なまえが結婚という幸せを捨て、調査兵団で命を懸けると改めて決意した日から数日が過ぎた。
あの日、ルーカスを見た兵士達から徐々に噂は広がり、なまえが婚約者と別れて調査兵団に入団したことは今はほとんどの兵士達が知ることになっていた。
だが、まさかー。

「いやぁ、アンタ、あのとき、結婚破談にしてまで調査兵になったんだってね。
　頭おかしいんだね。」

休憩になった途端にやってきたリコは、眼鏡の縁を摘まみ上げ、ジーッとなまえの顔を至極真面目な顔で見る。
まさか、駐屯兵団にまで噂が広がっているとはペトラも思っていなかった。
嫌味でも何でもないのが分かるからこそ、困り顔で助けを求めるなまえに、ペトラは苦笑するしかなくなる。
今日は、ウォール・ローゼ内に駐屯兵団が保有する広大な敷地の訓練場に調査兵団と駐屯兵団の若手兵士ばかりを集めて、合同訓練が行われていた。
トロスト区の巨人襲来によって多大な犠牲を出すことになってしまった駐屯兵団。
彼らの生存率を少しでも上げるため、そして、また巨人が攻めてきたときに戦える兵士を少しでも増やすため、ピクシス司令がエルヴィン団長に調査兵と合同訓練をさせてほしいと頼んだのがきっかけだ。
そこで、調査兵団と駐屯兵団の精鋭兵数名が、彼らの指導にあたっていた。

「ハハ…。」

結局、笑って誤魔化したなまえに、リコさんは尚も、頭の構造がどうのーと続ける。
どうしても、結婚を破談にしてまで巨人を選んだーというのが信じられないらしい。
選んだのは巨人ではないのだけれどー。
そう思ったが、ペトラが教えてやることでもないので、好きに言わせておくことにする。

「なまえさんっ！！」

駆け寄ってきたのはクリスタだった。
その隣には、面倒くさいという顔をしたユミルもいる。
彼女達は、なまえやペトラが指導をしたグループではないけれど、近くで訓練をしていたので様子は見えていた。
ユミルは、訓練中も、面倒くさそうな顔をしていたー。

「どうしたの？」
「ナナバさんから聞いたんですけど、
　なまえさんって他の兵士さん達のモノマネが出来るって本当ですか？」
「へ？」

ポカン、とするなまえだったが、その隣でペトラは盛大に吹き出した。
モノマネー、確かにそうかもしれない。
それで、人類の希望と呼んでもいいくらいの兵士に成長したのだから、凄いと思う。
けれど、モノマネってー。

「なんだ、それは。やってみろ。」

リコにはいつだって、本気しかない。