◇第五十五話◇もう二度と戻れない日常
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午後からの訓練の前にエルヴィン団長に提出しなければならない書類があった私は、上官達のいる最上階のフロアにやってきていた。
すれ違った数名の分隊長に声を掛けられながら、私はエルヴィン団長の執務室兼自室を目指す。
あの夜から、もう何日経ったのだろう。
数えるのも虚しいから分からないけれど、一つだけ、確かなことがある。
リヴァイ兵長とはもう二度と、ただの部下と上司の関係には戻れないということだ。
リヴァイ兵長の姿なら、時々見かけることはあった。
それは、リヴァイ班のメンバーと一緒にいるところだったり、エルヴィン団長やハンジさん達と一緒にいるところだったり、訓練中だったり、いろいろだ。
でも、リヴァイ兵長はいつも決まって、私の姿を見つけると、一瞬だけ顔を歪めた後に背を向けてしまう。
あの夜、気持ちを伝えたりしなかったら、お酒の勢いでもいいから、他の女の人の名残が残る手つきでも何でもいいから、リヴァイ兵長の好きにさせていたのなら、こんなことにはならなかったのだろうか。
私は今でも、リヴァイ兵長のその瞳に、ただの部下として映してもらうことは出来たのだろうか。
あんなにツラくて、本当は抜け出したいと願っていた部下という居場所が、今は死ぬほど恋しい。
「失礼します。」
エルヴィン団長の執務室に到着し扉を叩いた私は、部屋の主の許可をもらい部屋に入る。
そして、すぐに後悔した。
1人だとばかり思っていたエルヴィン団長は、中央のローテーブルを挟んで、ハンジさんとリヴァイ兵長と話をしている最中だったようだ。
タイミングが、悪かった。
入ってきたのが私だと気が付いたリヴァイ兵長は、いつものように顔を歪めた後、私から目を反らした。
「あ!リヴァイ、どこ行くんだよ?!まだ話の途中だよ?!」
立ち上がり、部屋を出ていこうとするリヴァイ兵長をハンジさんが慌てて引き留める。
エルヴィン団長も、話の途中で席を立とうとするリヴァイ兵長の背中を見て片眉を上げた。
「用事を思い出した。話は後でまた聞く。」
ハンジさんは引き留める言葉をまだ続けたけれど、リヴァイ兵長は振り返ることはなく部屋を出て行ってしまった。
こんなに、あからさまに避けられてしまうくらいに、私は嫌われてしまったらしい。
それもそうか。
他の男に抱かれようとしていた数分後には、あなたが好きですなんて言えるような汚い女、リヴァイ兵長は視界に入れたくもないくらいに嫌いに決まっている。
「もう~、話の途中なのに。エレンの巨人化実験より大事な用事って何だと思う?
ないよね、そんなの。ないよね?」
「さぁ?」
ハンジさんに意見を求められて、回答に困った私は苦笑いで返した。
それでは、納得できるはずもないハンジさんは、さらにブツブツと文句を続ける。
「最近のリヴァイ、なんかおかしいし、どうしちゃったんだろう。」
書類を眺めながら眉を顰めるハンジさんを横目に、私は当初の目的を果たすべくエルヴィン団長に声をかけた。
「エルヴィン団長、先日頼まれていた立体起動装置の点検結果です。
在庫数と修理・買い替えの場合の予算、故障報告の多い箇所についても
まとめておきましたので、お時間のある時に確認をお願いいたします。」
「それは助かる。先に少し確認させてくれ。」
「はい。お願いします。」
エルヴィン団長は私から書類を受け取ると、眼鏡をかけなおして簡単に中身を確認し始めた。
「さすが、立体起動装置の修理請負いで働いていただけあるな。
わかりやすくまとめている。
また後で時間のある時に確認しておくが、問題なさそうだ。」
「それはよかったです。
ありがとうございます。」
「ところで、ハンジも言っていたが、最近、リヴァイの様子がおかしいのだが、
それは君が関係しているんじゃないのか?」
眼鏡をはずしたエルヴィン団長が、私の顔をじーっと見据える。
疑問ではなく、勘の鋭いエルヴィン団長にとっては確信している事実のようだった。
すべてを見透かしているような力のある瞳は、私の中から真実だけを見抜こうとしている。
彼が知りたいのは、私が関係しているのかどうかではなく、私が何をやらかして人類最強兵士の機嫌を悪くしてしまったのかということだ。
「え?そうなの?」
ハンジさんがビックリして、私を見る。
素直で単純で鈍感なハンジさんならともかく、何でも御見通しのエルヴィン団長を私なんかが誤魔化せるわけもなく、私は正直に答えた。
「私が最低な行動をして、リヴァイ兵長に嫌われてしまっただけです。」
「君がリヴァイに?」
どうやらそれは想定していなかったらしく、エルヴィン団長は驚きで両眉を上げた。
私の言っている言葉を理解できなかったのか、しきりに首を傾げるハンジさんとは反対に、エルヴィン団長は私の言葉を咀嚼しようとしているようだった。
しばらく何かを考えるように黙り込んだ後、答えを出したらしいエルヴィン団長が私に訊ねた。
「喧嘩でもしたのか?」
あの頭の切れるエルヴィン団長が出した答えが、子供同士を窘めるようなものだったから、思わず出そうになった苦笑いを噛み殺す。
「私とリヴァイ兵長は、喧嘩するほど親しくないですよ。」
「そうか。知らなかったな。」
「じゃあ、どうしちゃったの?
リヴァイがなまえを嫌うなんてそんなのどう考えてもー。」
「すみません、今日は午後からの訓練の準備当番になっているので、
これで失礼してもよろしいでしょうか。」
時計を確認したエルヴィン団長から許可をもらい、私は一礼して部屋を出た。
すれ違った数名の分隊長に声を掛けられながら、私はエルヴィン団長の執務室兼自室を目指す。
あの夜から、もう何日経ったのだろう。
数えるのも虚しいから分からないけれど、一つだけ、確かなことがある。
リヴァイ兵長とはもう二度と、ただの部下と上司の関係には戻れないということだ。
リヴァイ兵長の姿なら、時々見かけることはあった。
それは、リヴァイ班のメンバーと一緒にいるところだったり、エルヴィン団長やハンジさん達と一緒にいるところだったり、訓練中だったり、いろいろだ。
でも、リヴァイ兵長はいつも決まって、私の姿を見つけると、一瞬だけ顔を歪めた後に背を向けてしまう。
あの夜、気持ちを伝えたりしなかったら、お酒の勢いでもいいから、他の女の人の名残が残る手つきでも何でもいいから、リヴァイ兵長の好きにさせていたのなら、こんなことにはならなかったのだろうか。
私は今でも、リヴァイ兵長のその瞳に、ただの部下として映してもらうことは出来たのだろうか。
あんなにツラくて、本当は抜け出したいと願っていた部下という居場所が、今は死ぬほど恋しい。
「失礼します。」
エルヴィン団長の執務室に到着し扉を叩いた私は、部屋の主の許可をもらい部屋に入る。
そして、すぐに後悔した。
1人だとばかり思っていたエルヴィン団長は、中央のローテーブルを挟んで、ハンジさんとリヴァイ兵長と話をしている最中だったようだ。
タイミングが、悪かった。
入ってきたのが私だと気が付いたリヴァイ兵長は、いつものように顔を歪めた後、私から目を反らした。
「あ!リヴァイ、どこ行くんだよ?!まだ話の途中だよ?!」
立ち上がり、部屋を出ていこうとするリヴァイ兵長をハンジさんが慌てて引き留める。
エルヴィン団長も、話の途中で席を立とうとするリヴァイ兵長の背中を見て片眉を上げた。
「用事を思い出した。話は後でまた聞く。」
ハンジさんは引き留める言葉をまだ続けたけれど、リヴァイ兵長は振り返ることはなく部屋を出て行ってしまった。
こんなに、あからさまに避けられてしまうくらいに、私は嫌われてしまったらしい。
それもそうか。
他の男に抱かれようとしていた数分後には、あなたが好きですなんて言えるような汚い女、リヴァイ兵長は視界に入れたくもないくらいに嫌いに決まっている。
「もう~、話の途中なのに。エレンの巨人化実験より大事な用事って何だと思う?
ないよね、そんなの。ないよね?」
「さぁ?」
ハンジさんに意見を求められて、回答に困った私は苦笑いで返した。
それでは、納得できるはずもないハンジさんは、さらにブツブツと文句を続ける。
「最近のリヴァイ、なんかおかしいし、どうしちゃったんだろう。」
書類を眺めながら眉を顰めるハンジさんを横目に、私は当初の目的を果たすべくエルヴィン団長に声をかけた。
「エルヴィン団長、先日頼まれていた立体起動装置の点検結果です。
在庫数と修理・買い替えの場合の予算、故障報告の多い箇所についても
まとめておきましたので、お時間のある時に確認をお願いいたします。」
「それは助かる。先に少し確認させてくれ。」
「はい。お願いします。」
エルヴィン団長は私から書類を受け取ると、眼鏡をかけなおして簡単に中身を確認し始めた。
「さすが、立体起動装置の修理請負いで働いていただけあるな。
わかりやすくまとめている。
また後で時間のある時に確認しておくが、問題なさそうだ。」
「それはよかったです。
ありがとうございます。」
「ところで、ハンジも言っていたが、最近、リヴァイの様子がおかしいのだが、
それは君が関係しているんじゃないのか?」
眼鏡をはずしたエルヴィン団長が、私の顔をじーっと見据える。
疑問ではなく、勘の鋭いエルヴィン団長にとっては確信している事実のようだった。
すべてを見透かしているような力のある瞳は、私の中から真実だけを見抜こうとしている。
彼が知りたいのは、私が関係しているのかどうかではなく、私が何をやらかして人類最強兵士の機嫌を悪くしてしまったのかということだ。
「え?そうなの?」
ハンジさんがビックリして、私を見る。
素直で単純で鈍感なハンジさんならともかく、何でも御見通しのエルヴィン団長を私なんかが誤魔化せるわけもなく、私は正直に答えた。
「私が最低な行動をして、リヴァイ兵長に嫌われてしまっただけです。」
「君がリヴァイに?」
どうやらそれは想定していなかったらしく、エルヴィン団長は驚きで両眉を上げた。
私の言っている言葉を理解できなかったのか、しきりに首を傾げるハンジさんとは反対に、エルヴィン団長は私の言葉を咀嚼しようとしているようだった。
しばらく何かを考えるように黙り込んだ後、答えを出したらしいエルヴィン団長が私に訊ねた。
「喧嘩でもしたのか?」
あの頭の切れるエルヴィン団長が出した答えが、子供同士を窘めるようなものだったから、思わず出そうになった苦笑いを噛み殺す。
「私とリヴァイ兵長は、喧嘩するほど親しくないですよ。」
「そうか。知らなかったな。」
「じゃあ、どうしちゃったの?
リヴァイがなまえを嫌うなんてそんなのどう考えてもー。」
「すみません、今日は午後からの訓練の準備当番になっているので、
これで失礼してもよろしいでしょうか。」
時計を確認したエルヴィン団長から許可をもらい、私は一礼して部屋を出た。