私とペトラが座学室の扉の前に立てば、いつも通りの騒がしい風景がそこにあった。
サシャとコニーはなぜか走りまわっているし、ライナーはなぜかベルトルトを背中に乗せて腕立て伏せをしている。
長机ではアルミンが予習をしているようで、ユミルはクリスタのノートを写している。
たぶん、宿題を写しているのだと思う。
教鞭をとる私とペトラが来ても、堂々と宿題を写すというズルい行為が出来る心臓の強さは評価したいといつも思っている。
そんないつもの風景に、ジャンだけがいない。
いつもなら、サシャとコニーに「うるせぇーよっ！」と怒っている声が、今日はしない。
持っているノートとペンケースをギュッと握って、私は座学室に足を踏み入れた。

「おはよう～。」
「席に着いて～。」

私とペトラが声をかけると、騒がしいままで新兵達が好きな席に腰をおろしていく。

「あれ？ジャンは？今日はお休み？」

ペトラが訊ねると、コニーが手を挙げた。

「授業サボって、爆弾騒ぎの犯人探しに行きましたー！」
「爆弾騒ぎ？それは新兵の担当じゃないはずだよ？」

ペトラが首を傾げる。
私も心配になった。
だって、巨人相手ではないが、犯罪者絡みの危険な任務だ。
だから、精鋭兵は避けて、対人格闘が得意な中堅以上の兵士が任命されたのだ。
私とペトラの疑問に答えてくれたのはアルミンだった。

「先輩兵士達が指示を出されてるところに、偶々、僕とジャンとコニーが出くわして、
　自分も行きたいって、ジャンが…。」

アルミンが付け足した情報で、私はようやくジャンだけがいない理由を理解した。

「え～…、危険だから新兵は避けたのに…。
　ジャンって誰の分隊だったっけ？報告しておかなくちゃ。」

ペトラが困ったように言う。
ここで、私のせいだ―とも言えず、私は頷いた。