◇第八十七話◇真相を握り潰すなら君の笑顔のために
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翌日、エルヴィンの執務室兼自室を出たハンジは、医療棟へ向かっていた。
まだ昨日の事件の余韻の残る兵舎は、それでも通常の一日を取り戻そうとしているようだった。
ただ、兵士達の誇りであるリヴァイの重傷という事態に、誰も不安を隠せていない。
一応、もういつも通り、訓練や雑務の任務を行うように分隊長から所属班の班長を通して指示が言っているはずだが、すれ違う兵士達の顔はみな、どこか浮かない表情をしている。
リヴァイの容態が気になって、訓練にも身が入っていないようだった。
(仕方ない、か…、)
パーティー会場での爆発は、貴族5名の命を奪い、たくさんの負傷者を出した。
調査兵団の兵士からも数名の負傷者が出ている。
命に別状がないことだけは不幸中の幸いだったが、どちらにしろ貴族に死者が出ている時点で、大惨事であることに変わりはない。
リヴァイの容態もだが、調査兵団のこれからに不安を持っている兵士も少なくないはずだ。
爆弾騒ぎの捜査を任されておきながら事件が起こってしまったことで、これからの調査兵団は世間から銃弾を受けることになるだろう。
もともと調査兵団に対しては否定的な考えを持った人間も多い中、存続すら危うくなるかもしれない。
どうにかそれを回避する策もないわけではない。
でも、きっと、それはリヴァイが望まない。
自分の立場が悪くなろうが、誰に後ろ指をさされようが、彼はきっとー。
リヴァイのいる病室の扉前までやってきたハンジは、一度、大きく深呼吸をしてから扉を開いた。
「おっはよ~~~っ!眠り王子様は起きたかな~~っ?」
ハンジは、笑顔を貼り付けて元気よく病室に入った途端、怖ろしい顔をしたリヴァイに睨まれた。
起きていたらしい。
上半身だけを起こし、痛々しい包帯だらけの身体が露になっている。
逆に、起きていると思っていたなまえがベッドに突っ伏して眠っていた。
ベッド横の棚の上には、モブリットに運ばせた食事が乗っている。半分ほど減っているのを見て、とりあえず、口にはしてくれたことにホッとする。
「ごめん…。うるさかったね。眠り姫は、寝てるのかな?」
引きつった笑みを貼り付けて誤魔化す。
ベッドに歩み寄りながら、彼女の頭にリヴァイの手が添えてあるのに気づいた。
ハンジが来るまで、ずっと自分についていてくれたなまえの頭を撫でていたのかもしれない。
「てめぇが静かにしてりゃな。」
「…悪かったよ。ごめんって。」
ハンジは眠るなまえの隣に椅子を持って行き、腰を降ろした。
そして、持ってきた書類をリヴァイに差し出す。
「昨日、廃工場で何があったかなまえに聞いた後、
エルヴィン達と協議して、報告書を作った。
それでいい?」
受け取ったリヴァイは、少し眉を顰めたが、概ねこういう内容になることは想定していたのか、驚く様子はなかった。
「あぁ、構わねぇ。」
やっぱりー。
リヴァイに返された書類を受け取り、ハンジはなまえへと視線を落とす。
何も知らず眠るなまえの頬に、涙が流れた痕を見つけて胸が痛んだ。
彼女は今回のことで、リヴァイを瀕死に追いやったのは自分だと責めている。
その上、この事件の真相を知ったら心を壊してしまうかもしれない。
でもー。
「でも、私達は本当の黒幕を知ってる。
ちゃんとそこまで報告書に入れた方がいいと思うんだ。」
「どうせ握り潰される。」
「そうかもしれないっ!でもっ!」
「声が出けぇ。なまえが起きちまうじゃねーか。」
「ごめん…。でも、今のままじゃ、主犯のモーリの逆恨みの相手であるリヴァイが世間から責められる。
もしかしたら、事態を収拾したい憲兵が、君の兵士としての立場を奪うかもしれない。
調査兵団としても、存続するために君を切り捨てるしかなくなる。」
「構わねぇ。」
「構うよっ!…あ、ごめん。でも、調査兵団には、いや、人類にはリヴァイの力が必要だ。
それに、本当に悪いやつが罰を受けず、何も悪くないリヴァイやなまえが…、
そんなの、私は許せない…っ!」
ハンジが悔し気に唇を噛む。
書類を持つ手にも力が入り、クシャリと皴が寄る。
でも、リヴァイは、そんなこと、どうでもいいみたいな顔で、ベッドの上に乗るなまえの手首に医療兵が貼ってくれた傷テープに触れた。
「なまえは、手首以外に怪我はしてたか?」
「いいや、君が身体を張って守ったから、手首以外は本当にまっさらの無傷だ。」
「そうか。」
リヴァイは、心底ホッとしたような顔で、なまえの頭を優しく撫でた。
本当に、馬鹿だー。
だから、なまえはリヴァイが心配で、消えてしまうんじゃないかと不安になるのだ。
そんな、傷だらけの、死んでもおかしくない傷を負っているくせに、なまえの心配ばかりしているからー。
「リヴァイ…、私はやっぱりー。」
「お前達には悪ぃが、俺はどうなっても後悔するつもりはねぇ。」
「…世間に、君の過去が知れ渡る。
そして、英雄から一気に史上最悪の悪魔に落とされる。
それでも?」
「もともと、英雄になんかなったつもりはねぇ。」
「…兵士でいられなくなっても、後悔しないの?」
「俺は、自分より大事なものが出来ちまったらしい。」
リヴァイの手が、愛おしそうになまえの頬に触れる。
なまえを見つめるリヴァイの瞳が、今まで見たことがないくらいに優しくてー。
ハンジは、それ以上何も言えなくなってしまう。
「そばにいないと、君が消えてしまいそうだって。」
「あ?」
「なまえが言ってたんだよ。部屋に戻れって言っても聞かなくて、
そしたら、そばにいないとリヴァイが消えてしまいそうな気がして怖いって。」
「バカだな。」
「リヴァイ、君もだよ。君達は本当にバカだ。
これから、その報告書は憲兵団に届けられる。すぐに憲兵御用達の新聞社が報じるだろう。」
「だろうな。」
「その時、なまえを泣かせることがあったら、許さない。
言っておくけど、リヴァイがなまえを守りたいように、なまえだって、
リヴァイには傷ついて欲しくないと思ってるんだ。忘れるなよ。」
あと、熱があるんだからちゃんと寝とけよ!-最後にそれだけ忠告して、ハンジは席を立った。
これ以上、リヴァイの顔を見ていられなかった。
お互いを守るために、自分を傷つけることしか知らない不器用な2人が、歯がゆくて、もどかしくて、苦しくて、胸が締め付けられそうだ。
そっと閉じた扉に、ハンジは背中を預けて、両手で頭を抱え、涙を隠す。
どうにかー、誰もが幸せになる方法はないのだろうか。
この世界は、どうしてこうも、必死に生きようとしているものに試練を与え続けるー。
ただ、笑っていたいだけ、笑っていてほしいだけ。
願いはただ、それだけなのにー。
それだけなんだ。
まだ昨日の事件の余韻の残る兵舎は、それでも通常の一日を取り戻そうとしているようだった。
ただ、兵士達の誇りであるリヴァイの重傷という事態に、誰も不安を隠せていない。
一応、もういつも通り、訓練や雑務の任務を行うように分隊長から所属班の班長を通して指示が言っているはずだが、すれ違う兵士達の顔はみな、どこか浮かない表情をしている。
リヴァイの容態が気になって、訓練にも身が入っていないようだった。
(仕方ない、か…、)
パーティー会場での爆発は、貴族5名の命を奪い、たくさんの負傷者を出した。
調査兵団の兵士からも数名の負傷者が出ている。
命に別状がないことだけは不幸中の幸いだったが、どちらにしろ貴族に死者が出ている時点で、大惨事であることに変わりはない。
リヴァイの容態もだが、調査兵団のこれからに不安を持っている兵士も少なくないはずだ。
爆弾騒ぎの捜査を任されておきながら事件が起こってしまったことで、これからの調査兵団は世間から銃弾を受けることになるだろう。
もともと調査兵団に対しては否定的な考えを持った人間も多い中、存続すら危うくなるかもしれない。
どうにかそれを回避する策もないわけではない。
でも、きっと、それはリヴァイが望まない。
自分の立場が悪くなろうが、誰に後ろ指をさされようが、彼はきっとー。
リヴァイのいる病室の扉前までやってきたハンジは、一度、大きく深呼吸をしてから扉を開いた。
「おっはよ~~~っ!眠り王子様は起きたかな~~っ?」
ハンジは、笑顔を貼り付けて元気よく病室に入った途端、怖ろしい顔をしたリヴァイに睨まれた。
起きていたらしい。
上半身だけを起こし、痛々しい包帯だらけの身体が露になっている。
逆に、起きていると思っていたなまえがベッドに突っ伏して眠っていた。
ベッド横の棚の上には、モブリットに運ばせた食事が乗っている。半分ほど減っているのを見て、とりあえず、口にはしてくれたことにホッとする。
「ごめん…。うるさかったね。眠り姫は、寝てるのかな?」
引きつった笑みを貼り付けて誤魔化す。
ベッドに歩み寄りながら、彼女の頭にリヴァイの手が添えてあるのに気づいた。
ハンジが来るまで、ずっと自分についていてくれたなまえの頭を撫でていたのかもしれない。
「てめぇが静かにしてりゃな。」
「…悪かったよ。ごめんって。」
ハンジは眠るなまえの隣に椅子を持って行き、腰を降ろした。
そして、持ってきた書類をリヴァイに差し出す。
「昨日、廃工場で何があったかなまえに聞いた後、
エルヴィン達と協議して、報告書を作った。
それでいい?」
受け取ったリヴァイは、少し眉を顰めたが、概ねこういう内容になることは想定していたのか、驚く様子はなかった。
「あぁ、構わねぇ。」
やっぱりー。
リヴァイに返された書類を受け取り、ハンジはなまえへと視線を落とす。
何も知らず眠るなまえの頬に、涙が流れた痕を見つけて胸が痛んだ。
彼女は今回のことで、リヴァイを瀕死に追いやったのは自分だと責めている。
その上、この事件の真相を知ったら心を壊してしまうかもしれない。
でもー。
「でも、私達は本当の黒幕を知ってる。
ちゃんとそこまで報告書に入れた方がいいと思うんだ。」
「どうせ握り潰される。」
「そうかもしれないっ!でもっ!」
「声が出けぇ。なまえが起きちまうじゃねーか。」
「ごめん…。でも、今のままじゃ、主犯のモーリの逆恨みの相手であるリヴァイが世間から責められる。
もしかしたら、事態を収拾したい憲兵が、君の兵士としての立場を奪うかもしれない。
調査兵団としても、存続するために君を切り捨てるしかなくなる。」
「構わねぇ。」
「構うよっ!…あ、ごめん。でも、調査兵団には、いや、人類にはリヴァイの力が必要だ。
それに、本当に悪いやつが罰を受けず、何も悪くないリヴァイやなまえが…、
そんなの、私は許せない…っ!」
ハンジが悔し気に唇を噛む。
書類を持つ手にも力が入り、クシャリと皴が寄る。
でも、リヴァイは、そんなこと、どうでもいいみたいな顔で、ベッドの上に乗るなまえの手首に医療兵が貼ってくれた傷テープに触れた。
「なまえは、手首以外に怪我はしてたか?」
「いいや、君が身体を張って守ったから、手首以外は本当にまっさらの無傷だ。」
「そうか。」
リヴァイは、心底ホッとしたような顔で、なまえの頭を優しく撫でた。
本当に、馬鹿だー。
だから、なまえはリヴァイが心配で、消えてしまうんじゃないかと不安になるのだ。
そんな、傷だらけの、死んでもおかしくない傷を負っているくせに、なまえの心配ばかりしているからー。
「リヴァイ…、私はやっぱりー。」
「お前達には悪ぃが、俺はどうなっても後悔するつもりはねぇ。」
「…世間に、君の過去が知れ渡る。
そして、英雄から一気に史上最悪の悪魔に落とされる。
それでも?」
「もともと、英雄になんかなったつもりはねぇ。」
「…兵士でいられなくなっても、後悔しないの?」
「俺は、自分より大事なものが出来ちまったらしい。」
リヴァイの手が、愛おしそうになまえの頬に触れる。
なまえを見つめるリヴァイの瞳が、今まで見たことがないくらいに優しくてー。
ハンジは、それ以上何も言えなくなってしまう。
「そばにいないと、君が消えてしまいそうだって。」
「あ?」
「なまえが言ってたんだよ。部屋に戻れって言っても聞かなくて、
そしたら、そばにいないとリヴァイが消えてしまいそうな気がして怖いって。」
「バカだな。」
「リヴァイ、君もだよ。君達は本当にバカだ。
これから、その報告書は憲兵団に届けられる。すぐに憲兵御用達の新聞社が報じるだろう。」
「だろうな。」
「その時、なまえを泣かせることがあったら、許さない。
言っておくけど、リヴァイがなまえを守りたいように、なまえだって、
リヴァイには傷ついて欲しくないと思ってるんだ。忘れるなよ。」
あと、熱があるんだからちゃんと寝とけよ!-最後にそれだけ忠告して、ハンジは席を立った。
これ以上、リヴァイの顔を見ていられなかった。
お互いを守るために、自分を傷つけることしか知らない不器用な2人が、歯がゆくて、もどかしくて、苦しくて、胸が締め付けられそうだ。
そっと閉じた扉に、ハンジは背中を預けて、両手で頭を抱え、涙を隠す。
どうにかー、誰もが幸せになる方法はないのだろうか。
この世界は、どうしてこうも、必死に生きようとしているものに試練を与え続けるー。
ただ、笑っていたいだけ、笑っていてほしいだけ。
願いはただ、それだけなのにー。
それだけなんだ。