5文字の君の名前
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鳥籠に囚われたような狭い壁の中から飛び出して、命を削るような生き方をしている割に、俺はそれなりに長く生きている方だ。
家族は死んで、大切な友人の命も奪われた。
たくさんの仲間を失い、俺はもう、明日の命すら信じられない。
心を開いては、傷ついて、傷つけられて、失う。そして俺はまた、心を閉ざすことを選ぶ。
俺の人生なんて、そんなことの繰り返しだ。
だから、誰かを愛しても意味がないと思ってる。
そんな俺を、彼女は何度だって見て来たはずなのに、決めつけたりしないのだ。
そのときに生まれる〝愛〟という感情を、俺はこの世で最も恐ろしい感情だと、信じているのに————。
何度も地獄を見てきたはずの彼女の瞳は、決して曇らない。
いつまで経っても出逢った頃のまま、綺麗なままで俺を見つめる。
だから俺は、彼女を見つめ返すのが、この世で一番、怖い———。
でも、俺達は今、同じ部屋にいて、同じベッドの上にいて、染みだらけの古びた天井を、一緒に眺めている。
今夜が初めてなわけではないけれど、長い間、そうしていたわけでもない。
始まりの夜を鮮やかに思い出せるほどには、まだ日も浅い。
今ならまだ、引き返せるはずだ。
俺達は、もういい大人で、それなりの言葉を交わしたわけではないのだから———。
『愛してる。』
もし俺が、似合わない台詞を口にしたら、彼女はどんな顔をするのだろう。
そう、思わないわけじゃない。
だって、俺は知ってる。
彼女は、どうでもいい男と身体を重ねるような女じゃない。
俺を見つめるときの、彼女の綺麗な瞳が語る言葉に気づかないほど、経験がないわけでもない。
俺は、知りたい。
似合わない台詞を俺から聞いた時に、柔らかく細くなる瞳を、薄く染まる頬を、この世で最も美しいだろう、その笑みを——。
でも俺はまた、喉の奥にまでせりあがって来た言葉を飲み込んで、腕枕をした格好のままで、彼女の頭を抱き寄せた。
「ふふ、くすぐったい。」
俺の髪が頬をかすめたらしく、なまえは首をすぼめながら、小さな声で楽しそうに笑う。
クスクスという子供のような無邪気な笑い声が、俺の耳に届く度に、俺は彼女を穢してるような気がするのだ。
だって———。
『愛してる。』
俺は何度も、その言葉を口にしたことがある。
求められるまま、そうすることで、うまくいくと知っていて、その5文字を音にした。
でも、今思えばそれは、嘘だったに違いないのだ。
だって、今、芽生え始めているこの感情こそが、本物になりえるものなのだと、心の奥底で俺は予感しているから———。
あぁ、でも———。
『愛してる。』
その言葉が、この世で最も似合うのが、彼女なんじゃないかと思う。
幾千回だって、そう伝えられてもいいくらいの価値が、彼女にはある。
でも、俺は、気持ちを言葉にするのが他人よりも下手で、もう二度と、誰かを愛したくもない。
だから、俺は———。
「リヴァイさんの手、すごく綺麗。」
シーツの中に隠れていた俺の手を引っ張り出して、なまえは、細く華奢な2つの手で包み込んだ。
愛おしそうに見つめる瞳の上で、長い睫毛が明かりに照らされて光るから、まるで宝石のように見えてしまった。
俺の手なんか握っていると、彼女のまっさらで綺麗な手を、穢してしまうような気がした。
欲望のままに抱いて、言葉もないまま、狭いベッドに閉じ込めておいて、今さらなのに。
「巨人を殺しまくる手だ。」
逃げようとした俺の手を、華奢な細い指が絡みとって逃がさない。
そして、俺を見つめて、柔らかい笑みを浮かべて言うのだ。
「仲間を守る、世界一優しい手ですよ。」
「…物は言いようだな。」
俺の手は、逃げる気を失くしたフリをして、なまえに預けた。
そうすると、なまえは、楽しそうに、包んだり、開いたり、絡めとったりして遊び出す。
そして、自分の右手と、俺の左手を重ね合わせると、嬉しそうに言った。
「ほら見てください。私とリヴァイさんの手、ピッタリ。
同じサイズです。」
「馬鹿にしてんのか。」
本当はイラッとなんかしていなかったけれど、怒ったように言えば、なまえは可笑しそうにクスクスと笑った。
あぁ、たぶん俺は、彼女のこういうところも、一緒にいて気が楽なのだと思う。
俺に対して、彼女は、気を遣うことをしないし、距離を置こうともしない。
でもだからと言って、ズカズカと心に入りこんで来ようともしない。
彼女がくれる距離感は、俺の目を眩ませようとする。
だからこんなことに———。
「リヴァイさんが掴めるものは、私も掴めるし、
リヴァイさんが掴めないものは、私も掴めないんだなぁって思ったら、嬉しくて。
嬉しいことも悲しいことも、誰よりも分かり合えるってことですから。」
なまえは、俺と手を重ね合わせたまま、本当に嬉しそうに言う。
あぁ、本当に、物は言いようだと感じる。
俺なら、そうは捉えない。
彼女が掴み損ねたものを、俺は掴まえてはやれない。
俺が掴み損ねたものを、彼女も掴まえてはくれない。
俺達は、お互いに持っているものしかない相手に興味を失って、欲しいものを掴み損ねる相手に愛想を尽かして、そうやって失っていくしかないのだと、そう思ってしまったから——。
「あぁ、そうかもな。」
重なる華奢な手を包み込むように握りしめると、なまえは少し驚いたように目を見開いた後、ひどく嬉しそうに頬を緩めた。
染まる頬は、俺が見たいと思っていたものに近いのかもしれない。
俺となまえは、考え方がそもそも違う。
長く生きて来た間に、学ぶことが出来なかった新たな視点を教えてもらう度に、俺は、新しく生まれ直したような不思議な感覚に包まれる。
もうそろそろ、俺は、勝手に決めつけていた偏見を投げ捨て、素直になった方がいいのかもしれない。
きっと、本心を話すべきなのだろう。
でも、俺は———。
『愛してる———。』
そう告げる代わりに、心とは真逆のことを口にしてしまう。
「俺は、なまえを幸せにはしてやれねぇ。
距離を置いた方がいい。」
重なっていた手を離した。
途端に寂しくなって、俺は、なまえを抱き寄せる。
細い腰を強く抱けば、生まれたままの姿の俺達は、肌が触れ合って、重なる鼓動が、どちらのものか分からなくなる。
言葉とは裏腹の俺の行動を、一番理解出来ないのは、俺だ。
でも、どうすればいいというのだろう。
『愛してる。』
たったの5文字で気持ちを伝えることが出来るというのに、俺には、それが、この世で最も言葉にするのが難しく思えるのだ。
それなのに、彼女は、俺を抱きしめ返して、ひどく甘い戯言でとかすから————。
「それなら、もっと近づいて、ひとつになってしまいましょう。
そうすれば、リヴァイさんの幸せも不幸も、私のものですから。」
俺は抱きしめた。強く、強く、彼女を抱きしめた。
そうすることで、ひとつになってしまえるのなら———。
目を閉じると、俺はいつも暗闇に包まれて、世界にただひとりきりで投げ出されてしまったような気がして、大嫌いだった。
でも今、目を閉じると、俺にはいつも彼女の姿だけが見える。
だから俺は、ひどく安心して、幸せな夢を見られる気がするのだ。
これだけは、彼女に伝えておいた方がいいだろうか。
俺の心にいるのは、君だけなんだと————。
君の名前の意味を『愛してる』に変えてしまえたら
俺はきっと、生涯で誰よりも、君に『愛してる』と言える男になれるのに
せめて、君の名前を呼ぶときには、心の限りの愛してるを乗せるから
家族は死んで、大切な友人の命も奪われた。
たくさんの仲間を失い、俺はもう、明日の命すら信じられない。
心を開いては、傷ついて、傷つけられて、失う。そして俺はまた、心を閉ざすことを選ぶ。
俺の人生なんて、そんなことの繰り返しだ。
だから、誰かを愛しても意味がないと思ってる。
そんな俺を、彼女は何度だって見て来たはずなのに、決めつけたりしないのだ。
そのときに生まれる〝愛〟という感情を、俺はこの世で最も恐ろしい感情だと、信じているのに————。
何度も地獄を見てきたはずの彼女の瞳は、決して曇らない。
いつまで経っても出逢った頃のまま、綺麗なままで俺を見つめる。
だから俺は、彼女を見つめ返すのが、この世で一番、怖い———。
でも、俺達は今、同じ部屋にいて、同じベッドの上にいて、染みだらけの古びた天井を、一緒に眺めている。
今夜が初めてなわけではないけれど、長い間、そうしていたわけでもない。
始まりの夜を鮮やかに思い出せるほどには、まだ日も浅い。
今ならまだ、引き返せるはずだ。
俺達は、もういい大人で、それなりの言葉を交わしたわけではないのだから———。
『愛してる。』
もし俺が、似合わない台詞を口にしたら、彼女はどんな顔をするのだろう。
そう、思わないわけじゃない。
だって、俺は知ってる。
彼女は、どうでもいい男と身体を重ねるような女じゃない。
俺を見つめるときの、彼女の綺麗な瞳が語る言葉に気づかないほど、経験がないわけでもない。
俺は、知りたい。
似合わない台詞を俺から聞いた時に、柔らかく細くなる瞳を、薄く染まる頬を、この世で最も美しいだろう、その笑みを——。
でも俺はまた、喉の奥にまでせりあがって来た言葉を飲み込んで、腕枕をした格好のままで、彼女の頭を抱き寄せた。
「ふふ、くすぐったい。」
俺の髪が頬をかすめたらしく、なまえは首をすぼめながら、小さな声で楽しそうに笑う。
クスクスという子供のような無邪気な笑い声が、俺の耳に届く度に、俺は彼女を穢してるような気がするのだ。
だって———。
『愛してる。』
俺は何度も、その言葉を口にしたことがある。
求められるまま、そうすることで、うまくいくと知っていて、その5文字を音にした。
でも、今思えばそれは、嘘だったに違いないのだ。
だって、今、芽生え始めているこの感情こそが、本物になりえるものなのだと、心の奥底で俺は予感しているから———。
あぁ、でも———。
『愛してる。』
その言葉が、この世で最も似合うのが、彼女なんじゃないかと思う。
幾千回だって、そう伝えられてもいいくらいの価値が、彼女にはある。
でも、俺は、気持ちを言葉にするのが他人よりも下手で、もう二度と、誰かを愛したくもない。
だから、俺は———。
「リヴァイさんの手、すごく綺麗。」
シーツの中に隠れていた俺の手を引っ張り出して、なまえは、細く華奢な2つの手で包み込んだ。
愛おしそうに見つめる瞳の上で、長い睫毛が明かりに照らされて光るから、まるで宝石のように見えてしまった。
俺の手なんか握っていると、彼女のまっさらで綺麗な手を、穢してしまうような気がした。
欲望のままに抱いて、言葉もないまま、狭いベッドに閉じ込めておいて、今さらなのに。
「巨人を殺しまくる手だ。」
逃げようとした俺の手を、華奢な細い指が絡みとって逃がさない。
そして、俺を見つめて、柔らかい笑みを浮かべて言うのだ。
「仲間を守る、世界一優しい手ですよ。」
「…物は言いようだな。」
俺の手は、逃げる気を失くしたフリをして、なまえに預けた。
そうすると、なまえは、楽しそうに、包んだり、開いたり、絡めとったりして遊び出す。
そして、自分の右手と、俺の左手を重ね合わせると、嬉しそうに言った。
「ほら見てください。私とリヴァイさんの手、ピッタリ。
同じサイズです。」
「馬鹿にしてんのか。」
本当はイラッとなんかしていなかったけれど、怒ったように言えば、なまえは可笑しそうにクスクスと笑った。
あぁ、たぶん俺は、彼女のこういうところも、一緒にいて気が楽なのだと思う。
俺に対して、彼女は、気を遣うことをしないし、距離を置こうともしない。
でもだからと言って、ズカズカと心に入りこんで来ようともしない。
彼女がくれる距離感は、俺の目を眩ませようとする。
だからこんなことに———。
「リヴァイさんが掴めるものは、私も掴めるし、
リヴァイさんが掴めないものは、私も掴めないんだなぁって思ったら、嬉しくて。
嬉しいことも悲しいことも、誰よりも分かり合えるってことですから。」
なまえは、俺と手を重ね合わせたまま、本当に嬉しそうに言う。
あぁ、本当に、物は言いようだと感じる。
俺なら、そうは捉えない。
彼女が掴み損ねたものを、俺は掴まえてはやれない。
俺が掴み損ねたものを、彼女も掴まえてはくれない。
俺達は、お互いに持っているものしかない相手に興味を失って、欲しいものを掴み損ねる相手に愛想を尽かして、そうやって失っていくしかないのだと、そう思ってしまったから——。
「あぁ、そうかもな。」
重なる華奢な手を包み込むように握りしめると、なまえは少し驚いたように目を見開いた後、ひどく嬉しそうに頬を緩めた。
染まる頬は、俺が見たいと思っていたものに近いのかもしれない。
俺となまえは、考え方がそもそも違う。
長く生きて来た間に、学ぶことが出来なかった新たな視点を教えてもらう度に、俺は、新しく生まれ直したような不思議な感覚に包まれる。
もうそろそろ、俺は、勝手に決めつけていた偏見を投げ捨て、素直になった方がいいのかもしれない。
きっと、本心を話すべきなのだろう。
でも、俺は———。
『愛してる———。』
そう告げる代わりに、心とは真逆のことを口にしてしまう。
「俺は、なまえを幸せにはしてやれねぇ。
距離を置いた方がいい。」
重なっていた手を離した。
途端に寂しくなって、俺は、なまえを抱き寄せる。
細い腰を強く抱けば、生まれたままの姿の俺達は、肌が触れ合って、重なる鼓動が、どちらのものか分からなくなる。
言葉とは裏腹の俺の行動を、一番理解出来ないのは、俺だ。
でも、どうすればいいというのだろう。
『愛してる。』
たったの5文字で気持ちを伝えることが出来るというのに、俺には、それが、この世で最も言葉にするのが難しく思えるのだ。
それなのに、彼女は、俺を抱きしめ返して、ひどく甘い戯言でとかすから————。
「それなら、もっと近づいて、ひとつになってしまいましょう。
そうすれば、リヴァイさんの幸せも不幸も、私のものですから。」
俺は抱きしめた。強く、強く、彼女を抱きしめた。
そうすることで、ひとつになってしまえるのなら———。
目を閉じると、俺はいつも暗闇に包まれて、世界にただひとりきりで投げ出されてしまったような気がして、大嫌いだった。
でも今、目を閉じると、俺にはいつも彼女の姿だけが見える。
だから俺は、ひどく安心して、幸せな夢を見られる気がするのだ。
これだけは、彼女に伝えておいた方がいいだろうか。
俺の心にいるのは、君だけなんだと————。
君の名前の意味を『愛してる』に変えてしまえたら
俺はきっと、生涯で誰よりも、君に『愛してる』と言える男になれるのに
せめて、君の名前を呼ぶときには、心の限りの愛してるを乗せるから
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