァイの最後の言葉と重なった。
あぁー。
現実もドラマも同じ。住む世界が違う人間は、結ばれないのだ。
運命は、抗おうとする反逆者を決して許さない。
自分の敷いたレールの上を歩けと私達を操りたがるのだー。
画面の向こうの2人が、最後のキスを交わすー。
(いいな…。)
でもやっぱり、ドラマの2人の方が幸せだ。
お互いに納得して、最後にキスをして、お別れが出来るのだからー。
リヴァイは、最後のキスをしたつもりだったのかもしれない。
お別れの覚悟をしたのかもしれない。
でも、私はー。
「…---っ。」
喉の奥から涙がせり上がって、溢れていくみたいだった。
苦しくなって、私は近くのクッションを掴むと、折り曲げた膝の上に乗せて顔を伏せた。
どうして、サヨナラしなくちゃいけないのー。
私はまだ、納得なんて出来ていないのだ。
会いたい。リヴァイに会いたい。
触れて欲しい。
大丈夫だよ、ずっとそばにいるよって、いつもみたいに髪をクシャッてしてほしくてー。
そんな願いが聞こえたわけのない彼が、まるでリヴァイみたいに私の髪をクシャリと撫でた。
あぁ、やめてー。
私は縋ってしまうー。
リヴァイみたいな彼に、縋ってー。
クシャリと撫でてくれた手をそのままにして、彼が私の頭を押して自分の胸元へと抱き寄せた。
ふわりと香る紅茶と石鹸の匂いは、リヴァイと同じだー。
「----っ。」
声にならない嗚咽を漏らして、私は彼のシャツの胸元をギュッと握りしめて泣いた。
子供みたいに泣きじゃくった。
リヴァイを想って、リヴァイに会いたくて、リヴァイが恋しくてー。
「ドラマの最終回でこんなに馬鹿みてぇに泣くやつ初めて見たな。」
彼が呆れたように言う。
どうして泣いてるか、一緒にドラマを観ていたのなら分かっているくせにー。
本当に、どこまで優しいんだろうー。
顔は怖いし、態度は冷たいのにー。
「あ…。悪い、髪にマヨネーズついた。」
「は!?」
驚いて、思わず顔を上げてしまった。
慌てて髪を触ると、本当にベトっとしたものが触れた。
指を見てみれば、マヨネーズがしっかりついている。
「髪洗ったばっかりなのに…!」
「またシャワー浴びて来ればいいじゃねぇか。
ちょうどドラマも終わったところだし。」
「終わったら、寝ようと思ってたの…!
もう~~、なんでマヨネーズなんてつけるの!?」
「指についてるの忘れてた。」
「忘れないでよ!!」
「うるせぇな。だから、謝ったじゃねぇか。」
「はぁ…、シャワー浴びてくる…。」
ため息を吐いて、私はソファから立ち上がる。
他人の髪にマヨネーズをつけておいて、平然としている彼には腹が立ったが、これ以上、文句を言うことも出来なかった。
そもそも、泣いていた私を慰めようとしてくれたのだ。
結局、私の涙を止めてくれたのは、彼ではなくて、マヨネーズだったけれどー。
「お詫びに、俺が頭洗ってやろうか?」
「結構です!!」
振り返って、彼を睨みつける。
意地悪く口元を歪めた彼は、私をからかうときのリヴァイと同じ顔をしていた。
あぁ、きっとー。
マヨネーズもわざとだ。
バスルームへ向かう私は、堪えきれない笑いが止まらなかった。