もう少しで満月になる夜の始まり
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会話もない車内、助手席の窓から見えたのは、分厚い雲に隠れたせいで、少しだけ欠けた満月だった。
見慣れた通りを走る車、私の家まで後5分もない。
チラリと見た運転席では、リヴァイさんがただ真っすぐ前を向いて、私を家まで送り届けようとしている。
分かっている。リヴァイさんは、恋人のファーランの幼馴染で、自慢の親友だ。
今夜も、本当は、ファーランが迎えに来てくれるはずだった飲み会の帰り、残業になってしまった彼の代わりに、今日と明日が休みだったリヴァイさんが来てくれた。
彼が、リヴァイさんに、恋人を迎えに行くように頼んだのは、それだけ親友を信頼している証拠だ。
でも、どうしたらいいんだろう。
会話がなくても、そばにいるだけでひどく安心するのだ。
そして、リヴァイさんの為に鳴る鼓動の音が、心地が良いのに———。
ファーランに、リヴァイさんを紹介されたのは、数か月前だ。
切れ長の涼しい目元と眼光の鋭い三白眼、彼と視線が絡んだその瞬間に、私は闇に突き落とされそうな感覚に足がすくんで、そのまま崩れ落ちそうになった。
時々、感じていた熱い視線と、何かを言いたげにする綺麗なカタチをした唇、ファーランが私に触れる度に、彼の眉は少しだけ歪んで、スッと目を反らされた。
嫌な予感は、当たらなければいいと思えば思うほどに、私を悪い方向へと導いていくばかりだった。
遠くに、マンションが見えて、私は目を閉じて寝たフリをした。
それからすぐに、車が止まった音がして、沈黙が流れる。
私は一体、何しようとしているのだろう。
誰の、何を、試そうとしているのだろう。
この悪い企みに、リヴァイさんが乗ってしまったら、私は———。
「着いたぞ。なまえ?寝たのか?」
静かな車内、リヴァイさんの低い声が私を緊張させる。
寝たふりにまんまと騙されたリヴァイさんは、私の右手を掴んで軽く揺らした。
私は絶対に、何の反応もしないように意識を集中させていた。
起きないことを知ったリヴァイさんの手が、私の髪に触れる。
ひどく優しく撫でられて、泣きそうになる。
どうして、そんな風に触れるの。
その理由を知りたくなる。
でも、絶対に知ってはいけないのも分かっている。
私の頬に、優しい手が添えられた。
何かが始まる——、私はそれをただ目を閉じて待った。
口元に感じるリヴァイさんの息遣いに、緊張と期待が高まる。
『なまえ、愛してる。お前に出逢えてよかった。』
罪悪感をどこかに置き忘れて来た私は、不意に聞こえて来たファーランの優しい声に、まるで殴られたみたいに目を覚ました。
唐突に起きた私に、リヴァイさんが驚いたように目を見開いた。
すぐ近くに見えた三白眼に、私は呆気なく、待ちきれなかった自分のことを後悔をしてしまう。
「よく寝てたな。着いたぞ。」
リヴァイさんがそう言って、覗き込むようにして近づけていた身体を離す。
まるで、何事もなかったかのような落ち着いたその様子に、途端に寂しくなってしまう。
その瞬間に、私は、リヴァイさんの困った顔が見たくなったのだ。
寝たふりをしていた私が悪いのは知っている。
でも、リヴァイさんが、どんな風に触れてくれるのか、私は知ってしまったのだ。
あんな風に優しく触れてくれる人だと知ってしまったのに、なかったことになんて、出来ない———。
気づけば、リヴァイさんの腕をジャケット越しに握りしめていた。
突然の私の行動に、リヴァイさんは驚いたようだった。
絡んだ視線を外すことも出来ないのに、お互いに次の行動に出られない。
しばらくの沈黙の後、先に覚悟を決めたのは、リヴァイさんだった。
さっき、寝たふりの私にしたように、リヴァイさんの熱い手が頬に添えられる。
真っすぐに見つめる熱い視線が近づいてくるのに堪えられなくて、逃げるように目を伏せた。
その途端に、リヴァイさんの動きが止まる。
車内には、息苦しさが充満していた。
でも、どうしたらいいというのだろう。
背を向けられると、追いかけたくなる。
見つめられたら、反らしたくなる。
膨らみ過ぎた恋心に出来るのは、それくらいしかないのに。
あぁ、だから———。
一度は拒むから、それでもどうか、私を奪って
分厚い雲が流れて消えて、闇のような夜空に満月が浮かび上がったそのとき、私と彼は、大切な人を永遠に失った。
何かを手に入れようとすると、必ずどこかで何かが欠けることを知った。
彼との初めての、キスの夜————。
見慣れた通りを走る車、私の家まで後5分もない。
チラリと見た運転席では、リヴァイさんがただ真っすぐ前を向いて、私を家まで送り届けようとしている。
分かっている。リヴァイさんは、恋人のファーランの幼馴染で、自慢の親友だ。
今夜も、本当は、ファーランが迎えに来てくれるはずだった飲み会の帰り、残業になってしまった彼の代わりに、今日と明日が休みだったリヴァイさんが来てくれた。
彼が、リヴァイさんに、恋人を迎えに行くように頼んだのは、それだけ親友を信頼している証拠だ。
でも、どうしたらいいんだろう。
会話がなくても、そばにいるだけでひどく安心するのだ。
そして、リヴァイさんの為に鳴る鼓動の音が、心地が良いのに———。
ファーランに、リヴァイさんを紹介されたのは、数か月前だ。
切れ長の涼しい目元と眼光の鋭い三白眼、彼と視線が絡んだその瞬間に、私は闇に突き落とされそうな感覚に足がすくんで、そのまま崩れ落ちそうになった。
時々、感じていた熱い視線と、何かを言いたげにする綺麗なカタチをした唇、ファーランが私に触れる度に、彼の眉は少しだけ歪んで、スッと目を反らされた。
嫌な予感は、当たらなければいいと思えば思うほどに、私を悪い方向へと導いていくばかりだった。
遠くに、マンションが見えて、私は目を閉じて寝たフリをした。
それからすぐに、車が止まった音がして、沈黙が流れる。
私は一体、何しようとしているのだろう。
誰の、何を、試そうとしているのだろう。
この悪い企みに、リヴァイさんが乗ってしまったら、私は———。
「着いたぞ。なまえ?寝たのか?」
静かな車内、リヴァイさんの低い声が私を緊張させる。
寝たふりにまんまと騙されたリヴァイさんは、私の右手を掴んで軽く揺らした。
私は絶対に、何の反応もしないように意識を集中させていた。
起きないことを知ったリヴァイさんの手が、私の髪に触れる。
ひどく優しく撫でられて、泣きそうになる。
どうして、そんな風に触れるの。
その理由を知りたくなる。
でも、絶対に知ってはいけないのも分かっている。
私の頬に、優しい手が添えられた。
何かが始まる——、私はそれをただ目を閉じて待った。
口元に感じるリヴァイさんの息遣いに、緊張と期待が高まる。
『なまえ、愛してる。お前に出逢えてよかった。』
罪悪感をどこかに置き忘れて来た私は、不意に聞こえて来たファーランの優しい声に、まるで殴られたみたいに目を覚ました。
唐突に起きた私に、リヴァイさんが驚いたように目を見開いた。
すぐ近くに見えた三白眼に、私は呆気なく、待ちきれなかった自分のことを後悔をしてしまう。
「よく寝てたな。着いたぞ。」
リヴァイさんがそう言って、覗き込むようにして近づけていた身体を離す。
まるで、何事もなかったかのような落ち着いたその様子に、途端に寂しくなってしまう。
その瞬間に、私は、リヴァイさんの困った顔が見たくなったのだ。
寝たふりをしていた私が悪いのは知っている。
でも、リヴァイさんが、どんな風に触れてくれるのか、私は知ってしまったのだ。
あんな風に優しく触れてくれる人だと知ってしまったのに、なかったことになんて、出来ない———。
気づけば、リヴァイさんの腕をジャケット越しに握りしめていた。
突然の私の行動に、リヴァイさんは驚いたようだった。
絡んだ視線を外すことも出来ないのに、お互いに次の行動に出られない。
しばらくの沈黙の後、先に覚悟を決めたのは、リヴァイさんだった。
さっき、寝たふりの私にしたように、リヴァイさんの熱い手が頬に添えられる。
真っすぐに見つめる熱い視線が近づいてくるのに堪えられなくて、逃げるように目を伏せた。
その途端に、リヴァイさんの動きが止まる。
車内には、息苦しさが充満していた。
でも、どうしたらいいというのだろう。
背を向けられると、追いかけたくなる。
見つめられたら、反らしたくなる。
膨らみ過ぎた恋心に出来るのは、それくらいしかないのに。
あぁ、だから———。
一度は拒むから、それでもどうか、私を奪って
分厚い雲が流れて消えて、闇のような夜空に満月が浮かび上がったそのとき、私と彼は、大切な人を永遠に失った。
何かを手に入れようとすると、必ずどこかで何かが欠けることを知った。
彼との初めての、キスの夜————。
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