◇第九十一話◇真相は闇に葬れない
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どうせなら本当に書類仕事の手伝いでもしようー。
そう思って、ハンジさんの執務室兼自室に向かったのは、間違いだった。
廊下を曲がる直前、ミケ分隊長が他の分隊長達と話している声を聞いてしまった。
「それで、王都はリヴァイをやめさせろと言ってきてんのか。」
「あぁ。今度、王都に出向して、最終会議だそうだ。
検査結果は問題なかったが、まだ骨はくっついていないから
もうしばらく様子を見て、長距離の移動が堪えられるまで回復したらな。」
リヴァイ兵長の進退についての話だと分かって、私は足を止めた。
廊下の角に背中を合わせて、息を潜める。
(王都が…?)
リヴァイ兵長は人類最強の兵士だけれど、だからって、なぜ王都が彼の進退にまで口を出すのか。
体裁を気にする憲兵なら分かる気もするけれど、私は訝し気に眉を顰めた。
今回の事件は、リヴァイ兵長への逆恨みが動機だったかもしれない。
でも、逆恨みごときで、兵法会議にかけられるわけでもない。
それに、ただの過去の噂話に過ぎないじゃないか。
「リヴァイが抜けるのはきついな…。アイツは知ってるのか。」
「あぁ、構わないと頑なだそうだ。」
「どうしても、なまえを傷つけたくねぇんだな。アイツがな…。」
聞こえてきたのは、私がこの世で一番馴染みのある名前だった。
(私?私がどうして、リヴァイ兵長の進退に?)
首を傾げる私のためみたいに、ミケ分隊長の声が答えを教えてくれた。
「自分の元婚約者が、自分を取り戻すために起こした爆弾騒ぎで
死者まで出したとなれば、なまえは今度こそ潰れるだろう。
その上、握り潰される真相なら、なかった方がいいとリヴァイが判断した。」
「俺達も、アイツがそう覚悟を決めて決断したのなら、何も言えねぇしなぁ。」
「そもそも、王都親族である貴族に逆らうだけの刃を、我々は持っていない。」
「なまえに頼むことも出来ねぇしなぁ。」
「あそこでなまえは死ぬはずだった。それが、モーリが復讐心を燃やして
リヴァイを呼び出す手紙を残したおかげで、助け出すことが出来た。
それだけで、アイツは満足してるんだと思う。」
「どうにか、リヴァイも助ける方法はないもんかね。」
声を上げそうになって、両手で口を抑えたところで、どうせ、喉の奥から空気が漏れるだけだった。
足が震えて、立っているのも、やっとだった。
(う、そ…。)
頭が真っ白になった。
でも、これでようやく、ずっと心に残っていた違和感が解消されていくのも感じていた。
あの日からずっと、気になっていることがあった。
モーリと金髪の男たちの会話ー、そこに時々、第三者の存在が出ていたはずだった。
それなのに、世間に発表されたのは、モーリが主犯で、あの場にいた犯人全員が爆死。それで、解決だった。
でも、モーリが主犯なら、あの廃工場の爆発の意味が分からなかった。
新聞記事と調査兵団の報告では、リヴァイ兵長から逃げられないと悟ったモーリが自爆したとあったけれど、そうではないことを私は一番知っている。
あのとき、モーリの方が圧倒的有利にいたのだ。
『僕は、君の為なら何だって出来るんだよ。』
ルーカスがそう言って微笑んだ時の得体のしれない恐怖が蘇る。
あれは、人も殺せると、そう意味だったというのかー。
(あぁ、そうか…。)
やっと分かった。
あの日、パーティー会場で、リヴァイ兵長がどうして私に絶対に離れるなと言ったのか。
なぜ、ダンスに誘うルーカスの元へ行かせるのを拒んだのか。
あの廃工場で、私を身体を張って守ったのも、爆発が起こることを最初から知っていたからだったのだろう。
きっと、リヴァイ兵長は、いや、エルヴィン団長達は、初めから爆弾騒ぎの主犯がルーカスだと知っていた。
でも、私のために、それが分からないように隠していてー。
『俺達に襲われたくなかったら、魔法の呪文を唱えるんだったろ?』
『君がツラいとき、彼ではなくて、僕の名前を呼んでごらん。
彼には無理でも、僕の名前を呼んでくれさえすれば、どんな困難からも助けてあげる。』
蘇ってくる、伏線を含んだ言葉達。
無理やりはめ込まれていたパズルのピースが外れ、正しいピースが次々とはめられていく。
私はあのとき、ルーカスの名前を呼ぶべきだった。
そうすれば、少なくとも、リヴァイ兵長があんなひどい目に合うことはなかった。
すべて、元凶は私ー。
私のせいだったー。
いつの間にか、誰もいなくなっていた静かな廊下で、私ひとり、動けずにいた。
そう思って、ハンジさんの執務室兼自室に向かったのは、間違いだった。
廊下を曲がる直前、ミケ分隊長が他の分隊長達と話している声を聞いてしまった。
「それで、王都はリヴァイをやめさせろと言ってきてんのか。」
「あぁ。今度、王都に出向して、最終会議だそうだ。
検査結果は問題なかったが、まだ骨はくっついていないから
もうしばらく様子を見て、長距離の移動が堪えられるまで回復したらな。」
リヴァイ兵長の進退についての話だと分かって、私は足を止めた。
廊下の角に背中を合わせて、息を潜める。
(王都が…?)
リヴァイ兵長は人類最強の兵士だけれど、だからって、なぜ王都が彼の進退にまで口を出すのか。
体裁を気にする憲兵なら分かる気もするけれど、私は訝し気に眉を顰めた。
今回の事件は、リヴァイ兵長への逆恨みが動機だったかもしれない。
でも、逆恨みごときで、兵法会議にかけられるわけでもない。
それに、ただの過去の噂話に過ぎないじゃないか。
「リヴァイが抜けるのはきついな…。アイツは知ってるのか。」
「あぁ、構わないと頑なだそうだ。」
「どうしても、なまえを傷つけたくねぇんだな。アイツがな…。」
聞こえてきたのは、私がこの世で一番馴染みのある名前だった。
(私?私がどうして、リヴァイ兵長の進退に?)
首を傾げる私のためみたいに、ミケ分隊長の声が答えを教えてくれた。
「自分の元婚約者が、自分を取り戻すために起こした爆弾騒ぎで
死者まで出したとなれば、なまえは今度こそ潰れるだろう。
その上、握り潰される真相なら、なかった方がいいとリヴァイが判断した。」
「俺達も、アイツがそう覚悟を決めて決断したのなら、何も言えねぇしなぁ。」
「そもそも、王都親族である貴族に逆らうだけの刃を、我々は持っていない。」
「なまえに頼むことも出来ねぇしなぁ。」
「あそこでなまえは死ぬはずだった。それが、モーリが復讐心を燃やして
リヴァイを呼び出す手紙を残したおかげで、助け出すことが出来た。
それだけで、アイツは満足してるんだと思う。」
「どうにか、リヴァイも助ける方法はないもんかね。」
声を上げそうになって、両手で口を抑えたところで、どうせ、喉の奥から空気が漏れるだけだった。
足が震えて、立っているのも、やっとだった。
(う、そ…。)
頭が真っ白になった。
でも、これでようやく、ずっと心に残っていた違和感が解消されていくのも感じていた。
あの日からずっと、気になっていることがあった。
モーリと金髪の男たちの会話ー、そこに時々、第三者の存在が出ていたはずだった。
それなのに、世間に発表されたのは、モーリが主犯で、あの場にいた犯人全員が爆死。それで、解決だった。
でも、モーリが主犯なら、あの廃工場の爆発の意味が分からなかった。
新聞記事と調査兵団の報告では、リヴァイ兵長から逃げられないと悟ったモーリが自爆したとあったけれど、そうではないことを私は一番知っている。
あのとき、モーリの方が圧倒的有利にいたのだ。
『僕は、君の為なら何だって出来るんだよ。』
ルーカスがそう言って微笑んだ時の得体のしれない恐怖が蘇る。
あれは、人も殺せると、そう意味だったというのかー。
(あぁ、そうか…。)
やっと分かった。
あの日、パーティー会場で、リヴァイ兵長がどうして私に絶対に離れるなと言ったのか。
なぜ、ダンスに誘うルーカスの元へ行かせるのを拒んだのか。
あの廃工場で、私を身体を張って守ったのも、爆発が起こることを最初から知っていたからだったのだろう。
きっと、リヴァイ兵長は、いや、エルヴィン団長達は、初めから爆弾騒ぎの主犯がルーカスだと知っていた。
でも、私のために、それが分からないように隠していてー。
『俺達に襲われたくなかったら、魔法の呪文を唱えるんだったろ?』
『君がツラいとき、彼ではなくて、僕の名前を呼んでごらん。
彼には無理でも、僕の名前を呼んでくれさえすれば、どんな困難からも助けてあげる。』
蘇ってくる、伏線を含んだ言葉達。
無理やりはめ込まれていたパズルのピースが外れ、正しいピースが次々とはめられていく。
私はあのとき、ルーカスの名前を呼ぶべきだった。
そうすれば、少なくとも、リヴァイ兵長があんなひどい目に合うことはなかった。
すべて、元凶は私ー。
私のせいだったー。
いつの間にか、誰もいなくなっていた静かな廊下で、私ひとり、動けずにいた。