◇第八十九話◇悪夢
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
書類にペンを走らせていた私は、部屋が暗くなってきたことに気が付いて、ランタンに火を灯した。
壁掛けの時計を確認すると、そろそろ夕食の時間のようだった。
医療兵が出した薬には、眠くなる成分が少し強めに入っているらしい。
だからなのか、今までの疲れが溜まっていたのか、リヴァイ兵長は、夕方頃からずっと眠っている。
(起きる前に、夕飯を持ってこようかな。)
ローテーブルの上に広げていた書類を片付け始めた。
昼間、リヴァイ兵長が起きている間に部屋の掃除は終わらせたし、夕食の後の薬を飲ませたら、部屋に戻ろう。
「…っ。」
小さなうめき声が聞こえて、不思議に思って、私はベッドの方を見た。
相変わらず、リヴァイ兵長がベッドの上で眠っている。
どうしたのだろうー。
ベッドまで行くと、悪い夢でも見ているのか、眠っているリヴァイ兵長が眉を顰めていた。
ベッドの縁に腰かけ、リヴァイ兵長の髪をそっと撫でる。
熱があるせいか、悪い夢のせいか、額のあたりに汗を掻いていた。
「…っ。…ベル…っ。」
リヴァイ兵長が、苦しそうにもがきながら口を動かす。
よく聞こえなかったけれど、誰かの名前を呼んだようだった。
たぶん、イザベルー。
「大丈夫、大丈夫ですよ。」
何と言ってあげればいいか分からなかった。
だから、ルルがそうしてくれたように、優しく頭を撫でた。
私は、それだけで、とても心が落ち着いたからー。
でもきっと、私が感じた心の痛みなんて、リヴァイ兵長の知っているものとは比べものにはならなくて、少しでも痛みがやわらぐことを願って頭を撫でてみたところで、その苦しそうなうめき声が消えることはなかった。
そしてー。
「ファーランッ!!!!」
リヴァイ兵長は大声で誰かの名前を叫んで、飛び起きた。
伸ばした右手は、その誰かの手を掴もうとしていたのだろうか。
目を見開き、今も尚、地獄を映し続けているように見える瞳が痛々しかった。
虚しく空気を切ったリヴァイ兵長の手を、その誰かの代わりに握りしめる。
そして、何かから逃げるようにビクリと震えたリヴァイ兵長を、優しく包み込んだ。
そうしていると、リヴァイ兵長も少しずつ悪夢から目覚めていったようだった。
「あぁ…すまねぇ。久しぶりに、悪い夢を見た。」
リヴァイ兵長は、地獄を映した光景を消し去ろうとするように瞳を強く瞑り、私と繋いでいない方の手を額に乗せて、頭を支えた。
それは本当に、悪い夢、だったのだろうか。
ルルの夢を見て目が覚める私に似ていたから、なんとなく分かる。
リヴァイ兵長が、何を見たのか、誰に手を伸ばしたのかー。
「大丈夫ですよ。もう少し寝ますか?」
「いや…、起きる。」
「分かりました。じゃあ、夕飯貰ってきますね。」
そう言って、私はリヴァイ兵長から身体を離すと、繋いでいる手も離して立ち上がる。
すると、まるで縋るみたいに、リヴァイ兵長の手が私の手を捕まえた。
驚いたのは、私だけではなかった。
リヴァイ兵長も、自分の行動が信じられなかったみたいで、目を見開いて、繋いだ手を見ていた。
「やっぱり、まだお腹空いてないし、
夕飯はもう少ししてからにしましょうか。」
私はまた、ベッドの縁に腰を降ろした。
すると、リヴァイ兵長の手が、ゆるゆると私に伸びて、そっと抱きしめた。
いや、抱きしめるというよりも、縋りつくみたいだったー。
その力は驚くほどに弱弱しくて、私の知っているリヴァイ兵長とは全然違っていた。
でもきっと、今のリヴァイ兵長も、本当の姿のひとつなのだと思う。
人間なのだから、いつも人類最強の兵士でいる必要はないし、いられるわけがない。
まるで、小さな子供が母親を求めるように、母親の愛を求めるように、縋るように。
決して強い力ではないけれど、それでも、悲しいほどに必死にしがみつくリヴァイ兵長を、私も優しく包んだ。
「怖い夢を見たとき、母がいつもこうしてくれていたんです。
そしたら、すごく安心して、また眠たくなっちゃうんです。
魔法みたいで、怖い夢は好きじゃないけど、こうされるのは好きでした。」
私はリヴァイ兵長の頭を優しく撫でた。
もう大丈夫よー、幼い私を抱きしめながら母が頭を撫でてくれると、本当に大丈夫な気がした。
私の世界はあの悪夢ではなく、安心できるこの腕の中なのだと信じられて、すごく安心したのを覚えている。
「あぁ…、そうみたいだな。」
リヴァイ兵長は小さく、自分に教えてやるように言って、私の胸に顔を埋めた。
私はそっと、リヴァイ兵長の頭を撫で続ける。
今夜は、彼の見る夢が、幸せな光景を映してくれますように。
そこでは、彼が伸ばす手を、彼の愛する人達が笑って掴んでくれますように。
誰かの代わりになることも、助けることも出来ず、撫でることしかできないこの手で、ただひたすらそう願ってー。
「リヴァイ兵長、大好きです。」
「…なんだ、急に。」
「急に、言いたくなって。」
「変わってるな、お前は、本当に。」
リヴァイ兵長の声が、ほんの少し柔らかくなった気がして、安心した。
私の気持ちが、リヴァイ兵長の心の寂しさをほんの少しでも、埋める何かになればいい。
ひとりじゃないってことを知っていてほしい。
自分を想うよりも大切にしたいと思っている人間がいることを、自分は愛されているのだということを、どうか忘れないでー。
壁掛けの時計を確認すると、そろそろ夕食の時間のようだった。
医療兵が出した薬には、眠くなる成分が少し強めに入っているらしい。
だからなのか、今までの疲れが溜まっていたのか、リヴァイ兵長は、夕方頃からずっと眠っている。
(起きる前に、夕飯を持ってこようかな。)
ローテーブルの上に広げていた書類を片付け始めた。
昼間、リヴァイ兵長が起きている間に部屋の掃除は終わらせたし、夕食の後の薬を飲ませたら、部屋に戻ろう。
「…っ。」
小さなうめき声が聞こえて、不思議に思って、私はベッドの方を見た。
相変わらず、リヴァイ兵長がベッドの上で眠っている。
どうしたのだろうー。
ベッドまで行くと、悪い夢でも見ているのか、眠っているリヴァイ兵長が眉を顰めていた。
ベッドの縁に腰かけ、リヴァイ兵長の髪をそっと撫でる。
熱があるせいか、悪い夢のせいか、額のあたりに汗を掻いていた。
「…っ。…ベル…っ。」
リヴァイ兵長が、苦しそうにもがきながら口を動かす。
よく聞こえなかったけれど、誰かの名前を呼んだようだった。
たぶん、イザベルー。
「大丈夫、大丈夫ですよ。」
何と言ってあげればいいか分からなかった。
だから、ルルがそうしてくれたように、優しく頭を撫でた。
私は、それだけで、とても心が落ち着いたからー。
でもきっと、私が感じた心の痛みなんて、リヴァイ兵長の知っているものとは比べものにはならなくて、少しでも痛みがやわらぐことを願って頭を撫でてみたところで、その苦しそうなうめき声が消えることはなかった。
そしてー。
「ファーランッ!!!!」
リヴァイ兵長は大声で誰かの名前を叫んで、飛び起きた。
伸ばした右手は、その誰かの手を掴もうとしていたのだろうか。
目を見開き、今も尚、地獄を映し続けているように見える瞳が痛々しかった。
虚しく空気を切ったリヴァイ兵長の手を、その誰かの代わりに握りしめる。
そして、何かから逃げるようにビクリと震えたリヴァイ兵長を、優しく包み込んだ。
そうしていると、リヴァイ兵長も少しずつ悪夢から目覚めていったようだった。
「あぁ…すまねぇ。久しぶりに、悪い夢を見た。」
リヴァイ兵長は、地獄を映した光景を消し去ろうとするように瞳を強く瞑り、私と繋いでいない方の手を額に乗せて、頭を支えた。
それは本当に、悪い夢、だったのだろうか。
ルルの夢を見て目が覚める私に似ていたから、なんとなく分かる。
リヴァイ兵長が、何を見たのか、誰に手を伸ばしたのかー。
「大丈夫ですよ。もう少し寝ますか?」
「いや…、起きる。」
「分かりました。じゃあ、夕飯貰ってきますね。」
そう言って、私はリヴァイ兵長から身体を離すと、繋いでいる手も離して立ち上がる。
すると、まるで縋るみたいに、リヴァイ兵長の手が私の手を捕まえた。
驚いたのは、私だけではなかった。
リヴァイ兵長も、自分の行動が信じられなかったみたいで、目を見開いて、繋いだ手を見ていた。
「やっぱり、まだお腹空いてないし、
夕飯はもう少ししてからにしましょうか。」
私はまた、ベッドの縁に腰を降ろした。
すると、リヴァイ兵長の手が、ゆるゆると私に伸びて、そっと抱きしめた。
いや、抱きしめるというよりも、縋りつくみたいだったー。
その力は驚くほどに弱弱しくて、私の知っているリヴァイ兵長とは全然違っていた。
でもきっと、今のリヴァイ兵長も、本当の姿のひとつなのだと思う。
人間なのだから、いつも人類最強の兵士でいる必要はないし、いられるわけがない。
まるで、小さな子供が母親を求めるように、母親の愛を求めるように、縋るように。
決して強い力ではないけれど、それでも、悲しいほどに必死にしがみつくリヴァイ兵長を、私も優しく包んだ。
「怖い夢を見たとき、母がいつもこうしてくれていたんです。
そしたら、すごく安心して、また眠たくなっちゃうんです。
魔法みたいで、怖い夢は好きじゃないけど、こうされるのは好きでした。」
私はリヴァイ兵長の頭を優しく撫でた。
もう大丈夫よー、幼い私を抱きしめながら母が頭を撫でてくれると、本当に大丈夫な気がした。
私の世界はあの悪夢ではなく、安心できるこの腕の中なのだと信じられて、すごく安心したのを覚えている。
「あぁ…、そうみたいだな。」
リヴァイ兵長は小さく、自分に教えてやるように言って、私の胸に顔を埋めた。
私はそっと、リヴァイ兵長の頭を撫で続ける。
今夜は、彼の見る夢が、幸せな光景を映してくれますように。
そこでは、彼が伸ばす手を、彼の愛する人達が笑って掴んでくれますように。
誰かの代わりになることも、助けることも出来ず、撫でることしかできないこの手で、ただひたすらそう願ってー。
「リヴァイ兵長、大好きです。」
「…なんだ、急に。」
「急に、言いたくなって。」
「変わってるな、お前は、本当に。」
リヴァイ兵長の声が、ほんの少し柔らかくなった気がして、安心した。
私の気持ちが、リヴァイ兵長の心の寂しさをほんの少しでも、埋める何かになればいい。
ひとりじゃないってことを知っていてほしい。
自分を想うよりも大切にしたいと思っている人間がいることを、自分は愛されているのだということを、どうか忘れないでー。