◇第八話◇地獄の門へようこそ
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トロスト区の兵団拠点である調査兵団の兵舎は、兵士達の生活する小さな町だった。
家まで迎えに来てくれたハンジさんに連れられて正門をくぐれば、非番の兵士や任務に備えて仕事をしているらしい兵士に訝し気な視線を向けられた。
「ごめんなぁ。今は次の任務とか、ほら…、エレン・イェーガーのことで
みんなピリピリしちゃっててさ。」
「…いえ、平気です。」
調査兵達の歓迎ムードとは思えない視線をやり過ごし、ハンジさんに連れてこられたのは、宿舎だった。
5階建ての大きな建物で、ここで調査兵達が寝起きを共にしている。
私の部屋はその1階の一番端にあった。
最上階にある幹部やベテラン達の部屋は個室になっているが、下っ端の兵士達は2人から6人の大部屋が与えられる。
だが、今は調査兵の数が少ないこともあって、下っ端でも大部屋を個室のように使用していたりするそうだ。
私に用意された部屋も本来は2人部屋のようで、窓際に二段ベッドが置かれている。
ここを1人で使用していいらしい。
「それにしても、本当に荷物はこれだけでよかったのかい?」
ハンジさんが手に持ったバッグを少し上にあげて見せた。
家からこの部屋まで、ハンジさんが持ってきてくれた私のバッグ。大きさは洋服と下着が数着と財布、化粧品がいくつか入る程度で、どう見ても引っ越しで使用するようなバッグではない。
女性の引っ越しは荷物が多いから気合を入れてきた、というハンジさんは、バッグどころか荷物を入れた箱がいくつもあると思っていたらしい。
「いいんです。あんまり大きいものだと母に気づかれてしまいますから。」
「え?ご両親に伝えてないの?」
驚くハンジさんからバッグを受け取り、洋服を取り出す。
タンスの引き出しを開き、洋服を入れながら口を開いた。
「何て言うんですか?お母さんとお父さん達が内地に移住するために娘は死んできますって?」
「…ごめん。」
「…いいえ、決めたのは私ですから。すみません、忘れてください。」
いつの間にか握りしめていた洋服に出来ていた皴を伸ばしながら、私のこのひねくれた性格もまっすぐに伸ばせないかと願った。
ハンジさんは、私の命のことを軽く見ているわけじゃない。
調査兵団の兵士達全員、そして、人類の命の方が重いと考えただけだ。
それに、結局は、家族のためだと覚悟して調査兵団への入団を決めたのは私なのだ。
少ない荷物を片付けるのはあっという間に終わり、私は、ハンジさんが持ってきてくれた制服に着替えて部屋を出た。
駐屯兵の制服と同じで、紋章が薔薇から自由の翼に変わっただけ。
それなのに、なぜかとても重たくて、自分の命が軽くなったような気がした。
ハンジさんに連れられた私がまず向かったのは、兵舎内にある仕立て屋だった。そこで、身体の採寸を測った。制服は大体1週間ほどで出来上がるそうだ。
今着ている制服でも構わないと思ったが、身体を動かすのが仕事だから出来る限り身体にピッタリのサイズの制服を着た方がいいらしい。
そして、仕立て屋を出た私は、エルヴィン団長の執務室に案内されている。
「ねぇ。」
私に責められてから口数が少なくなっていたハンジさんが、突然話しかけてきた。
「何ですか。」
「ご両親にはさ、言った方がいいと思うんだ。もちろん、君の自由だけど…。」
「…。」
「君の気持ちもわかるよ。ご両親は驚くだろうし、ショックかもしれない。」
「分かってるなら、放っておいてください。」
「でも!」
ハンジさんは急に大きな声を出して立ち止まると、私の両腕を握って自分の方に向かせた。
そして、あのまっすぐな瞳で私を見て続けた。
「突然、わけもわからないまま永遠に娘と別れることになるよりは、マシだ。」
もちろん、自分達は命を懸けて仲間を守るけれど、それが出来ない状況なんていくらでもある。
だから、約束は出来ないとかなんとか言い訳も続いたけれど、ハンジさんが言いたいことはよくわかった。
私の心配だけではなく、私の家族の心の心配もしてくれているんだろう。
それなら―。
「それなら、お願いがあります。」
「あぁ、言ってくれ。何でも聞くよ。」
「私の両親には、私が調査兵団に入団したことを絶対に言わないでください。」
「…それでいいの?」
「私を調査兵団の誰かすごく偉い人と結婚させてください。」
「…は?え?は?」
凄く真面目な目をしていて、なぜかとても悲しそうだったハンジさんが一瞬でパニックになった顔が、少しだけ可愛かった。
家まで迎えに来てくれたハンジさんに連れられて正門をくぐれば、非番の兵士や任務に備えて仕事をしているらしい兵士に訝し気な視線を向けられた。
「ごめんなぁ。今は次の任務とか、ほら…、エレン・イェーガーのことで
みんなピリピリしちゃっててさ。」
「…いえ、平気です。」
調査兵達の歓迎ムードとは思えない視線をやり過ごし、ハンジさんに連れてこられたのは、宿舎だった。
5階建ての大きな建物で、ここで調査兵達が寝起きを共にしている。
私の部屋はその1階の一番端にあった。
最上階にある幹部やベテラン達の部屋は個室になっているが、下っ端の兵士達は2人から6人の大部屋が与えられる。
だが、今は調査兵の数が少ないこともあって、下っ端でも大部屋を個室のように使用していたりするそうだ。
私に用意された部屋も本来は2人部屋のようで、窓際に二段ベッドが置かれている。
ここを1人で使用していいらしい。
「それにしても、本当に荷物はこれだけでよかったのかい?」
ハンジさんが手に持ったバッグを少し上にあげて見せた。
家からこの部屋まで、ハンジさんが持ってきてくれた私のバッグ。大きさは洋服と下着が数着と財布、化粧品がいくつか入る程度で、どう見ても引っ越しで使用するようなバッグではない。
女性の引っ越しは荷物が多いから気合を入れてきた、というハンジさんは、バッグどころか荷物を入れた箱がいくつもあると思っていたらしい。
「いいんです。あんまり大きいものだと母に気づかれてしまいますから。」
「え?ご両親に伝えてないの?」
驚くハンジさんからバッグを受け取り、洋服を取り出す。
タンスの引き出しを開き、洋服を入れながら口を開いた。
「何て言うんですか?お母さんとお父さん達が内地に移住するために娘は死んできますって?」
「…ごめん。」
「…いいえ、決めたのは私ですから。すみません、忘れてください。」
いつの間にか握りしめていた洋服に出来ていた皴を伸ばしながら、私のこのひねくれた性格もまっすぐに伸ばせないかと願った。
ハンジさんは、私の命のことを軽く見ているわけじゃない。
調査兵団の兵士達全員、そして、人類の命の方が重いと考えただけだ。
それに、結局は、家族のためだと覚悟して調査兵団への入団を決めたのは私なのだ。
少ない荷物を片付けるのはあっという間に終わり、私は、ハンジさんが持ってきてくれた制服に着替えて部屋を出た。
駐屯兵の制服と同じで、紋章が薔薇から自由の翼に変わっただけ。
それなのに、なぜかとても重たくて、自分の命が軽くなったような気がした。
ハンジさんに連れられた私がまず向かったのは、兵舎内にある仕立て屋だった。そこで、身体の採寸を測った。制服は大体1週間ほどで出来上がるそうだ。
今着ている制服でも構わないと思ったが、身体を動かすのが仕事だから出来る限り身体にピッタリのサイズの制服を着た方がいいらしい。
そして、仕立て屋を出た私は、エルヴィン団長の執務室に案内されている。
「ねぇ。」
私に責められてから口数が少なくなっていたハンジさんが、突然話しかけてきた。
「何ですか。」
「ご両親にはさ、言った方がいいと思うんだ。もちろん、君の自由だけど…。」
「…。」
「君の気持ちもわかるよ。ご両親は驚くだろうし、ショックかもしれない。」
「分かってるなら、放っておいてください。」
「でも!」
ハンジさんは急に大きな声を出して立ち止まると、私の両腕を握って自分の方に向かせた。
そして、あのまっすぐな瞳で私を見て続けた。
「突然、わけもわからないまま永遠に娘と別れることになるよりは、マシだ。」
もちろん、自分達は命を懸けて仲間を守るけれど、それが出来ない状況なんていくらでもある。
だから、約束は出来ないとかなんとか言い訳も続いたけれど、ハンジさんが言いたいことはよくわかった。
私の心配だけではなく、私の家族の心の心配もしてくれているんだろう。
それなら―。
「それなら、お願いがあります。」
「あぁ、言ってくれ。何でも聞くよ。」
「私の両親には、私が調査兵団に入団したことを絶対に言わないでください。」
「…それでいいの?」
「私を調査兵団の誰かすごく偉い人と結婚させてください。」
「…は?え?は?」
凄く真面目な目をしていて、なぜかとても悲しそうだったハンジさんが一瞬でパニックになった顔が、少しだけ可愛かった。