◇第六十五話◇ブランケットの恋よ、さようなら
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今夜も図書室でノートと資料を開いていた私は、窓際の席で、テーブルに顔を突っ伏したまま、大きな窓から夜空を見上げていた。
少し前の土砂降りが嘘みたいに、綺麗に晴れている今夜は、あの夜と違って雲はひとつもない。
澄んだ空にたくさんの星が見えている。
幾千の星と満月が照らす今夜は、とても明るかった。
しばらくすると、図書室の扉が開く小さな音がして、私は瞳を閉じた。
ゆっくりと歩く靴音が、少しずつ私のいる窓際まで近づいてきて、瞼に力が入る。
目を瞑っているから見えないけれど、靴音の主は、たぶん、私が待っていた人物だと思う。
私のすぐ隣で靴音が止まると、甘くて苦い紅茶の香りがした。
ふわりー、と肩に乗るとても軽い温もりを感じて、ブランケットをかけてくれたのだと分かる。
それで、去っていくのだとばかり思っていたけれど、違った。
その人の手が、割れ物にでも触れるみたいに私の髪に触れる。
そっと撫でる優しいその手つきと温もりが、ひどく懐かしくて、私は泣きそうになるのを必死に堪えながら、もっと顔をテーブルに向けて寝たフリをすればよかったと後悔する。
しばらくそうしていると、ゆっくりと手が離れていった。
途端に寂しくなって、もっとしてほしいと願ってしまって、胸がきゅっと締めつけられる。
靴音が一歩、二歩、と去っていくのを聞きながら、私はゆっくり口を開いた。
「リヴァイ兵長。」
名前を呼ぶと、靴音がピタリと止まった。
でも、違うとは言わない。
疑っていたわけではないけれど、信じられなかった。
でも、ミケ分隊長が言っていたのは、本当だったようだ。
靴音の主が、立ち止まったままどこへも行かないことを確認して、私はゆっくりと身体を起こした。
そして見えたのは、最近いつも見せられていた背中。
でも、いつもみたいに冷たく突き放すように見えないのは、さっきの優しい手のおかげかもしれない。
「ミケ分隊長に聞きました。ルルの紋章をご両親に貰いに行ってくれたのも、
パーティーの夜に私を部屋まで運んでくれたのも、ブランケットをかけてくれたのも
リヴァイ兵長だったんですね。」
ミケ分隊長から話を聞いた後、私はすぐにリヴァイ兵長を探しに走った。
でも、エルヴィン団長と会議室に籠っていて会えなかった。
それに、何も考えずに駆け出してしまったけれど、会っても何を話せばいいのか、自分がどうしたいのか分からないことにも気づいてしまった。
だから、あれから1日、ずっと考えて、今夜も図書室で座学の勉強をすることにした。
ミケ分隊長の話が本当なら、図書室で待っていれば、来てくれる気がしたから。
そしてやっぱり、リヴァイ兵長は来てくれたー。
「チッ。クソ野郎が。」
リヴァイ兵長は、振り向かないままで悪態を吐いた。
おそらく、言うなーと忠告されていたのに口を滑らせてしまったミケ分隊長に対するものだろう。
それか、もしかしたら、寝たふりの私に気づけなかった自分に対するものかもしれないし、寝たふりなんて姑息な真似をした私へのものかもしれない。
でも、今度こそ、私はリヴァイ兵長にちゃんと向き合いたい。
自分勝手に気持ちを押し付けるように伝えるのではなくて、私なりの精一杯の優しさをー。
もしも、リヴァイ兵長もほんの少しでも向き合おうと思ってくれるのなら、もう一度だけ、気持ちを伝えるチャンスを、ほしいー。
「分からないんです…。リヴァイ兵長は、私の気持ちを知って、背を向けて
避けるようになってたから…、どうして、こんな優しいことしてくれるのか。
ミケ分隊長から聞いてから、ずっと考えてるんですけど、でも、分からなくて…。」
私の声は、リヴァイ兵長に届いているのだろうか。
背を向けたまま、決して振り返らない背中が、最近見慣れてきた冷たいものに似てきたような気がして、私は痛くなる胸を誤魔化すように、シャツの胸元を握った。
しばらく待ってみたけれど、リヴァイ兵長は去っては行かない代わりに、私が一番知りたい答えは教えてはくれなかった。
一度目を伏せ、また顔を上げて、私はもう一度口を開く。
「私の気持ちが、リヴァイ兵長にとって迷惑なものなら、忘れてください。
リヴァイ兵長を困らせるものなら、私も要らないです。ただ…、今までみたいに普通に…、
ただの上司と部下でいられたら、私は、それだけでいいから…。」
だからー。
一緒にいたい、触れてみたい、触れられたい。
一緒にいる誰かを作らないで、誰にも触れないで、誰にも触れられないで。
底のない願いが私を押し潰そうとするけれど、でも、私が本当に欲しいのはそんなものではない。
そんなものではないのだと、気づいたから。
私はただ、リヴァイ兵長がそこに存在してくれるだけでいいのだ。
そして、願わくば、その人生のほんの僅かな時間でいいから、私を瞳に映してくれたら嬉しい。
それが、ただの部下という関係だって構わないのだ。
無視されるより、存在をないものみたいにされるよりは、全然いい。
だって、私はリヴァイ兵長に気持ちの見返りを求めているわけではないからー。
「もしも…、リヴァイ兵長が、また、ただの上司と部下に戻ってもいいと思ってくれるなら、
こっちを向いてください。もし、リヴァイ兵長が立ち去るなら、今度こそもう諦めます。
もう二度とリヴァイ兵長に声をかけないし、会わないように努力します…。」
リヴァイ兵長が来るまで、星を見上げながら一生懸命に考えた台詞を、私は震える声で、なんとか告げた。
本当は叫びたい。
行かないで、こっちを向いて、と。
傷つけられてもいいから、本当のことを言って。嫌いなら、そう言って、と。
でも、これ以上、嫌われるのは怖い。
リヴァイ兵長を困らせたくない。
だから、これは、私に出来る精一杯だった。
動かない背中が出す答えを、私はじっと待った。
どれくらいそうしていたのか分からない。
すごく長かったのかもしれないし、意外とすぐだったかもしれない。
ゆっくりと、リヴァイ兵長の背中が答えを教えてくれた。
少し前の土砂降りが嘘みたいに、綺麗に晴れている今夜は、あの夜と違って雲はひとつもない。
澄んだ空にたくさんの星が見えている。
幾千の星と満月が照らす今夜は、とても明るかった。
しばらくすると、図書室の扉が開く小さな音がして、私は瞳を閉じた。
ゆっくりと歩く靴音が、少しずつ私のいる窓際まで近づいてきて、瞼に力が入る。
目を瞑っているから見えないけれど、靴音の主は、たぶん、私が待っていた人物だと思う。
私のすぐ隣で靴音が止まると、甘くて苦い紅茶の香りがした。
ふわりー、と肩に乗るとても軽い温もりを感じて、ブランケットをかけてくれたのだと分かる。
それで、去っていくのだとばかり思っていたけれど、違った。
その人の手が、割れ物にでも触れるみたいに私の髪に触れる。
そっと撫でる優しいその手つきと温もりが、ひどく懐かしくて、私は泣きそうになるのを必死に堪えながら、もっと顔をテーブルに向けて寝たフリをすればよかったと後悔する。
しばらくそうしていると、ゆっくりと手が離れていった。
途端に寂しくなって、もっとしてほしいと願ってしまって、胸がきゅっと締めつけられる。
靴音が一歩、二歩、と去っていくのを聞きながら、私はゆっくり口を開いた。
「リヴァイ兵長。」
名前を呼ぶと、靴音がピタリと止まった。
でも、違うとは言わない。
疑っていたわけではないけれど、信じられなかった。
でも、ミケ分隊長が言っていたのは、本当だったようだ。
靴音の主が、立ち止まったままどこへも行かないことを確認して、私はゆっくりと身体を起こした。
そして見えたのは、最近いつも見せられていた背中。
でも、いつもみたいに冷たく突き放すように見えないのは、さっきの優しい手のおかげかもしれない。
「ミケ分隊長に聞きました。ルルの紋章をご両親に貰いに行ってくれたのも、
パーティーの夜に私を部屋まで運んでくれたのも、ブランケットをかけてくれたのも
リヴァイ兵長だったんですね。」
ミケ分隊長から話を聞いた後、私はすぐにリヴァイ兵長を探しに走った。
でも、エルヴィン団長と会議室に籠っていて会えなかった。
それに、何も考えずに駆け出してしまったけれど、会っても何を話せばいいのか、自分がどうしたいのか分からないことにも気づいてしまった。
だから、あれから1日、ずっと考えて、今夜も図書室で座学の勉強をすることにした。
ミケ分隊長の話が本当なら、図書室で待っていれば、来てくれる気がしたから。
そしてやっぱり、リヴァイ兵長は来てくれたー。
「チッ。クソ野郎が。」
リヴァイ兵長は、振り向かないままで悪態を吐いた。
おそらく、言うなーと忠告されていたのに口を滑らせてしまったミケ分隊長に対するものだろう。
それか、もしかしたら、寝たふりの私に気づけなかった自分に対するものかもしれないし、寝たふりなんて姑息な真似をした私へのものかもしれない。
でも、今度こそ、私はリヴァイ兵長にちゃんと向き合いたい。
自分勝手に気持ちを押し付けるように伝えるのではなくて、私なりの精一杯の優しさをー。
もしも、リヴァイ兵長もほんの少しでも向き合おうと思ってくれるのなら、もう一度だけ、気持ちを伝えるチャンスを、ほしいー。
「分からないんです…。リヴァイ兵長は、私の気持ちを知って、背を向けて
避けるようになってたから…、どうして、こんな優しいことしてくれるのか。
ミケ分隊長から聞いてから、ずっと考えてるんですけど、でも、分からなくて…。」
私の声は、リヴァイ兵長に届いているのだろうか。
背を向けたまま、決して振り返らない背中が、最近見慣れてきた冷たいものに似てきたような気がして、私は痛くなる胸を誤魔化すように、シャツの胸元を握った。
しばらく待ってみたけれど、リヴァイ兵長は去っては行かない代わりに、私が一番知りたい答えは教えてはくれなかった。
一度目を伏せ、また顔を上げて、私はもう一度口を開く。
「私の気持ちが、リヴァイ兵長にとって迷惑なものなら、忘れてください。
リヴァイ兵長を困らせるものなら、私も要らないです。ただ…、今までみたいに普通に…、
ただの上司と部下でいられたら、私は、それだけでいいから…。」
だからー。
一緒にいたい、触れてみたい、触れられたい。
一緒にいる誰かを作らないで、誰にも触れないで、誰にも触れられないで。
底のない願いが私を押し潰そうとするけれど、でも、私が本当に欲しいのはそんなものではない。
そんなものではないのだと、気づいたから。
私はただ、リヴァイ兵長がそこに存在してくれるだけでいいのだ。
そして、願わくば、その人生のほんの僅かな時間でいいから、私を瞳に映してくれたら嬉しい。
それが、ただの部下という関係だって構わないのだ。
無視されるより、存在をないものみたいにされるよりは、全然いい。
だって、私はリヴァイ兵長に気持ちの見返りを求めているわけではないからー。
「もしも…、リヴァイ兵長が、また、ただの上司と部下に戻ってもいいと思ってくれるなら、
こっちを向いてください。もし、リヴァイ兵長が立ち去るなら、今度こそもう諦めます。
もう二度とリヴァイ兵長に声をかけないし、会わないように努力します…。」
リヴァイ兵長が来るまで、星を見上げながら一生懸命に考えた台詞を、私は震える声で、なんとか告げた。
本当は叫びたい。
行かないで、こっちを向いて、と。
傷つけられてもいいから、本当のことを言って。嫌いなら、そう言って、と。
でも、これ以上、嫌われるのは怖い。
リヴァイ兵長を困らせたくない。
だから、これは、私に出来る精一杯だった。
動かない背中が出す答えを、私はじっと待った。
どれくらいそうしていたのか分からない。
すごく長かったのかもしれないし、意外とすぐだったかもしれない。
ゆっくりと、リヴァイ兵長の背中が答えを教えてくれた。