◇70話◇デート~カフェ編~
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喉の奥を通り過ぎていく冷たさが、歩き疲れた身体を癒していく。
透明のガラスのグラスをテーブルの上に置くと、アイスティーの奥で氷が揺れて小さな音を立てた。
太陽の下、カフェのテラス席には柔らかい風が吹いていて、とても気持ちがいい。
独特なティーカップの持ち方で紅茶を口に運ぶリヴァイも、いつも通りの無表情なのだけれど、どこかご機嫌に見える。
「こんなにたくさん買ってもらっちゃって、ごめんね。」
リヴァイの足元に幾つも置かれた紙袋を見て、申し訳なさが込み上げる。
結局、彼には、数着の洋服と靴だけではなく、小物や生活用品も買ってもらってしまった。
とにかく、生活する上で必要なものはすべて揃えなければならないと決めている彼に、それなら少しずつ増やしてくれればいいと言ったのだけれど、なかなか休みを取れないので時間のあるうちに買っておかなければならないと言われれば、断れなかった。
「謝らなくていい。俺が好きでしたことだ。
むしろ、今まで何も用意してやらねぇで悪かったな。」
「ううん、住むところを与えてもらえただけでありがたかったんだよ。」
「…そうか。」
リヴァイはそれだけ小さく呟くように言って、またティーカップを口に運んだ。
あまり口数の多くないリヴァイだから、同じテーブルで向き合って座っていても、会話が弾む気はしない。
でも、彼となら沈黙も心地良いから、あまり気にならない。
だから、ただなんとなくテラスの向こうを景色を眺めながら、アイスティーで喉を潤す。
トロスト区は、田舎町なのかもしれないー。
テラスから見える街の様子から、そんなことを思う。
リヴァイが連れてきてくれたウォール・ローゼのなんとかというこの街は、とても栄えているようだった。
人通りも多いし、洋服店やアクセサリーショップ、カフェ、といろんなお店がズラーッと並んでいる。
友人同士で大笑いしながら通り過ぎていく若者に、腕を組んで歩いている恋人達ー。
トロスト区の住人よりも、彼らは幸せそうに見えた。
そんなことを考えていると、意外とお喋りなのか、リヴァイの方から話題を振って来た。
「お前がいた世界ってのはどんなとこだったんだ?」
「どんなとこ…、ん~…。」
この世界と元いた世界の違いなら、たくさんある。
文明の発達も遅れているこの世界とは、街の様子も人々の生活も全く違う。
でも、どんなところか、と訊かれたら何と説明すればいいか分からない。
「巨人はいなかった。」
「だろうな。」
リヴァイが自嘲気味に口元を歪めた。
ハンジとモブリットからなまえの記憶を教えてもらっていたとき、この世界の成り立ちについても学んでいる。
もう100年以上もこの壁の中だけが、人間の住む世界だなんてー。
それからも、リヴァイはいろんなことを私に聞いてきた。
仕事のことや家族のこと、友人に、休日の過ごし方や趣味ー。
今までなまえとして一緒に過ごしていたから、彼は私のことをほとんど知らない。
だから、“知りたい”と思ってくれているような気がして、私も饒舌になる。
だって、彼が振ってくる話題はすべて、向こうの世界のことも含めた私のことだったからー。
「…もうすぐ、リコとイアンの結婚式なの。」
「へぇ。そっちではくっついってんのか。
アイツもいつもリコとイアンのことを心配してー。」
「2人の幸せな姿は、見たかったなぁ…。」
リヴァイが息を呑んだ音がして、ポロッと出てしまった本音に気が付いた。
ハッとして顔を上げると、何とも言えない表情で口を閉じてしまったリヴァイと目が合った。
「この世界に残ることを後悔してるわけじゃなくて…っ。」
「あぁ、分かってる。
大切な友人の結婚式だ、出たいと思うのは当然だ。
向こうにいるときも、2人で楽しみにしていたんだろう。」
「…ごめん。」
「謝るな。」
リヴァイはそう言ってくれたけれど、傷つけてしまったと思う。
でも、これ以上謝れば、もっと彼を悲しませる気がして、何も言えなかった。
彼となら居心地が良かった沈黙が、今はひどく気まずい。
何か話さなければー。
そう思うのだけれど、話題が見つからない。
最初にこの沈黙を破ってくれたのは、リヴァイの方だった。
「お前は、結婚を約束するような相手はいなかったのか。」
「へ?私?」
想定外の質問に、私は気の抜けた返しをしてしまった。
だって、結婚どころか恋人もずっといなくてー。
自分の恋話なんて、もう何年もしていない。
私の反応で大方の見当がついたのか、リヴァイに意地悪く鼻で笑われてしまった。
悔しいー。
「いた。」
「…嘘だろ。」
「いたの!」
「無駄な見栄を張らなくていい。」
全然信じてくれないリヴァイに、私は「いた。」と繰り返す。
いたのだ。確かに、結婚を約束した男がー。
正確には、少し違うけれどー。
「…いたもん。家に帰ったら…、いたの。」
「家に帰ったら?」
「そう、仕事が終わって家に帰ったら、
自分は私の恋人で結婚の約束をしてるって信じてる男が、いた。」
「は?知らねぇ男ってことか?」
「一方的に知られてて、いつの間にか結婚の約束もしてみたい。」
「…お前、ろくでもねぇ生活してたんだな。」
ひどく不憫そうな目で私を見た後、リヴァイは「そのクソ野郎はぶっ殺したのか。」と、とても物騒なことを確認してきた。
冗談でも大袈裟でもなくて本気の様子の彼に、偶々、忘れ物を届けに家に来てくれたイアンとミタビがその男を捕まえて、リコがこの世界で言う憲兵のような立場の人達を呼んでくれて解決したのだと教えてやる。
それでも、リヴァイは、あまり納得していないようだ。
でもー。
いきなりこの世界に飛ばされて、いきなりリヴァイにキスをされたとき、その男と同じタイプの人間がまた現れたと思ったのだ。
そんなことを言ったら、リヴァイは怒るだろうし、実際はもっともっと悲しい理由があったともう知っているから、言わないけれどー。
それからも、リヴァイからの向こうの世界と私についての質問に答えながら、本当に何でもないような談笑を続けた。
こうして一緒に過ごしている時間が幸せで、心が落ち着くー。
いつの間にか、アイスティーはなくなって、溶けた氷が透明の水になってグラスの底に溜まっていた。
リヴァイもさっきからずっとティーカップから手が離れている。すべて飲み終わったようだ。
そろそろカフェを出ないのだろうかとは思うのだけれど、リヴァイが席を立つ様子はなかった。
でも、私もまだ、このなんでもない幸せな時間を過ごしていたくて、帰ろうとは言い出せず、氷が溶けきってすっかり美味しくなさそうなアイスティ―のグラスをただなんとなく眺める。
「リヴァイ兵長!!お待たせしました!!」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。
テラスの柵の向こうに、馬に乗ったオルオとグンタの姿が見えた。
その後ろには、荷馬車を引く馬に乗ったエルドもいる。
「遅かったな。何か問題でもあったか。」
リヴァイが席を立ち、テラスの柵側から彼らに声をかけた。
お待たせしましたー、オルオはそう言った。
もしかして、ここで彼らと待ち合わせをしていたから、紅茶を飲み終わった後も帰ろうとしなかったのだろうか。
それなら、そうだと言ってくれたらよかったのにー。
「いえ、何も問題はなかったのですが…。
オルオが、ペトラへの土産を選んでたら遅くなってしまいまして。」
「もう、そういうことは言うなよ!!
そこは男として、言わねぇ約束で…モゴッ-!」
オルオが、グンタに文句を言いながら舌を噛んだ。
ハンジとモブリットに、オルオは舌を噛む癖があると聞いていたが、見るのは初めてだ。
すごく痛そうなのに、誰も彼を心配はしない。
むしろ、全員が、いい加減にしてくれーと冷めた目で見ている。
本当に、オルオはよく舌を噛んでいるのだろう。
「荷物はそれですか?」
馬から降りたエルドが、柵に手をかけると、いともたやすく飛び越えてテラスに降りる。
さすが、調査兵の中でも特に運動能力が高い精鋭の兵士だ。
それとも、兵士をしている人達はみんな、これくらい簡単に出来るのだろうか。
「あぁ、そうだ。俺の部屋に運んどいてくれ。」
「了解です。」
エルドは紙袋を抱えると、柵の向こうで待っているオルオとグンタに渡した。
彼らはそれを荷馬車へと積んでいく。
「その荷物、エルド達が持って帰ってくれるの?」
私も席を立って、柵から飛び降りようとしていたエルドに訊ねた。
柵に手をかけたまま、エルドは私の方を向く。
「はい。今朝、リヴァイ兵長に頼まれたんです。
ずっと寂しい思いをさせてしまったなまえさんに、好きなものを何でも買ってやりたいから
旧本部の帰り荷物を受け取りに来てくれって。」
「え…、そうだったの、リヴァイ?」
驚いてリヴァイの方を向けば、極まりが悪そうにしていた。
内緒にしているつもりだったらしい。
そんな、嬉しいことをー。
「余計なことは言わなくていい。」
「いいじゃないですか。最近、部屋も別々だったから、俺達心配してたんですよ。
ソニーとビーンのとこに入り浸ったり、なまえさんの様子がおかしかったのも
仕事で忙しいリヴァイ兵長に会えなくて寂しかったからなんですね。」
可愛い人ですねー。
と、付け足して、エルドが可笑しそうにクスクスと笑う。
たまらなく恥ずかしい勘違いをされてしまったらしい。
嬉しい気持ちが一転、恥ずかしさでどこかに隠れたくなった。
言い訳をしたいが、良さそうな言い訳が思いつかない。
助けを求めようとリヴァイを見れば、ひどく面白そうに口元を歪めていた。
訂正する気はなさそうだ。
裏切者めー。
「それじゃ、俺達は先に帰ります。
ゆっくり楽しんでくださいね。」
荷物を荷馬車に積み終わり、エルド達は馬に乗って去っていった。
彼らのお陰で大量の荷物がなくなって、身軽になった。
リヴァイも、漸くカフェから出ようと伝票を手に取ってレジに向かった。
カフェも、もちろん無一文の私は代金を払えないので、リヴァイのおごりだ。
店を出たリヴァイに、私は礼を言う。
「ご馳走様でした。」
頭を下げると、リヴァイにクシャリと髪を撫でられた。
その仕草が優しくて、ふふっと無意識に笑みがこぼれる。
「必要なもんはとりあえず揃ったな。今日の任務は終了だ。」
「そうだね。たくさん買ってくれて、嬉しかったよ。ありがとう。」
本心だったし、笑顔に嘘はなかった。
でも、まだこうしていたかったから、寂しくなった。
あぁ、すごく楽しかったのにー。
この時間が終わってしまうのか。
「まだ終わってねぇぞ。」
「え?」
「これからが本番だ。」
「本番?」
「あぁ、今からがデートの本番だ。」
リヴァイはそう言うと、私の手を握って歩き出す。
デートー。
その響きがくすぐったくて、嬉しかった。
隣を歩いて彼の横顔を見れば、少しだけ頬が染まっていた。
自分で言いながら、恥ずかしかったのだろうか。
それが可愛くて、思わずクスリと笑えば、彼の眉間に皴が寄った。
透明のガラスのグラスをテーブルの上に置くと、アイスティーの奥で氷が揺れて小さな音を立てた。
太陽の下、カフェのテラス席には柔らかい風が吹いていて、とても気持ちがいい。
独特なティーカップの持ち方で紅茶を口に運ぶリヴァイも、いつも通りの無表情なのだけれど、どこかご機嫌に見える。
「こんなにたくさん買ってもらっちゃって、ごめんね。」
リヴァイの足元に幾つも置かれた紙袋を見て、申し訳なさが込み上げる。
結局、彼には、数着の洋服と靴だけではなく、小物や生活用品も買ってもらってしまった。
とにかく、生活する上で必要なものはすべて揃えなければならないと決めている彼に、それなら少しずつ増やしてくれればいいと言ったのだけれど、なかなか休みを取れないので時間のあるうちに買っておかなければならないと言われれば、断れなかった。
「謝らなくていい。俺が好きでしたことだ。
むしろ、今まで何も用意してやらねぇで悪かったな。」
「ううん、住むところを与えてもらえただけでありがたかったんだよ。」
「…そうか。」
リヴァイはそれだけ小さく呟くように言って、またティーカップを口に運んだ。
あまり口数の多くないリヴァイだから、同じテーブルで向き合って座っていても、会話が弾む気はしない。
でも、彼となら沈黙も心地良いから、あまり気にならない。
だから、ただなんとなくテラスの向こうを景色を眺めながら、アイスティーで喉を潤す。
トロスト区は、田舎町なのかもしれないー。
テラスから見える街の様子から、そんなことを思う。
リヴァイが連れてきてくれたウォール・ローゼのなんとかというこの街は、とても栄えているようだった。
人通りも多いし、洋服店やアクセサリーショップ、カフェ、といろんなお店がズラーッと並んでいる。
友人同士で大笑いしながら通り過ぎていく若者に、腕を組んで歩いている恋人達ー。
トロスト区の住人よりも、彼らは幸せそうに見えた。
そんなことを考えていると、意外とお喋りなのか、リヴァイの方から話題を振って来た。
「お前がいた世界ってのはどんなとこだったんだ?」
「どんなとこ…、ん~…。」
この世界と元いた世界の違いなら、たくさんある。
文明の発達も遅れているこの世界とは、街の様子も人々の生活も全く違う。
でも、どんなところか、と訊かれたら何と説明すればいいか分からない。
「巨人はいなかった。」
「だろうな。」
リヴァイが自嘲気味に口元を歪めた。
ハンジとモブリットからなまえの記憶を教えてもらっていたとき、この世界の成り立ちについても学んでいる。
もう100年以上もこの壁の中だけが、人間の住む世界だなんてー。
それからも、リヴァイはいろんなことを私に聞いてきた。
仕事のことや家族のこと、友人に、休日の過ごし方や趣味ー。
今までなまえとして一緒に過ごしていたから、彼は私のことをほとんど知らない。
だから、“知りたい”と思ってくれているような気がして、私も饒舌になる。
だって、彼が振ってくる話題はすべて、向こうの世界のことも含めた私のことだったからー。
「…もうすぐ、リコとイアンの結婚式なの。」
「へぇ。そっちではくっついってんのか。
アイツもいつもリコとイアンのことを心配してー。」
「2人の幸せな姿は、見たかったなぁ…。」
リヴァイが息を呑んだ音がして、ポロッと出てしまった本音に気が付いた。
ハッとして顔を上げると、何とも言えない表情で口を閉じてしまったリヴァイと目が合った。
「この世界に残ることを後悔してるわけじゃなくて…っ。」
「あぁ、分かってる。
大切な友人の結婚式だ、出たいと思うのは当然だ。
向こうにいるときも、2人で楽しみにしていたんだろう。」
「…ごめん。」
「謝るな。」
リヴァイはそう言ってくれたけれど、傷つけてしまったと思う。
でも、これ以上謝れば、もっと彼を悲しませる気がして、何も言えなかった。
彼となら居心地が良かった沈黙が、今はひどく気まずい。
何か話さなければー。
そう思うのだけれど、話題が見つからない。
最初にこの沈黙を破ってくれたのは、リヴァイの方だった。
「お前は、結婚を約束するような相手はいなかったのか。」
「へ?私?」
想定外の質問に、私は気の抜けた返しをしてしまった。
だって、結婚どころか恋人もずっといなくてー。
自分の恋話なんて、もう何年もしていない。
私の反応で大方の見当がついたのか、リヴァイに意地悪く鼻で笑われてしまった。
悔しいー。
「いた。」
「…嘘だろ。」
「いたの!」
「無駄な見栄を張らなくていい。」
全然信じてくれないリヴァイに、私は「いた。」と繰り返す。
いたのだ。確かに、結婚を約束した男がー。
正確には、少し違うけれどー。
「…いたもん。家に帰ったら…、いたの。」
「家に帰ったら?」
「そう、仕事が終わって家に帰ったら、
自分は私の恋人で結婚の約束をしてるって信じてる男が、いた。」
「は?知らねぇ男ってことか?」
「一方的に知られてて、いつの間にか結婚の約束もしてみたい。」
「…お前、ろくでもねぇ生活してたんだな。」
ひどく不憫そうな目で私を見た後、リヴァイは「そのクソ野郎はぶっ殺したのか。」と、とても物騒なことを確認してきた。
冗談でも大袈裟でもなくて本気の様子の彼に、偶々、忘れ物を届けに家に来てくれたイアンとミタビがその男を捕まえて、リコがこの世界で言う憲兵のような立場の人達を呼んでくれて解決したのだと教えてやる。
それでも、リヴァイは、あまり納得していないようだ。
でもー。
いきなりこの世界に飛ばされて、いきなりリヴァイにキスをされたとき、その男と同じタイプの人間がまた現れたと思ったのだ。
そんなことを言ったら、リヴァイは怒るだろうし、実際はもっともっと悲しい理由があったともう知っているから、言わないけれどー。
それからも、リヴァイからの向こうの世界と私についての質問に答えながら、本当に何でもないような談笑を続けた。
こうして一緒に過ごしている時間が幸せで、心が落ち着くー。
いつの間にか、アイスティーはなくなって、溶けた氷が透明の水になってグラスの底に溜まっていた。
リヴァイもさっきからずっとティーカップから手が離れている。すべて飲み終わったようだ。
そろそろカフェを出ないのだろうかとは思うのだけれど、リヴァイが席を立つ様子はなかった。
でも、私もまだ、このなんでもない幸せな時間を過ごしていたくて、帰ろうとは言い出せず、氷が溶けきってすっかり美味しくなさそうなアイスティ―のグラスをただなんとなく眺める。
「リヴァイ兵長!!お待たせしました!!」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。
テラスの柵の向こうに、馬に乗ったオルオとグンタの姿が見えた。
その後ろには、荷馬車を引く馬に乗ったエルドもいる。
「遅かったな。何か問題でもあったか。」
リヴァイが席を立ち、テラスの柵側から彼らに声をかけた。
お待たせしましたー、オルオはそう言った。
もしかして、ここで彼らと待ち合わせをしていたから、紅茶を飲み終わった後も帰ろうとしなかったのだろうか。
それなら、そうだと言ってくれたらよかったのにー。
「いえ、何も問題はなかったのですが…。
オルオが、ペトラへの土産を選んでたら遅くなってしまいまして。」
「もう、そういうことは言うなよ!!
そこは男として、言わねぇ約束で…モゴッ-!」
オルオが、グンタに文句を言いながら舌を噛んだ。
ハンジとモブリットに、オルオは舌を噛む癖があると聞いていたが、見るのは初めてだ。
すごく痛そうなのに、誰も彼を心配はしない。
むしろ、全員が、いい加減にしてくれーと冷めた目で見ている。
本当に、オルオはよく舌を噛んでいるのだろう。
「荷物はそれですか?」
馬から降りたエルドが、柵に手をかけると、いともたやすく飛び越えてテラスに降りる。
さすが、調査兵の中でも特に運動能力が高い精鋭の兵士だ。
それとも、兵士をしている人達はみんな、これくらい簡単に出来るのだろうか。
「あぁ、そうだ。俺の部屋に運んどいてくれ。」
「了解です。」
エルドは紙袋を抱えると、柵の向こうで待っているオルオとグンタに渡した。
彼らはそれを荷馬車へと積んでいく。
「その荷物、エルド達が持って帰ってくれるの?」
私も席を立って、柵から飛び降りようとしていたエルドに訊ねた。
柵に手をかけたまま、エルドは私の方を向く。
「はい。今朝、リヴァイ兵長に頼まれたんです。
ずっと寂しい思いをさせてしまったなまえさんに、好きなものを何でも買ってやりたいから
旧本部の帰り荷物を受け取りに来てくれって。」
「え…、そうだったの、リヴァイ?」
驚いてリヴァイの方を向けば、極まりが悪そうにしていた。
内緒にしているつもりだったらしい。
そんな、嬉しいことをー。
「余計なことは言わなくていい。」
「いいじゃないですか。最近、部屋も別々だったから、俺達心配してたんですよ。
ソニーとビーンのとこに入り浸ったり、なまえさんの様子がおかしかったのも
仕事で忙しいリヴァイ兵長に会えなくて寂しかったからなんですね。」
可愛い人ですねー。
と、付け足して、エルドが可笑しそうにクスクスと笑う。
たまらなく恥ずかしい勘違いをされてしまったらしい。
嬉しい気持ちが一転、恥ずかしさでどこかに隠れたくなった。
言い訳をしたいが、良さそうな言い訳が思いつかない。
助けを求めようとリヴァイを見れば、ひどく面白そうに口元を歪めていた。
訂正する気はなさそうだ。
裏切者めー。
「それじゃ、俺達は先に帰ります。
ゆっくり楽しんでくださいね。」
荷物を荷馬車に積み終わり、エルド達は馬に乗って去っていった。
彼らのお陰で大量の荷物がなくなって、身軽になった。
リヴァイも、漸くカフェから出ようと伝票を手に取ってレジに向かった。
カフェも、もちろん無一文の私は代金を払えないので、リヴァイのおごりだ。
店を出たリヴァイに、私は礼を言う。
「ご馳走様でした。」
頭を下げると、リヴァイにクシャリと髪を撫でられた。
その仕草が優しくて、ふふっと無意識に笑みがこぼれる。
「必要なもんはとりあえず揃ったな。今日の任務は終了だ。」
「そうだね。たくさん買ってくれて、嬉しかったよ。ありがとう。」
本心だったし、笑顔に嘘はなかった。
でも、まだこうしていたかったから、寂しくなった。
あぁ、すごく楽しかったのにー。
この時間が終わってしまうのか。
「まだ終わってねぇぞ。」
「え?」
「これからが本番だ。」
「本番?」
「あぁ、今からがデートの本番だ。」
リヴァイはそう言うと、私の手を握って歩き出す。
デートー。
その響きがくすぐったくて、嬉しかった。
隣を歩いて彼の横顔を見れば、少しだけ頬が染まっていた。
自分で言いながら、恥ずかしかったのだろうか。
それが可愛くて、思わずクスリと笑えば、彼の眉間に皴が寄った。