その夜に、沈む
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「これを飲んだら、帰ってください。」
カウンターに、アルコール度数の強い酒を注いだグラスを置く。
酔っぱらっていないお客様に帰宅をお願いするなんて、初めてだった。
リヴァイは、聞こえているのかいないのか分からない顔で、おかわりのグラスを口に運ぶ。
初めて身体を重ねた夜に、大切な人を裏切るという最低な罪を背負った私達は、きっともう二度と会わない方がいいのだろう。
それなのに、リヴァイは、ほとんど毎晩のようにバーにやってくる。
でも、だからと言って、あの晩の続きを求めるようなこともなければ、当然、指先の一本すら触れあうことはない。
リヴァイに会うのは、嫌なのだ。
どうしても、私達の関係が変わるかもしれないことを望んでしまう。
ペトラが傷つき、悲しむ未来を待っている自分が、醜くて、悲しくなる。
「何を、考えてるんですか…?」
気づけば、心の声が漏れていた。
途端に後悔してしまった私は、小さなその声がリヴァイに聞こえなかったことを願う。
でも、グラスを口につけようとしていたリヴァイの顔が上がって、目が合ってしまった。
その途端に、ドキリと心臓を鳴らしてしまう自分があまりに浅はかで嫌になる。
リヴァイの切れ長の三白眼は、私をじっと見つめていた。
分からない。
彼は、何を考えているのだろう。
こうして見つめ合っても、私は、リヴァイの考えていることがいつも分からない。
分かったのは、たった一度だけだ。
あの晩、彼は罪を背負ってでも私を心底求めた。
でも、その奥にある〝心〟までは、わからない。
リヴァイは、私に何を望んでいるのだろう。私のことをどう思っているのだろう。
知りたい。
知ってしまったら、もう戻れなくなるような気がして怖い。
「コレが空になっても今夜は帰らなくていいと言うなら、教えてやる。」
リヴァイが、半分ほどなくなっているグラスを独特な持ち方で上げた。
左右に小さく揺らすと、溶けきらなかった氷がカラカラと高い音を鳴らす。
その音を聞いていたくなくて、私は、カウンターから出ると、脚長の丸椅子に座るリヴァイのすぐ隣に立った。
そして、リヴァイの手から奪うようにグラスを取り上げる。
意表を突かれたのか。心を語らないリヴァイの表情に、驚きが映っていた。
それがひどく心地よくて、腹が立った。
私は、一気に飲み干してから、カウンターに叩きつけるようにグラスを置く。
「帰ってください。」
誰もいないバーで、心を押し殺した私の声は、静かに響いた。
アルコール度数のキツいお酒のせいではなく、心臓が、バクバク言っていた。
もう絶対に流されない———目を逸らさずに、真っ直ぐにリヴァイを見つめたのは、私の意地だ。
一度でも裏切った時点で、私はすでに、ペトラが姉のように慕う私ではなくなってしまっているのだろう。
でも、これ以上、裏切りを続けたくなかった。
これは、ペトラの為ではなく、自分のことを心底嫌って傷つきたくない私の為だ。
それをヒトは〝弱さ〟と呼ぶのかもしれない。
だから、本当の強さを持っているリヴァイに、結局は圧倒されてしまうのだ。
視線を重ねたまま、リヴァイが立ち上がる。
逃げなきゃ———どれくらい、そう思ったかはもう私にもわからない。
リヴァイの手が、私の後頭部を掴まえて、我儘に引き寄せる。
唇が重なる瞬間に、私は瞼を閉じていた。
「ん…っ、ふ、ふぁ…、んっ。」
躊躇なくねじ込まれた舌が、私の咥内の隅々を這いまわる。
歯列をなぞりながら、上顎を舐めあげられ、ゾクゾクと肩が震えた。
舌が絡まっては、粘着質な水音が静かなバーに響くから、唇ではなくて耳を犯されているような気分になる。
抱いてはいけない想いに抗う気力どころか、立つ力すら奪われて倒れ込みそうになる私の腰に、リヴァイの手が添えられると、そのまま持ち上げられ、気づけばカウンターに座らされていた。
頭が回らない。このまま、流されてしまいそうになっているのはきっと、酒の香りのするキスのせい。
それでもなんとか最後の抵抗を見せて持ち上がった手すら、リヴァイに絡め取れられて、もう二度と放してもらえない気がしてしまう。
もう二度と、離さないでほしい。私だけ、私だけを見て———ぼんやりとそんな最低なことを考えていたら、リヴァイの唇がゆっくりと離れた。
私達の間を繋いでいるだらしない欲望だらけの糸を、リヴァイの綺麗な指が断ち切る。
綺麗好きだと有名な兵士長に『汚い。』と言われているみたいで、そんな資格はないと分かっているのに、傷ついた。
「お前にとって、俺はそんなに迷惑か。」
唇が擦れそうな距離だった。
俯くように視線を落としたリヴァイが、呟くように訊ねる。
リヴァイの手は、まだ私の後頭部を掴んだままだった。
乱れた髪がリヴァイの指に絡まり、少しだけ、痛い。
「———痛いよ。離して。」
死ぬほど痛くてもいい。離さないで———。
言葉と心は、全く別のことを叫んでいた。
でも私は、リヴァイの胸板を押し返す。
ほんの一瞬、リヴァイが抵抗を見せたとき、私の心は、ホッとして喜んだ。
諦めたように、リヴァイがスッと離れたとき、私の心は、行かないでと悲鳴を上げた。
リヴァイが、私を見る。
私を圧倒した強くて真っすぐな瞳が消え失せたせいで、ひどく冷たく感じた。
「客の酒を勝手に飲み干しちまう店にはもう二度と来ねぇから
心配するな。」
リヴァイは、財布から多めに札を取り出すと、カウンターに置いた。
「…っ。」
違うの———。
咄嗟に言おうとした言葉は、声にならなかった。
引き留めたいのか、言い訳がしたいのかもわからないけれど、このままリヴァイが私に背を向けるのは嫌だ。
まるで、地上に上がってしまった魚のように、下手くそに口が開いては、閉じる。
喉の奥から空気が抜けていくばかりで、うまく声が出ない。
でも、これでいいような気もする。
声が出てしまったら、私は、言葉にしてはいけないことを言ってしまいそうだ。
そんな私と数秒向かい合ったリヴァイだったけれど、最終的には背を向けた。
途端に、巨人に心臓を握り潰されたかと疑ってしまいそうなほどに、痛くなる。生きていられそうにないくらい、苦しくなる。
もしも、リヴァイが、一度でも振り向けば、私の本心を知れたはずだ。
でも、遠ざかる背中を求めて、泣きながら私が伸ばした手を、リヴァイが見ることはなかった。
カラン、カラン———扉の上に飾られた鈴が、恋の終わりを告げるように、虚しく鳴いた。
カウンターに、アルコール度数の強い酒を注いだグラスを置く。
酔っぱらっていないお客様に帰宅をお願いするなんて、初めてだった。
リヴァイは、聞こえているのかいないのか分からない顔で、おかわりのグラスを口に運ぶ。
初めて身体を重ねた夜に、大切な人を裏切るという最低な罪を背負った私達は、きっともう二度と会わない方がいいのだろう。
それなのに、リヴァイは、ほとんど毎晩のようにバーにやってくる。
でも、だからと言って、あの晩の続きを求めるようなこともなければ、当然、指先の一本すら触れあうことはない。
リヴァイに会うのは、嫌なのだ。
どうしても、私達の関係が変わるかもしれないことを望んでしまう。
ペトラが傷つき、悲しむ未来を待っている自分が、醜くて、悲しくなる。
「何を、考えてるんですか…?」
気づけば、心の声が漏れていた。
途端に後悔してしまった私は、小さなその声がリヴァイに聞こえなかったことを願う。
でも、グラスを口につけようとしていたリヴァイの顔が上がって、目が合ってしまった。
その途端に、ドキリと心臓を鳴らしてしまう自分があまりに浅はかで嫌になる。
リヴァイの切れ長の三白眼は、私をじっと見つめていた。
分からない。
彼は、何を考えているのだろう。
こうして見つめ合っても、私は、リヴァイの考えていることがいつも分からない。
分かったのは、たった一度だけだ。
あの晩、彼は罪を背負ってでも私を心底求めた。
でも、その奥にある〝心〟までは、わからない。
リヴァイは、私に何を望んでいるのだろう。私のことをどう思っているのだろう。
知りたい。
知ってしまったら、もう戻れなくなるような気がして怖い。
「コレが空になっても今夜は帰らなくていいと言うなら、教えてやる。」
リヴァイが、半分ほどなくなっているグラスを独特な持ち方で上げた。
左右に小さく揺らすと、溶けきらなかった氷がカラカラと高い音を鳴らす。
その音を聞いていたくなくて、私は、カウンターから出ると、脚長の丸椅子に座るリヴァイのすぐ隣に立った。
そして、リヴァイの手から奪うようにグラスを取り上げる。
意表を突かれたのか。心を語らないリヴァイの表情に、驚きが映っていた。
それがひどく心地よくて、腹が立った。
私は、一気に飲み干してから、カウンターに叩きつけるようにグラスを置く。
「帰ってください。」
誰もいないバーで、心を押し殺した私の声は、静かに響いた。
アルコール度数のキツいお酒のせいではなく、心臓が、バクバク言っていた。
もう絶対に流されない———目を逸らさずに、真っ直ぐにリヴァイを見つめたのは、私の意地だ。
一度でも裏切った時点で、私はすでに、ペトラが姉のように慕う私ではなくなってしまっているのだろう。
でも、これ以上、裏切りを続けたくなかった。
これは、ペトラの為ではなく、自分のことを心底嫌って傷つきたくない私の為だ。
それをヒトは〝弱さ〟と呼ぶのかもしれない。
だから、本当の強さを持っているリヴァイに、結局は圧倒されてしまうのだ。
視線を重ねたまま、リヴァイが立ち上がる。
逃げなきゃ———どれくらい、そう思ったかはもう私にもわからない。
リヴァイの手が、私の後頭部を掴まえて、我儘に引き寄せる。
唇が重なる瞬間に、私は瞼を閉じていた。
「ん…っ、ふ、ふぁ…、んっ。」
躊躇なくねじ込まれた舌が、私の咥内の隅々を這いまわる。
歯列をなぞりながら、上顎を舐めあげられ、ゾクゾクと肩が震えた。
舌が絡まっては、粘着質な水音が静かなバーに響くから、唇ではなくて耳を犯されているような気分になる。
抱いてはいけない想いに抗う気力どころか、立つ力すら奪われて倒れ込みそうになる私の腰に、リヴァイの手が添えられると、そのまま持ち上げられ、気づけばカウンターに座らされていた。
頭が回らない。このまま、流されてしまいそうになっているのはきっと、酒の香りのするキスのせい。
それでもなんとか最後の抵抗を見せて持ち上がった手すら、リヴァイに絡め取れられて、もう二度と放してもらえない気がしてしまう。
もう二度と、離さないでほしい。私だけ、私だけを見て———ぼんやりとそんな最低なことを考えていたら、リヴァイの唇がゆっくりと離れた。
私達の間を繋いでいるだらしない欲望だらけの糸を、リヴァイの綺麗な指が断ち切る。
綺麗好きだと有名な兵士長に『汚い。』と言われているみたいで、そんな資格はないと分かっているのに、傷ついた。
「お前にとって、俺はそんなに迷惑か。」
唇が擦れそうな距離だった。
俯くように視線を落としたリヴァイが、呟くように訊ねる。
リヴァイの手は、まだ私の後頭部を掴んだままだった。
乱れた髪がリヴァイの指に絡まり、少しだけ、痛い。
「———痛いよ。離して。」
死ぬほど痛くてもいい。離さないで———。
言葉と心は、全く別のことを叫んでいた。
でも私は、リヴァイの胸板を押し返す。
ほんの一瞬、リヴァイが抵抗を見せたとき、私の心は、ホッとして喜んだ。
諦めたように、リヴァイがスッと離れたとき、私の心は、行かないでと悲鳴を上げた。
リヴァイが、私を見る。
私を圧倒した強くて真っすぐな瞳が消え失せたせいで、ひどく冷たく感じた。
「客の酒を勝手に飲み干しちまう店にはもう二度と来ねぇから
心配するな。」
リヴァイは、財布から多めに札を取り出すと、カウンターに置いた。
「…っ。」
違うの———。
咄嗟に言おうとした言葉は、声にならなかった。
引き留めたいのか、言い訳がしたいのかもわからないけれど、このままリヴァイが私に背を向けるのは嫌だ。
まるで、地上に上がってしまった魚のように、下手くそに口が開いては、閉じる。
喉の奥から空気が抜けていくばかりで、うまく声が出ない。
でも、これでいいような気もする。
声が出てしまったら、私は、言葉にしてはいけないことを言ってしまいそうだ。
そんな私と数秒向かい合ったリヴァイだったけれど、最終的には背を向けた。
途端に、巨人に心臓を握り潰されたかと疑ってしまいそうなほどに、痛くなる。生きていられそうにないくらい、苦しくなる。
もしも、リヴァイが、一度でも振り向けば、私の本心を知れたはずだ。
でも、遠ざかる背中を求めて、泣きながら私が伸ばした手を、リヴァイが見ることはなかった。
カラン、カラン———扉の上に飾られた鈴が、恋の終わりを告げるように、虚しく鳴いた。
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