◇第五十九話◇雨の日の兵士の憂鬱
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誰かにすごく謝られた。
悲しそうに、泣きそうな声で、ただただ謝る言葉だけが届くから、私まで泣きそうになって、気にしなくていいよって、私は大丈夫だよって言ってあげたかったのに、声が出なくてー。
どうして、そんなに優しく私の頬に触れるんだろう。
まるで、ガラス細工にでも触れるみたいにそっと、大切そうに。
私はそんなに簡単に壊れたりしないのに、もっと乱暴に扱ったって平気なのに。
どうして、触れるか触れないかみたいな距離を保つの。
もっと強く触って。
痛いくらいにして。
そして、傷をつけてしまえばいい。
たとえば、私がどんなに傷つくことになったって、謝らなくて、いいのにー。
私は寧ろ、残った傷さえも、酷く愛おしくて、永遠に愛していくのだと思うからー。
「ん…。」
扉が閉まるような音が聞こえた気がして、私は目を覚ました。
目をこすりながらゆっくり身体を起こして、自分の部屋のベッドで寝ていたことを理解した。
(あ、ドレス着たままだった…。)
藍色のサテンドレスの格好のままであることに気づいた後、私は首を傾げる。
どうやって部屋に戻ってきたのか、記憶にない。
むしろ、兵舎に帰ってきたことすら覚えていない。
エルヴィン団長とナナバさんと一緒に馬車に乗ったところまでは覚えているのだけれど、窓の外を流れる夜の景色を眺めていたあたりから記憶が曖昧だ。
自分で起きて部屋に戻ってきたのだろうか、とも思ったが、もしそうなら着替えをすませていそうだ。
誰かが送ってくれたのだろうか。
(あ、)
部屋の扉が閉まる音で目が覚めたことを思い出して、私は慌ててベッドから飛び降りた。
急いで部屋の扉を開けば、こんな夜中のシンと静まり返る廊下に後ろ姿を見つけた。
「ミケ分隊長っ!」
私に呼ばれて、ミケ分隊長が振り向いた。
「起きたのか。」
駆け寄ってきた私に、ミケ分隊長が訊ねた。
やっぱり、私を部屋まで送ってくれたのは彼だったようだ。
「はい、今。すみません、眠ってたみたいで。
私を部屋まで送ってくれたんですよね。」
「いや、それは…。」
ミケ分隊長は何かを言いかけてやめると、どこか遠くを見るようにボーッとしてしまう。
そういえば、同じようなことがこの前もあった。
何か、あったのだろうか。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。明日からまたハンジに付き合って実験だろう。
着替えを済ませて、早く寝るといい。」
「はい、そうします。
部屋まで送って頂いて、ありがとうございました。
おやすみなさい。」
私はミケ分隊長に頭を下げると、部屋に戻った。
「人を壁みたいにして隠れるのはやめてくれ、リヴァイ。」
「あぁ…!デカすぎて、壁かと思った。」
廊下に誰もいなくなってから、とぼけたことを言いながらミケの背中からリヴァイが現れた。
「いいのか。」
「何がだ。」
疑問形で言っておいて、リヴァイはその答えを聞く気もなさそうにさっさと歩いていく。
ミケは、勘違いしたままなまえが戻った部屋の扉とリヴァイの後ろ姿を交互に見た後、自分よりもだいぶ小さな背中を追いかけた。
悲しそうに、泣きそうな声で、ただただ謝る言葉だけが届くから、私まで泣きそうになって、気にしなくていいよって、私は大丈夫だよって言ってあげたかったのに、声が出なくてー。
どうして、そんなに優しく私の頬に触れるんだろう。
まるで、ガラス細工にでも触れるみたいにそっと、大切そうに。
私はそんなに簡単に壊れたりしないのに、もっと乱暴に扱ったって平気なのに。
どうして、触れるか触れないかみたいな距離を保つの。
もっと強く触って。
痛いくらいにして。
そして、傷をつけてしまえばいい。
たとえば、私がどんなに傷つくことになったって、謝らなくて、いいのにー。
私は寧ろ、残った傷さえも、酷く愛おしくて、永遠に愛していくのだと思うからー。
「ん…。」
扉が閉まるような音が聞こえた気がして、私は目を覚ました。
目をこすりながらゆっくり身体を起こして、自分の部屋のベッドで寝ていたことを理解した。
(あ、ドレス着たままだった…。)
藍色のサテンドレスの格好のままであることに気づいた後、私は首を傾げる。
どうやって部屋に戻ってきたのか、記憶にない。
むしろ、兵舎に帰ってきたことすら覚えていない。
エルヴィン団長とナナバさんと一緒に馬車に乗ったところまでは覚えているのだけれど、窓の外を流れる夜の景色を眺めていたあたりから記憶が曖昧だ。
自分で起きて部屋に戻ってきたのだろうか、とも思ったが、もしそうなら着替えをすませていそうだ。
誰かが送ってくれたのだろうか。
(あ、)
部屋の扉が閉まる音で目が覚めたことを思い出して、私は慌ててベッドから飛び降りた。
急いで部屋の扉を開けば、こんな夜中のシンと静まり返る廊下に後ろ姿を見つけた。
「ミケ分隊長っ!」
私に呼ばれて、ミケ分隊長が振り向いた。
「起きたのか。」
駆け寄ってきた私に、ミケ分隊長が訊ねた。
やっぱり、私を部屋まで送ってくれたのは彼だったようだ。
「はい、今。すみません、眠ってたみたいで。
私を部屋まで送ってくれたんですよね。」
「いや、それは…。」
ミケ分隊長は何かを言いかけてやめると、どこか遠くを見るようにボーッとしてしまう。
そういえば、同じようなことがこの前もあった。
何か、あったのだろうか。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。明日からまたハンジに付き合って実験だろう。
着替えを済ませて、早く寝るといい。」
「はい、そうします。
部屋まで送って頂いて、ありがとうございました。
おやすみなさい。」
私はミケ分隊長に頭を下げると、部屋に戻った。
「人を壁みたいにして隠れるのはやめてくれ、リヴァイ。」
「あぁ…!デカすぎて、壁かと思った。」
廊下に誰もいなくなってから、とぼけたことを言いながらミケの背中からリヴァイが現れた。
「いいのか。」
「何がだ。」
疑問形で言っておいて、リヴァイはその答えを聞く気もなさそうにさっさと歩いていく。
ミケは、勘違いしたままなまえが戻った部屋の扉とリヴァイの後ろ姿を交互に見た後、自分よりもだいぶ小さな背中を追いかけた。