◇第八十六話◇真っ白な病室で
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医療棟の中でも特に重傷な者が収容される病室で、リヴァイ兵長は眠っていた。
輸血を行ったからか、真っ白だった顔にも血の気が戻っている。
医療兵達の懸命な治療のおかげで、命は繋がった。
動かなかった左腕は、肩を脱臼骨折していたそうだ。
折れた肋骨が突き刺さった肺は破れていて、よく息が出来たと医療兵は驚いていた。
打撲や傷だらけの身体で、特に背中の大きく開いた傷から流れる血で、失血死寸前で意識を失ったのだろう、ということだった。
『もう大丈夫だ。リヴァイ兵長は強ぇ。生きてるんだからな。
今は手術の時の麻酔で寝てるが、いずれ目を覚ます。心配するな。』
病室を出て行くとき、医療兵はそう言った。
でもー。
「ごめんなさい…。」
膝の上で自分の両手を握りしめ、私はただ、ひたすら謝り続ける。
兵舎に戻ってすぐに、リヴァイ兵長は手術室へと運ばれた。
その間、私は、ハンジさんに促されて自室で私服に着替えた後、エルヴィン団長の執務室兼自室に行き、廃工場で何があったのかを報告した。
あの悲劇の追体験をするように説明することで、私は改めて気づく。
身体中を包帯で巻かれ、傷だらけで雨に打たれたせいで高熱も出ているリヴァイ兵長の痛々しい姿が、本当は私がなるべきはずだった姿なのだ。
それなのにー。
「リヴァイは明日にならないと目を覚まさないよ。
なまえも、もう部屋に戻って眠った方がいい。」
病室の扉が開き、入ってきたのはハンジさんだった。
私は振り向かず、ただ力なく首を横に振る。
小さなため息が後ろから聞こえた後、ハンジさんが隣に椅子を持ってきて座った。
「謝ってる声が聞こえたけど、なまえは何も悪くないよ。」
「本当は私がこうなるべきだったのに…。」
「それは違うよ、なまえ。
こんな姿になってもいい人間なんていない。」
ハンジさんが私の両肩を握って、自分の方を向かせた。
必死に私を見る二つの瞳が、私にはキツかった。
「じゃあ…っ、どうして…っ。リヴァイ兵長はこんな…っ。」
最後は言葉にならなかった。
泣くべきではないーと必死に涙を堪えるために、私は自分の手の甲をつねった。
そんなことしたって、リヴァイ兵長が身体中で感じる痛みも、あのモーリという男が怒りを煽るために投げつけた言葉で感じた心の痛みも、代わってあげることは出来ないのにー。
「それは、なまえを傷つけたくなかったからだよ。
今だって、リヴァイは君の笑顔を守るために、必死に生きようとしてる。」
ハンジさんは、自分の手の甲を摘まむ私の手をそっと包み、引き剥がした。
そして、手の甲に幾つも出来た青い痕を見て、悲しげな表情を浮かべた。
モブリットさんも、医療兵も、リヴァイ班のみんなも、みんな、似たようなことを言う。
私が無事ならそれでいいのだと、リヴァイ兵長はそれでいいと思っていると。
でも、私はそう思わない。思えない。
だって、リヴァイ兵長は今、こんなに苦しんでいるのにー。
「どうしても、なまえがリヴァイに対して申し訳ないと思うのなら、
することは、謝ることでも、自分を責めて傷つけることでもない。
ちゃんと寝て、食事をとって、元気にしていることだよ。」
「ここに…、いたいんです。」
「それは分かるけど、でも、なまえだって怖い思いをしたんだから、
ちゃんと寝て、心と身体を休めないと。」
「そばを離れたら…、リヴァイ兵長が消えてしまいそうで…、怖いんです…。」
もう一度、リヴァイ兵長が眠るベッドに向き直る。
そして、毛布の中に手を差し入れて、リヴァイ兵長の手をそっと包んだ。
そうすると、弱弱しいけれど、確かに、応えるようにリヴァイ兵長の手が包み返してくれた。
弱弱しい手の力が、平熱よりもだいぶ高い体温が、それでもリヴァイ兵長は生きているのだと教えてくれる。
「後で、モブリットにでも食事を持たせるから、
ここにいてもいいけど、ちゃんと食べるんだよ。」
私が頷いたのを確認して、ハンジさんは病室を出て行った。
また、シンと静まり返った真っ白な病室で、2人きりー。
騎士はお姫様をひとり残して、彼女のためだけに死んだ。
でも、リヴァイ兵長は生きている。
そして、こんなにも深く、強く、苦しいくらいに愛してしまっていたのだと今さら気づく私は、あの絵本のお姫様のように、愚かでー。
早く、私を叱ってー。
どうして、もっとちゃんと指示に従えなかったのかって。
せっかく助けてやったんだから、泣くなって、叱ってー。
愛している、貴方を心から。
愛している、貴方が生きている、残酷で美しいこの世界をー。
輸血を行ったからか、真っ白だった顔にも血の気が戻っている。
医療兵達の懸命な治療のおかげで、命は繋がった。
動かなかった左腕は、肩を脱臼骨折していたそうだ。
折れた肋骨が突き刺さった肺は破れていて、よく息が出来たと医療兵は驚いていた。
打撲や傷だらけの身体で、特に背中の大きく開いた傷から流れる血で、失血死寸前で意識を失ったのだろう、ということだった。
『もう大丈夫だ。リヴァイ兵長は強ぇ。生きてるんだからな。
今は手術の時の麻酔で寝てるが、いずれ目を覚ます。心配するな。』
病室を出て行くとき、医療兵はそう言った。
でもー。
「ごめんなさい…。」
膝の上で自分の両手を握りしめ、私はただ、ひたすら謝り続ける。
兵舎に戻ってすぐに、リヴァイ兵長は手術室へと運ばれた。
その間、私は、ハンジさんに促されて自室で私服に着替えた後、エルヴィン団長の執務室兼自室に行き、廃工場で何があったのかを報告した。
あの悲劇の追体験をするように説明することで、私は改めて気づく。
身体中を包帯で巻かれ、傷だらけで雨に打たれたせいで高熱も出ているリヴァイ兵長の痛々しい姿が、本当は私がなるべきはずだった姿なのだ。
それなのにー。
「リヴァイは明日にならないと目を覚まさないよ。
なまえも、もう部屋に戻って眠った方がいい。」
病室の扉が開き、入ってきたのはハンジさんだった。
私は振り向かず、ただ力なく首を横に振る。
小さなため息が後ろから聞こえた後、ハンジさんが隣に椅子を持ってきて座った。
「謝ってる声が聞こえたけど、なまえは何も悪くないよ。」
「本当は私がこうなるべきだったのに…。」
「それは違うよ、なまえ。
こんな姿になってもいい人間なんていない。」
ハンジさんが私の両肩を握って、自分の方を向かせた。
必死に私を見る二つの瞳が、私にはキツかった。
「じゃあ…っ、どうして…っ。リヴァイ兵長はこんな…っ。」
最後は言葉にならなかった。
泣くべきではないーと必死に涙を堪えるために、私は自分の手の甲をつねった。
そんなことしたって、リヴァイ兵長が身体中で感じる痛みも、あのモーリという男が怒りを煽るために投げつけた言葉で感じた心の痛みも、代わってあげることは出来ないのにー。
「それは、なまえを傷つけたくなかったからだよ。
今だって、リヴァイは君の笑顔を守るために、必死に生きようとしてる。」
ハンジさんは、自分の手の甲を摘まむ私の手をそっと包み、引き剥がした。
そして、手の甲に幾つも出来た青い痕を見て、悲しげな表情を浮かべた。
モブリットさんも、医療兵も、リヴァイ班のみんなも、みんな、似たようなことを言う。
私が無事ならそれでいいのだと、リヴァイ兵長はそれでいいと思っていると。
でも、私はそう思わない。思えない。
だって、リヴァイ兵長は今、こんなに苦しんでいるのにー。
「どうしても、なまえがリヴァイに対して申し訳ないと思うのなら、
することは、謝ることでも、自分を責めて傷つけることでもない。
ちゃんと寝て、食事をとって、元気にしていることだよ。」
「ここに…、いたいんです。」
「それは分かるけど、でも、なまえだって怖い思いをしたんだから、
ちゃんと寝て、心と身体を休めないと。」
「そばを離れたら…、リヴァイ兵長が消えてしまいそうで…、怖いんです…。」
もう一度、リヴァイ兵長が眠るベッドに向き直る。
そして、毛布の中に手を差し入れて、リヴァイ兵長の手をそっと包んだ。
そうすると、弱弱しいけれど、確かに、応えるようにリヴァイ兵長の手が包み返してくれた。
弱弱しい手の力が、平熱よりもだいぶ高い体温が、それでもリヴァイ兵長は生きているのだと教えてくれる。
「後で、モブリットにでも食事を持たせるから、
ここにいてもいいけど、ちゃんと食べるんだよ。」
私が頷いたのを確認して、ハンジさんは病室を出て行った。
また、シンと静まり返った真っ白な病室で、2人きりー。
騎士はお姫様をひとり残して、彼女のためだけに死んだ。
でも、リヴァイ兵長は生きている。
そして、こんなにも深く、強く、苦しいくらいに愛してしまっていたのだと今さら気づく私は、あの絵本のお姫様のように、愚かでー。
早く、私を叱ってー。
どうして、もっとちゃんと指示に従えなかったのかって。
せっかく助けてやったんだから、泣くなって、叱ってー。
愛している、貴方を心から。
愛している、貴方が生きている、残酷で美しいこの世界をー。