◇完結後◇君を知るお弁当
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
レンガ調の古い建物は、賑やかな通りを一本入ったところにあった。
窓の向こうには遠く青い海も見える。
挨拶回りから戻って来たハンジは、窓を背にして自分のデスクの席に着いた。
世界各地を転々とする調査兵団は、最近、職場を移転したばかりだ。
調査対象であるパラディ島や、マーレとのアクセスを重視して、団長であるエルヴィンが決めたのは、駐屯兵団の本部が管轄する海沿いの街だった。
まぁ、出張した際に女を作って帰って来たミケが、遠距離恋愛に耐えられず、エルヴィンにこの街を推薦しまくったという噂もあるが、その真偽は最近ご機嫌のミケが語ってくれているし、まぁ良しとしよう。
海沿いのこの街は、のんびりとした雰囲気の中に活気も溢れていて、住んでいる人達も優しい。
食べ物も美味しい。
この街を気に入っているのは、ミケだけではないということだ。
だがしかしー。
(うーん…。やっぱり変だ。)
デスクに両肘をついたハンジは、口元の前で両手を組んで、リヴァイを観察していた。
班毎に島を作ってデスクを並べた事務所で、リヴァイ班は、ハンジ班のちょうど真向かいにあった。
だから、よく見えるのだ。
いつもの無表情が緩んでいるリヴァイの顔が。
あまり気持ちを表情や態度に出す男ではないので、気づいている調査兵は少ないだろう。
でも、他人を観察するのが好きなハンジをはじめとして、付き合いの深いエルヴィンやモブリット、リヴァイ班の面々は恐らく気づいている。
今、リヴァイは浮かれている。
とてつもなく、浮かれている。
その理由をずっと考えているのだけど、全く思い当たることがないのだ。
勘違いだったのかと思って、今日も一日観察しているのだけれど、むしろ浮かれ具合がパワーアップしているように見える。
いつもはデスクに積み上がっている書類の捌くスピードも尋常ではないしー。
「わぁ!めっちゃ美味そうじゃないっすか!」
「いいね、ミケ。今日も愛妻弁当か。」
「フン。」
ハンジ班の隣にデスクの島を作っているミケ班から、ワッと明るい声が聞こえてきた。
どうやら、もうお昼の時間のようだ。
毎回似たような話題から始まってくれるそれが、ここ数日は時計よりも確かな休憩時間の合図になっている。
弁当を持って来ている調査兵もいないわけではないが、とても少ない。
殆どが、近くの食事屋に行ったり、買ってきたパンやおにぎりをかじったりしている。
だから、愛妻弁当はとても目立って、初めは、思春期の男子くらいウザめにからかったハンジだったが、自慢気に鼻を鳴らすミケの態度にも飽きて、今ではもう反応すらしなくなっていた。
(女が出来たとか?)
嬉しそうに愛妻弁当を頬張っているミケが視界の端に見えて、ふ、と思いついた。
でも、その可能性は瞬殺される。
だって、それなりに長い付き合いだけれど、リヴァイに女関係で浮いた話なんか聞いたことがない。
本人は背が低いことを気にしているようだけれど、スタイルもいいし、顔もいい。仕事も出来て、人望も厚い。
これだけ揃っていれば、女にモテないわけがない。
誘われているところを見たことも何度だってあるが、リヴァイは興味なさそうに断ってばかりだった。
もしかして男が好きなんじゃないか、という疑惑が仲間内でこっそりと持ち上がっているくらいには、リヴァイに女が出来て浮かれているという説はありえない。
(じゃあ、男が出来たとか。)
それなら、と新しい可能性が生まれる。
別に、他人の性趣向をとやかく言うつもりはないし、異性ではなく同性に恋愛感情を抱くことを悪いことだとも思わない。
リヴァイに彼氏が出来たのならとことん応援する。
でも、この街に来てまだ1週間と少ししか経っていないのだ。
今まで浮いた話ひとつなかったリヴァイが、この短期間に好みの男を落とすだけのスキルを持っているとは思えない。
(よし!)
ちょうどお昼休憩だし、リヴァイに直接何があったのかを聞こうと決めて、ハンジは、さっき座ったばかりの椅子から立ち上がった。
自分のことをあまり話そうとはしないリヴァイだけれど、さすがに嬉しかったことくらいは話してくれるだろう。
リヴァイ班のデスクが並ぶ島へ行くと、エルドが弁当をバッグの中から取り出しているところだった。
付き合いの長い恋人をこの街に連れて来たエルドは、毎日、美味しそうな弁当を作ってもらっている。
以前の職場にいるときからそうだったから、ミケのように声をかけられることすらないくらいに、いつもの光景だ。
その他のリヴァイ班のメンバーが続々と立ち上がる。
彼らはいつも近くの食事屋で一緒に昼を食べている。今日はそこに混ぜてもらおうと、ハンジは声をかけた。
「やぁ、今日はモブリットがまだ挨拶回りから戻ってなくてさ。
一緒にお昼行ってもいいかい?」
「あ、ハンジさん。いいですね。一緒に行きましょう。」
リヴァイ班の紅一点であるペトラが嬉しそうに言った。
オルオとグンタからも快諾してもらったのだが、リヴァイだけは席を立とうとしない。
自分のリュックの中を凝視しているのだ。
やっぱり、今日のリヴァイは変だ。
浮かれているを通り越して、変だ。
「リヴァイ兵長、もうお昼ですよ。
昨日のお店、混んじゃう前に行きましょう。」
痺れを切らしてペトラが声をかけると、やっとリヴァイが顔を上げた。
「お前らだけで行け。俺はこれがある。」
リヴァイはそう言うと、リュックの中から綺麗な青色の布に包まれた四角い箱を出した。
驚いた。
だって、それはどう見ても弁当だった。
まさか、掃除の小道具ばかりが出てくるリヴァイのリュックから、そんな生活感のあるものが現れるとは想像もしていなかったハンジ達は、目を丸くする。
同僚や部下達の様子にも気づかないリヴァイは、まるでプレゼントを開ける子供のように丁寧に布の結び目を解いた。
そして、現れたのはやっぱり弁当箱だ。
リヴァイが蓋を外すと、色とりどりの美味しそうな食べ物が見えて、ハンジだけではなくペトラ達まで思わず唾を飲んでしまう。
異常な状況に気づいたエルドも、フォークを片手に固まっていた。
だって、弁当を見下ろして頬を綻ばせるリヴァイは、付き合いの短い調査兵も気づくくらいに浮かれていたから。
驚いた、まさか本当にー。
「リヴァイ、彼氏が出来たの!?」
ハンジが思わず叫んだから、事務所に残っていた調査兵達の視線がリヴァイへ向いてしまった。
リヴァイが、顔を上げる。
目が合う。
沈黙が続く。
ゴクリ、唾を飲み込んだのは、ハンジだけじゃない。
いよいよ、調査兵達が心の奥でずっと感じていた疑惑の答えが明らかになるー。
「・・・・・・は?」
わけが分からないという顔をしたリヴァイから返って来たのは、返事になっていない一文字だけだった。
「だって!リヴァイが弁当を持ってくるなんておかしいじゃないかっ。
それはもう、彼氏が作ってくれた愛妻弁当ならぬ愛彼氏弁当だとしか思えない!!」
「理屈は分かった。だが、だからって、なんで彼氏なんだ。」
「だって、リヴァイは男が好きなんだろう?」
「・・・・・普通に女が好きだが。」
ハンジの勢いに若干引き気味だったが、リヴァイは、調査兵達が長年ずっと悶々としていた答えを、聞き流しそうなほどに普通に答えた。
いつの間にか、事務所の中はシンと静まり返っていた。
そして、そばにいる者同士で顔を見合わせる。
本人は、女が好きだと言ったが、真偽を計りかねていた。
「嘘だ!!だって、リヴァイは、どんな女が誘ったって興味なさそうにしてたじゃないか!?
それって、女に興味がないからだろ!?」
「それはその女に興味がなかったからだろ。」
「じゃあ、そのお弁当は何だよ!!」
「愛妻弁当だ。」
「ほぉーーーーら、やっぱり!!彼氏が出来たんじゃないか!!」
「興奮してるところ悪いが、愛妻は女だ。」
リヴァイがまた、飄々と答えた。
興奮していたハンジは、興奮して口を開けたままの格好で固まった。
誰も、喋れなかった。
声が出なかったとか、何と言えば分からなかったとかじゃない。
理解が追い付かなくて、喋るというところまで頭がまわらなかったのだ。
静かになったのを良いことだととったのか、リヴァイは、綺麗にナプキンで包まれたフォークを取り出した。
「いただきます。」
丁寧に手を合わせた後、リヴァイはまずは玉子焼きをフォークで刺した。
それから慎重に口に頬張って、幸せそうに目を細める。
その様子を、事務所に残っていた調査兵達がみんな、信じられないものでも見るように凝視していた。
その視線に気づいたらしいリヴァイが、ハッとした顔をした。
そしてー。
「これは俺のだ。美味そうに見えるかもしれないが、
実際、死ぬほど美味いが、誰にもやらないからな。」
弁当箱を隠すように両手で持ったリヴァイが、至極真剣に言った。
それから数秒後だ。
新しく移転してきたばかりの調査兵団の事務所から、幾つもの悲鳴のような驚きの叫び声が響いたのはー。
ーーーーーーーーー
「なんじゃ、今のは?おぬしの事務所のある方じゃなかったか?」
「そのようでしたね。」
「涼しい顔をして、心配ではないのか。」
「また何かハンジがやらかしたのでしょう。
事務所にはリヴァイもいますから、
問題があれば私がいなくてもうまくやってくれますよ。」
「信頼しておるんじゃな。」
「そうですね。初めて会ったときから、リヴァイにはいろいろと助けてもらってますし、
長い付き合いですから。それこそ、記憶にない遺伝子に、
リヴァイとの繋がりが刻まれているような…、すみません、おかしなことを言いましたね。」
「いや、おかしいとは思わんよ。私達は人生を繰り返しているのだと
昔、どこかの酒の席で聞いたことがある。きっと、出逢っていたんだろう。
前の人生で、何度も。」
「そうですね。きっと。」
窓の向こうには遠く青い海も見える。
挨拶回りから戻って来たハンジは、窓を背にして自分のデスクの席に着いた。
世界各地を転々とする調査兵団は、最近、職場を移転したばかりだ。
調査対象であるパラディ島や、マーレとのアクセスを重視して、団長であるエルヴィンが決めたのは、駐屯兵団の本部が管轄する海沿いの街だった。
まぁ、出張した際に女を作って帰って来たミケが、遠距離恋愛に耐えられず、エルヴィンにこの街を推薦しまくったという噂もあるが、その真偽は最近ご機嫌のミケが語ってくれているし、まぁ良しとしよう。
海沿いのこの街は、のんびりとした雰囲気の中に活気も溢れていて、住んでいる人達も優しい。
食べ物も美味しい。
この街を気に入っているのは、ミケだけではないということだ。
だがしかしー。
(うーん…。やっぱり変だ。)
デスクに両肘をついたハンジは、口元の前で両手を組んで、リヴァイを観察していた。
班毎に島を作ってデスクを並べた事務所で、リヴァイ班は、ハンジ班のちょうど真向かいにあった。
だから、よく見えるのだ。
いつもの無表情が緩んでいるリヴァイの顔が。
あまり気持ちを表情や態度に出す男ではないので、気づいている調査兵は少ないだろう。
でも、他人を観察するのが好きなハンジをはじめとして、付き合いの深いエルヴィンやモブリット、リヴァイ班の面々は恐らく気づいている。
今、リヴァイは浮かれている。
とてつもなく、浮かれている。
その理由をずっと考えているのだけど、全く思い当たることがないのだ。
勘違いだったのかと思って、今日も一日観察しているのだけれど、むしろ浮かれ具合がパワーアップしているように見える。
いつもはデスクに積み上がっている書類の捌くスピードも尋常ではないしー。
「わぁ!めっちゃ美味そうじゃないっすか!」
「いいね、ミケ。今日も愛妻弁当か。」
「フン。」
ハンジ班の隣にデスクの島を作っているミケ班から、ワッと明るい声が聞こえてきた。
どうやら、もうお昼の時間のようだ。
毎回似たような話題から始まってくれるそれが、ここ数日は時計よりも確かな休憩時間の合図になっている。
弁当を持って来ている調査兵もいないわけではないが、とても少ない。
殆どが、近くの食事屋に行ったり、買ってきたパンやおにぎりをかじったりしている。
だから、愛妻弁当はとても目立って、初めは、思春期の男子くらいウザめにからかったハンジだったが、自慢気に鼻を鳴らすミケの態度にも飽きて、今ではもう反応すらしなくなっていた。
(女が出来たとか?)
嬉しそうに愛妻弁当を頬張っているミケが視界の端に見えて、ふ、と思いついた。
でも、その可能性は瞬殺される。
だって、それなりに長い付き合いだけれど、リヴァイに女関係で浮いた話なんか聞いたことがない。
本人は背が低いことを気にしているようだけれど、スタイルもいいし、顔もいい。仕事も出来て、人望も厚い。
これだけ揃っていれば、女にモテないわけがない。
誘われているところを見たことも何度だってあるが、リヴァイは興味なさそうに断ってばかりだった。
もしかして男が好きなんじゃないか、という疑惑が仲間内でこっそりと持ち上がっているくらいには、リヴァイに女が出来て浮かれているという説はありえない。
(じゃあ、男が出来たとか。)
それなら、と新しい可能性が生まれる。
別に、他人の性趣向をとやかく言うつもりはないし、異性ではなく同性に恋愛感情を抱くことを悪いことだとも思わない。
リヴァイに彼氏が出来たのならとことん応援する。
でも、この街に来てまだ1週間と少ししか経っていないのだ。
今まで浮いた話ひとつなかったリヴァイが、この短期間に好みの男を落とすだけのスキルを持っているとは思えない。
(よし!)
ちょうどお昼休憩だし、リヴァイに直接何があったのかを聞こうと決めて、ハンジは、さっき座ったばかりの椅子から立ち上がった。
自分のことをあまり話そうとはしないリヴァイだけれど、さすがに嬉しかったことくらいは話してくれるだろう。
リヴァイ班のデスクが並ぶ島へ行くと、エルドが弁当をバッグの中から取り出しているところだった。
付き合いの長い恋人をこの街に連れて来たエルドは、毎日、美味しそうな弁当を作ってもらっている。
以前の職場にいるときからそうだったから、ミケのように声をかけられることすらないくらいに、いつもの光景だ。
その他のリヴァイ班のメンバーが続々と立ち上がる。
彼らはいつも近くの食事屋で一緒に昼を食べている。今日はそこに混ぜてもらおうと、ハンジは声をかけた。
「やぁ、今日はモブリットがまだ挨拶回りから戻ってなくてさ。
一緒にお昼行ってもいいかい?」
「あ、ハンジさん。いいですね。一緒に行きましょう。」
リヴァイ班の紅一点であるペトラが嬉しそうに言った。
オルオとグンタからも快諾してもらったのだが、リヴァイだけは席を立とうとしない。
自分のリュックの中を凝視しているのだ。
やっぱり、今日のリヴァイは変だ。
浮かれているを通り越して、変だ。
「リヴァイ兵長、もうお昼ですよ。
昨日のお店、混んじゃう前に行きましょう。」
痺れを切らしてペトラが声をかけると、やっとリヴァイが顔を上げた。
「お前らだけで行け。俺はこれがある。」
リヴァイはそう言うと、リュックの中から綺麗な青色の布に包まれた四角い箱を出した。
驚いた。
だって、それはどう見ても弁当だった。
まさか、掃除の小道具ばかりが出てくるリヴァイのリュックから、そんな生活感のあるものが現れるとは想像もしていなかったハンジ達は、目を丸くする。
同僚や部下達の様子にも気づかないリヴァイは、まるでプレゼントを開ける子供のように丁寧に布の結び目を解いた。
そして、現れたのはやっぱり弁当箱だ。
リヴァイが蓋を外すと、色とりどりの美味しそうな食べ物が見えて、ハンジだけではなくペトラ達まで思わず唾を飲んでしまう。
異常な状況に気づいたエルドも、フォークを片手に固まっていた。
だって、弁当を見下ろして頬を綻ばせるリヴァイは、付き合いの短い調査兵も気づくくらいに浮かれていたから。
驚いた、まさか本当にー。
「リヴァイ、彼氏が出来たの!?」
ハンジが思わず叫んだから、事務所に残っていた調査兵達の視線がリヴァイへ向いてしまった。
リヴァイが、顔を上げる。
目が合う。
沈黙が続く。
ゴクリ、唾を飲み込んだのは、ハンジだけじゃない。
いよいよ、調査兵達が心の奥でずっと感じていた疑惑の答えが明らかになるー。
「・・・・・・は?」
わけが分からないという顔をしたリヴァイから返って来たのは、返事になっていない一文字だけだった。
「だって!リヴァイが弁当を持ってくるなんておかしいじゃないかっ。
それはもう、彼氏が作ってくれた愛妻弁当ならぬ愛彼氏弁当だとしか思えない!!」
「理屈は分かった。だが、だからって、なんで彼氏なんだ。」
「だって、リヴァイは男が好きなんだろう?」
「・・・・・普通に女が好きだが。」
ハンジの勢いに若干引き気味だったが、リヴァイは、調査兵達が長年ずっと悶々としていた答えを、聞き流しそうなほどに普通に答えた。
いつの間にか、事務所の中はシンと静まり返っていた。
そして、そばにいる者同士で顔を見合わせる。
本人は、女が好きだと言ったが、真偽を計りかねていた。
「嘘だ!!だって、リヴァイは、どんな女が誘ったって興味なさそうにしてたじゃないか!?
それって、女に興味がないからだろ!?」
「それはその女に興味がなかったからだろ。」
「じゃあ、そのお弁当は何だよ!!」
「愛妻弁当だ。」
「ほぉーーーーら、やっぱり!!彼氏が出来たんじゃないか!!」
「興奮してるところ悪いが、愛妻は女だ。」
リヴァイがまた、飄々と答えた。
興奮していたハンジは、興奮して口を開けたままの格好で固まった。
誰も、喋れなかった。
声が出なかったとか、何と言えば分からなかったとかじゃない。
理解が追い付かなくて、喋るというところまで頭がまわらなかったのだ。
静かになったのを良いことだととったのか、リヴァイは、綺麗にナプキンで包まれたフォークを取り出した。
「いただきます。」
丁寧に手を合わせた後、リヴァイはまずは玉子焼きをフォークで刺した。
それから慎重に口に頬張って、幸せそうに目を細める。
その様子を、事務所に残っていた調査兵達がみんな、信じられないものでも見るように凝視していた。
その視線に気づいたらしいリヴァイが、ハッとした顔をした。
そしてー。
「これは俺のだ。美味そうに見えるかもしれないが、
実際、死ぬほど美味いが、誰にもやらないからな。」
弁当箱を隠すように両手で持ったリヴァイが、至極真剣に言った。
それから数秒後だ。
新しく移転してきたばかりの調査兵団の事務所から、幾つもの悲鳴のような驚きの叫び声が響いたのはー。
ーーーーーーーーー
「なんじゃ、今のは?おぬしの事務所のある方じゃなかったか?」
「そのようでしたね。」
「涼しい顔をして、心配ではないのか。」
「また何かハンジがやらかしたのでしょう。
事務所にはリヴァイもいますから、
問題があれば私がいなくてもうまくやってくれますよ。」
「信頼しておるんじゃな。」
「そうですね。初めて会ったときから、リヴァイにはいろいろと助けてもらってますし、
長い付き合いですから。それこそ、記憶にない遺伝子に、
リヴァイとの繋がりが刻まれているような…、すみません、おかしなことを言いましたね。」
「いや、おかしいとは思わんよ。私達は人生を繰り返しているのだと
昔、どこかの酒の席で聞いたことがある。きっと、出逢っていたんだろう。
前の人生で、何度も。」
「そうですね。きっと。」