◇1話◇鏡に映る知らない彼女
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朝一で急な来客の対応をお願いされた私が、漸くフロアに戻れたのはお昼前だった。
このままお昼休憩に入ってもいいと上司から許しを貰って、また新しい仕事をお願いされてしまう前にさっさと食堂へ向かう。
時間的にお昼休憩には少し早かったからか、食堂はまだ人がまばらだった。
特にお腹もすいていないし、適当に一番安いランチを頼んで空いてる席に座った私は、美味しくもマズくもない社食を食べながら、片手でスマホを扱う。
今夜は好きな俳優の出るドラマの最終回だ。
とても人気のあるドラマで、エンタメニュースのトップでも今夜の最終回前の特集が組まれていた。
違う世界にトリップしてしまったヒロインが、そこで出逢った男と恋に落ちるなんていうありえない設定のストーリーなのだけれど、文字通り住む世界の違う2人が障害を乗り越えて結ばれていく姿が意外と胸をキュンとさせて面白いのだ。
それになにより、ヒロインが恋に落ちる男というのが、一見すると冷たいのだけれど、実はとても仲間想いの熱い男だったりするものだからキュンキュンが止まらないー。
その男を大好きな俳優が演じているというのも、私がドハマりしている理由の一つだ。
「ニヤニヤしてると思ったら、またあのドラマ?」
私の隣の席に座ってスマホを覗き込んだのは、同期のリコだった。
呆れた様にため息を吐かれたので、私はこのドラマがどれだけ素晴らしいのかを語って教えてやる。
だが、もう何度も聞いたと冷たくあしらわれてしまった。
「そりゃ、リコは結婚も決まって、イアンとラブラブで幸せだからいいけどさ。
恋人もいない、仕事もつまんない、親友は結婚式の準備で遊んでくれない。
そんな女は、好きな俳優のドラマでも見て癒されるしかないのよ。」
「…お気の毒に。」
頬を膨らませれば、リコに本当に気の毒そうな目を向けられた。
惨めだ。
だから私はまたスマホの画面に表示される大好きな俳優の笑顔に癒されることにした。
「そういえば、この中途半端な時期に企画調査部に新人が入ったらしいよ。」
「企画調査部に?」
スマホの画面上で光るイケメンの笑顔に釘付けになっていた私の視線が、思わずリコへと向いてしまう。
企画調査部と言えば、変わり者だらけと評判の日陰部署だ。
何をしているところなのかはイマイチよくわからないけれど、部名に調査とつくくらいだから、何かを調査しているのだろうと思う。
毎年新入社員が入ってくるこの会社でも、そのよく分からない部署を望む若者なんているはずもなく、配属されるのは本当に一握りの変わり者だけだ。
「エルヴィン部長が直接スカウトして連れてきたって話だよ。」
「へぇ~。どんな人なんだろう?見た?」
「見てはないけど、元々、裏社会で探偵してたやつらだって誰かが言ってたかな。」
「やつら?1人じゃないの?」
「いいや、3人。男2人と子供みたいに若い女1人だって。」
私が来客の対応に追われている間、社内は変わり者部署に入ってきた変わり者の話題で持ちきりだったようだ。
フロアが遠いので、リコも見たわけではないらしいが、男2人はなかなかイケメンだったらしい。
女子社員が特に盛り上がっていたということだった。
恋人募集中なら見に行ってみればと適当なアドバイスをリコからもらったけれど、日陰部署に入ってきた裏社会の男なんて絶対に嫌だ。
私はもっと、あの爽やかイケメン俳優の彼みたいな人がー。
またリコに馬鹿にされるから言わないけれど。
そんな話をしているうちに昼休憩に入った社員達が続々と食堂に集まってきていた。
その人の波に乗ってやってきたイアンとミタビが、自然な流れで私達と向かい合う席に着く。
「お前達も調査部に入った男達の話してるのか。」
イアンが呆れたように言う。
婚約者のリコが他の男の話をしていたことの嫉妬というよりも、もう聞き飽きたという様子だ。
噂話に疎いイアンの耳にすら聞き飽きるほど届くくらいだから、相当な話題になっているようだ。
「イケメンだから見に行ってみたらどうかとアドバイスをあげてたんだよ。」
「またお前は適当なことを…。なまえが本気にしたらどうするんだ。」
「そうだぞ。この間、ストーカーに襲われたばかりなのに。
なまえは変な男にばかり目をつけられるんだから
そういうのとは敢えて関わらないくらいにしておかないと。」
イアンとミタビが、心底真剣に言うから、余計に惨めな気持ちになる。
まるで、私は、ストーカーか変な男にしか好意を寄せられないみたいな言い方ー。
何より、間違ってないのが悔しい。
言い返す言葉もない。
数か月前のストーカー騒ぎのとき、助けてくれたのはリコとイアン、ミタビだった。
仕事から帰ったら、家に知らない男がいて『俺は君の恋人だよ。』なんて恍惚の表情で繰り返された恐怖は今も消えていない。
あのとき、私の忘れ物を届けにリコ達が来てくれなかったら、どうなっていたか分からない。
だから、私はいろんな意味で彼らに頭が上がらないのだ。
「あんたって本当、残念美人よね。」
「性格も悪いわけではないんだがなぁ。俺達の友達を紹介しても
ことごとくフラれ続けるし…。」
「一体、何が悪いんだ?」
「頭だね。」
「あぁ、頭か。」
「確かに。」
たとえ、どんなに失礼なことを真面目な顔で言われたとしても、頭が上がらないのだー。
このままお昼休憩に入ってもいいと上司から許しを貰って、また新しい仕事をお願いされてしまう前にさっさと食堂へ向かう。
時間的にお昼休憩には少し早かったからか、食堂はまだ人がまばらだった。
特にお腹もすいていないし、適当に一番安いランチを頼んで空いてる席に座った私は、美味しくもマズくもない社食を食べながら、片手でスマホを扱う。
今夜は好きな俳優の出るドラマの最終回だ。
とても人気のあるドラマで、エンタメニュースのトップでも今夜の最終回前の特集が組まれていた。
違う世界にトリップしてしまったヒロインが、そこで出逢った男と恋に落ちるなんていうありえない設定のストーリーなのだけれど、文字通り住む世界の違う2人が障害を乗り越えて結ばれていく姿が意外と胸をキュンとさせて面白いのだ。
それになにより、ヒロインが恋に落ちる男というのが、一見すると冷たいのだけれど、実はとても仲間想いの熱い男だったりするものだからキュンキュンが止まらないー。
その男を大好きな俳優が演じているというのも、私がドハマりしている理由の一つだ。
「ニヤニヤしてると思ったら、またあのドラマ?」
私の隣の席に座ってスマホを覗き込んだのは、同期のリコだった。
呆れた様にため息を吐かれたので、私はこのドラマがどれだけ素晴らしいのかを語って教えてやる。
だが、もう何度も聞いたと冷たくあしらわれてしまった。
「そりゃ、リコは結婚も決まって、イアンとラブラブで幸せだからいいけどさ。
恋人もいない、仕事もつまんない、親友は結婚式の準備で遊んでくれない。
そんな女は、好きな俳優のドラマでも見て癒されるしかないのよ。」
「…お気の毒に。」
頬を膨らませれば、リコに本当に気の毒そうな目を向けられた。
惨めだ。
だから私はまたスマホの画面に表示される大好きな俳優の笑顔に癒されることにした。
「そういえば、この中途半端な時期に企画調査部に新人が入ったらしいよ。」
「企画調査部に?」
スマホの画面上で光るイケメンの笑顔に釘付けになっていた私の視線が、思わずリコへと向いてしまう。
企画調査部と言えば、変わり者だらけと評判の日陰部署だ。
何をしているところなのかはイマイチよくわからないけれど、部名に調査とつくくらいだから、何かを調査しているのだろうと思う。
毎年新入社員が入ってくるこの会社でも、そのよく分からない部署を望む若者なんているはずもなく、配属されるのは本当に一握りの変わり者だけだ。
「エルヴィン部長が直接スカウトして連れてきたって話だよ。」
「へぇ~。どんな人なんだろう?見た?」
「見てはないけど、元々、裏社会で探偵してたやつらだって誰かが言ってたかな。」
「やつら?1人じゃないの?」
「いいや、3人。男2人と子供みたいに若い女1人だって。」
私が来客の対応に追われている間、社内は変わり者部署に入ってきた変わり者の話題で持ちきりだったようだ。
フロアが遠いので、リコも見たわけではないらしいが、男2人はなかなかイケメンだったらしい。
女子社員が特に盛り上がっていたということだった。
恋人募集中なら見に行ってみればと適当なアドバイスをリコからもらったけれど、日陰部署に入ってきた裏社会の男なんて絶対に嫌だ。
私はもっと、あの爽やかイケメン俳優の彼みたいな人がー。
またリコに馬鹿にされるから言わないけれど。
そんな話をしているうちに昼休憩に入った社員達が続々と食堂に集まってきていた。
その人の波に乗ってやってきたイアンとミタビが、自然な流れで私達と向かい合う席に着く。
「お前達も調査部に入った男達の話してるのか。」
イアンが呆れたように言う。
婚約者のリコが他の男の話をしていたことの嫉妬というよりも、もう聞き飽きたという様子だ。
噂話に疎いイアンの耳にすら聞き飽きるほど届くくらいだから、相当な話題になっているようだ。
「イケメンだから見に行ってみたらどうかとアドバイスをあげてたんだよ。」
「またお前は適当なことを…。なまえが本気にしたらどうするんだ。」
「そうだぞ。この間、ストーカーに襲われたばかりなのに。
なまえは変な男にばかり目をつけられるんだから
そういうのとは敢えて関わらないくらいにしておかないと。」
イアンとミタビが、心底真剣に言うから、余計に惨めな気持ちになる。
まるで、私は、ストーカーか変な男にしか好意を寄せられないみたいな言い方ー。
何より、間違ってないのが悔しい。
言い返す言葉もない。
数か月前のストーカー騒ぎのとき、助けてくれたのはリコとイアン、ミタビだった。
仕事から帰ったら、家に知らない男がいて『俺は君の恋人だよ。』なんて恍惚の表情で繰り返された恐怖は今も消えていない。
あのとき、私の忘れ物を届けにリコ達が来てくれなかったら、どうなっていたか分からない。
だから、私はいろんな意味で彼らに頭が上がらないのだ。
「あんたって本当、残念美人よね。」
「性格も悪いわけではないんだがなぁ。俺達の友達を紹介しても
ことごとくフラれ続けるし…。」
「一体、何が悪いんだ?」
「頭だね。」
「あぁ、頭か。」
「確かに。」
たとえ、どんなに失礼なことを真面目な顔で言われたとしても、頭が上がらないのだー。