◇第七十七話◇絵本の世界へようこそ
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パーティー会場へ向かう馬車の中で、エルヴィン団長から、なぜ今回はナナバさんではなく、エスコート役なんてやりたがらないリヴァイ兵長が選ばれたのかを教えてもらった。
ルーカスが、参加しているらしい。
そこで、私がナナバさんのエスコートでパーティーに参加していたら、疑惑を持たれる可能性がある。
だから、パーティー会場では恋人同士のフリをしろーと、とても有難いご指示まで頂いている。
エルヴィン団長の指示になら何だって従うリヴァイ兵長だから、きっと、ちゃんとするのだろう。
だから、ここ数日避け続けていた私の手を引いたりしたのだろう。
その話を聞いてから、私はずっと不機嫌に窓の外を眺めていた。
1人分の隙間をあけて隣に座るリヴァイい兵長も、窓枠に肘をついて、つまらなそうに窓の外を眺めているのを知っている。
不機嫌な男女の乗った馬車に同席しているエルヴィン団長は、さぞかし居心地が悪いだろう。
さっきからずっと、今夜のパーティーの出席者リストを見ている。
エルヴィン団長の頭脳なら、そろそろ暗記して上から下まで、リストを見ずにサラサラと口に出して言えそうだ。
「他の女の恋人のフリなんて、本物の恋人さんに怒られますよ。
私がお腹壊したことにして、今から帰りましょうか。」
ウォール・ローゼへ続く内門を抜け、少しずつパーティー会場に近づいているのが、街並みからよくわかった。
庶民的な家や店が続く通りから、貴族が好むような豪華な建物の街に変わり始めている。
「そんな女はいねぇから、問題ねぇ。」
リヴァイ兵長も窓の外を眺めながら答えた。
嘘つきー、そう思ったけれどそれを口にすることはなかった。
馬車が止まり、扉が開く。
エルヴィン団長に続いて、リヴァイ兵長も降りていく。
私もそれに続けば、降口で待っていたリヴァイ兵長が振り向いて手を差し出した。
驚いた後、差し出された手の向こうにパーティー会場の入口が見えて、意味を理解する。
たくさんの貴族がいる前で、しっかりと恋人の役目を果たそうということのようだ。
深呼吸をする。
これはただの演技で、リヴァイ兵長の優しさじゃない。
喜んだらいけない。ときめいたらいけない。
嫌いになった、嫌いなはずだ、嫌いにならなくちゃー。
効き目のないおまじないを心の中で繰り返して、私はリヴァイ兵長の手のひらに指を触れた。
そっと包まれた私の手を、リヴァイ兵長が引いて馬車から降りる。
「上出来だな。」
ドレスの裾に気を付けて降りると、エルヴィン団長が満足気に口の端を上げた。
リヴァイ兵長が何か言い返すかと思ったが、そんなことはなかった。
案内役の男性に促され、私達は受付へと向かう。
そこで、パーティー会場の周りに厳重な警備が配置されていることに気が付いた。
しかも、見たことのある顔ばかりー調査兵団の兵士達だ。
「どうして調査兵団の兵士が警備をしているんですか。」
私の手を引くリヴァイ兵長に訊ねた。
受付に到着し、名簿に記帳を始めたエルヴィン団長を待ちながらリヴァイ兵長が答える。
「爆弾騒ぎが解決してねぇから、一応の警備だ。」
「あぁ…、そういうことですね。」
だから憲兵団や駐屯兵団ではなくて、調査兵団の兵士が警備をしているのか、と納得する。
トロスト区での爆弾騒ぎだが、ウォール・ローゼでも起きるかもしれない。
『今は小規模な爆発しか起きていないが、今後もそうとは限らない。
次は大きな爆発だという可能性もある。怪しい動きを見つけても突っ走るな。
すぐに上官に報告、そして警戒しろ。』
今朝、ミケ分隊長が、爆弾騒ぎの担当になった兵士達に指示を出していた光景を思い出した。
大きな爆発が起こる可能性もあるー。
それが起こるのなら、パーティー会場のような大きな場所はターゲットとして狙われやすい。
そういうエルヴィン団長の考えもあるのかもしれない。
(あぁ、だから…。)
リヴァイ兵長がわざわざこんな恋人役を引き受けた理由も、なんとなくわかった気がする。
ここで何かが起きたとき、エルヴィン団長と一緒にリヴァイ兵長もいたら心強い。
そんなことを思いながら、警備に当たっている調査兵達を見ていたら、その中にジャンの姿を見つけた。
彼も私達に気づいていたようで、目が合った。
でも、すぐに目を反らされてしまった。
「よし、行こうか。」
記帳を終えたエルヴィン団長が、ペンを置いた。
会場は入口から、1階の広いロビーを抜けて、階段を上がった先にあるらしい。
「俺の腕を組め。」
「…はい。」
躊躇いがちに、リヴァイ兵長の腕に私の手を回す。
それを確認して、エルヴィン団長が歩き出した。
その後ろを私とリヴァイ兵長は、まるで恋人同士のように寄り添って歩く。
でも、恋人同士に見えるのか自信はない。
だって、会場の中に入ろうとしている貴婦人や紳士は、幸せそうに顔を近づけて言葉を交わしているのに、私達は目も合わせようとしていないのだからー。
ぎこちない恋人同士のフリをしたままロビーを抜けて、真っ赤な絨毯が引いてある豪華な階段を上がる。
「聞け。」
リヴァイ兵長は前を向いて話す。
私は、ドレスの裾を踏まないようにーそれだけに意識を集中して階段を上がる。
「…何ですか。」
「俺に女はいねぇ。」
「…分かりました。もう、それでいいです。」
「いいからちゃんと聞け。」
「…。」
「いいか、俺は、今もこれからも、女を作る気はねぇ。
だから、お前がダメなわけじゃねぇ。これは俺の問題なんだ。」
「…よくわかりません。」
「とにかく、俺に女なんかいねぇことをお前が知ってればいい。」
「もし、本当に恋人がいなくても、誤解されてる方が気楽なんじゃないですか。」
「他の女ならそれでいい。お前に誤解されるのは気に入らねぇ。」
「なん、ですか、それ…。そんなのー」
話している間に、階段を上りきっていたようだった。
私は立ち止まり、腕から手を放してしまう。
1階のロビーも豪華だったし、この前のパーティーも豪華だった。
でも、今夜のパーティーは私の目と心を奪った。
幼い頃、母親に読んでもらった物語のお姫様が住んでいたお城のようだった。
豪華絢爛な装飾と見上げても高い天井から吊るされる大きなシャンデリア。
煌びやかなドレスを身に纏い踊る美しい貴婦人たち、そして彼女達を守るように寄り添う紳士達ー。
「俺が言いたいのは、」
リヴァイ兵長が振り向いて、私を見つめる。
そして、階段の上、王子様がお姫様に愛を囁くように、リヴァイ兵長が私の髪を耳にかけながら、耳元に口を近づけた。
「俺が死んでもお前を守る。絶対にそばを離れるな。」
耳元で響く低い声が、私の鼓膜の奥から湧きあがる熱を身体中に運ぶ。
そんな風に言われたら、勘違いしてしまいそうになる。
無神経な言葉で傷つけられたことも許してしまいそうになる。
嫌なこと全部、忘れてしまったー。
嫌いになろうと、思っていたのにー。
「わかったな。」
リヴァイ兵長は耳元から離れ、私を見て言う。
物語のお姫様の世界に迷い込んだみたいな気分で、意識がぼんやりする。
リヴァイ兵長は王子様って感じではないし、どちらかというと騎士のようでー。
そうだ、子供の頃に大好きだった絵本にそんな物語があった。
物語は、国中からの人気者で、優しくて素敵な王子様が、お姫様に恋をしたところから始まった。
次第に心を許していくお姫様だったけれど、実はその王子様の正体は、悪魔が化けた姿だった。
お姫様は騙されていて、その美しさと命を狙われていたのだ。
それに気づきお姫様を守る素敵な騎士ー、リヴァイ兵長はあの絵本の騎士に似ている。
私はあの騎士が大好きで、毎晩、寝る前になると、母親に何度も何度もあの絵本を読んでくれとせがんだんだっけー。
「おい、返事は。」
「…はい。」
「上出来だ。」
リヴァイ兵長は、満足気な顔をして私の頭を優しく撫でた。
そして、私の手をとり、腕を組ませる。
ようやくパーティー会場に足を踏み入れながら、私はあの絵本の結末を必死に思い出そうとしていた。
お姫様の心が自分にないことに気づいた王子様が、何かとても怖いことをしたはずだ。
でも、それに気づいた騎士は、お姫様を助けてくれた。
そこだけは、ハッキリ覚えている。
でも、それから騎士は、どうなったんだっけー。
あんなに毎晩のように読んでもらった絵本なのに、お姫様と騎士はどんな結末を迎えたのか、それだけがどうしても思い出せない。
きっと、そう、2人は幸せに暮らしたはずだ。
でも、そんな描写を思い出せない。
エルヴィン団長が、顔見知りと挨拶を交わしだす。
リヴァイ兵長にも気づいたその貴族が、声をかけた。
恋人かと訊ねる貴族に、リヴァイ兵長が肯定の返事を返す。
驚いた貴族に、私も任務のために笑顔を浮かべた。
でも、本当は、嫌な予感が胸を渦巻いて、今すぐリヴァイ兵長を連れて逃げ出したかったー。
ルーカスが、参加しているらしい。
そこで、私がナナバさんのエスコートでパーティーに参加していたら、疑惑を持たれる可能性がある。
だから、パーティー会場では恋人同士のフリをしろーと、とても有難いご指示まで頂いている。
エルヴィン団長の指示になら何だって従うリヴァイ兵長だから、きっと、ちゃんとするのだろう。
だから、ここ数日避け続けていた私の手を引いたりしたのだろう。
その話を聞いてから、私はずっと不機嫌に窓の外を眺めていた。
1人分の隙間をあけて隣に座るリヴァイい兵長も、窓枠に肘をついて、つまらなそうに窓の外を眺めているのを知っている。
不機嫌な男女の乗った馬車に同席しているエルヴィン団長は、さぞかし居心地が悪いだろう。
さっきからずっと、今夜のパーティーの出席者リストを見ている。
エルヴィン団長の頭脳なら、そろそろ暗記して上から下まで、リストを見ずにサラサラと口に出して言えそうだ。
「他の女の恋人のフリなんて、本物の恋人さんに怒られますよ。
私がお腹壊したことにして、今から帰りましょうか。」
ウォール・ローゼへ続く内門を抜け、少しずつパーティー会場に近づいているのが、街並みからよくわかった。
庶民的な家や店が続く通りから、貴族が好むような豪華な建物の街に変わり始めている。
「そんな女はいねぇから、問題ねぇ。」
リヴァイ兵長も窓の外を眺めながら答えた。
嘘つきー、そう思ったけれどそれを口にすることはなかった。
馬車が止まり、扉が開く。
エルヴィン団長に続いて、リヴァイ兵長も降りていく。
私もそれに続けば、降口で待っていたリヴァイ兵長が振り向いて手を差し出した。
驚いた後、差し出された手の向こうにパーティー会場の入口が見えて、意味を理解する。
たくさんの貴族がいる前で、しっかりと恋人の役目を果たそうということのようだ。
深呼吸をする。
これはただの演技で、リヴァイ兵長の優しさじゃない。
喜んだらいけない。ときめいたらいけない。
嫌いになった、嫌いなはずだ、嫌いにならなくちゃー。
効き目のないおまじないを心の中で繰り返して、私はリヴァイ兵長の手のひらに指を触れた。
そっと包まれた私の手を、リヴァイ兵長が引いて馬車から降りる。
「上出来だな。」
ドレスの裾に気を付けて降りると、エルヴィン団長が満足気に口の端を上げた。
リヴァイ兵長が何か言い返すかと思ったが、そんなことはなかった。
案内役の男性に促され、私達は受付へと向かう。
そこで、パーティー会場の周りに厳重な警備が配置されていることに気が付いた。
しかも、見たことのある顔ばかりー調査兵団の兵士達だ。
「どうして調査兵団の兵士が警備をしているんですか。」
私の手を引くリヴァイ兵長に訊ねた。
受付に到着し、名簿に記帳を始めたエルヴィン団長を待ちながらリヴァイ兵長が答える。
「爆弾騒ぎが解決してねぇから、一応の警備だ。」
「あぁ…、そういうことですね。」
だから憲兵団や駐屯兵団ではなくて、調査兵団の兵士が警備をしているのか、と納得する。
トロスト区での爆弾騒ぎだが、ウォール・ローゼでも起きるかもしれない。
『今は小規模な爆発しか起きていないが、今後もそうとは限らない。
次は大きな爆発だという可能性もある。怪しい動きを見つけても突っ走るな。
すぐに上官に報告、そして警戒しろ。』
今朝、ミケ分隊長が、爆弾騒ぎの担当になった兵士達に指示を出していた光景を思い出した。
大きな爆発が起こる可能性もあるー。
それが起こるのなら、パーティー会場のような大きな場所はターゲットとして狙われやすい。
そういうエルヴィン団長の考えもあるのかもしれない。
(あぁ、だから…。)
リヴァイ兵長がわざわざこんな恋人役を引き受けた理由も、なんとなくわかった気がする。
ここで何かが起きたとき、エルヴィン団長と一緒にリヴァイ兵長もいたら心強い。
そんなことを思いながら、警備に当たっている調査兵達を見ていたら、その中にジャンの姿を見つけた。
彼も私達に気づいていたようで、目が合った。
でも、すぐに目を反らされてしまった。
「よし、行こうか。」
記帳を終えたエルヴィン団長が、ペンを置いた。
会場は入口から、1階の広いロビーを抜けて、階段を上がった先にあるらしい。
「俺の腕を組め。」
「…はい。」
躊躇いがちに、リヴァイ兵長の腕に私の手を回す。
それを確認して、エルヴィン団長が歩き出した。
その後ろを私とリヴァイ兵長は、まるで恋人同士のように寄り添って歩く。
でも、恋人同士に見えるのか自信はない。
だって、会場の中に入ろうとしている貴婦人や紳士は、幸せそうに顔を近づけて言葉を交わしているのに、私達は目も合わせようとしていないのだからー。
ぎこちない恋人同士のフリをしたままロビーを抜けて、真っ赤な絨毯が引いてある豪華な階段を上がる。
「聞け。」
リヴァイ兵長は前を向いて話す。
私は、ドレスの裾を踏まないようにーそれだけに意識を集中して階段を上がる。
「…何ですか。」
「俺に女はいねぇ。」
「…分かりました。もう、それでいいです。」
「いいからちゃんと聞け。」
「…。」
「いいか、俺は、今もこれからも、女を作る気はねぇ。
だから、お前がダメなわけじゃねぇ。これは俺の問題なんだ。」
「…よくわかりません。」
「とにかく、俺に女なんかいねぇことをお前が知ってればいい。」
「もし、本当に恋人がいなくても、誤解されてる方が気楽なんじゃないですか。」
「他の女ならそれでいい。お前に誤解されるのは気に入らねぇ。」
「なん、ですか、それ…。そんなのー」
話している間に、階段を上りきっていたようだった。
私は立ち止まり、腕から手を放してしまう。
1階のロビーも豪華だったし、この前のパーティーも豪華だった。
でも、今夜のパーティーは私の目と心を奪った。
幼い頃、母親に読んでもらった物語のお姫様が住んでいたお城のようだった。
豪華絢爛な装飾と見上げても高い天井から吊るされる大きなシャンデリア。
煌びやかなドレスを身に纏い踊る美しい貴婦人たち、そして彼女達を守るように寄り添う紳士達ー。
「俺が言いたいのは、」
リヴァイ兵長が振り向いて、私を見つめる。
そして、階段の上、王子様がお姫様に愛を囁くように、リヴァイ兵長が私の髪を耳にかけながら、耳元に口を近づけた。
「俺が死んでもお前を守る。絶対にそばを離れるな。」
耳元で響く低い声が、私の鼓膜の奥から湧きあがる熱を身体中に運ぶ。
そんな風に言われたら、勘違いしてしまいそうになる。
無神経な言葉で傷つけられたことも許してしまいそうになる。
嫌なこと全部、忘れてしまったー。
嫌いになろうと、思っていたのにー。
「わかったな。」
リヴァイ兵長は耳元から離れ、私を見て言う。
物語のお姫様の世界に迷い込んだみたいな気分で、意識がぼんやりする。
リヴァイ兵長は王子様って感じではないし、どちらかというと騎士のようでー。
そうだ、子供の頃に大好きだった絵本にそんな物語があった。
物語は、国中からの人気者で、優しくて素敵な王子様が、お姫様に恋をしたところから始まった。
次第に心を許していくお姫様だったけれど、実はその王子様の正体は、悪魔が化けた姿だった。
お姫様は騙されていて、その美しさと命を狙われていたのだ。
それに気づきお姫様を守る素敵な騎士ー、リヴァイ兵長はあの絵本の騎士に似ている。
私はあの騎士が大好きで、毎晩、寝る前になると、母親に何度も何度もあの絵本を読んでくれとせがんだんだっけー。
「おい、返事は。」
「…はい。」
「上出来だ。」
リヴァイ兵長は、満足気な顔をして私の頭を優しく撫でた。
そして、私の手をとり、腕を組ませる。
ようやくパーティー会場に足を踏み入れながら、私はあの絵本の結末を必死に思い出そうとしていた。
お姫様の心が自分にないことに気づいた王子様が、何かとても怖いことをしたはずだ。
でも、それに気づいた騎士は、お姫様を助けてくれた。
そこだけは、ハッキリ覚えている。
でも、それから騎士は、どうなったんだっけー。
あんなに毎晩のように読んでもらった絵本なのに、お姫様と騎士はどんな結末を迎えたのか、それだけがどうしても思い出せない。
きっと、そう、2人は幸せに暮らしたはずだ。
でも、そんな描写を思い出せない。
エルヴィン団長が、顔見知りと挨拶を交わしだす。
リヴァイ兵長にも気づいたその貴族が、声をかけた。
恋人かと訊ねる貴族に、リヴァイ兵長が肯定の返事を返す。
驚いた貴族に、私も任務のために笑顔を浮かべた。
でも、本当は、嫌な予感が胸を渦巻いて、今すぐリヴァイ兵長を連れて逃げ出したかったー。