私の頬に触れる手が、名残惜しそうにゆっくり離れていく。
リヴァイ兵長はとても心配そうな表情を浮かべていた。

「あのね、今生の別れじゃないからね、リヴァイ。
　今日から泊まりで、ウォール・ローゼに出張に行くだけ。
　明日の昼には、ちゃんと帰ってくるから。分かってる？」

ハンジさんが呆れたように言った。
出張に行く前に、部屋に挨拶に来ただけだったのだが、どうしても、私を兵舎に留めておきたいらしいリヴァイ兵長は、扉を閉めさせてくれない。

「本当に行くのか。」
「はい、立体起動装置の部品に使えそうな素材を安く買える場所があるみたいなので、
　そこに交渉に行きたいんです。…って、何度も言いましたよね。」
「チッ。」

数日前から、今日からハンジさんと出張だということは伝えていたのだけれど、その時からリヴァイ兵長はとても不機嫌だった。
でも、仕事なら仕方がないと分かってはいるはずだ。
何といっても、調査兵団の兵士長なのだからー。

「おい、ハンジ。ちゃんとコイツを連れて帰ってこいよ。
　また誘拐なんてされたら、今度こそ俺は死ぬぞ。」
「なんだよ、その脅し文句。」

ハンジさんが苦笑する。
でも、リヴァイ兵長が死んでしまうという脅し文句は、人類規模でとてもパンチがある。
最恐の脅し文句だ。

「大丈夫ですよ。誘拐犯はもういないんですから。」
「…あぁ、そうだったな。」

リヴァイ兵長が私の頭をクシャリと撫でた。
あぁ、私はいつもこうやって守られていたのかと胸が締め付けられる。
リヴァイ兵長から出る言葉を、私はいつも無条件で信じていた。その言葉こそが、真実だった。
だから、大丈夫。
誘拐犯はもういない、その嘘を真実に変えてくる。
私は、リヴァイ兵長を嘘つきにはしない。

「それじゃ、行ってきます。
　お土産は何がいいですか？」
「…紅茶。」
「分かりました。」

ハンジさんが吹き出すから、私まで笑うことは出来ず、なんとか堪えて返事をした。
でも、笑いを堪えているのはバレバレで、リヴァイ兵長の眉の皴が濃くなった。
明日、帰ってきたときは、たくさんの紅茶の葉をプレゼントしよう。
いつも守ってくれているお礼と、これからもずっと兵士長でいられるお祝いにー。