◇第七十八話◇迷子
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リヴァイ兵長とはぐれてすぐに、2回目の爆発が起きた。
パニックと恐怖は人を混乱の渦に飲み込み、調査兵達の誘導も虚しく、パーティー会場は、我先に逃げようとしている人の群れで収拾がつかない状態になっている。
そんな人の波からなんとか逃れようともがいた私は、いつの間にか、南側バルコニー近くまで来てしまっていた。
リヴァイ兵長が向かっていた方向とは反対側な上、警備を担当している調査兵団の兵士が誘導している入口も視界には見えるが、決して近くない。
(どうしよう…っ。)
倒れたテーブルや散乱した料理、必死の形相で逃げ惑う人達。
ぶつかった誰かのことなんて見えていないみたいに、倒れた誰かの身体の上を人が踏んでいく。
ほんの数分前までは、おとぎ話の世界のようだったそこは今、人間が醜態を晒すだけの修羅場と化していた。
そんな中、強引に人の群れの奥に入り込もうとしたドレスが、小さな男の子にあたった。
床に倒れて泣き出した男の子を誰も気にも留めず、その横を通り過ぎ、人の群れが飲み込もうとしていた。
慌てて駆け寄って、男の子を抱き上げた。
5歳くらいだろうか。
薄汚れたシャツと、裾の短いズボンを履いていて、とても貴族のご子息には見えない。
どこからか迷い込んできたのだろうか。
不思議には思ったが、今はそれどころではない。
「もう大丈夫、大丈夫だからね。」
男の子を抱き上げるために、また人の波に迷い込んだ私は、押し寄せる人達に流されるしかなくなった。
気づけば、パーティー会場から追い出されるように階段を降りきってロビーまで来ていた。
ロビーの壁の一部が崩れていることに気づき、思わず足が止まる。
1回目か2回目かわからないが、そこで爆発が起きたようだった。
「ママぁぁあ〜っ。」
泣き喚く男の子を抱き直し、私は人波をくぐり抜け、急いでロビーを抜けた。
ようやく会場となっている建物から出ても、そこは修羅場のままだった。
冷たい夜風も忘れたみたいに、逃げ延びた人達が右往左往していた。
自分達の馬車に乗り込もうとしている貴族や誘導する調査兵に何か喚き散らしている貴族、彼らに、必死に命を守ろうとしている調査兵達の声が届いているようには見えなかった。
とにかく男の子を安全な場所にー。
私は人の少ない建物の端の方まで逃げると、そこでようやく男の子をおろした。
「怖かったね、もう大丈夫だよ。痛いところあるかな?」
大泣きする男の子の頭を撫でながら、優しく訊ねる。
これ以上、怖い思いをして欲しくなかった。
「いたぁぁい、あしがいたぁぁいっ。」
「足?足が痛いの?」
私は、男の子の足を改めて確認する。
ズボンの裾をめくると、膝に擦り傷が出来ていた。
倒れたときに怪我をしてしまっていたようだ。
念のため、腕や足を曲げてみるが、骨に異常はなさそうでホッとする。
「いたいのいたいの、とんでいけ~。」
子供の頃、母親にそうしてもらったみたいに、私は男の子の膝を優しく撫でて、おまじないをしてやる。
子供騙しだけれど、ただそれだけで、痛みが消えていくような不思議な感覚を今でも覚えている。
すると、一瞬、キョトンとした顔をした男の子から、ようやく涙が消えた。
「ママといっしょ。」
男の子が、ハニかむ。
「ママもしてくれるの?」
「うん、いたいたいしたらしてくれるよ。」
「そっか。じゃあ、ママにおまじないしてほしいね。
今、ママはどこかな?ママとパーティーに来てたの?」
「ママ、ごはんつくってた。ここでまっててって。
でも、ドーンてなって、ママこなくて…。
ママ…。ママぁ〜〜〜っ!」
そこまで言うと、男の子はママを求めて大声で泣きだした。
悲鳴や怒号の中で、ママを求める大きな声はあまりにもか弱くて、この声に母親が気づいてくれるとは思えなかった。
もう一度、男の子を抱きかかえると、私は母親を探した。
おそらく、男の子の母親は給仕係かコックだ。
調理場の方へ行けば、会えるかもしれない。
でも、また会場に戻るのは危険だ。
それに母親も人の波に押されて会場の外に出てしまっている可能性だってある。
どうするべきかー。
迷っている私の元へ調査兵が近寄ってきた。
「やっと見つけたぜ。」
「リヴァイ兵長に頼まれて、探してたんだ。」
「怪我はねぇか?」
私の顔を見て胸を撫で下ろしたのは、3人の調査兵だった。
体つきのガッシリしている彼らは、爆弾騒ぎの担当に任命された対人格闘の得意な兵士達のようだった。
パニックと恐怖は人を混乱の渦に飲み込み、調査兵達の誘導も虚しく、パーティー会場は、我先に逃げようとしている人の群れで収拾がつかない状態になっている。
そんな人の波からなんとか逃れようともがいた私は、いつの間にか、南側バルコニー近くまで来てしまっていた。
リヴァイ兵長が向かっていた方向とは反対側な上、警備を担当している調査兵団の兵士が誘導している入口も視界には見えるが、決して近くない。
(どうしよう…っ。)
倒れたテーブルや散乱した料理、必死の形相で逃げ惑う人達。
ぶつかった誰かのことなんて見えていないみたいに、倒れた誰かの身体の上を人が踏んでいく。
ほんの数分前までは、おとぎ話の世界のようだったそこは今、人間が醜態を晒すだけの修羅場と化していた。
そんな中、強引に人の群れの奥に入り込もうとしたドレスが、小さな男の子にあたった。
床に倒れて泣き出した男の子を誰も気にも留めず、その横を通り過ぎ、人の群れが飲み込もうとしていた。
慌てて駆け寄って、男の子を抱き上げた。
5歳くらいだろうか。
薄汚れたシャツと、裾の短いズボンを履いていて、とても貴族のご子息には見えない。
どこからか迷い込んできたのだろうか。
不思議には思ったが、今はそれどころではない。
「もう大丈夫、大丈夫だからね。」
男の子を抱き上げるために、また人の波に迷い込んだ私は、押し寄せる人達に流されるしかなくなった。
気づけば、パーティー会場から追い出されるように階段を降りきってロビーまで来ていた。
ロビーの壁の一部が崩れていることに気づき、思わず足が止まる。
1回目か2回目かわからないが、そこで爆発が起きたようだった。
「ママぁぁあ〜っ。」
泣き喚く男の子を抱き直し、私は人波をくぐり抜け、急いでロビーを抜けた。
ようやく会場となっている建物から出ても、そこは修羅場のままだった。
冷たい夜風も忘れたみたいに、逃げ延びた人達が右往左往していた。
自分達の馬車に乗り込もうとしている貴族や誘導する調査兵に何か喚き散らしている貴族、彼らに、必死に命を守ろうとしている調査兵達の声が届いているようには見えなかった。
とにかく男の子を安全な場所にー。
私は人の少ない建物の端の方まで逃げると、そこでようやく男の子をおろした。
「怖かったね、もう大丈夫だよ。痛いところあるかな?」
大泣きする男の子の頭を撫でながら、優しく訊ねる。
これ以上、怖い思いをして欲しくなかった。
「いたぁぁい、あしがいたぁぁいっ。」
「足?足が痛いの?」
私は、男の子の足を改めて確認する。
ズボンの裾をめくると、膝に擦り傷が出来ていた。
倒れたときに怪我をしてしまっていたようだ。
念のため、腕や足を曲げてみるが、骨に異常はなさそうでホッとする。
「いたいのいたいの、とんでいけ~。」
子供の頃、母親にそうしてもらったみたいに、私は男の子の膝を優しく撫でて、おまじないをしてやる。
子供騙しだけれど、ただそれだけで、痛みが消えていくような不思議な感覚を今でも覚えている。
すると、一瞬、キョトンとした顔をした男の子から、ようやく涙が消えた。
「ママといっしょ。」
男の子が、ハニかむ。
「ママもしてくれるの?」
「うん、いたいたいしたらしてくれるよ。」
「そっか。じゃあ、ママにおまじないしてほしいね。
今、ママはどこかな?ママとパーティーに来てたの?」
「ママ、ごはんつくってた。ここでまっててって。
でも、ドーンてなって、ママこなくて…。
ママ…。ママぁ〜〜〜っ!」
そこまで言うと、男の子はママを求めて大声で泣きだした。
悲鳴や怒号の中で、ママを求める大きな声はあまりにもか弱くて、この声に母親が気づいてくれるとは思えなかった。
もう一度、男の子を抱きかかえると、私は母親を探した。
おそらく、男の子の母親は給仕係かコックだ。
調理場の方へ行けば、会えるかもしれない。
でも、また会場に戻るのは危険だ。
それに母親も人の波に押されて会場の外に出てしまっている可能性だってある。
どうするべきかー。
迷っている私の元へ調査兵が近寄ってきた。
「やっと見つけたぜ。」
「リヴァイ兵長に頼まれて、探してたんだ。」
「怪我はねぇか?」
私の顔を見て胸を撫で下ろしたのは、3人の調査兵だった。
体つきのガッシリしている彼らは、爆弾騒ぎの担当に任命された対人格闘の得意な兵士達のようだった。