◇第八十四話◇あなたが生きているだけで…
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何が起こったのか、分からなかった。
雷鳴と共に放たれた銃弾で散ると思っていた私の命は繋がれて、リヴァイ兵長の腕の中で、燃え盛る廃工場を呆然と見上げていた。
炎と熱で崩れ落ちていく建物が、まだ中にいるはずのモーリ達が逃げるのを赦さないみたいだった。
「ここも危ねぇ、逃げるぞ。」
リヴァイ兵長は立ち上がると、私の手を引いて立ち上がらせた。
手を引かれて逃げながら、私は何度も後ろを振り返る。
あのとき、私は死ぬことを覚悟した。
モーリも、本気で撃つ気だった。
でも、その直前、私の身体は宙を浮いた。力強い腕が私を抱き上げたからだ。
そして、リヴァイ兵長が、私を腕に抱いたまま、廃工場の壊れた窓から外に飛び出した瞬間、廃工場がー。
「爆発した…?」
リヴァイ兵長に手を引かれて走りながら、私は必死に状況を把握しようとしていた。
最後だと思って目を瞑っていたし、リヴァイ兵長に抱き上げられてからは、血だらけの胸板しか見えなくてよくわからなかった。
だけれど、大きな爆発音と崩れ落ちる瓦礫ー。
パーティー会場で起きたものと似ていた。
しかも、それよりも確実に大きくて、殺傷能力が大きな爆発がー。
(なんで?)
状況を把握しようとすればするほど、頭が真っ白になっていくようだった。
だって、モーリが爆発騒ぎの主犯だったはずだ。
少なくとも私はそう思っていた。
それなのに、モーリが爆発で死ぬなんてー。
それに、リヴァイ兵長はまるで、爆発が起こることが分かっていて逃げたみたいでー。
後ろから、また爆発音が聞こえた。
驚いて振り向いた私の視界の向こうで、炎の中に廃工場は崩れ落ちて消えていった。
それからどれくらい走ったか分からない。
いつの間にか森の中を走っていた。
ヒールの先が濡れて柔らかくなった土に沈んで走りづらいから、途中で脱いだ。
それでも、リヴァイ兵長は、時々、私の足を気にしながらも、止まることなく走り続けた。
廃工場は爆発して、たぶん、モーリ達は死んだ。奇跡的に無事でも、きっと重症で追いかけてこられない。
それなら、リヴァイ兵長は何から、何から逃げているのー。
「こっちだ。」
リヴァイ兵長が私の手を引いて、漸くたどり着いたのは、森の中にポツンと建った今にも壊れそうな小屋だった。
中に入ると、古いソファがひとつだけ残されていて、もうずっと誰も使っていない空き家だと分かった。
ところどころ壁が剥がれてはいるけれど、穴はあいていないから、かろうじて雨と風は凌ぐことは出来そうだ。
リヴァイ兵長は、私を古いソファの上に座らせた。
腰を降ろした途端に、白い埃が舞う。
いつもなら顔を歪めて「掃除だ。」と言い出すはずのリヴァイ兵長が、倒れ込むようにソファに腰を落とす。
「怪我は、してねぇか。」
リヴァイ兵長は、私の顔を覗き込む。
とても心配そうにー。
「してないですよ…っ。リヴァイ兵長が守ってくれたから…っ。」
「そうか、なら、よかった。」
本当にホッとしたように息を吐いたリヴァイ兵長に、私は泣きそうだった。
どうして、こんなにボロボロの身体で、他人の心配なんかー。
安心して緊張感が途切れたのか、リヴァイ兵長の身体がゆっくり倒れて、隣に座る私にもたれかかった。
肩に濡れた黒髪が乗ると、リヴァイ兵長の息が荒いことに気づいて焦った。
荒いというよりも、苦しそうで、ヒューヒューと酸素が抜けていくような息遣いだった。
「リヴァイ兵長っ?!大丈夫ですか!?
私、誰か探してきますっ!!」
「行くな。」
立ち上がろうとした私の手を、リヴァイ兵長の手が捕まえた。
振り返る私に見えたのは、痛々しいリヴァイ兵長の姿だった。
「少し、疲れただけだ。休めば、問題ねぇ。」
リヴァイ兵長はそう言うけれど、相変わらず息苦しそうだし、爆発から逃れるときに切ったのか、眉のあたりから血が出ている。
深い傷ではなさそうだけれど、流れる血が邪魔で左目が開かないようだった。
「そんな悠長な状態じゃないですよ…っ!左腕、動かないんですよね?
身体中、血だらけだし、息も苦しそう…っ!すぐにお医者さんを探さないとー。」
「ここは、ハンジの班の捜索範囲内の小屋だ。」
「え?ハンジさんの何ですか?」
「直に、ハンジがここに来るはずだ。」
「何の話ですか?ハンジさんは私達がここにいること知ってー。」
「俺のそばにいろ。もう、二度と、俺から離れるな。」
リヴァイ兵長の手に力がこもった。
真っすぐに私を見つめる強い瞳と視線が絡んだまま離れない。
そばを離れるなーそう言われていたのに、リヴァイ兵長の元から離れてしまって、こんな状況になっている。
今度こそ、私は、リヴァイ兵長の指示に従うべきだと思い直した。
それに、今のリヴァイ兵長をひとりにしてしまったら、消えていなくなってしまうような、そんな不安も過った。
「分かりました。どこにも行きませんから、少しだけ手を離してもらえますか?」
「…約束だ。」
「はい。絶対に、離れません。」
渋々だったが、リヴァイ兵長の手が離れる。
私は、ドレスの裾を膝上のあたりから千切った。
泥水が跳ねて汚れている裾の方も千切って捨てて、太もものあたりはかろうじてまだ無事だったドレスの布を持って、私はもう一度、リヴァイ兵長の隣にゆっくりと腰を降ろした。
そして、眉の傷にそっと触れた。
「そんなに千切っちまって、寒くねぇのか。」
「大丈夫ですよ、これくらい。
それより、どうして、あんな無理をしたんですか。
本当に、死んじゃうかもしれなかったのに…。」
「死んでも守るって言っただろ。」
分かりきったことを言うなー、リヴァイ兵長はそう思ってるみたいだった。
パーティー会場でリヴァイ兵長は確かにそう言ってくれた。
それが、今のこの状況を予感して出てきた言葉かは分からない。
でもー。
「そんなの…っ、本当に死んで守るのなんて、ルルだけで充分です。
もう…、大切な人が、私のために死ぬのは、嫌です…。」
リヴァイ兵長を責めたかったわけじゃない。
感謝するべきだったのだろう。
だって、私は、本当は嬉しかったから。
他の誰でもなくて、私を助けに来てくれたのがリヴァイ兵長だったことも、あんな最低な条件を呑んでも私を守ってくれたことも、嬉しかった。
そんな自分が、許せなかったー。
唇を噛んだ私に気づいたのか、リヴァイ兵長はゆっくりと身体を起こした。
そしてー。
「そうだな。悪かった。死なねぇから、泣くな。」
堪えきれず頬を流れ出した涙を、リヴァイ兵長の指が拭う。
泣いたらいけない、そう思って必死に堪えようとしても、優しい指が温かくて、ここにリヴァイ兵長がいることが、生きていることに安心して、涙は後から後から溢れては零れて落ちていった。
「まだ、俺に惚れてるのか。」
リヴァイ兵長は、私の涙を拭いながら言う。
私の心の奥まで見抜こうとしているような、真っすぐで強くて優しい瞳に、私は嘘なんて吐けるわけがないし、そもそも、命を懸けて守ってくれた人に恋をするのなんてとても簡単だ。
ここにいるのが誰だって、そのほとんどがリヴァイ兵長を好きになる。
でも、絶対に。
きっと、絶対に。
私は誰よりも、誰よりもー。
「…好き、です。すごく…、リヴァイ兵長の為なら、死んだっていいくらい…好き…。
大好きなんです…。誰より、ずっと…、ずっと…っ、好き…。」
零れる涙を、リヴァイ兵長の優しい指にゆだねたまま、私はたぶん初めて、ちゃんと気持ちを伝えた。
ただ素直にこぼれていく言葉達が、私のすべてのような気がした。
この気持ちが、今の私を作っているのだと、消すどころか、抗うことすら出来るわけがないのだと、気が付いて、涙が止まらなかった。
「なら、構わねぇよな。」
止まらない私の涙を拭いながら、リヴァイ兵長はどこか安心したような顔をした。
「…何がですか?」
「自分で言うのもなんだが、俺は結構頑張ったと思う。
褒美を貰っても、ばちは当たらねぇはずだ。」
褒美が何かを聞く前にー、リヴァイ兵長に唇を奪われた。
閉じた瞼の下で、綺麗な睫毛が血と雨で濡れていた。
頬に触れるリヴァイ兵長の手はとても温かくて、そっと重なるだけの柔らかい温もりは優しくてー。
私は、ゆっくり瞳を閉じた。
(このまま、死んでもいい…。)
廃工場で思ったのと同じフレーズなのに、どうしてこうも心の中を温かくするのだろうか。
ただ唇を重ねているだけで、ここにリヴァイ兵長と生きているだけでー。
私は今、世界で一番幸せだと信じられた。
雷鳴と共に放たれた銃弾で散ると思っていた私の命は繋がれて、リヴァイ兵長の腕の中で、燃え盛る廃工場を呆然と見上げていた。
炎と熱で崩れ落ちていく建物が、まだ中にいるはずのモーリ達が逃げるのを赦さないみたいだった。
「ここも危ねぇ、逃げるぞ。」
リヴァイ兵長は立ち上がると、私の手を引いて立ち上がらせた。
手を引かれて逃げながら、私は何度も後ろを振り返る。
あのとき、私は死ぬことを覚悟した。
モーリも、本気で撃つ気だった。
でも、その直前、私の身体は宙を浮いた。力強い腕が私を抱き上げたからだ。
そして、リヴァイ兵長が、私を腕に抱いたまま、廃工場の壊れた窓から外に飛び出した瞬間、廃工場がー。
「爆発した…?」
リヴァイ兵長に手を引かれて走りながら、私は必死に状況を把握しようとしていた。
最後だと思って目を瞑っていたし、リヴァイ兵長に抱き上げられてからは、血だらけの胸板しか見えなくてよくわからなかった。
だけれど、大きな爆発音と崩れ落ちる瓦礫ー。
パーティー会場で起きたものと似ていた。
しかも、それよりも確実に大きくて、殺傷能力が大きな爆発がー。
(なんで?)
状況を把握しようとすればするほど、頭が真っ白になっていくようだった。
だって、モーリが爆発騒ぎの主犯だったはずだ。
少なくとも私はそう思っていた。
それなのに、モーリが爆発で死ぬなんてー。
それに、リヴァイ兵長はまるで、爆発が起こることが分かっていて逃げたみたいでー。
後ろから、また爆発音が聞こえた。
驚いて振り向いた私の視界の向こうで、炎の中に廃工場は崩れ落ちて消えていった。
それからどれくらい走ったか分からない。
いつの間にか森の中を走っていた。
ヒールの先が濡れて柔らかくなった土に沈んで走りづらいから、途中で脱いだ。
それでも、リヴァイ兵長は、時々、私の足を気にしながらも、止まることなく走り続けた。
廃工場は爆発して、たぶん、モーリ達は死んだ。奇跡的に無事でも、きっと重症で追いかけてこられない。
それなら、リヴァイ兵長は何から、何から逃げているのー。
「こっちだ。」
リヴァイ兵長が私の手を引いて、漸くたどり着いたのは、森の中にポツンと建った今にも壊れそうな小屋だった。
中に入ると、古いソファがひとつだけ残されていて、もうずっと誰も使っていない空き家だと分かった。
ところどころ壁が剥がれてはいるけれど、穴はあいていないから、かろうじて雨と風は凌ぐことは出来そうだ。
リヴァイ兵長は、私を古いソファの上に座らせた。
腰を降ろした途端に、白い埃が舞う。
いつもなら顔を歪めて「掃除だ。」と言い出すはずのリヴァイ兵長が、倒れ込むようにソファに腰を落とす。
「怪我は、してねぇか。」
リヴァイ兵長は、私の顔を覗き込む。
とても心配そうにー。
「してないですよ…っ。リヴァイ兵長が守ってくれたから…っ。」
「そうか、なら、よかった。」
本当にホッとしたように息を吐いたリヴァイ兵長に、私は泣きそうだった。
どうして、こんなにボロボロの身体で、他人の心配なんかー。
安心して緊張感が途切れたのか、リヴァイ兵長の身体がゆっくり倒れて、隣に座る私にもたれかかった。
肩に濡れた黒髪が乗ると、リヴァイ兵長の息が荒いことに気づいて焦った。
荒いというよりも、苦しそうで、ヒューヒューと酸素が抜けていくような息遣いだった。
「リヴァイ兵長っ?!大丈夫ですか!?
私、誰か探してきますっ!!」
「行くな。」
立ち上がろうとした私の手を、リヴァイ兵長の手が捕まえた。
振り返る私に見えたのは、痛々しいリヴァイ兵長の姿だった。
「少し、疲れただけだ。休めば、問題ねぇ。」
リヴァイ兵長はそう言うけれど、相変わらず息苦しそうだし、爆発から逃れるときに切ったのか、眉のあたりから血が出ている。
深い傷ではなさそうだけれど、流れる血が邪魔で左目が開かないようだった。
「そんな悠長な状態じゃないですよ…っ!左腕、動かないんですよね?
身体中、血だらけだし、息も苦しそう…っ!すぐにお医者さんを探さないとー。」
「ここは、ハンジの班の捜索範囲内の小屋だ。」
「え?ハンジさんの何ですか?」
「直に、ハンジがここに来るはずだ。」
「何の話ですか?ハンジさんは私達がここにいること知ってー。」
「俺のそばにいろ。もう、二度と、俺から離れるな。」
リヴァイ兵長の手に力がこもった。
真っすぐに私を見つめる強い瞳と視線が絡んだまま離れない。
そばを離れるなーそう言われていたのに、リヴァイ兵長の元から離れてしまって、こんな状況になっている。
今度こそ、私は、リヴァイ兵長の指示に従うべきだと思い直した。
それに、今のリヴァイ兵長をひとりにしてしまったら、消えていなくなってしまうような、そんな不安も過った。
「分かりました。どこにも行きませんから、少しだけ手を離してもらえますか?」
「…約束だ。」
「はい。絶対に、離れません。」
渋々だったが、リヴァイ兵長の手が離れる。
私は、ドレスの裾を膝上のあたりから千切った。
泥水が跳ねて汚れている裾の方も千切って捨てて、太もものあたりはかろうじてまだ無事だったドレスの布を持って、私はもう一度、リヴァイ兵長の隣にゆっくりと腰を降ろした。
そして、眉の傷にそっと触れた。
「そんなに千切っちまって、寒くねぇのか。」
「大丈夫ですよ、これくらい。
それより、どうして、あんな無理をしたんですか。
本当に、死んじゃうかもしれなかったのに…。」
「死んでも守るって言っただろ。」
分かりきったことを言うなー、リヴァイ兵長はそう思ってるみたいだった。
パーティー会場でリヴァイ兵長は確かにそう言ってくれた。
それが、今のこの状況を予感して出てきた言葉かは分からない。
でもー。
「そんなの…っ、本当に死んで守るのなんて、ルルだけで充分です。
もう…、大切な人が、私のために死ぬのは、嫌です…。」
リヴァイ兵長を責めたかったわけじゃない。
感謝するべきだったのだろう。
だって、私は、本当は嬉しかったから。
他の誰でもなくて、私を助けに来てくれたのがリヴァイ兵長だったことも、あんな最低な条件を呑んでも私を守ってくれたことも、嬉しかった。
そんな自分が、許せなかったー。
唇を噛んだ私に気づいたのか、リヴァイ兵長はゆっくりと身体を起こした。
そしてー。
「そうだな。悪かった。死なねぇから、泣くな。」
堪えきれず頬を流れ出した涙を、リヴァイ兵長の指が拭う。
泣いたらいけない、そう思って必死に堪えようとしても、優しい指が温かくて、ここにリヴァイ兵長がいることが、生きていることに安心して、涙は後から後から溢れては零れて落ちていった。
「まだ、俺に惚れてるのか。」
リヴァイ兵長は、私の涙を拭いながら言う。
私の心の奥まで見抜こうとしているような、真っすぐで強くて優しい瞳に、私は嘘なんて吐けるわけがないし、そもそも、命を懸けて守ってくれた人に恋をするのなんてとても簡単だ。
ここにいるのが誰だって、そのほとんどがリヴァイ兵長を好きになる。
でも、絶対に。
きっと、絶対に。
私は誰よりも、誰よりもー。
「…好き、です。すごく…、リヴァイ兵長の為なら、死んだっていいくらい…好き…。
大好きなんです…。誰より、ずっと…、ずっと…っ、好き…。」
零れる涙を、リヴァイ兵長の優しい指にゆだねたまま、私はたぶん初めて、ちゃんと気持ちを伝えた。
ただ素直にこぼれていく言葉達が、私のすべてのような気がした。
この気持ちが、今の私を作っているのだと、消すどころか、抗うことすら出来るわけがないのだと、気が付いて、涙が止まらなかった。
「なら、構わねぇよな。」
止まらない私の涙を拭いながら、リヴァイ兵長はどこか安心したような顔をした。
「…何がですか?」
「自分で言うのもなんだが、俺は結構頑張ったと思う。
褒美を貰っても、ばちは当たらねぇはずだ。」
褒美が何かを聞く前にー、リヴァイ兵長に唇を奪われた。
閉じた瞼の下で、綺麗な睫毛が血と雨で濡れていた。
頬に触れるリヴァイ兵長の手はとても温かくて、そっと重なるだけの柔らかい温もりは優しくてー。
私は、ゆっくり瞳を閉じた。
(このまま、死んでもいい…。)
廃工場で思ったのと同じフレーズなのに、どうしてこうも心の中を温かくするのだろうか。
ただ唇を重ねているだけで、ここにリヴァイ兵長と生きているだけでー。
私は今、世界で一番幸せだと信じられた。