恋、始めます
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鏡の前に立って、深呼吸をした。
お洒落をして出かけるなんて久しぶりだ。
最近は、そういうのはもうどうでもいいと思っていたから。
『言っとくけど、デートですからね!』
勤めている会社にアルバイトとして大学生のジャンが入ってきたのは、まだ最近のことだ。
指導係というのを頼まれた私だけれど、そんなもの必要ないくらいに、彼は何をするにも器用で、仕事を覚えるのも早い。
それでも、ジャンは、いつものお礼だと言って、私を食事に誘った。
「デートね…。」
小さく呟いて、私は玄関へと向かう。
壁掛けの時計は、約束の時間がもうすぐだと教えてくれていた。
素直じゃない性格の割に、自分に正直で、考えていることがすぐ顔に出るジャンが、私に好意を抱いていることに気づくまでそれほど時間はかからなかった。
でも、そんなのはただ、大学生になって、アルバイトというかたちで社会に足を一歩踏み入れた時に、大人の女が物珍しかっただけだ。
それを恋と勘違いするには充分にジャンは若くて、そのとき、一番近くにいたのが指導係をしていた私だっただけに違いない。
本当は、今日のデートというものだって断ってもよかったのだけれど、あまりにジャンがしつこく誘うものだからー。
顔を真っ赤にして、一生懸命なジャンが、まだ恋に憧れを持っていた私に見えて、無下にできなかったー。
でも、あくまでも今日は、ジャンの心をとりあえず満足させるためと、年下の可愛い男の子とデートなんて、せっかくの贅沢な体験を楽しむだけだ。
恋だの愛だの、そんなものに振り回されるのはもうやめたのだ。
どうせ、どんなに熱く恋焦がれたって、恋というのは、燃え上がった後、結局は終わってしまうものなのだ。
彼が、呆気なく私を捨てた様にー。
ペタンコのミュールを履こうとして、もうそんな気は遣わなくていいのだと思い出す。
態度は人一倍大きいくせに、背は低かった彼は、私が高いヒールを履くのを嫌がった。
プライドの高い彼が、それを口にすることはなかったけれど、不機嫌な態度ですぐにわかったから、デートのときに私がハイヒールを履くことはなくなった。
でも、今日のデートは、そんな気を遣う必要はない。
シューズボックスの奥に追いやられていたお気に入りのヒールを引っ張り出して、私は久しぶりに足を入れた。
なんだか、脱ぎ捨てたガラスの靴に足を入れるシンデレラにでもなったような気分だ。
ヒールを履くと、いつもよりも少しだけ視界が高くなった。
家を出て、鍵を閉めた私は、イヤホンを耳につけた。
流れている曲は、彼が好きじゃなかったバンドのラブソング。
そういえば、ジャンとは、このバンドが好きだという話で、仲良くなったんだっけー。
お洒落をして出かけるなんて久しぶりだ。
最近は、そういうのはもうどうでもいいと思っていたから。
『言っとくけど、デートですからね!』
勤めている会社にアルバイトとして大学生のジャンが入ってきたのは、まだ最近のことだ。
指導係というのを頼まれた私だけれど、そんなもの必要ないくらいに、彼は何をするにも器用で、仕事を覚えるのも早い。
それでも、ジャンは、いつものお礼だと言って、私を食事に誘った。
「デートね…。」
小さく呟いて、私は玄関へと向かう。
壁掛けの時計は、約束の時間がもうすぐだと教えてくれていた。
素直じゃない性格の割に、自分に正直で、考えていることがすぐ顔に出るジャンが、私に好意を抱いていることに気づくまでそれほど時間はかからなかった。
でも、そんなのはただ、大学生になって、アルバイトというかたちで社会に足を一歩踏み入れた時に、大人の女が物珍しかっただけだ。
それを恋と勘違いするには充分にジャンは若くて、そのとき、一番近くにいたのが指導係をしていた私だっただけに違いない。
本当は、今日のデートというものだって断ってもよかったのだけれど、あまりにジャンがしつこく誘うものだからー。
顔を真っ赤にして、一生懸命なジャンが、まだ恋に憧れを持っていた私に見えて、無下にできなかったー。
でも、あくまでも今日は、ジャンの心をとりあえず満足させるためと、年下の可愛い男の子とデートなんて、せっかくの贅沢な体験を楽しむだけだ。
恋だの愛だの、そんなものに振り回されるのはもうやめたのだ。
どうせ、どんなに熱く恋焦がれたって、恋というのは、燃え上がった後、結局は終わってしまうものなのだ。
彼が、呆気なく私を捨てた様にー。
ペタンコのミュールを履こうとして、もうそんな気は遣わなくていいのだと思い出す。
態度は人一倍大きいくせに、背は低かった彼は、私が高いヒールを履くのを嫌がった。
プライドの高い彼が、それを口にすることはなかったけれど、不機嫌な態度ですぐにわかったから、デートのときに私がハイヒールを履くことはなくなった。
でも、今日のデートは、そんな気を遣う必要はない。
シューズボックスの奥に追いやられていたお気に入りのヒールを引っ張り出して、私は久しぶりに足を入れた。
なんだか、脱ぎ捨てたガラスの靴に足を入れるシンデレラにでもなったような気分だ。
ヒールを履くと、いつもよりも少しだけ視界が高くなった。
家を出て、鍵を閉めた私は、イヤホンを耳につけた。
流れている曲は、彼が好きじゃなかったバンドのラブソング。
そういえば、ジャンとは、このバンドが好きだという話で、仲良くなったんだっけー。
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