◇44話◇責任ではなく愛だから
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文字通り、死ぬほどのダメージを身体中におっているリヴァイは、強い薬を点滴で入れられていた。
もう少し身体が回復するまでは、この強い薬を身体に入れ続けて、眠らせておくのだそうだ。
そばにいても、ただ手を握って謝ることしかできない私は、ハンジとモブリットに話があるからと病室から連れ出されていた。
ハンジの部屋にやって来て、彼らと向かい合うようにソファに座る。
リヴァイの姿が見えないと不安で、私は今すぐにでも医療棟の病室に戻りたかった。
「さっき、リコが来て、帰りを待っている間に何をしていたかを聞いたよ。」
「…そう。」
責めるような言い方に、私は目を伏せた。
「リコの部屋の鏡から、向こうの世界に帰ろうとしていたんだってね。」
「…勝手なことをして、ごめんなさい。」
「あの後、リコはもう一度、向こうの世界と繋がれるかをもう1人のリコと試したらしい。
ダメだったと言っていたよ。いつでも自由に鏡同士を繋ぐことは出来ないみたいだ。
もしかしたら、あれが最後のチャンスだったのかもしれない。」
「…そう。」
「どうして、そんなことをしたんだ?自分が何をしたか分かってるのか。」
ハンジの声に、苛立ちが混ざり始めた。
とても怒っているようで、膝に置いた私の手に力が入って、スカートに皴が寄る。
「でも、帰らなかったんだから、もういいでしょ。
だから、早くリヴァイのところに行かー。」
「どうして、帰らなかったのかって私達は聞いてるんだよ!」
ハンジが大きな声を出すから、驚いて思わず顔を上げてしまう。
声色はとても怖くて、怒っていたのに、ハンジはとても傷ついた顔をしていた。
モブリットも、とても悲しそうに見えた。
「帰ろうとしたところで、リヴァイ兵長が大怪我だって聞いて、思わず身体が動いてしまったのかもしれない。
でも、僕はそれでも、見捨てて元の世界に帰ってほしかったよ。」
「…そうすれば、私がリヴァイを地獄の世界に呼び戻すこともなかったから?」
嘲るように言った。
私は今、自分のことがひどく嫌いだった。
誰かに、責めてもらいたかったのだと思う。
お前は最低だと罵られたかったー。
「違うよ…。リヴァイ兵長のことは感謝してる。
君がいてくれたから、この世界は人類最強の兵士を失わずにすんだ。
でも、君はどうなるの?って言う話をしてるんだよ。」
モブリットが、悲し気に肩を落とす。
「なまえの部屋の鏡は繋ぎ合わせてみてももうダメだったじゃないか。
正直、君が帰る道は絶望的だと思ってた。だから、チャンスがあれば試すべきだった。
分かってるかい?君はもう二度と、生まれ育った世界に帰れなくなったかもしれないんだよ?」
ハンジは、諭すように話す。
リコの部屋から飛び出してから今まで、リヴァイのことばかり考えていたから、気づかなかった。
そうか、私はもう、帰りたいと思っても帰れなくなったかもしれないのかー。
リコが、もう一度試してみても向こうの世界と繋がらなくなったと言うのなら、そうなのかもしれない。
それか、私がもう一度、あの鏡の前に立てば、繋がるのだろうか。
試してみる価値はあるんじゃないだろうか。
もし、私が、帰りたいと望んでいるのなら、だけれどー。
だって、リコは、パラレルワールドと繋がるには、感情も関係あるというようなことを言っていたしー。
「ハンジ、モブリット、話があるの。」
「…なに?」
「私に、なまえのことを教えて。知ってる限りのことをすべて。」
「それを知ってどうするの。記憶喪失のフリをしてる方が何かと楽だし、
そうやって線引きしていた方が、元の世界に戻るときにー。」
「もう元の世界には戻らない。」
私が言うと、ハンジは、やっぱりかーという顔でため息を吐いて、手に額を乗せて項垂れた。
モブリットが目の前まで駆け寄ってきて膝をつくと、私の両腕を掴む。
そして、真剣な目で私を見上げて、必死に訴えた。
「何言ってるんだよ…!君は元の世界に帰るんだ!
何が何でも、帰らなくちゃならない!俺が絶対に、帰る道を探すから!」
「そんなことしなくていいから、私になまえのことを教えて。
家族のことも友達のことも、仕草や癖、分かることを何でも。」
「考え直すんだ。君はこの世界では生きていけない。
なまえとは違いすぎる。君はか弱すぎるんだよ。」
「…っ。分かってるよ、そんなことくらい…。
私はなまえじゃないし、なまえみたいに強くないし
リヴァイの隣に並べるような女じゃないけど、それでもー。」
「違う!そういうことを言ってるんじゃない!!
君が話してくれた元の世界は、この世界の俺達には想像もできないくらいに平和だった。
君はそこで生きるべきだ。いや…、俺が、君には、そこで生きていてほしいんだ…!」
「私だけ、平和な世界に逃げるなんて出来ないよ。
リヴァイをこの地獄に戻してしまった責任を取らなきゃいけない。」
モブリットの優しさは伝わっている。
私のために言ってくれているのも、分かっている。
でも、私の気持ちは変わらない。
それでもまだ、私を説得しようとモブリットが口を開きかけたとき、ハンジが立ちあがった。
そして、私の元に歩み寄り、隣に腰を降ろす。
ハンジは、私の肩を抱くように腕をまわすと、顔を覗き込みながら口を開いた。
「確かにあのとき、私にも、リヴァイはなまえの声に反応して、
この世界に帰ってきたように見えた。
だからきっと、本当はなまえなんかいないこの地獄にリヴァイを呼び戻したのは、君だ。」
「ハンジさん、何てことを言うんですか!?彼女は、ただー。」
「黙って、モブリット。私も分かってるから。」
「…っ。」
「でも、だからって、リヴァイへの同情でこの世界に残るなら、私は何も協力しない。
どうにかして元の世界に帰る道を探して、力づくでも君を元の世界に帰すよ。
同情なんかで生きていけられるほど、この世界は甘くないんだ。」
「最初にこの世界でなまえのフリをしてって頼んだのはハンジ達でしょう。
これからもなまえのフリをするって言ってるだけなのに
どうして、反対されてるのか分からない…。」
ハンジが話す度に、私の両腕を掴むモブリットの手の力は強くなって、彼の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
でも、正直、ハンジ達は、ホッとすると思っていた。
騙すことになって、リヴァイには悪いけれど、なまえが生きていると信じてくれる限り、彼が潰れてしまうことはない。
人類最強の兵士というのは、いつまでも戦い続けてくれるはずだ。
だから、協力してくれると思っていたのにー。
「あのときとは状況が違うよ。あのときは、君は元の世界に帰る前提だった。
でも、君はもう元の世界に帰らないつもりでいる。」
「その方がハンジ達だって都合がいいでしょう?
またなまえがいなくなってしまったときに、リヴァイがどうなるか
ずっと不安だったでしょう?」
「そうだよ。いつか来る日が心配だった。
だから、私達は、君とリヴァイの距離を少しずつ離すつもりでいたんだ。」
「もうそんなことしなくていいんだから、よかったと思うけど。」
「あのときと状況が違うと言っただろう?
私達は、リヴァイも大切だけど、君のことも大切になったんだよ。」
私の顔を覗き込むハンジは、とても心配そうにしていた。
本当に心配そうにー。
まるで、大切な友人のために泣いてるみたいな、そんな顔をー。
「もう一度、言うよ。
同情でこの世界に残るなら、私は全力で反対する。君が傷つくことになるからだ。」
「…同情じゃない。私は責任があるからー。」
「正直に答えてくれ。君は本当に、責任を感じてなまえになろうと思ってるの?
それとも、他に理由があるの?たとえばー。」
元の世界に帰れなくなってもいいほどにリヴァイに惚れてしまっている、とかー。
ハンジは、真っすぐに私の目を見て、言葉にしてはいけない気持ちを口にした。
あぁ、言ってはいけなかったのに。
そんなことを言ったら、リヴァイのことも裏切って、リヴァイを想うなまえの愛も汚してしまう。
そんなこと、望んでないのにー。
私はただー。
「なまえ、強くないとこの世界は生きていけない。モブリットもそう言っただろう?
自分の気持ちとすら向き合えない弱い君が、この地獄を生きていく?
そんなの無理だろ。君はリヴァイに傷つけられて、壊れてしまうよ。」
だって、アイツは、なまえのことしか見てないじゃないかー。
ハンジの口は銃で、そこから出てくる言葉は銃弾みたいだった。
幾つも幾つも、引き金を引いて、私の心に撃つ。
もうやめて、何も言わないでー。
これ以上、ハンジの目を見ていたら、涙が零れ落ちてしまいそうだった。
だから、ギュッと目を瞑って、スカートを握りしめて、必死に堪える。
「目を開けて。私をしっかり見て。ちゃんと答えるんだ。
それすら出来ないのなら、君がこの世界に残ることに反対する。
なまえのフリをする協力だってしない。」
「…お願い、私をなまえにさせて。」
「ダメだ。弱い君は帰るべきだ。
だから、私達は、リヴァイに真実を告げる。」
「そんな…!!」
思わず目を開けた。
ハンジが、困ったように眉尻を下げて、でも、悲しいくらいの笑みを見せてくれた。
そして、優しく問う。
「リヴァイが、好き?」
モブリットは、私の両腕を掴んだまま顔を伏せていた。
言ってはいけないー、そんな声が聞こえてくるようだった。
でもー。
どうしても言葉にできなくて、私は苦し気に頷く。
それはもう,言葉にしようがしまいが同じことだ。
リヴァイを傷つける感情、なまえを裏切る感情を、私が認めてしまったということなのだからー。
「もう二度と家族や友人には会えなくなるし、平和とはかけ離れた世界で巨人の驚異にも晒される。
リヴァイは君を愛してくれないどころか、本当の君を知ることすらない。
君は傷つくばかりだよ。正直、リヴァイを愛してるなら愛してるだけ、この世界は地獄だ。」
ハンジは、歯に衣着せぬ言い方で、既に傷を作っている私の心をえぐってくる。
そんなこと、言われなくたって分かっているのだ。
リヴァイの隣にいるのも、優しい声で名前を呼ばれるのも、抱きしめられているのも、私じゃなくてなまえだった。
そこにいるのは確かに私なのに、違う。
リヴァイが見ているのは、いつだってなまえだ。
そういう約束でリヴァイの隣にいたのだから、当然なのに、分かっているのに、私はなまえを感じる度に傷ついて、苦しんだ。
もうそれが嫌で、元の世界に帰りたいと願った。
でもー。
「…ごめんなさい。私…、ここにいたい。リヴァイのそばにいたい。
誰かの代わりでもいい。そこが地獄でも、リヴァイがいるのならそれだけでいい。
同情でも責任でもない…。私が、リヴァイを騙してでもいいから、そばにいいたいだけなの…。」
「そっか…。」
ハンジは呟くように答えると、私の肩を抱いている手を自分の胸元に抱き寄せた。
そして、優しく私の髪を撫でながら、続ける。
「試すようなことを訊いて、ごめんね。」
ハンジの胸元で、私は首を横に振った。
あと一言でも口を開けば、涙が流れそうだった。
この世界に残ると決めたことを後悔するつもりはなかった。
でも、もう二度と、家族やリコに会えないことを、悲しんでしまいそうでー。
「とりあえず、今日は休もう。
明日から、なまえの交友関係や仕事のことを教えてあげられるように準備をしておくよ。」
「…!ありがとう…っ。」
ホッとした。
素直に、嬉しかった。
私の両腕を掴んでいたモブリットの手が、絶望したみたいにストンと落ちていくー。
そしたら涙が零れて、私はハンジの腕の中で、絶望的な愛を叫ぶみたいに泣きじゃくった。
もう少し身体が回復するまでは、この強い薬を身体に入れ続けて、眠らせておくのだそうだ。
そばにいても、ただ手を握って謝ることしかできない私は、ハンジとモブリットに話があるからと病室から連れ出されていた。
ハンジの部屋にやって来て、彼らと向かい合うようにソファに座る。
リヴァイの姿が見えないと不安で、私は今すぐにでも医療棟の病室に戻りたかった。
「さっき、リコが来て、帰りを待っている間に何をしていたかを聞いたよ。」
「…そう。」
責めるような言い方に、私は目を伏せた。
「リコの部屋の鏡から、向こうの世界に帰ろうとしていたんだってね。」
「…勝手なことをして、ごめんなさい。」
「あの後、リコはもう一度、向こうの世界と繋がれるかをもう1人のリコと試したらしい。
ダメだったと言っていたよ。いつでも自由に鏡同士を繋ぐことは出来ないみたいだ。
もしかしたら、あれが最後のチャンスだったのかもしれない。」
「…そう。」
「どうして、そんなことをしたんだ?自分が何をしたか分かってるのか。」
ハンジの声に、苛立ちが混ざり始めた。
とても怒っているようで、膝に置いた私の手に力が入って、スカートに皴が寄る。
「でも、帰らなかったんだから、もういいでしょ。
だから、早くリヴァイのところに行かー。」
「どうして、帰らなかったのかって私達は聞いてるんだよ!」
ハンジが大きな声を出すから、驚いて思わず顔を上げてしまう。
声色はとても怖くて、怒っていたのに、ハンジはとても傷ついた顔をしていた。
モブリットも、とても悲しそうに見えた。
「帰ろうとしたところで、リヴァイ兵長が大怪我だって聞いて、思わず身体が動いてしまったのかもしれない。
でも、僕はそれでも、見捨てて元の世界に帰ってほしかったよ。」
「…そうすれば、私がリヴァイを地獄の世界に呼び戻すこともなかったから?」
嘲るように言った。
私は今、自分のことがひどく嫌いだった。
誰かに、責めてもらいたかったのだと思う。
お前は最低だと罵られたかったー。
「違うよ…。リヴァイ兵長のことは感謝してる。
君がいてくれたから、この世界は人類最強の兵士を失わずにすんだ。
でも、君はどうなるの?って言う話をしてるんだよ。」
モブリットが、悲し気に肩を落とす。
「なまえの部屋の鏡は繋ぎ合わせてみてももうダメだったじゃないか。
正直、君が帰る道は絶望的だと思ってた。だから、チャンスがあれば試すべきだった。
分かってるかい?君はもう二度と、生まれ育った世界に帰れなくなったかもしれないんだよ?」
ハンジは、諭すように話す。
リコの部屋から飛び出してから今まで、リヴァイのことばかり考えていたから、気づかなかった。
そうか、私はもう、帰りたいと思っても帰れなくなったかもしれないのかー。
リコが、もう一度試してみても向こうの世界と繋がらなくなったと言うのなら、そうなのかもしれない。
それか、私がもう一度、あの鏡の前に立てば、繋がるのだろうか。
試してみる価値はあるんじゃないだろうか。
もし、私が、帰りたいと望んでいるのなら、だけれどー。
だって、リコは、パラレルワールドと繋がるには、感情も関係あるというようなことを言っていたしー。
「ハンジ、モブリット、話があるの。」
「…なに?」
「私に、なまえのことを教えて。知ってる限りのことをすべて。」
「それを知ってどうするの。記憶喪失のフリをしてる方が何かと楽だし、
そうやって線引きしていた方が、元の世界に戻るときにー。」
「もう元の世界には戻らない。」
私が言うと、ハンジは、やっぱりかーという顔でため息を吐いて、手に額を乗せて項垂れた。
モブリットが目の前まで駆け寄ってきて膝をつくと、私の両腕を掴む。
そして、真剣な目で私を見上げて、必死に訴えた。
「何言ってるんだよ…!君は元の世界に帰るんだ!
何が何でも、帰らなくちゃならない!俺が絶対に、帰る道を探すから!」
「そんなことしなくていいから、私になまえのことを教えて。
家族のことも友達のことも、仕草や癖、分かることを何でも。」
「考え直すんだ。君はこの世界では生きていけない。
なまえとは違いすぎる。君はか弱すぎるんだよ。」
「…っ。分かってるよ、そんなことくらい…。
私はなまえじゃないし、なまえみたいに強くないし
リヴァイの隣に並べるような女じゃないけど、それでもー。」
「違う!そういうことを言ってるんじゃない!!
君が話してくれた元の世界は、この世界の俺達には想像もできないくらいに平和だった。
君はそこで生きるべきだ。いや…、俺が、君には、そこで生きていてほしいんだ…!」
「私だけ、平和な世界に逃げるなんて出来ないよ。
リヴァイをこの地獄に戻してしまった責任を取らなきゃいけない。」
モブリットの優しさは伝わっている。
私のために言ってくれているのも、分かっている。
でも、私の気持ちは変わらない。
それでもまだ、私を説得しようとモブリットが口を開きかけたとき、ハンジが立ちあがった。
そして、私の元に歩み寄り、隣に腰を降ろす。
ハンジは、私の肩を抱くように腕をまわすと、顔を覗き込みながら口を開いた。
「確かにあのとき、私にも、リヴァイはなまえの声に反応して、
この世界に帰ってきたように見えた。
だからきっと、本当はなまえなんかいないこの地獄にリヴァイを呼び戻したのは、君だ。」
「ハンジさん、何てことを言うんですか!?彼女は、ただー。」
「黙って、モブリット。私も分かってるから。」
「…っ。」
「でも、だからって、リヴァイへの同情でこの世界に残るなら、私は何も協力しない。
どうにかして元の世界に帰る道を探して、力づくでも君を元の世界に帰すよ。
同情なんかで生きていけられるほど、この世界は甘くないんだ。」
「最初にこの世界でなまえのフリをしてって頼んだのはハンジ達でしょう。
これからもなまえのフリをするって言ってるだけなのに
どうして、反対されてるのか分からない…。」
ハンジが話す度に、私の両腕を掴むモブリットの手の力は強くなって、彼の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
でも、正直、ハンジ達は、ホッとすると思っていた。
騙すことになって、リヴァイには悪いけれど、なまえが生きていると信じてくれる限り、彼が潰れてしまうことはない。
人類最強の兵士というのは、いつまでも戦い続けてくれるはずだ。
だから、協力してくれると思っていたのにー。
「あのときとは状況が違うよ。あのときは、君は元の世界に帰る前提だった。
でも、君はもう元の世界に帰らないつもりでいる。」
「その方がハンジ達だって都合がいいでしょう?
またなまえがいなくなってしまったときに、リヴァイがどうなるか
ずっと不安だったでしょう?」
「そうだよ。いつか来る日が心配だった。
だから、私達は、君とリヴァイの距離を少しずつ離すつもりでいたんだ。」
「もうそんなことしなくていいんだから、よかったと思うけど。」
「あのときと状況が違うと言っただろう?
私達は、リヴァイも大切だけど、君のことも大切になったんだよ。」
私の顔を覗き込むハンジは、とても心配そうにしていた。
本当に心配そうにー。
まるで、大切な友人のために泣いてるみたいな、そんな顔をー。
「もう一度、言うよ。
同情でこの世界に残るなら、私は全力で反対する。君が傷つくことになるからだ。」
「…同情じゃない。私は責任があるからー。」
「正直に答えてくれ。君は本当に、責任を感じてなまえになろうと思ってるの?
それとも、他に理由があるの?たとえばー。」
元の世界に帰れなくなってもいいほどにリヴァイに惚れてしまっている、とかー。
ハンジは、真っすぐに私の目を見て、言葉にしてはいけない気持ちを口にした。
あぁ、言ってはいけなかったのに。
そんなことを言ったら、リヴァイのことも裏切って、リヴァイを想うなまえの愛も汚してしまう。
そんなこと、望んでないのにー。
私はただー。
「なまえ、強くないとこの世界は生きていけない。モブリットもそう言っただろう?
自分の気持ちとすら向き合えない弱い君が、この地獄を生きていく?
そんなの無理だろ。君はリヴァイに傷つけられて、壊れてしまうよ。」
だって、アイツは、なまえのことしか見てないじゃないかー。
ハンジの口は銃で、そこから出てくる言葉は銃弾みたいだった。
幾つも幾つも、引き金を引いて、私の心に撃つ。
もうやめて、何も言わないでー。
これ以上、ハンジの目を見ていたら、涙が零れ落ちてしまいそうだった。
だから、ギュッと目を瞑って、スカートを握りしめて、必死に堪える。
「目を開けて。私をしっかり見て。ちゃんと答えるんだ。
それすら出来ないのなら、君がこの世界に残ることに反対する。
なまえのフリをする協力だってしない。」
「…お願い、私をなまえにさせて。」
「ダメだ。弱い君は帰るべきだ。
だから、私達は、リヴァイに真実を告げる。」
「そんな…!!」
思わず目を開けた。
ハンジが、困ったように眉尻を下げて、でも、悲しいくらいの笑みを見せてくれた。
そして、優しく問う。
「リヴァイが、好き?」
モブリットは、私の両腕を掴んだまま顔を伏せていた。
言ってはいけないー、そんな声が聞こえてくるようだった。
でもー。
どうしても言葉にできなくて、私は苦し気に頷く。
それはもう,言葉にしようがしまいが同じことだ。
リヴァイを傷つける感情、なまえを裏切る感情を、私が認めてしまったということなのだからー。
「もう二度と家族や友人には会えなくなるし、平和とはかけ離れた世界で巨人の驚異にも晒される。
リヴァイは君を愛してくれないどころか、本当の君を知ることすらない。
君は傷つくばかりだよ。正直、リヴァイを愛してるなら愛してるだけ、この世界は地獄だ。」
ハンジは、歯に衣着せぬ言い方で、既に傷を作っている私の心をえぐってくる。
そんなこと、言われなくたって分かっているのだ。
リヴァイの隣にいるのも、優しい声で名前を呼ばれるのも、抱きしめられているのも、私じゃなくてなまえだった。
そこにいるのは確かに私なのに、違う。
リヴァイが見ているのは、いつだってなまえだ。
そういう約束でリヴァイの隣にいたのだから、当然なのに、分かっているのに、私はなまえを感じる度に傷ついて、苦しんだ。
もうそれが嫌で、元の世界に帰りたいと願った。
でもー。
「…ごめんなさい。私…、ここにいたい。リヴァイのそばにいたい。
誰かの代わりでもいい。そこが地獄でも、リヴァイがいるのならそれだけでいい。
同情でも責任でもない…。私が、リヴァイを騙してでもいいから、そばにいいたいだけなの…。」
「そっか…。」
ハンジは呟くように答えると、私の肩を抱いている手を自分の胸元に抱き寄せた。
そして、優しく私の髪を撫でながら、続ける。
「試すようなことを訊いて、ごめんね。」
ハンジの胸元で、私は首を横に振った。
あと一言でも口を開けば、涙が流れそうだった。
この世界に残ると決めたことを後悔するつもりはなかった。
でも、もう二度と、家族やリコに会えないことを、悲しんでしまいそうでー。
「とりあえず、今日は休もう。
明日から、なまえの交友関係や仕事のことを教えてあげられるように準備をしておくよ。」
「…!ありがとう…っ。」
ホッとした。
素直に、嬉しかった。
私の両腕を掴んでいたモブリットの手が、絶望したみたいにストンと落ちていくー。
そしたら涙が零れて、私はハンジの腕の中で、絶望的な愛を叫ぶみたいに泣きじゃくった。