◇85話◇お迎え
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音楽の鳴り響く中、ステージを独り占めしている我が部署のトップは、さっきから気持ちよさそうに歌を歌っていた。
広いとは言えない部屋に大人が大勢詰め込まれ、素人の歌を披露されるー。
そのどこに面白さを見出せばいいのか、昔からどうしても理解出来ない。
二次会どころか三次会のカラオケにまで強引に参加させられたリヴァイは、不機嫌なオーラを隠しもせず、ずっとスマホを扱っていた。
何が嬉しくて、エルヴィンのカレーの歌を聴かなければならないのだ。
選曲のセンスが不可解過ぎるー。
妙に歌が上手いのも腹が立つ。
楽しいことが大好きなハンジはともかく、モブリットまでしっかりと合いの手を打ってやっていた。
それがまた酔っ払いエルヴィンを気持ちよくさせて、助長させているのだと気づいているのだろうか。
歓迎会の主役である学生達は、上司の歌を聴く気はサラサラないようで、各々好きにお喋りをしたり、テーブルの上に並べられた軽食を平らげようとしている。
音楽の響く狭い部屋では、自然と会話する声も大きくなる。
天井で回るミラーボールが騒々しさを際立たせていた。
そのせいで、スマホの画面も見づらい気がする。
「リヴァイは歌わないのぉ〜?歌声聴きたぁ〜い。」
「歌わねぇ。」
「えぇ〜、デュエットしようよ〜。」
「眉毛としとけ。」
「え~、私はリヴァイとぉー。」
耳に煩わしい猫撫で声で喚いている誘いはまだ続いていたが、適当に聞き流した。
真冬に胸元の開いた下品なシャツを着て、わざとらしく胸を押しつけながら腕にまとわりつくこの女、名前を覚える気もないけれど、企画調査部の社員ではなかったはずだ。
今夜の歓迎会をどこで聞きつけたのか、最初から勝手に参加して、ずっと隣をキープされている。
なまえも毎晩目のやり場に困るようなパジャマを着ているけれど、下品さなんてない。
むしろ、生娘のように無垢に見えるのに、アンバランスな艶かしい生脚が男心をくすぐるのだと思う。
そもそもなまえは、男を前に危機感が足りな過ぎる。
パジャマの下がノーブラだと知ってしまってから、胸の揺れが気になってしまって、まともになまえを見れないのだ。
中学生の男子かと自分に呆れる。
ファーランの方をチラリと見てみれば、似たような状態のようで、見覚えのない女に隣を占領されている。
だから、一次会が終わったら帰ろうと言ったのだ。
せっかくの交流の場だからと、参加しようと言い出した張本人は、ゲンナリした顔で今更後悔しているようだ。
(いつまで飲んでる気だ、クソが。)
スマホに表示される時間は、とっくに日付をまたいでいた。
新着メッセージの報せはいつまで経ってもつかない。
そもそも、連絡をするつもりがあるのかもわからない。
コンシェルジュには、なまえが帰ってきたら鍵を開けてやるように伝えてある。
だから、もしかすると、もう家に帰っているのかもしれない。
それか、帰ってくる気がないという可能性だってある。
だってー。
『他の女の人とお楽しみしてるあなたの顔は見たくないの。』
あなたをー、ではないところが笑えるじゃないか。
リヴァイは、自分の腕に絡みつく女に視線を向けた。
ずっと視線すら合わせて貰えなかった女が、嬉しそうに何かを言っている。
でも、ついにエルヴィンからマイクを奪い取ったジャンが、馬鹿みたいにデカい音量でシャウトし始めたせいで、何を言っているのか全く聞こえない。
聞きたいとも思わない。
(コイツを連れ込んでやるか。)
この女なら簡単に家に連れ込んで、コトに及べそうだ。
なまえに連絡もしないで、リビングでー。
いや、香水臭い女を家の中に入れるのは絶対に無理だ。
そもそも女なんて、自分のテリトリーの中に入れたくない。
あぁ、それなら、玄関でヤればいい。
そうすれば、家に帰って来てすぐに、なまえが一番見たくないものを見せてやれる。
傷つけることが、出来るー。
(ー何考えてんだ、俺は。クソ野郎かよ。)
ゲスなことを考えてしまった自分自身にチッと舌打ちをして、リヴァイはまた視線をスマホに戻す。
また女が騒ぎ出したが、無視し続けていればとうとう諦めた。
やっと離れて行ってくれてホッとする。
しばらくしてスマホから顔を上げれば、さっきまで腕に絡みついていた女は、エルヴィンとデュエットを歌っていた。
そういえば、さっきデュエットがどうのと言っていたが、本当に歌いたかったらしい。
自慢の眉毛をハの字にして、腰に抱き着く女に困惑しているエルヴィンを鼻で笑う。
これに懲りて、そのステージから降りて少しは静かにしてくれたらいい。
「そんなに気になるなら、電話してみればいいだろ。」
隣から声がして、リヴァイは視線をファーランに向けた。
どうやら、彼も纏わりついていた女を追い払うのに成功したらしい。
「何のことだ。」
すっと目を反らして、ずっと手に握りしめていたスマホをズボンの後ろポケットに押し込む。
ファーランが首をすくめたのが視線の端に見えた。
「リコが言ってたぜ?
なまえは間違って向こうの世界の男に惚れちまってるだけだって。
正解のお前が、遠慮しなくていいと思うけどな~。」
「正解が誰かはアイツが決めることだ。
…それに、俺は興味ない。女なんて煩わしいだけだといつも言ってるだろ。」
「いつも言ってた、言ってた。確かに、言ってた。 」
ファーランは自分の膝に右肘を乗せ、頬杖をつきながら、含みのある笑みを向けてくる。
すべてお見通しな目をしているけれど、何も分かってない。
本当になまえに興味なんてー。
ファーランに言い返そうとしたとき、ズボンの後ろポケットに入れていたスマホが震えた。
急いでスマホを取り出せば、着信画面に表示されているのはなまえの名前だ。
「酒も飲まずに待ってた甲斐があったな。」
ファーランがニヤリと笑う。
その角度からはスマホの画面なんて見えなかったはずなのにー。
どうして分かったのか知りたくもなくて、リヴァイは何も言い返さずに、すぐに応答ボタンを押した。
「少し待て。」
手短に言って、騒がしいカラオケボックスから急いで出る。
廊下に出て扉を閉めると、漸く、耳に煩わしい音が小さくなった。
「遅ぇ。早く帰れとー。」
≪カラオケか?悪い、まだ歓迎会終わってなかったんだな。≫
スマホの向こうから聞こえてきたのは、リコの声だった。
訝しく思いながら、リヴァイはスマホを耳から離す。
画面を確認しても、やはりそこに表示されているのはなまえの名前だ。
もう一度、耳にスマホを押しあてて、リコに訊ねる。
「なまえに何かあったのか。」
≪あぁ…、酒を飲み過ぎて酔っぱらって寝てるんだ。≫
「…クソが。」
≪近くのホテルに連れて行こうかとも思ったんだが、私1人では抱えられなくてな…。
リヴァイに迎えを頼もうと思って電話したんだ。
でも、まだ歓迎会の途中ならー。≫
「どこで寝てんだ、クソは。」
≪助かる。会社の近くにあるBaratieってバーなんだが、分かるか?≫
「あぁ…、あそこか。車とってから行くから少しかかる。」
≪分かった。オーナーに伝えておく。ありがとう。≫
電話を切ったリヴァイは、スマホを後ろポケットに押し込むと、騒々しいカラオケボックスの中に戻った。
すぐにファーランが気づいて、コートを取りに戻ったリヴァイに声をかける。
「迎えに来てくれって?」
「飲み過ぎて寝てるらしい、あのクソ。」
コートを羽織りながら答える。
「あ~、それでリコから応援要請か。」
ファーランがクスクスと可笑しそうに笑う。
「でも、念願のお迎えに行けて良かったな。」
「バカか。面倒くせぇ会から抜け出すのにアイツを利用したかっただけだ。」
「まぁ、そういうことにしといてやるよ。」
しとくもなにも、それが事実だ。
でもそれを言うのも面倒で、リヴァイは、部屋の隅ですっかり眠ってしまっているイザベルをしっかり家まで送るようにファーランに伝えると、急いでなまえを迎えに向かった。
広いとは言えない部屋に大人が大勢詰め込まれ、素人の歌を披露されるー。
そのどこに面白さを見出せばいいのか、昔からどうしても理解出来ない。
二次会どころか三次会のカラオケにまで強引に参加させられたリヴァイは、不機嫌なオーラを隠しもせず、ずっとスマホを扱っていた。
何が嬉しくて、エルヴィンのカレーの歌を聴かなければならないのだ。
選曲のセンスが不可解過ぎるー。
妙に歌が上手いのも腹が立つ。
楽しいことが大好きなハンジはともかく、モブリットまでしっかりと合いの手を打ってやっていた。
それがまた酔っ払いエルヴィンを気持ちよくさせて、助長させているのだと気づいているのだろうか。
歓迎会の主役である学生達は、上司の歌を聴く気はサラサラないようで、各々好きにお喋りをしたり、テーブルの上に並べられた軽食を平らげようとしている。
音楽の響く狭い部屋では、自然と会話する声も大きくなる。
天井で回るミラーボールが騒々しさを際立たせていた。
そのせいで、スマホの画面も見づらい気がする。
「リヴァイは歌わないのぉ〜?歌声聴きたぁ〜い。」
「歌わねぇ。」
「えぇ〜、デュエットしようよ〜。」
「眉毛としとけ。」
「え~、私はリヴァイとぉー。」
耳に煩わしい猫撫で声で喚いている誘いはまだ続いていたが、適当に聞き流した。
真冬に胸元の開いた下品なシャツを着て、わざとらしく胸を押しつけながら腕にまとわりつくこの女、名前を覚える気もないけれど、企画調査部の社員ではなかったはずだ。
今夜の歓迎会をどこで聞きつけたのか、最初から勝手に参加して、ずっと隣をキープされている。
なまえも毎晩目のやり場に困るようなパジャマを着ているけれど、下品さなんてない。
むしろ、生娘のように無垢に見えるのに、アンバランスな艶かしい生脚が男心をくすぐるのだと思う。
そもそもなまえは、男を前に危機感が足りな過ぎる。
パジャマの下がノーブラだと知ってしまってから、胸の揺れが気になってしまって、まともになまえを見れないのだ。
中学生の男子かと自分に呆れる。
ファーランの方をチラリと見てみれば、似たような状態のようで、見覚えのない女に隣を占領されている。
だから、一次会が終わったら帰ろうと言ったのだ。
せっかくの交流の場だからと、参加しようと言い出した張本人は、ゲンナリした顔で今更後悔しているようだ。
(いつまで飲んでる気だ、クソが。)
スマホに表示される時間は、とっくに日付をまたいでいた。
新着メッセージの報せはいつまで経ってもつかない。
そもそも、連絡をするつもりがあるのかもわからない。
コンシェルジュには、なまえが帰ってきたら鍵を開けてやるように伝えてある。
だから、もしかすると、もう家に帰っているのかもしれない。
それか、帰ってくる気がないという可能性だってある。
だってー。
『他の女の人とお楽しみしてるあなたの顔は見たくないの。』
あなたをー、ではないところが笑えるじゃないか。
リヴァイは、自分の腕に絡みつく女に視線を向けた。
ずっと視線すら合わせて貰えなかった女が、嬉しそうに何かを言っている。
でも、ついにエルヴィンからマイクを奪い取ったジャンが、馬鹿みたいにデカい音量でシャウトし始めたせいで、何を言っているのか全く聞こえない。
聞きたいとも思わない。
(コイツを連れ込んでやるか。)
この女なら簡単に家に連れ込んで、コトに及べそうだ。
なまえに連絡もしないで、リビングでー。
いや、香水臭い女を家の中に入れるのは絶対に無理だ。
そもそも女なんて、自分のテリトリーの中に入れたくない。
あぁ、それなら、玄関でヤればいい。
そうすれば、家に帰って来てすぐに、なまえが一番見たくないものを見せてやれる。
傷つけることが、出来るー。
(ー何考えてんだ、俺は。クソ野郎かよ。)
ゲスなことを考えてしまった自分自身にチッと舌打ちをして、リヴァイはまた視線をスマホに戻す。
また女が騒ぎ出したが、無視し続けていればとうとう諦めた。
やっと離れて行ってくれてホッとする。
しばらくしてスマホから顔を上げれば、さっきまで腕に絡みついていた女は、エルヴィンとデュエットを歌っていた。
そういえば、さっきデュエットがどうのと言っていたが、本当に歌いたかったらしい。
自慢の眉毛をハの字にして、腰に抱き着く女に困惑しているエルヴィンを鼻で笑う。
これに懲りて、そのステージから降りて少しは静かにしてくれたらいい。
「そんなに気になるなら、電話してみればいいだろ。」
隣から声がして、リヴァイは視線をファーランに向けた。
どうやら、彼も纏わりついていた女を追い払うのに成功したらしい。
「何のことだ。」
すっと目を反らして、ずっと手に握りしめていたスマホをズボンの後ろポケットに押し込む。
ファーランが首をすくめたのが視線の端に見えた。
「リコが言ってたぜ?
なまえは間違って向こうの世界の男に惚れちまってるだけだって。
正解のお前が、遠慮しなくていいと思うけどな~。」
「正解が誰かはアイツが決めることだ。
…それに、俺は興味ない。女なんて煩わしいだけだといつも言ってるだろ。」
「いつも言ってた、言ってた。確かに、言ってた。 」
ファーランは自分の膝に右肘を乗せ、頬杖をつきながら、含みのある笑みを向けてくる。
すべてお見通しな目をしているけれど、何も分かってない。
本当になまえに興味なんてー。
ファーランに言い返そうとしたとき、ズボンの後ろポケットに入れていたスマホが震えた。
急いでスマホを取り出せば、着信画面に表示されているのはなまえの名前だ。
「酒も飲まずに待ってた甲斐があったな。」
ファーランがニヤリと笑う。
その角度からはスマホの画面なんて見えなかったはずなのにー。
どうして分かったのか知りたくもなくて、リヴァイは何も言い返さずに、すぐに応答ボタンを押した。
「少し待て。」
手短に言って、騒がしいカラオケボックスから急いで出る。
廊下に出て扉を閉めると、漸く、耳に煩わしい音が小さくなった。
「遅ぇ。早く帰れとー。」
≪カラオケか?悪い、まだ歓迎会終わってなかったんだな。≫
スマホの向こうから聞こえてきたのは、リコの声だった。
訝しく思いながら、リヴァイはスマホを耳から離す。
画面を確認しても、やはりそこに表示されているのはなまえの名前だ。
もう一度、耳にスマホを押しあてて、リコに訊ねる。
「なまえに何かあったのか。」
≪あぁ…、酒を飲み過ぎて酔っぱらって寝てるんだ。≫
「…クソが。」
≪近くのホテルに連れて行こうかとも思ったんだが、私1人では抱えられなくてな…。
リヴァイに迎えを頼もうと思って電話したんだ。
でも、まだ歓迎会の途中ならー。≫
「どこで寝てんだ、クソは。」
≪助かる。会社の近くにあるBaratieってバーなんだが、分かるか?≫
「あぁ…、あそこか。車とってから行くから少しかかる。」
≪分かった。オーナーに伝えておく。ありがとう。≫
電話を切ったリヴァイは、スマホを後ろポケットに押し込むと、騒々しいカラオケボックスの中に戻った。
すぐにファーランが気づいて、コートを取りに戻ったリヴァイに声をかける。
「迎えに来てくれって?」
「飲み過ぎて寝てるらしい、あのクソ。」
コートを羽織りながら答える。
「あ~、それでリコから応援要請か。」
ファーランがクスクスと可笑しそうに笑う。
「でも、念願のお迎えに行けて良かったな。」
「バカか。面倒くせぇ会から抜け出すのにアイツを利用したかっただけだ。」
「まぁ、そういうことにしといてやるよ。」
しとくもなにも、それが事実だ。
でもそれを言うのも面倒で、リヴァイは、部屋の隅ですっかり眠ってしまっているイザベルをしっかり家まで送るようにファーランに伝えると、急いでなまえを迎えに向かった。