◇第九十四話◇幸せな一日の、最初の日
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郵便所に向かう途中で、ハンジさんと出くわした。
これから出張へ向かうところのようで、エルヴィン団長とミケ分隊長も一緒だった。
最近、彼らは、リヴァイ兵長の件でストヘス区へ出向させられていることが多い。
王都地下街のゴロツキだったリヴァイ兵長を引き抜いて調査兵団に入団させたのは、その頃はまだ分隊長だったエルヴィン団長だったとペトラから聞いた。
その頃から調査兵団で精鋭として力を発揮していたハンジさんとミケ分隊長も、リヴァイ兵長の素行について説明をするために一緒に出向させられているのだろう、とエルドも言っていた。
リヴァイ兵長は、何も悪くないのにー。
人類のために、命を懸けて戦ってきただけなのにー。
「おはようっ。
今日は朝から、兵舎は君とリヴァイの話題で持ち切りだね。」
ハンジさんがからかうように言って、私の髪をクシャクシャにする。
一気に蘇る談話室での一コマが、どんな噂か、聞くのも恥ずかしくさせて、私は誤魔化すように笑いながら、髪を直すことに集中した。
「まぁ、最近は暗い話題ばかりだったから、
これで兵舎の中も明るくなるのなら、有難い。」
今度はミケ分隊長が言って、私の頭にポンと手を乗せた。
その隣で、エルヴィン団長が訊ねる。
「どこに行くんだ?」
「手紙を出しに行くところです。
母が心配して手紙を送ってきたので、その返事を。」
「あぁ…、そうか…。
君のご両親にも心配をかけて、本当に悪いね。」
ハンジさんは申し訳なさそうに言って、頭を掻く。
この世界は本当に不思議だ。
本当に悪い人は謝らないのに、何も悪くない人が謝るなんて。
何も悪くない人が、責められることになるなんてー。
「リヴァイと別れて、帰ってこいとでも言われたか?」
エルヴィン団長が、珍しくからかうように言う。
いや、きっと、冗談にして、確かめようとしただけだろう。
私を見下ろす瞳は、いつものように、嘘を見抜かないと言っているから。
「むしろ、好きな人を死ぬ気で支えなさいって言われましたよ。」
私も冗談交じりに、でも、嘘は吐かずに答えた。
母から手紙が届いた時、本当はすごく不安だった。
エルヴィン団長が冗談のフリをして確認したみたいに、私も同じことを思った。
悪魔のような男のところから帰ってきなさいー手紙にはきっと、そう書いてあるのだろう。
そんな不安が拭えなくて、自分の母親からそんな言葉が出てくるなんて信じたくなくて、なかなか手紙の封を切れなかった。
でもー。
『新聞を読みました。
記事のどこに真実があるかは、私には分かりません。
私に分かるのは、私の娘が、リヴァイさんを想っていること。
私の見たリヴァイさんは、とても誠実な男性だったこと。
それだけ分かっていれば、私は、あなた達を信じられます。
だから、あなたも愛した人を信じて、支えてあげなさい。
どんな困難も2人で乗り越えなさい。
死ぬ気でやれば、案外、何だって乗り越えられるものですよ。
隣に愛する人がいれば、尚更です。
つらくなったら、いつでも帰ってきなさい。
リヴァイさんを連れてね。
お父さんとお母さんはいつだって、
娘と娘の愛した人の味方ですから、安心してくださいね。』
あんなに強く、優しい、愛に溢れた文章を書ける人が自分の母なのか。
そう感じて、胸が熱くなった。
同時に、母親には敵わないと思った。
私が今、一番欲しい言葉を、一番の不安を、分かってくれていたから。
「素敵な母親だな。これで、私も安心した。」
エルヴィン団長が私の頭をクシャリと撫でる。
リヴァイ兵長にも、同じようにしたいのだろうか。ふと、そんなことを思った。
「リヴァイ兵長は、調査兵団に残れますよね?
悪いこと、何もしてませんもんね?私を助けてくれただけですもん。」
私の欲しい答えをくれますよねー。
私の目は、きっとそう言っていたに違いない。
懇願するように見上げる私の瞳を、エルヴィン団長は反らさなかった。
「2週間後、リヴァイの体調を見てストヘス区へ出向する。
そこで、進退が決まる。おそらく…、事態をおさめるためにも
リヴァイには、兵士を退いてもらうことになるだろう。」
「そんな…っ。リヴァイ兵長は、人類にとって最も大切な兵士の1人ですっ!
リヴァイ兵長がいなくなったら、人類の未来もなくなりますっ!
世間が何と言おうとっ!それはエルヴィン団長だって知ってー。」
「分かってるさ!」
エルヴィン団長に食って掛かる私の胸前に腕を伸ばし、制止したのはハンジさんだった。
「エルヴィンが、一番分かってる。
彼を引き抜いて、今日までずっと一緒に戦ってきたんだから。」
「…申し訳、ありません。」
私は一歩さがり、頭を下げた。
その頭をエルヴィン団長が優しく撫でる。
「リヴァイのために怒ってくれて、ありがとう。
そうして、これからもアイツを支えてやってくれ。」
「私は…、何も、出来ません…。
守られるばっかりで、いつも…、何も出来ない…っ。」
目を伏せ、私は唇を噛む。
母親にも言われた、支えろー。
どうやって、私なんかが、彼を支えられるというのか。
ただそばにいるだけしか出来ない。
それだって、私の方が、幸せにしてもらっているというのに。
どうやってー。
「そばにいて、ただアイツの好きなように君を守らせてやってくれ。
男ってのは、それだけで、自分の価値を見出せる単純な生き物だ。」
エルヴィン団長は、最後にクシャッと髪を撫でると、ハンジさんとミケ分隊長を引き連れて、新聞記者が集まって騒がしい兵門へと消えていく。
乱れた髪に触れながら、私は、支えるという言葉の意味を考えた。
必死に、必死に。
必死にー。
私はもう、守られるだけは、御免だー。
これから出張へ向かうところのようで、エルヴィン団長とミケ分隊長も一緒だった。
最近、彼らは、リヴァイ兵長の件でストヘス区へ出向させられていることが多い。
王都地下街のゴロツキだったリヴァイ兵長を引き抜いて調査兵団に入団させたのは、その頃はまだ分隊長だったエルヴィン団長だったとペトラから聞いた。
その頃から調査兵団で精鋭として力を発揮していたハンジさんとミケ分隊長も、リヴァイ兵長の素行について説明をするために一緒に出向させられているのだろう、とエルドも言っていた。
リヴァイ兵長は、何も悪くないのにー。
人類のために、命を懸けて戦ってきただけなのにー。
「おはようっ。
今日は朝から、兵舎は君とリヴァイの話題で持ち切りだね。」
ハンジさんがからかうように言って、私の髪をクシャクシャにする。
一気に蘇る談話室での一コマが、どんな噂か、聞くのも恥ずかしくさせて、私は誤魔化すように笑いながら、髪を直すことに集中した。
「まぁ、最近は暗い話題ばかりだったから、
これで兵舎の中も明るくなるのなら、有難い。」
今度はミケ分隊長が言って、私の頭にポンと手を乗せた。
その隣で、エルヴィン団長が訊ねる。
「どこに行くんだ?」
「手紙を出しに行くところです。
母が心配して手紙を送ってきたので、その返事を。」
「あぁ…、そうか…。
君のご両親にも心配をかけて、本当に悪いね。」
ハンジさんは申し訳なさそうに言って、頭を掻く。
この世界は本当に不思議だ。
本当に悪い人は謝らないのに、何も悪くない人が謝るなんて。
何も悪くない人が、責められることになるなんてー。
「リヴァイと別れて、帰ってこいとでも言われたか?」
エルヴィン団長が、珍しくからかうように言う。
いや、きっと、冗談にして、確かめようとしただけだろう。
私を見下ろす瞳は、いつものように、嘘を見抜かないと言っているから。
「むしろ、好きな人を死ぬ気で支えなさいって言われましたよ。」
私も冗談交じりに、でも、嘘は吐かずに答えた。
母から手紙が届いた時、本当はすごく不安だった。
エルヴィン団長が冗談のフリをして確認したみたいに、私も同じことを思った。
悪魔のような男のところから帰ってきなさいー手紙にはきっと、そう書いてあるのだろう。
そんな不安が拭えなくて、自分の母親からそんな言葉が出てくるなんて信じたくなくて、なかなか手紙の封を切れなかった。
でもー。
『新聞を読みました。
記事のどこに真実があるかは、私には分かりません。
私に分かるのは、私の娘が、リヴァイさんを想っていること。
私の見たリヴァイさんは、とても誠実な男性だったこと。
それだけ分かっていれば、私は、あなた達を信じられます。
だから、あなたも愛した人を信じて、支えてあげなさい。
どんな困難も2人で乗り越えなさい。
死ぬ気でやれば、案外、何だって乗り越えられるものですよ。
隣に愛する人がいれば、尚更です。
つらくなったら、いつでも帰ってきなさい。
リヴァイさんを連れてね。
お父さんとお母さんはいつだって、
娘と娘の愛した人の味方ですから、安心してくださいね。』
あんなに強く、優しい、愛に溢れた文章を書ける人が自分の母なのか。
そう感じて、胸が熱くなった。
同時に、母親には敵わないと思った。
私が今、一番欲しい言葉を、一番の不安を、分かってくれていたから。
「素敵な母親だな。これで、私も安心した。」
エルヴィン団長が私の頭をクシャリと撫でる。
リヴァイ兵長にも、同じようにしたいのだろうか。ふと、そんなことを思った。
「リヴァイ兵長は、調査兵団に残れますよね?
悪いこと、何もしてませんもんね?私を助けてくれただけですもん。」
私の欲しい答えをくれますよねー。
私の目は、きっとそう言っていたに違いない。
懇願するように見上げる私の瞳を、エルヴィン団長は反らさなかった。
「2週間後、リヴァイの体調を見てストヘス区へ出向する。
そこで、進退が決まる。おそらく…、事態をおさめるためにも
リヴァイには、兵士を退いてもらうことになるだろう。」
「そんな…っ。リヴァイ兵長は、人類にとって最も大切な兵士の1人ですっ!
リヴァイ兵長がいなくなったら、人類の未来もなくなりますっ!
世間が何と言おうとっ!それはエルヴィン団長だって知ってー。」
「分かってるさ!」
エルヴィン団長に食って掛かる私の胸前に腕を伸ばし、制止したのはハンジさんだった。
「エルヴィンが、一番分かってる。
彼を引き抜いて、今日までずっと一緒に戦ってきたんだから。」
「…申し訳、ありません。」
私は一歩さがり、頭を下げた。
その頭をエルヴィン団長が優しく撫でる。
「リヴァイのために怒ってくれて、ありがとう。
そうして、これからもアイツを支えてやってくれ。」
「私は…、何も、出来ません…。
守られるばっかりで、いつも…、何も出来ない…っ。」
目を伏せ、私は唇を噛む。
母親にも言われた、支えろー。
どうやって、私なんかが、彼を支えられるというのか。
ただそばにいるだけしか出来ない。
それだって、私の方が、幸せにしてもらっているというのに。
どうやってー。
「そばにいて、ただアイツの好きなように君を守らせてやってくれ。
男ってのは、それだけで、自分の価値を見出せる単純な生き物だ。」
エルヴィン団長は、最後にクシャッと髪を撫でると、ハンジさんとミケ分隊長を引き連れて、新聞記者が集まって騒がしい兵門へと消えていく。
乱れた髪に触れながら、私は、支えるという言葉の意味を考えた。
必死に、必死に。
必死にー。
私はもう、守られるだけは、御免だー。