◇59話◇どうか扉を開けて
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扉を叩く音と同時にドアが開いた。
リヴァイは、書き仕事でペン先に落としていた視線を上げる。
思った通り、やってきたのはハンジだった。
片手に書類を持っているのは嫌でも目に入り、気が滅入る。
とりあえず、前回の壁外調査は女型の巨人とその協力者と思われる調査兵2名を拘束したことで、成功と呼んでも問題ないだろう。
だが、そのおかげで、報告やら今後の予定やらで書類仕事が増えて、本来の業務に支障が出るなんて本末転倒だ。
大股でデスクまでやって来たハンジは、早速、憲兵から届いた書類の報告を始める。
いつもなら真っ先に始める無駄話すら忘れてしまう程、疲れと仕事が溜まっているらしい。
「ーで、憲兵はライナー達の引き渡しを要求してるけど
エルヴィンは徹底抗戦するつもりみたい。」
「まぁ、そうだろうな。」
「それと、あのイルゼ・ラングナーの戦記にあったユミルって名前、憶えてる?」
「あぁ、巨人が喋ったって名前か。」
「そう、そのユミルって子がライナー達と同じ104期にいるみたいなんだ。
その子にも話を聞こうと思ってるんだけど、警戒されないようにしたいから
エレンを少し貸してくれる?」
「俺の監視下でなら構わねぇ。」
「よし、決まりな!」
ハンジは嬉しそうに言うと、胸元のポケットから手帳を取り出した。
お互いの予定の確認をして、ユミルと接触する日を決める。
目的を果たして安心したのか、ハンジは思い出したように無駄話を始め出した。
しかも、一番聞きたくない名前付きだー。
「君の宝物、モブリットに手を出されちゃったらしいね。」
「さぁな。そう思うなら、てめぇの部下くらいちゃんと躾とけ。」
「嫌だよ。プライベートは自由だし、煽ったのは私だし。」
悪びれもせずに、ハンジは首元を掻きながら言う。
返事なら期待はしていなかったし、本気で言ったわけでもない。
それに、モブリットは、自分の上官に煽られたからと言って他人の女に手を出すような男でもないのは分かっている。
きっと、本気なのだ。
本気で彼女をー。
「そんなことより、仕事の話だ。この書類なんだがー。」
「あー、それは私が預かっとくよ。この前の作戦での資金源がー。」
話を反らしたわけじゃない。
本当に、無駄話をする時間なんてないくらいに忙しいのだ。
寝室ではなまえが1人で待っている。
早く終わらせて、行ってやりたい。顔を見て、安心したい。
彼女はまだ、俺の元へいるのだとー。
「ねぇ、どうしてなまえに指輪を渡さないの?
記憶が戻ったら渡すって言ってたのにさ。」
仕事の話がひと段落すれば、ハンジはまたなまえの話題を振ってくる。
気づかなくてもいいようなことをー。
思い出さなくてもいいようなことを、ハンジは絶対に忘れないし、見過ごしてはくれない。
「俺の勝手だろ。」
とりあえず終わった書類を片付けながら、短く答えた。
それで話は終わりだー。
そんな気持ちを声色に込めたはずなのに、空気を読めないどころかハッキリしないと気が済まない性格のハンジは、それでも深く訊いてこようとする。
「なまえがまたいなくなってしまうかもしれないから、
指輪を渡すのが怖いとか?」
「うるせぇ。俺はアイツをどこにも帰す気はねぇ。
どこへ帰ろうとしても、俺が捕まえておく。
いなくなっちまうかもしれねぇなんて考えてもいねぇよ。」
答えるのも面倒で、早口で切り捨てた。
ハンジの好奇心は、巨人に向かっていても煩わしいと思うのに、それが自分のことになると苛立ちも含まれてしまった。
モブリットのことでも頭を痛めているのに、そこでなまえの話題をしつこくふられて平常心でいられなかったのだろう。
自分が失言をしていたことに、気づかなかった。
でも相手がハンジでさえなければ、気づかれることだってなかったはずだったー。
「帰る?今までリヴァイは、なまえが消えるって言ってたよね。」
「…そうだったか。言い方が変わっただけだろ。意味は同じだ。」
「違うよ、リヴァイ。ねぇ、君は彼女はどこに帰ると思ってるの?」
ハンジの顔がずいっと近づく。
いつも巨人のために輝くハンジの瞳が、ただまっすぐに自分に向けられる。
知られたくないことを見抜こうとされているー。
ハンジの実験を受けている巨人にでもなったような最悪な気分だ。
「アイツが帰る場所は俺だ。それ以外にはない。」
ピシャリと言い切った。
それはハンジにか、自分に言い聞かせたのかー。
別に、嘘をついたわけじゃないし誤魔化したわけでもない。
一体自分は、彼女がどこへ帰ると思っているのだろう。
天国かー。まさか、そんなこと欠片ほども思っていない。
だって、死んだ人間は生き返らない。
だから、彼女は死んでなんかいない。そう、彼女は生き返ってなんか、いないのだー。
「リヴァイに大切な話があるんだ。」
ハンジの口調が変わった。
凛とした声色と真剣な瞳に、嫌な予感しかしない。
そういえば、今朝、同じフレーズをリコからも聞いたことを思い出す。
でもまさか、聞きたくもないのに今から話そうとしているハンジのそれが、リコが言っていた大切な話と同じだとは考えもしなかったのだー。
リヴァイは、書き仕事でペン先に落としていた視線を上げる。
思った通り、やってきたのはハンジだった。
片手に書類を持っているのは嫌でも目に入り、気が滅入る。
とりあえず、前回の壁外調査は女型の巨人とその協力者と思われる調査兵2名を拘束したことで、成功と呼んでも問題ないだろう。
だが、そのおかげで、報告やら今後の予定やらで書類仕事が増えて、本来の業務に支障が出るなんて本末転倒だ。
大股でデスクまでやって来たハンジは、早速、憲兵から届いた書類の報告を始める。
いつもなら真っ先に始める無駄話すら忘れてしまう程、疲れと仕事が溜まっているらしい。
「ーで、憲兵はライナー達の引き渡しを要求してるけど
エルヴィンは徹底抗戦するつもりみたい。」
「まぁ、そうだろうな。」
「それと、あのイルゼ・ラングナーの戦記にあったユミルって名前、憶えてる?」
「あぁ、巨人が喋ったって名前か。」
「そう、そのユミルって子がライナー達と同じ104期にいるみたいなんだ。
その子にも話を聞こうと思ってるんだけど、警戒されないようにしたいから
エレンを少し貸してくれる?」
「俺の監視下でなら構わねぇ。」
「よし、決まりな!」
ハンジは嬉しそうに言うと、胸元のポケットから手帳を取り出した。
お互いの予定の確認をして、ユミルと接触する日を決める。
目的を果たして安心したのか、ハンジは思い出したように無駄話を始め出した。
しかも、一番聞きたくない名前付きだー。
「君の宝物、モブリットに手を出されちゃったらしいね。」
「さぁな。そう思うなら、てめぇの部下くらいちゃんと躾とけ。」
「嫌だよ。プライベートは自由だし、煽ったのは私だし。」
悪びれもせずに、ハンジは首元を掻きながら言う。
返事なら期待はしていなかったし、本気で言ったわけでもない。
それに、モブリットは、自分の上官に煽られたからと言って他人の女に手を出すような男でもないのは分かっている。
きっと、本気なのだ。
本気で彼女をー。
「そんなことより、仕事の話だ。この書類なんだがー。」
「あー、それは私が預かっとくよ。この前の作戦での資金源がー。」
話を反らしたわけじゃない。
本当に、無駄話をする時間なんてないくらいに忙しいのだ。
寝室ではなまえが1人で待っている。
早く終わらせて、行ってやりたい。顔を見て、安心したい。
彼女はまだ、俺の元へいるのだとー。
「ねぇ、どうしてなまえに指輪を渡さないの?
記憶が戻ったら渡すって言ってたのにさ。」
仕事の話がひと段落すれば、ハンジはまたなまえの話題を振ってくる。
気づかなくてもいいようなことをー。
思い出さなくてもいいようなことを、ハンジは絶対に忘れないし、見過ごしてはくれない。
「俺の勝手だろ。」
とりあえず終わった書類を片付けながら、短く答えた。
それで話は終わりだー。
そんな気持ちを声色に込めたはずなのに、空気を読めないどころかハッキリしないと気が済まない性格のハンジは、それでも深く訊いてこようとする。
「なまえがまたいなくなってしまうかもしれないから、
指輪を渡すのが怖いとか?」
「うるせぇ。俺はアイツをどこにも帰す気はねぇ。
どこへ帰ろうとしても、俺が捕まえておく。
いなくなっちまうかもしれねぇなんて考えてもいねぇよ。」
答えるのも面倒で、早口で切り捨てた。
ハンジの好奇心は、巨人に向かっていても煩わしいと思うのに、それが自分のことになると苛立ちも含まれてしまった。
モブリットのことでも頭を痛めているのに、そこでなまえの話題をしつこくふられて平常心でいられなかったのだろう。
自分が失言をしていたことに、気づかなかった。
でも相手がハンジでさえなければ、気づかれることだってなかったはずだったー。
「帰る?今までリヴァイは、なまえが消えるって言ってたよね。」
「…そうだったか。言い方が変わっただけだろ。意味は同じだ。」
「違うよ、リヴァイ。ねぇ、君は彼女はどこに帰ると思ってるの?」
ハンジの顔がずいっと近づく。
いつも巨人のために輝くハンジの瞳が、ただまっすぐに自分に向けられる。
知られたくないことを見抜こうとされているー。
ハンジの実験を受けている巨人にでもなったような最悪な気分だ。
「アイツが帰る場所は俺だ。それ以外にはない。」
ピシャリと言い切った。
それはハンジにか、自分に言い聞かせたのかー。
別に、嘘をついたわけじゃないし誤魔化したわけでもない。
一体自分は、彼女がどこへ帰ると思っているのだろう。
天国かー。まさか、そんなこと欠片ほども思っていない。
だって、死んだ人間は生き返らない。
だから、彼女は死んでなんかいない。そう、彼女は生き返ってなんか、いないのだー。
「リヴァイに大切な話があるんだ。」
ハンジの口調が変わった。
凛とした声色と真剣な瞳に、嫌な予感しかしない。
そういえば、今朝、同じフレーズをリコからも聞いたことを思い出す。
でもまさか、聞きたくもないのに今から話そうとしているハンジのそれが、リコが言っていた大切な話と同じだとは考えもしなかったのだー。