信じられない———。
仕事終わり、事務所を出たハンジは、見慣れた華奢な小さな背中を眺めながら、心の中で何度も繰り返す。
今日の昼間、リヴァイが持ってきた弁当を発端に始まった〝愛妻事件〟。
リヴァイは、彼女が作ってくれた弁当だ、と言うが、殆どの同僚達が信じきれていない。
ハンジなんて、本人に向かって『彼女が出来なさ過ぎて妄想が現実に侵食して来た』と通院を勧めたほどだ。
結局、一緒に暮らしているようなことを言っていたので、リヴァイの家に皆で押しかけて、本物の女なのか、もしくは男なのか、それとも妄想なのかを確かめることになった。
ハンジと共に、もしかすると世紀の瞬間かもしれないそのときに立ち会うことになったのは、モブリットとエルヴィンだ。

「てめぇら、本当についてくる気か。」

不意に、リヴァイが立ち止まって後ろを振り返る。
リヴァイの住むアパートメントは、すぐそこだった。
最終確認のつもりなのだろう。

「あぁ、もちろん。リヴァイのお嫁さんなら
　上司の私からも挨拶をしないといけないからね。」

エルヴィンが柔らかく微笑む。
好奇心でついてきた彼だけだ。
リヴァイの愛妻は存在していると信じているのは———。