◇79話◇永遠の別れ
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「リヴァイ…っ!?」
私を抱きしめるリヴァイの左の脇腹が血だらけになっていることに気づいて、悲鳴を上げた。
さっきの呻き声は、リヴァイだったのかー。
でも、どうしてー。
「大したことねぇ。心配するな。」
痛みで顔を顰めながら、リヴァイは私の頭をクシャリと撫でる。
大したことないわけがないー。
だって、銃で撃たれたのにー。
「あ~ぁ、外しちゃった。
人質を返してもらおうと思ったんだけどな。」
ハッとして声のした方を向いた。
拘束されていたはずのジークが、銃をこちらに向けて立っていた。
その傍らには、さっき、ハンジからジークを地下に幽閉するように指示を受けた女の憲兵が、寄り添うように立っている。彼女の足元には、ジークを拘束していたはずの縄が落ちていた。
何が起こっているのか、私には分からなかった。
だって、どうしてー。
「グルだったってわけだね。」
ハンジがため息を吐いて、頭を雑に掻いた。
そんなー。
せっかく彼がジークを捕まえてくれたのに、これでまた振り出しに戻ってしまった。
「ジーク戦士長、とりあえず、人類最強らしい兵士は手負いになったようなので
その女に拘る必要はないかと。」
「でもさ、ピークちゃん。なまえちゃんってこの世界の人間じゃないんだって。
でも、この世界のなまえちゃんと同じなんだって。
同じエルディアの血が流れてるか調べてみたくない?」
「…頭でも打ったんですか。」
「俺もこの目で見てなかったら信じてなかったと思うよ。」
「はぁ・・・・?」
ジークとピークと呼ばれた女の話が聞こえて、私をまた恐怖が襲う。
さっき、ジークが銃を向けたのは、私だったー。
だから、私を守ったリヴァイが撃たれてしまってー。
「おいおいおいおい…、てめぇら、アレはなんだ…。」
窓際に立っていた彼が、窓の外を指さして目を丸くしている。
今度は何が起きたのだと、彼と同じ方を向いて私は声にならない悲鳴を上げた。
まだ遠いけれど、大きな人間がいた。
人間のカタチをしている裸のー。
それが、私にはアレは、1度だけ見たことのある巨人に見えた。
その周りを兵士達が命を賭けて飛び回っているのも見えたからだ。
しかも巨人の数は、1体じゃないー。
古城の外を何体もの巨人が、走ったり歩いたりしている。
「チッ、ここまで来ちまったのか。エルド達は何やってんだ。」
リヴァイが舌打ちをした。
目の前には銃を持った巨人になれる人間がいて、古城の外は巨人で囲まれている。
これは、絶体絶命と言うんじゃないだろうか。
「さぁ、どうする?ライナー達を返してくれるなら、
俺達がそこの巨人をどうにかしてやってもいい。」
「…それは出来ない。」
ハンジは強い意思で首を横に振る。
求めていた答えではなかったジークが、首を竦めてため息を吐いた。
そのときだった。
窓の外を凝視していた彼が、低い声で聞きたくないことを教えてくれた。
「おい、デケェのがよーいどんでこっちに走って来たぞ。」
「…っ!?」
思わず、私は窓の外を見てしまった。
見なければ、よかったー。
古城の外を自由に歩き回っていた巨人達が、古城へ向かって走って来ている。
「てめぇ、何しやがった。」
リヴァイがジークを睨みつけて言う。
でも、ジークは何も答えない。楽しいゲームを始める前みたいにワクワクした顔をしている。
「リヴァイ、君の傷も含めて、ここで睨み合いをしてる時間はない。
ソイツ等は人類の敵だ。すぐに捕まえて、
巨人の討伐とライナー達を安全な場所に移動させないと…!」
「チッ。分かってる。」
「あ~、そこのリヴァイはどうする?
君が巨人と戦ってる姿も見てみたい気はするんだけどね~。」
「クソが。ふざけたこと言ってんじゃねぇ。
おい、なまえ、お前は本当に置いてっていいんだな。」
壁に鏡を立てかけた彼が、私の方を向いて訊ねた。
彼のすぐ横の窓の向こうに、こちらに向かって走ってくる巨人の姿が見えている。
怖いー。
でも、リヴァイがいるならきっと大丈夫だからー。
「私はー。」
「なまえ。」
リヴァイが私の名前を呼んで、抱き寄せた。
そして、私の頬を撫でながら顎に触れて顔を上げさせる。
どうして今ー。
そんなことを思いながら、リヴァイのキスを受け入れた。
名残惜し気に、そっと唇が離れる。
頬に触れていた手も、ひどく愛おしそう触れながらゆっくりと温もりを離していくー。
やめて、そんな、最後みたいに私に触れないでー。
「俺達は、ここまでだ。」
「…っ。いや…っ!リヴァイと一緒にいる!!
邪魔にならないようにする!!迷惑もかけないから…!!
だから…っ、お願いよ…っ、そばにいさせて…っ!!」
リヴァイの両腕を掴んで、私は必死に懇願した。
ひどく寂しそうに私を見つめるリヴァイが、凄く遠い人に見えた。
ここで終わりだと決めてしまったのが、分かってしまったから余計にー。
「邪魔だとも迷惑とも思ったことはねぇよ。」
「なら…!」
「今までずっと、諦めないで俺のそばにいてくれてありがとうな。」
「…っ、これからだってずっとそばに…、いるのに…っ!」
そんな優しく、寂しそうに微笑まないでー。
涙が溢れて、声が続かない。リヴァイの顔が潤んで、よく見えないー。
「なまえに傷をつけずにすんで、よかった。」
リヴァイは心から安心したように言って、私の髪をクシャリと撫でた。
やめて、本当にー。
傷くらい幾らついたって良い。
リヴァイのそばにいられるのなら、この身体がどうなったって構わないのにー。
リヴァイは、向き合った格好のままで、私の肩を強く押した。
よろめいて後ろに倒れる私を、誰かが受け止めた。
ふわりと香ったのは、リヴァイと同じ紅茶の匂いだったー。
「おい、なまえに傷ひとつつけんじゃねぇぞ。」
「ここにいるよりは、マシだ。」
背中からリヴァイの声がする。
私の腕に触れる手もリヴァイと同じ、香る匂いも同じ。
でも、違う。これは私の愛してる人じゃない。
違うのにー。
「あぁ、確かにな。…それでも、だ。」
リヴァイは呟くように言って、私と彼に背を向けた。
「帰るぞ。」
「嫌だ!!行かない!!あなただけで帰ってよ!」
腕を掴んだままで鏡の中に手を入れようとする彼に、私は必死の抵抗をした。
帰りたくない。
リヴァイと一緒にいたいのだ。
だから、必死に腕を振りほどこうとしているのに、彼の手はピクリともしない。
力の差まで、リヴァイと同じなんてー。
「いい加減にしろ。」
一旦、鏡の中に入るのを諦めて、彼が振り向いた。
そして、後ろを向け、とばかりに顎を上げて指す。
「…っ!」
振り向いた私が見たのは、ジークとピークと格闘戦を交えているリヴァイとハンジだった。
リヴァイは、脇腹から血を流したままでー。
「アイツは腹撃たれてんだよ。そんな身体で、自分も連れて逃げろって言うのか。」
「…連れて逃げなくてもいいっ。私も一緒に逃げるから…!」
「その震えた身体でどうやって逃げる気だ。」
「それはー。」
「お前に傷ひとつつけたくねぇんだよ。黙って、守らせてやれ。」
彼が私の手を引く。
言わないでー。
リヴァイと同じ声で、そんなこと言わないでー。
彼が、私の手を引いて鏡の中へ入って行こうとする。
「なまえちゃん!行かせないよ!!君の身体を調べたいんだ!!」
後ろからジークの叫ぶような声が聞こえて、思わず焦って振り向く。
すぐそこに私を捕まえようと手を伸ばすジークが見えた。
あー。
そう思ったときには、リヴァイに腰を蹴り飛ばされて、ジークが吹っ飛んでいく。
「リヴァー。」
ドンッ!と大きな音を立てて古城が揺れたせいで、リヴァイを呼ぼうとした声は続かなかった。
巨人が古城まで辿り着いてしまったようだ。
体当たりでもしているのか、不規則に大きな音を立てて古城が揺れる。
頑丈そうな古城だったけれど、古さには敵わないのか天井からは埃のように小石のようなものまで落ちて来た。
「すぐにずらかるぞ!!」
大きな地震のような揺れによろける私を、彼が引っ張る。
強い力には逆らえず、身体が鏡の中へと入って行くー。
嫌だー。
リヴァイが私を元の世界に帰そうとしている理由は分かってる。
でも、私はそんなの望んでない。
守られたいわけじゃない。私は、リヴァイと一緒にいたいだけー。
それなのにー。
この残酷な世界は、それすらも許してくれないのか。
振り返ると、私をどこかへ連れて行って調べたいのだとピークと言う女に喚いているジークの姿が、鏡の向こうに見えた。
知らない部屋の中で、私は彼の手を振りほどいた。
「リヴァイ…っ!!」
リヴァイの名前を呼んで、鏡の中に手を入れた。
鏡はまだ、向こうの世界と繋がっていた。
まだ、間に合う。
リヴァイに、手が届くー。
私に名前を呼ばれて、リヴァイが振り向いた。
驚いた顔をしたリヴァイが、私の手を掴んだ。
しっかりと、掴んだのにー。
「平和な世界で、幸せになれよ。」
私をまっすぐに見つめたまま、リヴァイの手が、掴んだばかりの私の手を突き放す。
背中から倒れていく私は、それでも必死にリヴァイに手を伸ばした。
でも、リヴァイは手を掴もうとはしてくれない。
その代わり、部屋の向こうからジークが鏡に向かって手を伸ばして走って来ているのが見えた。
リヴァイからもらったネックレスが、シャツからこぼれて揺れる。
背中から倒れた私を、リヴァイと同じ紅茶の香りが抱き留める。
鏡を見下ろす格好のリヴァイとはまだ目が合っていた。
だからー。
「リヴァイ…っ!愛してるの…!!」
私はそれでもまだ、一緒に生きていける未来を信じて手を伸ばした。
リヴァイが、悔しそうに唇を噛んだ。
そのすぐ後ろには、ジークの手が迫っている。
「俺も…、愛してた。」
リヴァイが足を上げた。
どうして、過去形になるのかー。
そんな風に言わないでー。
どうして、ここでお別れなんてイヤー。
「いや…!いやだ!私もそっちに行く!!」
「危ねぇだろ!動くな!」
後ろから抱きしめるかたちで私を拘束する彼は、鏡に伸ばそうとする手を押さえつける。
それでも私は必死に、拘束から逃れようともがいた。
悲しそうに、リヴァイがそんな私を見下ろす。
力の強い彼に拘束されて、立ち上がるどころか、鏡に手を伸ばすことすら出来なかった。
「いやぁああああ…!!」
覚悟を決めたリヴァイの足が振り下ろされて、私は悲鳴のように叫んだ。
だって、ずっとそばにいると約束し合ったじゃないか。
やっと、私はこの世界で、私としてリヴァイの隣にいられるようになったのだ。
これから、私とリヴァイの未来が始まっていくんだって、信じていたのにー。
リヴァイが足を振り下ろしたところまで、鏡の向こうにハッキリと見えていた。
でも、その次の瞬間に、鏡に幾つものヒビが入った。
そして、一瞬だけ真っ暗闇を映した鏡に、涙を流しながら呆然とする私と、そんな私を後ろから抱きしめるリヴァイが映る。
どうしてー。
この鏡はもう二度と、永遠に、私の愛する人を映してくれないなんてー。
私を抱きしめるリヴァイの左の脇腹が血だらけになっていることに気づいて、悲鳴を上げた。
さっきの呻き声は、リヴァイだったのかー。
でも、どうしてー。
「大したことねぇ。心配するな。」
痛みで顔を顰めながら、リヴァイは私の頭をクシャリと撫でる。
大したことないわけがないー。
だって、銃で撃たれたのにー。
「あ~ぁ、外しちゃった。
人質を返してもらおうと思ったんだけどな。」
ハッとして声のした方を向いた。
拘束されていたはずのジークが、銃をこちらに向けて立っていた。
その傍らには、さっき、ハンジからジークを地下に幽閉するように指示を受けた女の憲兵が、寄り添うように立っている。彼女の足元には、ジークを拘束していたはずの縄が落ちていた。
何が起こっているのか、私には分からなかった。
だって、どうしてー。
「グルだったってわけだね。」
ハンジがため息を吐いて、頭を雑に掻いた。
そんなー。
せっかく彼がジークを捕まえてくれたのに、これでまた振り出しに戻ってしまった。
「ジーク戦士長、とりあえず、人類最強らしい兵士は手負いになったようなので
その女に拘る必要はないかと。」
「でもさ、ピークちゃん。なまえちゃんってこの世界の人間じゃないんだって。
でも、この世界のなまえちゃんと同じなんだって。
同じエルディアの血が流れてるか調べてみたくない?」
「…頭でも打ったんですか。」
「俺もこの目で見てなかったら信じてなかったと思うよ。」
「はぁ・・・・?」
ジークとピークと呼ばれた女の話が聞こえて、私をまた恐怖が襲う。
さっき、ジークが銃を向けたのは、私だったー。
だから、私を守ったリヴァイが撃たれてしまってー。
「おいおいおいおい…、てめぇら、アレはなんだ…。」
窓際に立っていた彼が、窓の外を指さして目を丸くしている。
今度は何が起きたのだと、彼と同じ方を向いて私は声にならない悲鳴を上げた。
まだ遠いけれど、大きな人間がいた。
人間のカタチをしている裸のー。
それが、私にはアレは、1度だけ見たことのある巨人に見えた。
その周りを兵士達が命を賭けて飛び回っているのも見えたからだ。
しかも巨人の数は、1体じゃないー。
古城の外を何体もの巨人が、走ったり歩いたりしている。
「チッ、ここまで来ちまったのか。エルド達は何やってんだ。」
リヴァイが舌打ちをした。
目の前には銃を持った巨人になれる人間がいて、古城の外は巨人で囲まれている。
これは、絶体絶命と言うんじゃないだろうか。
「さぁ、どうする?ライナー達を返してくれるなら、
俺達がそこの巨人をどうにかしてやってもいい。」
「…それは出来ない。」
ハンジは強い意思で首を横に振る。
求めていた答えではなかったジークが、首を竦めてため息を吐いた。
そのときだった。
窓の外を凝視していた彼が、低い声で聞きたくないことを教えてくれた。
「おい、デケェのがよーいどんでこっちに走って来たぞ。」
「…っ!?」
思わず、私は窓の外を見てしまった。
見なければ、よかったー。
古城の外を自由に歩き回っていた巨人達が、古城へ向かって走って来ている。
「てめぇ、何しやがった。」
リヴァイがジークを睨みつけて言う。
でも、ジークは何も答えない。楽しいゲームを始める前みたいにワクワクした顔をしている。
「リヴァイ、君の傷も含めて、ここで睨み合いをしてる時間はない。
ソイツ等は人類の敵だ。すぐに捕まえて、
巨人の討伐とライナー達を安全な場所に移動させないと…!」
「チッ。分かってる。」
「あ~、そこのリヴァイはどうする?
君が巨人と戦ってる姿も見てみたい気はするんだけどね~。」
「クソが。ふざけたこと言ってんじゃねぇ。
おい、なまえ、お前は本当に置いてっていいんだな。」
壁に鏡を立てかけた彼が、私の方を向いて訊ねた。
彼のすぐ横の窓の向こうに、こちらに向かって走ってくる巨人の姿が見えている。
怖いー。
でも、リヴァイがいるならきっと大丈夫だからー。
「私はー。」
「なまえ。」
リヴァイが私の名前を呼んで、抱き寄せた。
そして、私の頬を撫でながら顎に触れて顔を上げさせる。
どうして今ー。
そんなことを思いながら、リヴァイのキスを受け入れた。
名残惜し気に、そっと唇が離れる。
頬に触れていた手も、ひどく愛おしそう触れながらゆっくりと温もりを離していくー。
やめて、そんな、最後みたいに私に触れないでー。
「俺達は、ここまでだ。」
「…っ。いや…っ!リヴァイと一緒にいる!!
邪魔にならないようにする!!迷惑もかけないから…!!
だから…っ、お願いよ…っ、そばにいさせて…っ!!」
リヴァイの両腕を掴んで、私は必死に懇願した。
ひどく寂しそうに私を見つめるリヴァイが、凄く遠い人に見えた。
ここで終わりだと決めてしまったのが、分かってしまったから余計にー。
「邪魔だとも迷惑とも思ったことはねぇよ。」
「なら…!」
「今までずっと、諦めないで俺のそばにいてくれてありがとうな。」
「…っ、これからだってずっとそばに…、いるのに…っ!」
そんな優しく、寂しそうに微笑まないでー。
涙が溢れて、声が続かない。リヴァイの顔が潤んで、よく見えないー。
「なまえに傷をつけずにすんで、よかった。」
リヴァイは心から安心したように言って、私の髪をクシャリと撫でた。
やめて、本当にー。
傷くらい幾らついたって良い。
リヴァイのそばにいられるのなら、この身体がどうなったって構わないのにー。
リヴァイは、向き合った格好のままで、私の肩を強く押した。
よろめいて後ろに倒れる私を、誰かが受け止めた。
ふわりと香ったのは、リヴァイと同じ紅茶の匂いだったー。
「おい、なまえに傷ひとつつけんじゃねぇぞ。」
「ここにいるよりは、マシだ。」
背中からリヴァイの声がする。
私の腕に触れる手もリヴァイと同じ、香る匂いも同じ。
でも、違う。これは私の愛してる人じゃない。
違うのにー。
「あぁ、確かにな。…それでも、だ。」
リヴァイは呟くように言って、私と彼に背を向けた。
「帰るぞ。」
「嫌だ!!行かない!!あなただけで帰ってよ!」
腕を掴んだままで鏡の中に手を入れようとする彼に、私は必死の抵抗をした。
帰りたくない。
リヴァイと一緒にいたいのだ。
だから、必死に腕を振りほどこうとしているのに、彼の手はピクリともしない。
力の差まで、リヴァイと同じなんてー。
「いい加減にしろ。」
一旦、鏡の中に入るのを諦めて、彼が振り向いた。
そして、後ろを向け、とばかりに顎を上げて指す。
「…っ!」
振り向いた私が見たのは、ジークとピークと格闘戦を交えているリヴァイとハンジだった。
リヴァイは、脇腹から血を流したままでー。
「アイツは腹撃たれてんだよ。そんな身体で、自分も連れて逃げろって言うのか。」
「…連れて逃げなくてもいいっ。私も一緒に逃げるから…!」
「その震えた身体でどうやって逃げる気だ。」
「それはー。」
「お前に傷ひとつつけたくねぇんだよ。黙って、守らせてやれ。」
彼が私の手を引く。
言わないでー。
リヴァイと同じ声で、そんなこと言わないでー。
彼が、私の手を引いて鏡の中へ入って行こうとする。
「なまえちゃん!行かせないよ!!君の身体を調べたいんだ!!」
後ろからジークの叫ぶような声が聞こえて、思わず焦って振り向く。
すぐそこに私を捕まえようと手を伸ばすジークが見えた。
あー。
そう思ったときには、リヴァイに腰を蹴り飛ばされて、ジークが吹っ飛んでいく。
「リヴァー。」
ドンッ!と大きな音を立てて古城が揺れたせいで、リヴァイを呼ぼうとした声は続かなかった。
巨人が古城まで辿り着いてしまったようだ。
体当たりでもしているのか、不規則に大きな音を立てて古城が揺れる。
頑丈そうな古城だったけれど、古さには敵わないのか天井からは埃のように小石のようなものまで落ちて来た。
「すぐにずらかるぞ!!」
大きな地震のような揺れによろける私を、彼が引っ張る。
強い力には逆らえず、身体が鏡の中へと入って行くー。
嫌だー。
リヴァイが私を元の世界に帰そうとしている理由は分かってる。
でも、私はそんなの望んでない。
守られたいわけじゃない。私は、リヴァイと一緒にいたいだけー。
それなのにー。
この残酷な世界は、それすらも許してくれないのか。
振り返ると、私をどこかへ連れて行って調べたいのだとピークと言う女に喚いているジークの姿が、鏡の向こうに見えた。
知らない部屋の中で、私は彼の手を振りほどいた。
「リヴァイ…っ!!」
リヴァイの名前を呼んで、鏡の中に手を入れた。
鏡はまだ、向こうの世界と繋がっていた。
まだ、間に合う。
リヴァイに、手が届くー。
私に名前を呼ばれて、リヴァイが振り向いた。
驚いた顔をしたリヴァイが、私の手を掴んだ。
しっかりと、掴んだのにー。
「平和な世界で、幸せになれよ。」
私をまっすぐに見つめたまま、リヴァイの手が、掴んだばかりの私の手を突き放す。
背中から倒れていく私は、それでも必死にリヴァイに手を伸ばした。
でも、リヴァイは手を掴もうとはしてくれない。
その代わり、部屋の向こうからジークが鏡に向かって手を伸ばして走って来ているのが見えた。
リヴァイからもらったネックレスが、シャツからこぼれて揺れる。
背中から倒れた私を、リヴァイと同じ紅茶の香りが抱き留める。
鏡を見下ろす格好のリヴァイとはまだ目が合っていた。
だからー。
「リヴァイ…っ!愛してるの…!!」
私はそれでもまだ、一緒に生きていける未来を信じて手を伸ばした。
リヴァイが、悔しそうに唇を噛んだ。
そのすぐ後ろには、ジークの手が迫っている。
「俺も…、愛してた。」
リヴァイが足を上げた。
どうして、過去形になるのかー。
そんな風に言わないでー。
どうして、ここでお別れなんてイヤー。
「いや…!いやだ!私もそっちに行く!!」
「危ねぇだろ!動くな!」
後ろから抱きしめるかたちで私を拘束する彼は、鏡に伸ばそうとする手を押さえつける。
それでも私は必死に、拘束から逃れようともがいた。
悲しそうに、リヴァイがそんな私を見下ろす。
力の強い彼に拘束されて、立ち上がるどころか、鏡に手を伸ばすことすら出来なかった。
「いやぁああああ…!!」
覚悟を決めたリヴァイの足が振り下ろされて、私は悲鳴のように叫んだ。
だって、ずっとそばにいると約束し合ったじゃないか。
やっと、私はこの世界で、私としてリヴァイの隣にいられるようになったのだ。
これから、私とリヴァイの未来が始まっていくんだって、信じていたのにー。
リヴァイが足を振り下ろしたところまで、鏡の向こうにハッキリと見えていた。
でも、その次の瞬間に、鏡に幾つものヒビが入った。
そして、一瞬だけ真っ暗闇を映した鏡に、涙を流しながら呆然とする私と、そんな私を後ろから抱きしめるリヴァイが映る。
どうしてー。
この鏡はもう二度と、永遠に、私の愛する人を映してくれないなんてー。