◇第七十二話◇雨にまぎれて君を奪えたら
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なまえが駐屯兵団の施設を出た頃は快晴だったはずの空をいつの間にか分厚い雲が覆っていた。
早く帰らないとー。
そう思ったときには、もう雨が降り始めた。
慌てて近くの店の軒下に逃げ込めば、間一髪で激しい雨が地面を叩きつけ始めた。
(あぁ、もう少しピクシス司令と話してればよかったなぁ。)
雨が降り始めた後に駐屯兵団を出れば、傘を借りることも出来たのにー。
降り始めたばかりの雨を見上げながら、私はため息をこぼす。
駐屯兵団との合同訓練を終えた後、せっかくだから話がしたいとピクシス司令に誘われ、駐屯兵団施設にある司令の部屋にお邪魔していた。
話をすると言っても、お酒を呑みながらチェスを楽しむピクシス司令に、チェスのルールを教えてもらっただけだったが、初めてだったのでとても楽しかった。
しばらく雨宿りしていると、まるであの日をやり直しているみたいに、ジャンが傘を持って走ってくるのが見えた。
「なまえさんっ!大丈夫っすか!?」
「ありがとう。助かったよ~。
私が雨で困ってるってよく分かったね。テレパシー?」
茶化すように言うと、ジャンは困ったように頬をかいた。
そして、何かを言いかけたけれど、すぐに口を噤んで、帰りましょうと私の手を引いて、自分の傘の下に入れた。
「あれ?一緒に傘に入るの?」
この前は私の傘も持ってきてくれたのにー。
そう思いながら、私はジャンがさす傘を見上げた。
土砂降りの雨が、バタバタと傘にあたって騒がしい。
「忘れました。」
「えー、迎えに来たのに?」
おっちょこちょいだなぁ、と私は可笑しくなって笑う。
傘が雨の話し声をやけに大きく響かせるし、跳ねる雨が私とジャンの靴の中に小さな川を作ろうとしていた。
そのすべてが、恋する心を焦らせて、好きな人の顔を思い浮かばせて、胸が痛くなる。
私は、自分のことで精一杯で、ジャンが思いつめた顔をしていることに気づかなった。
「この前の王子様ってやつ、元婚約者だったんですよね。」
「うん、あんな素敵な人が元婚約者なんて、自分でも信じられないけどね。」
「みんな、言ってましたよ。きっとなまえさんはあの人と結婚して調査兵をやめるって。
俺も、そう思いました。」
「私も思ったよ~。王子様と結婚したら、
女性の憧れのお姫様になれたはずなのに、馬鹿だよね~。」
わざととぼけて笑いに変えたかった。
でも、ジャンは騒がしい雨の下で、いつも通りのトーンで話し続ける。
「そんなに、リヴァイ兵長のことが好きですか?」
「…うん、好き。」
「でも、ただの上司と部下になったんですよね。
未来はないのに、それでも好きですか?」
「うん、好き。でも、リヴァイ兵長にはバレないようにしなくちゃね。」
「そんなのツラくないですか?
俺なら、堪えられないです。」
「でも、リヴァイ兵長を好きでいるには、それしかないから。」
兵門が近づいてきて、私の足が止まった。
ジャンの足が止まったのは、私に合わせたのか、それとも別に理由があったのか。
兵門の向こうに見える景色が、土砂降りの雨で白く歪んでいた。
「聞かせてください。」
「何?」
「結婚もやめて、調査兵団で巨人と死ぬ思いして戦って、
リヴァイ兵長が好きだからって苦しんで、それでも、幸せですか?」
「うん、幸せ。」
「もう一度、聞きます。
自分から逃げるような男を好きでいて、命を懸けるなんて馬鹿みたいだと思います。
それでも、なまえさんは、幸せを捨ててただの部下になって、本当に幸せだと言えますか?」
「うん、言えるよ、私は幸せー。」
「じゃあ、なんで、泣いてんだよっ!!」
ジャンの怒鳴り声は、土砂降りの雨にかき消されなかった。
だから、耳と心が、痛い。
足元に、さっきまでジャンが持っていた傘が転がっていた。
雨に濡れていくジャンの腕の中で、私は初めて自分が泣いていたのだと気づく。
私の涙で滲んでいくジャンの兵団服が私の視界を奪う。
もう、見えない。
一本の傘を差したリヴァイ兵長とジーニーが抱き合っているところなんてー。
もう、見えないのに、どうしてー。
目を閉じても、浮かんできてしまうのだろう。
激しい雨は、耳元からかき消してくれないのだろう。
優しいリヴァイ兵長の顔とか、行くなと言ってくれたリヴァイ兵長の声とかー。
「俺はリヴァイ兵長みたいに強くないし、肩書も何もない。
でも、好きな女を泣かせるようなことはしない、絶対に…!」
ジャンにキスをされた。
強引に押し付けられる唇から、ジャンの本気が、真っすぐな気持ちが伝わってくる。
私とジャンの身体を叩きつける土砂降りの雨が、2人をあっという間にびしょ濡れにしていく。
誰の涙かもわからない雫が、私とジャンの頬を伝って落ちていく。
(寒い…。)
雨に濡れて、孤独で、私もジャンも、きっと今、とても寒い。
暖めてくれる誰かが、必要なのかもしれないー。
早く帰らないとー。
そう思ったときには、もう雨が降り始めた。
慌てて近くの店の軒下に逃げ込めば、間一髪で激しい雨が地面を叩きつけ始めた。
(あぁ、もう少しピクシス司令と話してればよかったなぁ。)
雨が降り始めた後に駐屯兵団を出れば、傘を借りることも出来たのにー。
降り始めたばかりの雨を見上げながら、私はため息をこぼす。
駐屯兵団との合同訓練を終えた後、せっかくだから話がしたいとピクシス司令に誘われ、駐屯兵団施設にある司令の部屋にお邪魔していた。
話をすると言っても、お酒を呑みながらチェスを楽しむピクシス司令に、チェスのルールを教えてもらっただけだったが、初めてだったのでとても楽しかった。
しばらく雨宿りしていると、まるであの日をやり直しているみたいに、ジャンが傘を持って走ってくるのが見えた。
「なまえさんっ!大丈夫っすか!?」
「ありがとう。助かったよ~。
私が雨で困ってるってよく分かったね。テレパシー?」
茶化すように言うと、ジャンは困ったように頬をかいた。
そして、何かを言いかけたけれど、すぐに口を噤んで、帰りましょうと私の手を引いて、自分の傘の下に入れた。
「あれ?一緒に傘に入るの?」
この前は私の傘も持ってきてくれたのにー。
そう思いながら、私はジャンがさす傘を見上げた。
土砂降りの雨が、バタバタと傘にあたって騒がしい。
「忘れました。」
「えー、迎えに来たのに?」
おっちょこちょいだなぁ、と私は可笑しくなって笑う。
傘が雨の話し声をやけに大きく響かせるし、跳ねる雨が私とジャンの靴の中に小さな川を作ろうとしていた。
そのすべてが、恋する心を焦らせて、好きな人の顔を思い浮かばせて、胸が痛くなる。
私は、自分のことで精一杯で、ジャンが思いつめた顔をしていることに気づかなった。
「この前の王子様ってやつ、元婚約者だったんですよね。」
「うん、あんな素敵な人が元婚約者なんて、自分でも信じられないけどね。」
「みんな、言ってましたよ。きっとなまえさんはあの人と結婚して調査兵をやめるって。
俺も、そう思いました。」
「私も思ったよ~。王子様と結婚したら、
女性の憧れのお姫様になれたはずなのに、馬鹿だよね~。」
わざととぼけて笑いに変えたかった。
でも、ジャンは騒がしい雨の下で、いつも通りのトーンで話し続ける。
「そんなに、リヴァイ兵長のことが好きですか?」
「…うん、好き。」
「でも、ただの上司と部下になったんですよね。
未来はないのに、それでも好きですか?」
「うん、好き。でも、リヴァイ兵長にはバレないようにしなくちゃね。」
「そんなのツラくないですか?
俺なら、堪えられないです。」
「でも、リヴァイ兵長を好きでいるには、それしかないから。」
兵門が近づいてきて、私の足が止まった。
ジャンの足が止まったのは、私に合わせたのか、それとも別に理由があったのか。
兵門の向こうに見える景色が、土砂降りの雨で白く歪んでいた。
「聞かせてください。」
「何?」
「結婚もやめて、調査兵団で巨人と死ぬ思いして戦って、
リヴァイ兵長が好きだからって苦しんで、それでも、幸せですか?」
「うん、幸せ。」
「もう一度、聞きます。
自分から逃げるような男を好きでいて、命を懸けるなんて馬鹿みたいだと思います。
それでも、なまえさんは、幸せを捨ててただの部下になって、本当に幸せだと言えますか?」
「うん、言えるよ、私は幸せー。」
「じゃあ、なんで、泣いてんだよっ!!」
ジャンの怒鳴り声は、土砂降りの雨にかき消されなかった。
だから、耳と心が、痛い。
足元に、さっきまでジャンが持っていた傘が転がっていた。
雨に濡れていくジャンの腕の中で、私は初めて自分が泣いていたのだと気づく。
私の涙で滲んでいくジャンの兵団服が私の視界を奪う。
もう、見えない。
一本の傘を差したリヴァイ兵長とジーニーが抱き合っているところなんてー。
もう、見えないのに、どうしてー。
目を閉じても、浮かんできてしまうのだろう。
激しい雨は、耳元からかき消してくれないのだろう。
優しいリヴァイ兵長の顔とか、行くなと言ってくれたリヴァイ兵長の声とかー。
「俺はリヴァイ兵長みたいに強くないし、肩書も何もない。
でも、好きな女を泣かせるようなことはしない、絶対に…!」
ジャンにキスをされた。
強引に押し付けられる唇から、ジャンの本気が、真っすぐな気持ちが伝わってくる。
私とジャンの身体を叩きつける土砂降りの雨が、2人をあっという間にびしょ濡れにしていく。
誰の涙かもわからない雫が、私とジャンの頬を伝って落ちていく。
(寒い…。)
雨に濡れて、孤独で、私もジャンも、きっと今、とても寒い。
暖めてくれる誰かが、必要なのかもしれないー。