◇第五十三話◇気づかれない思惑
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あの日、早朝に宿を出た馬車は、昼頃にようやく調査兵団の兵舎に到着した。
私が目を覚ました時には、もう兵団服に着替え終わっていたリヴァイ兵長は、結局ずっとソファで眠っていたようだった。
あれから、私は、旧調査兵団本部近くの巨人実験場でハンジ班と一緒に巨人実験に参加している。
ハンジさんがソニー、ビーンと名付けた2体の巨人は、それぞれ個体差や性格があることが分かり、私にとっても興味深い実験内容だった。
巨人も、巨人に嬉々として接触しようとするハンジさんも、とても怖かったけれどー。
リヴァイ兵長も、リヴァイ班と合流してエレンの巨人化実験に忙しそうだ。
「なんで。」
蔑むようなペトラの視線が、痛い。
巨人の実験というより、ハンジさんの暴走をモブリットさんと一緒に止めるのに疲れて兵舎に帰ったら、訓練を終えたペトラと食堂で一緒になった。
リヴァイ兵長の手の傷も塞がり、最近ようやくリヴァイ班の訓練が再開したらしい。
食後、私の部屋にやってきたペトラに、休暇最終日に思いがけず泊りになったときのことを訊かれ、何もなかったと答えたところだ。
そして私は、大好きな友人に蔑むような視線を向けられている。
「いい歳した男と女が同じ部屋で夜を共にして
どうして何も起きないの?ねぇ、教えて。私にも分かるように教えて。」
ペトラが怖い顔で迫ってくる。
だが、そんなことを言われても、何もなかったものは何もなかったのだ。
本当は私だって、何か間違いのひとつやふたつあったってよかったのではないかとあれからずっと考えている。
だがしかし、何度も言うが、何もなかったものは何もなかったのだから仕方がないじゃないか。
お色気作戦でもすればよかったのか、そうなのか。
そんなことまでして、冷静な顔でスルーされたらどうしたらいいのだ。
これから壁外調査で恐ろしいほどの地獄を見るのだろうが、そんな恋心どころか女としてのプライドまで粉々にされるような地獄を見る覚悟なんて出来ていないのだ。
だからー。
仕方がないじゃないかー!
「いい歳したって、言わないで…。」
「だって、そうでしょ。私より年上のお姉さんのくせに。」
「くせにって、言わないで…。」
「言うよ、何度だって言うよ。
男と女が夜を共にしたのなら、間違いのひとつやふたつあるものじゃないの?
なまえがリヴァイ兵長のこと好きなら余計そうでしょ。どうして、何もないの?」
ベッドの縁ににうつぶせに倒れこみ、枕で顔を隠し落ち込む私に、ペトラは追い打ちをかける。
グサ、グサ、と刺さる友人の叱責という刃が痛い。
「たぶん、本人は気づいてないと思うけど、リヴァイ兵長ってモテるんだよ?」
「…知ってます。」
「他の女にとられちゃう前に、既成事実でも作ってしまわなくちゃ。」
「…!?」
ペトラからそんな言葉が出てくるとは思わず、私は驚いて顔を上げた。
そこにはまだ、私を蔑むような瞳があって、また落ちこむ。
「既成事実ってさ、発情してもらえないと作れないよね。」
「…そんな素振りもなかったってこと?」
「私って色気、ないかな?」
言いながら、自信喪失していく。
いや、もうあの夜に女としての自信なんてとっくになくしている。
一応、私だって、ペトラが言うように大人の女だ。
男性と夜を共にしたこともあるし、色気ほどとはいかなくとも女としての魅力は少しくらいはあるのだと思っていた。
でもー。
「私は女だから分からないけど…。」
「そうよね、ごめん。」
「でも、なまえは綺麗だし、色気はあると思うよ!」
さっきまでの軽蔑の表情とは裏腹に、今度はペトラは必死に励まそうと笑顔を見せてくれた。
その優しさが、胸に痛い。
大きくため息を吐き、落ち込む私にペトラは慰めの言葉をかける。
「もしかしてさ、リヴァイ兵長って意外と歳いってるから
そういうのに疎くなってるのかもしれないよ。」
「シャワーを浴びて火照った身体の女を見ても
何も感じないくらいに疎くなるものなの?」
じっとりとした私の視線から、ペトラは目を反らす。
それはやめて。傷つくから。
「あ…!10代の男の子って、そういうことばっかり考えてるって言うじゃない?」
「聞いたことはあるけど。」
「だからさ、新兵の子を誘惑してみたらどう?」
ニッコリと微笑んでペトラは提案を口にした。
頭の中でその提案の意味を考えてみたけれど、分からない。
「何のために?」
「なまえの色気が本当に男に通用しないか試すためだよ。」
「だって、10代の男の子はそんなことばっかり考えてるんでしょ?
発情期の10代と疎くなってるかもしれない30代の性欲を比べても意味ないんじゃー。」
「10代の男の子もその気にさせられなかったら、ジ・エンドだね。」
「…!!」
冷たく言い放ったペトラの痛いほどの事実に、私はショックを隠し切れなかった。
「ねぇ、なまえ~!私がこの前言ってた本ってどこにあるんだっけ~?
…どうしたの、そんな青い顔して。」
いつものようにノックもせずに私の部屋の扉を開けたハンジさんは、残酷な現実に打ちのめされる自分を想像してしまった私を見て怯えた。
私が目を覚ました時には、もう兵団服に着替え終わっていたリヴァイ兵長は、結局ずっとソファで眠っていたようだった。
あれから、私は、旧調査兵団本部近くの巨人実験場でハンジ班と一緒に巨人実験に参加している。
ハンジさんがソニー、ビーンと名付けた2体の巨人は、それぞれ個体差や性格があることが分かり、私にとっても興味深い実験内容だった。
巨人も、巨人に嬉々として接触しようとするハンジさんも、とても怖かったけれどー。
リヴァイ兵長も、リヴァイ班と合流してエレンの巨人化実験に忙しそうだ。
「なんで。」
蔑むようなペトラの視線が、痛い。
巨人の実験というより、ハンジさんの暴走をモブリットさんと一緒に止めるのに疲れて兵舎に帰ったら、訓練を終えたペトラと食堂で一緒になった。
リヴァイ兵長の手の傷も塞がり、最近ようやくリヴァイ班の訓練が再開したらしい。
食後、私の部屋にやってきたペトラに、休暇最終日に思いがけず泊りになったときのことを訊かれ、何もなかったと答えたところだ。
そして私は、大好きな友人に蔑むような視線を向けられている。
「いい歳した男と女が同じ部屋で夜を共にして
どうして何も起きないの?ねぇ、教えて。私にも分かるように教えて。」
ペトラが怖い顔で迫ってくる。
だが、そんなことを言われても、何もなかったものは何もなかったのだ。
本当は私だって、何か間違いのひとつやふたつあったってよかったのではないかとあれからずっと考えている。
だがしかし、何度も言うが、何もなかったものは何もなかったのだから仕方がないじゃないか。
お色気作戦でもすればよかったのか、そうなのか。
そんなことまでして、冷静な顔でスルーされたらどうしたらいいのだ。
これから壁外調査で恐ろしいほどの地獄を見るのだろうが、そんな恋心どころか女としてのプライドまで粉々にされるような地獄を見る覚悟なんて出来ていないのだ。
だからー。
仕方がないじゃないかー!
「いい歳したって、言わないで…。」
「だって、そうでしょ。私より年上のお姉さんのくせに。」
「くせにって、言わないで…。」
「言うよ、何度だって言うよ。
男と女が夜を共にしたのなら、間違いのひとつやふたつあるものじゃないの?
なまえがリヴァイ兵長のこと好きなら余計そうでしょ。どうして、何もないの?」
ベッドの縁ににうつぶせに倒れこみ、枕で顔を隠し落ち込む私に、ペトラは追い打ちをかける。
グサ、グサ、と刺さる友人の叱責という刃が痛い。
「たぶん、本人は気づいてないと思うけど、リヴァイ兵長ってモテるんだよ?」
「…知ってます。」
「他の女にとられちゃう前に、既成事実でも作ってしまわなくちゃ。」
「…!?」
ペトラからそんな言葉が出てくるとは思わず、私は驚いて顔を上げた。
そこにはまだ、私を蔑むような瞳があって、また落ちこむ。
「既成事実ってさ、発情してもらえないと作れないよね。」
「…そんな素振りもなかったってこと?」
「私って色気、ないかな?」
言いながら、自信喪失していく。
いや、もうあの夜に女としての自信なんてとっくになくしている。
一応、私だって、ペトラが言うように大人の女だ。
男性と夜を共にしたこともあるし、色気ほどとはいかなくとも女としての魅力は少しくらいはあるのだと思っていた。
でもー。
「私は女だから分からないけど…。」
「そうよね、ごめん。」
「でも、なまえは綺麗だし、色気はあると思うよ!」
さっきまでの軽蔑の表情とは裏腹に、今度はペトラは必死に励まそうと笑顔を見せてくれた。
その優しさが、胸に痛い。
大きくため息を吐き、落ち込む私にペトラは慰めの言葉をかける。
「もしかしてさ、リヴァイ兵長って意外と歳いってるから
そういうのに疎くなってるのかもしれないよ。」
「シャワーを浴びて火照った身体の女を見ても
何も感じないくらいに疎くなるものなの?」
じっとりとした私の視線から、ペトラは目を反らす。
それはやめて。傷つくから。
「あ…!10代の男の子って、そういうことばっかり考えてるって言うじゃない?」
「聞いたことはあるけど。」
「だからさ、新兵の子を誘惑してみたらどう?」
ニッコリと微笑んでペトラは提案を口にした。
頭の中でその提案の意味を考えてみたけれど、分からない。
「何のために?」
「なまえの色気が本当に男に通用しないか試すためだよ。」
「だって、10代の男の子はそんなことばっかり考えてるんでしょ?
発情期の10代と疎くなってるかもしれない30代の性欲を比べても意味ないんじゃー。」
「10代の男の子もその気にさせられなかったら、ジ・エンドだね。」
「…!!」
冷たく言い放ったペトラの痛いほどの事実に、私はショックを隠し切れなかった。
「ねぇ、なまえ~!私がこの前言ってた本ってどこにあるんだっけ~?
…どうしたの、そんな青い顔して。」
いつものようにノックもせずに私の部屋の扉を開けたハンジさんは、残酷な現実に打ちのめされる自分を想像してしまった私を見て怯えた。