赤い花火が咲く夏の夜
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あれから4年以上が経過したトロスト区の街は、巨人襲来のあの日がまるで嘘のような活気を取り戻していた。
大きな声でお客様を呼び込んでいる店の主人たちに、井戸端会議に忙しいご婦人たち、呑気にお散歩をしている猫も、みんなが穏やかな日々を満喫している。
エルヴィン団長に頼まれた用事を済ませ、リヴァイ兵長と一緒に兵舎に戻っている帰り道、なんだかいいな———、そんなことを思いながら頬を緩めた私のすぐそばを、楽しそうな子供達の笑い声が駆け抜けていった。
「きゃ…ッ。」
男の子が持っていた長い棒が私の腰に当たって、思わず立ち止まってしまった私から、小さな悲鳴が出る。
振り返った男の子が「ごめんなさーい!」と大きな声で謝って、また長い棒を振り回して駆け抜けていった。
「チッ、危ぇな。」
隣を歩いていたリヴァイ兵長が立ち止まり、あっという間に小さくなっていく男の子の背中に舌打ちをした。
男の子なんてそんなものですよ———、幼い頃の弟のことを思い出しながらそう言おうとしたけれど、少し離れたところで、酒屋の店主に叱られている男の子たちを見つけて、苦笑する。
この街は、本当に元気になったようだ。
やっと、世界は平和を取り戻しつつある。
超大型巨人が壁を破壊するまで前までは当たり前にあった、なんてことのない日常が、確かにこの街に戻ってこようとしているのだ。
「どうぞ~。」
また歩き出してすぐ、今度は派手な花柄のシャツを着た男の人からチラシを受け取った。
なんだろう———、そう思ったのは私だけではなかったようで、隣を歩くリヴァイ兵長も私の手元を覗き込む。
【トロスト商店街 花火大会】
チラシの一番上には、大きな文字でそう書かれていた。
そういえば、毎年、夏になるとトロスト区の商店街の店主達が出資して、花火大会をしていたのを思い出す。
でもそれも、4年前の巨人襲来の日以来、復興作業に忙しくてずっと中止になっていたのだ。
そうか———。
「そっか…、今年は花火が見られるんだ。」
頬が、自然に緩む。
特別、花火が好きなわけではない。
4年前までは、この花火大会にだってそんなに興味もなかったし、友人のナナバ達に誘われれば見に行く程度だった。
でも、当たり前にあったイベントすらも巨人に奪われてしまっていた世界で、取り戻せたと実感できたことが、何よりも嬉しかったのだ。
今年は、行きたい。
花火を見て、平和を噛みしめたい———そう思ったのだ。
「行くか?」
思いもよらないリヴァイ兵長のセリフに、私からは「へ?」と空気が抜けるような声が漏れてしまった。
キョトンとする私に、リヴァイ兵長は追い打ちをかけるようにさらに続ける。
「見てぇんだろ、花火。」
「見たい、です。」
「なら、行くか。」
リヴァイ兵長は、訓練の途中に『休憩を入れるか』というような口調で、そう続ける。
でも、私は思いがけない誘いに混乱してしまっていた。
「え、でも…、あの行くかって言うのはどういう———。」
「行くのか、行かねぇのか、さっさと決めやがれ。」
「い、行きます…!」
「なら、決まりだ。」
慌てた私の条件反射のような返事に対して、リヴァイ兵長はそう言って、スタスタと歩いていく。
私は小走りで追いかけた。
ずっとずっと、追いかけている。
華奢で小さくて、そして、誰よりも強く大きな背中を、部下として、追いかけている。
素っ気ないのに本当は優しくて、誰よりも温かく仲間を見守っている彼に、恋をする女として、追いかけ続けているのだ。
「遅ぇな。」
隣に並んだ私をチラリと見て、リヴァイ兵長が小さく首を竦める。
そして、私が持っていたバッグを奪うようにして取り上げると、代わりに持ってくれた。
エルヴィン団長から預かった書類と兵団専用のお財布が入っているだけのバッグだ。
だから、それが重たくて、歩くのが遅かったわけじゃないのだけれど———。
リヴァイ兵長の優しさが嬉しくて、なんだか可笑しくてクスリと笑うと、小さな舌打ちが返って来た。
今年の夏は、4年以上前の平和だった頃にもなかったようなとても素敵なことが起こりそうな気がする———。
リヴァイ兵長の隣で、私は、嬉しい期待に胸を膨らませていた。
大きな声でお客様を呼び込んでいる店の主人たちに、井戸端会議に忙しいご婦人たち、呑気にお散歩をしている猫も、みんなが穏やかな日々を満喫している。
エルヴィン団長に頼まれた用事を済ませ、リヴァイ兵長と一緒に兵舎に戻っている帰り道、なんだかいいな———、そんなことを思いながら頬を緩めた私のすぐそばを、楽しそうな子供達の笑い声が駆け抜けていった。
「きゃ…ッ。」
男の子が持っていた長い棒が私の腰に当たって、思わず立ち止まってしまった私から、小さな悲鳴が出る。
振り返った男の子が「ごめんなさーい!」と大きな声で謝って、また長い棒を振り回して駆け抜けていった。
「チッ、危ぇな。」
隣を歩いていたリヴァイ兵長が立ち止まり、あっという間に小さくなっていく男の子の背中に舌打ちをした。
男の子なんてそんなものですよ———、幼い頃の弟のことを思い出しながらそう言おうとしたけれど、少し離れたところで、酒屋の店主に叱られている男の子たちを見つけて、苦笑する。
この街は、本当に元気になったようだ。
やっと、世界は平和を取り戻しつつある。
超大型巨人が壁を破壊するまで前までは当たり前にあった、なんてことのない日常が、確かにこの街に戻ってこようとしているのだ。
「どうぞ~。」
また歩き出してすぐ、今度は派手な花柄のシャツを着た男の人からチラシを受け取った。
なんだろう———、そう思ったのは私だけではなかったようで、隣を歩くリヴァイ兵長も私の手元を覗き込む。
【トロスト商店街 花火大会】
チラシの一番上には、大きな文字でそう書かれていた。
そういえば、毎年、夏になるとトロスト区の商店街の店主達が出資して、花火大会をしていたのを思い出す。
でもそれも、4年前の巨人襲来の日以来、復興作業に忙しくてずっと中止になっていたのだ。
そうか———。
「そっか…、今年は花火が見られるんだ。」
頬が、自然に緩む。
特別、花火が好きなわけではない。
4年前までは、この花火大会にだってそんなに興味もなかったし、友人のナナバ達に誘われれば見に行く程度だった。
でも、当たり前にあったイベントすらも巨人に奪われてしまっていた世界で、取り戻せたと実感できたことが、何よりも嬉しかったのだ。
今年は、行きたい。
花火を見て、平和を噛みしめたい———そう思ったのだ。
「行くか?」
思いもよらないリヴァイ兵長のセリフに、私からは「へ?」と空気が抜けるような声が漏れてしまった。
キョトンとする私に、リヴァイ兵長は追い打ちをかけるようにさらに続ける。
「見てぇんだろ、花火。」
「見たい、です。」
「なら、行くか。」
リヴァイ兵長は、訓練の途中に『休憩を入れるか』というような口調で、そう続ける。
でも、私は思いがけない誘いに混乱してしまっていた。
「え、でも…、あの行くかって言うのはどういう———。」
「行くのか、行かねぇのか、さっさと決めやがれ。」
「い、行きます…!」
「なら、決まりだ。」
慌てた私の条件反射のような返事に対して、リヴァイ兵長はそう言って、スタスタと歩いていく。
私は小走りで追いかけた。
ずっとずっと、追いかけている。
華奢で小さくて、そして、誰よりも強く大きな背中を、部下として、追いかけている。
素っ気ないのに本当は優しくて、誰よりも温かく仲間を見守っている彼に、恋をする女として、追いかけ続けているのだ。
「遅ぇな。」
隣に並んだ私をチラリと見て、リヴァイ兵長が小さく首を竦める。
そして、私が持っていたバッグを奪うようにして取り上げると、代わりに持ってくれた。
エルヴィン団長から預かった書類と兵団専用のお財布が入っているだけのバッグだ。
だから、それが重たくて、歩くのが遅かったわけじゃないのだけれど———。
リヴァイ兵長の優しさが嬉しくて、なんだか可笑しくてクスリと笑うと、小さな舌打ちが返って来た。
今年の夏は、4年以上前の平和だった頃にもなかったようなとても素敵なことが起こりそうな気がする———。
リヴァイ兵長の隣で、私は、嬉しい期待に胸を膨らませていた。
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